目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力系統の中性点接地の目的と方式

電力系統の中性点は,事故発生時における過電圧の抑制と保護装置の確実な動作のために接地されることが多い。

接地方式は,直接接地,抵抗接地,非接地に大別できるが,接地抵抗には系統特性に応じて,補償リアクトルや消弧リアクトルが併用される場合がある。

中性点接地の目的

電力系統の中性点接地の目的は,以下の 4 点が挙げられるが,系統設計の基本方針に応じて,これらの優先順位は異なってくるため,具体的な条件に基づいて,方式の選定と詳細設計を決定する必要がある。

  1. 送配電変電設備における地絡事故発生時の健全相電位上昇の抑制
  2. 地絡保護リレーの所要性能の確保
  3. 地絡事故時の故障電流の抑制と電磁誘導障害対策の確立
  4. 地絡過渡電圧電流の抑制,鉄共振・アーク間欠などの不安定現象の抑制

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中性点接地方式

中性点接地方式(neutral point connecting method)について説明する。

一線地絡時の健全相対地電圧の上昇が 1.3 倍以下になる接地方式を有効接地という。

直接接地方式

直接接地方式(neutral point solidly grounding method)*1は,わが国の 187 [kV] 以上の系統*2に適用されているが,1 線地絡事故時の健全相電位上昇を小さく抑制することができ,絶縁設計,設備形成の合理化に優れている。

ただし,地絡事故時の故障電流が三相短絡電流と同様に非常に大きくなる場合があるため電磁誘導障害の検討が必要である。

直接接地方式は,下図に示すように三相変圧器の Y 結線の中性点を直接接地する。

図 中性点の直接接地方式

図 中性点の直接接地方式
直接接地方式の長所
  • 1 線地絡時の健全相電位上昇が小さいため,機器の絶縁レベルを低減できる。
  • 故障時の中性点電位が,ほぼ大地電位に維持されるため,段絶縁*3が採用できる。
  • 機器の絶縁レベルを低減できることにより,定格電圧の低い避雷器で保護ができる。
  • 1 線地絡電流が大きいため,故障検出が容易で,高速遮断が可能である。

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直接接地方式の短所
  • 1 線地絡電流が大きいため,通信線への電磁誘導障害が著しい。
  • 地絡故障に対する過渡安定度が低いため,高速遮断と再閉路方式の採用検討が必要である(地絡故障継続時間を極力短くする等)。
  • 1 線地絡電流が大きく自然消弧しないことから,故障点の損傷被害のおそれがあるとともに,遮断器の容量選定に注意が必要である。

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抵抗接地方式

抵抗接地方式(neutral point resistively grounding method, resistance-grounded system)*4は,非接地方式と直接接地方式の中間に位置付けられ,中性点を百アンペアから数百アンペアの電流が流れる抵抗器で,22 [kV] から 154 [kV] の電力系統の要所で接地し,地絡事故時の故障電流を抑制しつつ保護リレーの動作を確実にするとともに,事故時の健全相電位上昇を通常時の 1.73 倍程度以下に抑える方法である。

図 抵抗接地方式

図 抵抗接地方式
抵抗接地方式の長所
  • 直接接地方式と比較して 1 線地絡時の故障電流が小さく,通信線に対する誘導障害が少ない。
  • 1 線地絡時の健全相電位上昇が非接地方式と比較して小さい。
  • 小勢力地絡継電器により選択遮断できる。
接地抵抗方式の短所
  • 接地のための抵抗器が必要となる。
  • 直接接地方式と比較して健全相の電位上昇は大きくなり,機器の絶縁レベルを低減できない。
  • 接地抵抗が大きくなるほど地絡電流は小さくなるため,高感度の地絡継電器が必要となる。
  • 高周波による電磁誘導障害に対して注意が必要である。

消弧リアクトル接地方式

消弧リアクトル接地方式(arc suppression coil compensated grounding method, resonant-grounded system)*5は,中性点に接続された消弧リアクトル(arc-suppression coil,インダクタンス $L$)により 1 線地絡故障点の電流 $\dot{I}_\text{e}$ を零近くまで減少させることにより,故障点アークを自然消滅させて送電を継続させる方式*6である。

実際には,地絡電流を誘導性にするため過補償にし,アーク消滅後の電圧回復を緩やかにしている。

発明者 Petersen 教授(ドイツ)にちなんで,ペテルゼン・コイル(略称 PC,ペコ)と呼ばれる。

消弧リアクトル接地方式は,1918 年ごろにドイツで実用化されて,アメリカで発達した直接接地方式と 2 分する代表的な中性点接地方式であった。

日本でも 1950 年代ごろまでは当時の主幹系統である 66 ~ 154 kV 系統で消弧リアクトル方式が多用されていた。

消弧リアクトル方式は 1 線地絡に対しては非常に好都合であるが,以下のような欠点もあった。

  • 2 線地絡は同地点同時地絡,または断線モードの事故などでは直列共振回路となってしまい,広範囲な異常電圧の原因ともなる。
  • 中核変電所に設置される 1 台の消弧リアクトルで一定の地域の放射状系統の線路キャパシタンスを補償するため,大系統になるに従いチューニングが難しく,またループ系統では適用が困難である。
  • 消弧リアクトルは一般に重要変電所の変圧器中性点に接続される。この変圧器が何らかの理由で遮断されると系統は中性点非接地となってしまい,絶縁協調上非常に危険であり,避雷器の破損や多重事故への進展に発展する可能性も非常に大きい。
  • 地絡検出用の差動保護リレー,方向距離リレーが適用できない。直接接地系では地絡検出の主保護・後備保護用として万能的役割を果たしている両リレー方式が適用できないことは致命的な欠点である。

以上の理由で,日本の 66 ~ 154 kV 系では 1960 年ごろから消弧リアクトルに代わって高抵抗接地方式に切り換えが進み,今日では PC 系は過去の技術となった。

並列抵抗投入方式

さらに異常電圧を防止し,保護継電器による故障区間の選択を確実にするため,消弧リアクトルと並列に中性点抵抗を併用する並列抵抗投入方式が採用されることがある。

非接地方式

非接地方式(insulated neutral point to earth method, ungrounded system, non-earthed neutral sysytem)*7は,地絡事故時の故障電流が小さいなどの利点があるが,保護リレーの事故点選別能力が低く,また,健全相電位上昇も大きくなりやすいことから, 30 [kV] 程度以下の電力系統に適している。

非接地方式は,微弱電流接地方式とも呼ばれる。

通常,配電用変電所において配電線保護として零相電圧検出を行うため,零相電圧検出用の接地形計器用変圧器(EVT : Earthed Voltage Transformer)が設置されており,その二次あるいは三次側 Δ 結線の開放端に地絡方向リレーの適正動作と異常電圧防止を兼ねて数十 [Ω] 程度の制限抵抗が接続されるので,一次側に換算すると 5 000 ~ 10 000 [Ω] の高抵抗接地となる。

図 非接地方式

図 非接地方式
誘導障害の観点

6.6 kV 配電線は通信線とともに架空線で同一電柱に施設されることが多く,大地帰路電流の大きい接地方式を採用すると通信線に対する電磁誘導障害が問題となってくる。

このため,地絡電流の小さい非接地方式が採用された。

保安の観点

非接地方式によって地絡電流を小さく抑えると,高低圧混触時に低圧線の電位上昇を低く抑えることができ,感電や火災の危険性の低減につながり,保安の観点で有利であった。

非接地方式の長所
  • 接地のための設備は不要である。
  • 低電圧・短距離の電力系統では,1 線地絡時に永久地絡でない限りアーク地絡等は持続しないため,故障は自然に除去され,そのまま送電を続けられる機会が多い。
非接地方式の短所
  • 対地静電容量を無視すると,一線地絡時の健全相対地電圧が $\sqrt{3}$ 倍に上昇し,機器の絶縁を脅かす。
  • 低電圧・短距離の送電系統では 1 線地絡電流が小さいため高感度の地絡継電器が必要である。
  • 高電圧・長距離の送電系統では,1 線地絡電流が比較的大きくなり,永久地絡となることが多い。特に,間欠アーク地絡等が発生すると,高周波電気振動を伴う異常電圧・電流が発生することがある。

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一線地絡事故に対する特長

一線地絡事故に対する抵抗接地方式と非接地方式の特徴について,以下の観点で比較する。

事故点電流

接地抵抗方式は,事故点までの線路,中性点接地抵抗,事故点抵抗による閉回路が構成されるため,大きな電流が流れる。

非接地方式は,中性点に電流が流れないため,事故電流は健全相と大地間の浮遊容量を介して流れる小さな電流となる。

事故時の健全相電圧

抵抗接地方式は,中性点の電圧上昇は事故電流と中性点接地抵抗の積によって与えられる値となるため,健全相の相電圧上昇は,接地抵抗値を小さくすることで抑えられる。

非接地方式は,事故電流がほとんど流れないため,線間電圧は事故の影響を受けない。

このため,事故相が大地電圧となり中性点電圧が事故相の分上昇し,健全相の相電圧は線間電圧がそのまま反映されることになる。

すなわち,事故後の健全相の相電圧は電源電圧が対称三相の場合は事故前の √3 倍となるが,更に大きな電圧が発生する場合もある。

事故検出

抵抗接地方式は,過電流リレーや方向距離リレーを含む各種のリレーが機能する。

非接地方式は,事故電流が小さく,過電流リレーや方向距離リレーによる事故検出は不可能であり,地絡過電圧リレー,地絡方向リレーにより検出される。

誘導障害

抵抗接地方式は,大きな事故電流が大地帰路電流として流れるため,誘導障害が発生する可能性がある。

非接地方式は,大地帰路電流が小さいため,他の通信線などへの誘導障害はほとんど起こらない。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月7日 新規作成
  • 2022年1月20日 中性点の直接接地方式の図を追加
  • 2022年2月19日 参考文献に「平成15年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 2022年3月17日 参考文献に「電力系統技術計算の応用」を追加
  • 2022年4月23日 参考文献に「電力技術の実用理論 第3版~発電・送変電の基礎理論からパワーエレクトロニクス応用まで~」を追加し,ペテルゼン・コイルの説明を加筆。
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年7月30日 目次を追加,参考文献の過去問題の題目を追記
  • 2022年8月11日 参考文献に「平成26年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5」,「中性点接地方式 | 音声付き電気技術解説講座 | 公益社団法人 日本電気技術者協会」を追加,段絶縁の脚注を追加
  • 2022年8月13日 クリエを参考にリライト
  • 2022年8月28日 参考文献に「令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3」を追加
  • 2022年9月10日 参考文献に「電気事業講座 電気事業辞典」を追加
  • 2022年10月15日 抵抗接地方式と非接地方式の図を追加,参考文献に「平成30年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2022年10月16日 参考文献に「平成29年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 2022年10月18日 参考文献に「平成23年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2023年2月5日 参考文献に「電気専門用語集(WEB 版)」を追加
  • 2023年8月12日 接地形計器用変圧器の説明を追加
  • 2023年11月25日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 2024年1月27日 検索エンジン向けタイトル「中性点接地方式の利点と種類」,SNS 向けタイトル「電力系統の中性点接地方式とは?大切な保護装置の役割を解説! #電力 #安全」を追加(AI タイトルアシストを活用)

*1:電力系統に接続する変圧器の中性点を,直接接地する方式。

*2:187 [kV],275 [kV] 及び 500 [kV] の電力系統。

*3:段絶縁(graded insulation)とは,絶縁強度を一様に施さず,変化させる絶縁方式をいう。例えば,直接接地方式の電力系統の変圧器では,電線路端の絶縁強度を特に強くし,中性点にいくにつれて弱くすることができる。

*4:電力系統に接続する発電機および変圧器の中性点を,抵抗を通して設置する方式。

*5:地絡故障アークの自然消滅を測るために送電線路の対地静電容量と共振させた鉄心リアクトルを通じて変圧器の中性点を接地する方式。

*6:消弧リアクトル接地方式は,中性点をリアクトルで接地し,そのインダクタンスと送電線の対地静電容量を並列共振させることにより,一線地絡時の故障点アークを自然消弧させるものである。

*7:電力系統に接続する発電機および変圧器の中性点を接地しない方式。

変電所の塩害対策

変電所で電気絶縁のため使われるがいし,ブッシングの表面には,台風や季節風などによる強い海風により運ばれる海塩が付着する。

この表面が湿潤を受けて導電性を有するようになり,漏れ電流が流れ,その発熱により電流が集中するところに乾燥帯が形成される。

汚損,湿潤の程度によって乾燥帯での局部的な放電の発生にとどまる場合から,表面が絶縁破壊し停電事故に至る場合もある。

変電所の塩害対策は,一線地絡時の健全相電圧上昇に耐えることを基本に,塩分付着量度合いを考慮して決められる。

塩害対策は,母線がいしにおいては設計汚損量までは絶縁強化で対策し,機器用がいしやがい管は,0.03 ないし 0.06 [mg/cm2] まで絶縁強化で対策し,それ以上は洗浄による対策を施しているのが実情である。154 [kV] 以下の電圧ではシリコンコンパウンド塗布が用いられることもある。

また,重汚損地区では,屋内化や GIS など隠ぺい化の対策が採られることが多い。

表 塩害対策の適用の考え方
変電所 軽汚損地区
0.03 [mg/cm²] 以下
中汚損地区
0.03 超過 ~ 0.06 [mg/cm²] 以下
重汚損地区
0.06 超過 ~ 0.12 [mg/cm²] 以下
超重汚損地区
0.12 超過 ~ 0.35 [mg/cm²] 以下
特殊地区
0.03 超過 [mg/cm²]
154 [kV] 以下 絶縁強化 絶縁強化 絶縁強化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化
187 ~ 275 [kV] 絶縁強化 絶縁強化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化
500 [kV] 絶縁強化 絶縁強化または洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化

塩害が電力設備に及ぼす影響

母線,変圧器,遮断器,断路器のがいし・がい管の表面が海水の塩分を含んだ風を受けて汚損されると,それによりがいし類の耐電圧値が低下し,フラッシオーバ事故となり,送電線の停止や発変電所の停止を引き起こす。

塩害対策

電力設備の塩害対策は,以下のとおり。

  • がいしの増結,長幹がいし,スモッグがいしなど耐塩害がいし類を採用し,絶縁強化を行う。
  • 適時,塩分付着量の測定を行い,規定値を超えた場合にがいし洗浄を行う。
  • GIS(ガス絶縁開閉装置)等の密閉形機器を採用する。あるいは屋内化を実施する。
  • がいし類の表面にシリコーンコンパウンド等を塗布し,このアメーバ作用により付着した塩分をコンパウンド内に吸収させるとともに,はっ水性により湿潤を防止してがいし類の絶縁低下を防止する。

がいしの塩害対策

塩分ががいし表面に付着すると,霧や小雨により湿潤して溶解し,導電性があがり,がいし表面の漏れ電流が増加する。

これにより,がいし表面が乾燥して部分放電が発生したり,さらに,フラッシオーバーに移行して事故にいたる懸念があることから,塩害対策を行っている。

塩害対策として,隠ぺい化などもあるが,屋外変電所では汚損マップやパイロットがいしによる実測等をもとに,がいしの塩分付着密度を決定し,これとは別に耐塩対策設計の重要な項目であるがいしの耐電圧の目標値を決定しておく。

これらとがいし表面の漏れ距離を考慮して,使用するがいしを選定することになる。

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このほか,がいしを洗浄するのも対策の一つであるが,この場合,洗浄水の圧力や洗浄水の抵抗率とがいし洗浄耐電圧の関係をよく把握しておく必要がある。

がいし類の活線洗浄

変電所の塩害対策は保守が容易ながいし類の過絶縁設計が基本であるが,海岸に近く,台風や季節風によりがいし類に付着する塩分が多い地域にある変電所では,電圧が高いほど,過絶縁設計だけではなく,活線洗浄などを組み合わせて対策することが多い。

これらの地域では,活線洗浄などを組み合わせて対策するのに比べ,過絶縁設計のみで対策すると,がいし類を長大化する必要があり,電圧が高いほど,技術的に実現が困難,又は非常に高価となり,不経済となるからである。

シリコンコンパウンド

塩害対策の一つとして,絶縁性に優れたシリコンコンパウンドをがいし類に塗布する方策がある。

絶縁性以外に,シリコンコンパウンドが有する塩害対策として優れた特性は以下のとおり。

  • がいし類の表面に降りかかる水分をはじく,優れた撥水性
  • がいし類に付着した塩分を包み込むアメーバ作用

また,保守上注意すべき点は,シリコンコンパウンドの寿命が 1 ~ 2 年と短く,通常の点検よりも多頻度で設備を停止して,清浄再塗布する必要がある。

用語の定義

塩害に関する主な用語とその意味を以下に示す。

塩分付着密度(SDD : Salt Deposit Density)

がいし・がい管の外被に付着する塩分の付着密度(mg/cm2

等価塩分付着密度(ESDD : Equivalent Salt Deposit Density)

がいし・がい管の外被に付着した溶解性物質の導電率をすべて NaCl に換算した場合の付着密度(mg/cm2

等価塩分とは,実際の汚損物による水の導電率と同一の値を示す食塩(塩化ナトリウム)の量であり,管理指標として用いられるのは,がいし類の汚損時の絶縁耐力が等価塩分付着密度ごとに決められているからである。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月6日 新規作成
  • 2022年1月8日 用語の定義を追加
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成14年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
  • 2022年10月30日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加

風力発電システムの設備利用率

風力発電に用いられる風車のエネルギー変換効率(軸出力エネルギーと風車ロータを通過する空気エネルギーの比)はパワー係数と呼ばれ,理論的には 0.593 (ベッツの限界値)であるが,実際には最適設計されたプロペラ形風車で最大 0.45 程度の値となる。

一般に風力発電システムの運転では有効な出力が得られるカットイン風速,定格風速,強風を避けるために停止するカットアウト風速が設定されている。カットイン風速はおおよそ 2 ~ 4 [m/s] であり,カットアウト風速は 25 [m/s] 前後が多い。

風力エネルギーは不規則かつ間欠的であることから,風力発電システムの設備利用率は,特殊な場合を除き 20 ~ 30 [%] 台の値となる。

また,風力エネルギーの変動はそのまま発電機出力の変動となるため,接続される送電系統の短絡容量が小さい場合には電圧変動が大きくなるおそれがあり,その対策が必要となる。

ウインドファームでは数多くの風力発電機を集合設置しており,出力変動の平滑化が期待されているが,長周期変動に対しては平滑化が困難なため,さまざまな対策が検討されている。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月5日 新規作成

汽力発電所の熱効率の維持向上対策

汽力発電所の運転時における熱効率の維持向上対策は,以下のとおり。

過熱蒸気の採用

過熱蒸気を採用することによりエンタルピーが増大し,熱効率が向上する。

復水器真空度の向上

復水器の真空度が向上すると背圧が下がり,タービンの熱落差が大きくなって出力が増す。復水器の真空度を高めるためには,復水器の冷却水温度を低下させるか,あるいは冷却水循環流量を増加させる必要がある。

細管の定期的な逆洗及び清掃によって状態の回復を図ることが肝要である。

再生サイクルの採用

蒸気の膨張過程の途中からその一部を抽出して給水の過熱に利用し,抽気の復水熱を給水に回収させる。抽気段数の増加とともに熱効率は高くなる。

再熱サイクルの採用

高圧タービン内の蒸気の一部を取り出し,これをボイラで再加熱して過熱度を増し,タービンに返すことによって膨張後の蒸気中の湿り度を低下させ熱効率を向上させる。

蒸気温度及び圧力の上昇

蒸気温度を高くすると熱効率が向上する。また,蒸気温度を高くすると同温度におけるエントロピーは減少し,有効な仕事に変わる熱量が増加して熱効率が向上する。

タービン入口エンタルピーは,蒸気温度と蒸気圧力によりほぼ決定されるため,熱効率維持のためには,これらの基準値運転に努める必要がある。

その他

  • 燃料が完全燃焼するためには,ある程度過剰空気を供給しなければならないが,必要以上に多いと排ガス量の増加,燃焼温度の低下などによって熱効率が低下する。
  • 送電端効率の向上のためには,所内率の低下が必要であるが,このためにはユニット低負荷運転時における給水ポンプ,冷却水ポンプ,通風機などの補機の運転台数の検討を行うとともに,運転中における不要な所内雑電力の節減を図る必要がある。
  • 部分負荷運転時での主蒸気圧力を低くすることにより,給水ポンプ軸動力の軽減やタービン効率の向上など,プラント効率の向上とタービン熱応力の軽減を図る運転方式を,ボイラの変圧運転という。

蒸気タービンとボイラの効率に影響する運転時の管理項目

化石燃料を使用する現用の汽力発電方式で,蒸気タービンとボイラの効率に影響する運転時の管理項目について,どのように制御すれば効率を高めることができるか,損失の増加や設備への影響などを問題点と併せて説明する。

ボイラ排ガス中の酸素濃度(=過剰空気率)

過剰空気率が適正であるときは燃料が完全燃焼するため効率が高まる。

大きすぎるとボイラ内の燃焼温度が下がり,排ガス損失が増加する。

小さすぎると不完全燃焼となり未燃損失が増加する。

空気予熱器出口排ガス温度(=排ガス温度)

空気予熱器で燃焼用空気を予熱すれば炉内温度が高くなり,燃料の蒸発量,燃焼速度が増加するため,燃焼が完全燃焼し効率が高まるとともに,排ガスの熱を利用して空気を過熱することで効率は上昇する。

また,排ガスの熱を利用し,節炭器で給水を加熱すると効率を向上することができる。

排ガス温度が高くなると排出エネルギーが増加し,低すぎると空気予熱器や節炭器の低温部腐食が多くなる。

復水器真空度(=真空度)

復水器の真空度を増加させればタービン出口蒸気の排気圧が低くなり排出エネルギーが小さくなるため,タービンの熱落差を増加させることとなり,効率は向上する。

真空度を高めれば効率は上昇するが,復水が過剰に冷却されるため,効率は低下する。

他にも真空度が高いことによるタービン振動の増加も懸念される。

参考文献

発電・変電

発電・変電

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更新履歴

  • 2022年1月4日 新規作成
  • 2022年11月4日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加

電圧フリッカ

配電線にアーク炉や溶接機などのような変動負荷が接続されると,その負荷電流による電圧降下のために配電線の電圧が変動する*1

この電圧変動が頻繁に繰り返され,照明の明るさにちらつきを生じる現象を電圧フリッカ(voltage flicker)という*2

電圧フリッカとは,連続的に発生する短い周期の電圧変動。

家庭などの照明が明るくなったり,暗くなったりするチラツキが短い時間に繰り返される現象。

従来はアーク炉や溶接機といった大容量機器が主原因となっていたが,近年では太陽光発電用パワーコンディショナ― (PV-PCS) に起因するものも現れている。

フリッカの評価

電圧変動に対し最も敏感にちらつきを生じるのは白熱灯であり,フリッカは,そのちらつきをもって評価される。

日本において,現在,次式により算出される値による評価が推奨されている。

$\Delta V_{10}$ は「各周波数成分にウェイト付けした後,1 分間実効値を求め,その成分を加重平均したもの」と定義されており,次式で示される。

\[ \Delta V_{10} = \sqrt{\sum_{n=0}^{\infty} (a_n \Delta V_n)^2} \]

式の $\Delta V_n$ は $n$ 次変動周波数における,電圧の実効値である。

また,$a_n$ は各変動周波数におけるちらつき視感度係数であり,その値が最大となる 10 [Hz] のときを 1.0 としたものとなっている。

図 ちらつき視感度係数

図 ちらつき視感度係数

なおフリッカは,ちらつき評価試験が 50 [%] の人にちらつきがあると認識される 0.45 [V] を限度値とする考え方が一般的である*3

フリッカ障害の対策

フリッカ防止の基本は発生源であるアーク炉や溶接機などの変動負荷側で対策を実施することである。

対策は高速応答性を要求されることから,負荷時電圧調整変圧器(LRT)などの機械式では対応できない。

大きな電圧変動を発生する可能性がある負荷の場合は,静止形無効電力補償装置(SVCSVG(自励式 SVC))を用いて無効電力の変動分を補償することが行われている。

装置自体による対策としては,アーク電流が不安定な交流アーク炉に代え,安定した電流が得られる直流アーク炉の採用も有効である。

このほかに,変動負荷を専用線あるいは専用変圧器で供給し,一般の負荷が接続された系統に電圧変動が波及しないような系統構成にする方法などがある。

以上のようなフリッカ障害の対策をまとめると,以下のようになる。

発生側(製鋼用アーク炉)で行う対策例

  • アーク炉,溶接機などの運転条件を改善してフリッカの発生を軽減する。
  • アーク炉用変圧器の二次側に直列に可飽和リアクトルを挿入する。
  • アーク炉用変圧器として三巻線補償変圧器を設置する。
  • 静止形無効電力補償装置(SVCSVG,STATCOM)等を施設する。
  • アーク電流が不安定な交流アーク炉ではなく,安定した電流が得られる直流アーク炉を採用する。
STATCOM による対策

STATCOM(自励式静止型無効電力補償装置)は系統電圧が上下しようとする際,無効電力制御によってその変動を抑える役割を担う。

SVC(無効電力補償装置)も同じ機能を備えるが,無効電力をより速く制御できる。

半導体素子によって高速に電流を開閉するためだ。

電力供給側で行う対策例

  • 発生源への供給を短絡容量の大きな電源系統に変更する。
  • 高圧配電線の昇圧,電線の太線化など電源側インピーダンスの低減を図る。
  • 発生源への供給を専用線あるいは専用変圧器で行う。
  • アーク炉をもつ需要家に供給する電路の途中に直列コンデンサを挿入し,見かけ上の短絡容量を増大させる。

配電系統のフリッカ

配電線にアーク炉,溶接機,太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)などが接続されると,起動時や運転中の負荷変動時,PCS の単独運転検出機能動作時などに線路電圧が変動し,照明の明るさにちらつき(フリッカ)が生じることがある。

この抑制対策は基本的に発生源である機器側で行われるが,系統側での対策としては,電圧降下を低減するような電線サイズの設定,変圧器・配電線の専用化などが考えられる。

参考文献

  • 電気専門用語集(WEB 版)
  • 平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6「配電系統の電圧管理」
  • 平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「高調波やフリッカ現象の対策」
  • 平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4「電気の品質」
  • 平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4「電圧フリッカの現象とその防止対策」
  • 平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「フリッカ」
  • 2024年4月19日 電気新聞「GRID TECH STATCOM ブーム再燃 下」
  • 電気学会 電力・エネルギー 用語解説 第158回テーマ:電圧フリッカ

更新履歴

  • 2022年1月3日 新規作成
  • 2022年1月21日 電圧フリッカの定義を追加
  • 2022年2月27日 参考文献に「平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
  • 2022年4月21日 参考文献に「平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年4月22日 参考文献に「平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年5月21日 ちらつき視感度係数の図表を追加
  • 2022年11月5日 参考文献に「平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
  • 2024年4月20日 参考文献に電気新聞「GRID TECH STATCOM ブーム再燃 下」を追加
  • 2024年5月10日 参考文献に「用語解説 第158回テーマ:電圧フリッカ」を追加

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*1:製鉄用アーク溶解炉などの負荷を短絡容量の小さな系統に接続した場合,主に無効電力の変動によって母線電圧が連続的に短い周期で不規則に変動する。

*2:ドライヤーを使った際,部屋の照明がつらつくことがある。これは,大量の電力を使う機器の使用により屋内の電圧が急変するのが原因だ。電圧フリッカは,これと同じ原理である。

*3:フリッカは人間がちらつきをどの程度不快に感じるかという人間の主観的な要素も含んでいる。

電力用避雷器

電力系統に雷サージや開閉サージなどの過電圧が発生すると,大地に放電電流を流してこれを抑制し,その後に流れる商用周波数の電流(これを続流(follow current)と呼ぶ)を速やかに遮断して,電力系統を通常の状態に復帰させる装置を避雷器(surge arrester)という。

後者の機能を自復性と呼び,前者の過電圧の抑制とあわせて二つの機能を兼ね備えることが要求される。

避雷器に非直線の電圧-電流特性をもつ酸化亜鉛素子(ZnO 素子)を組み込むことで,サージ電圧抑制後の通常電圧による続流を遮断して系統を元の状態に復帰させる。

その定格電圧は,所定の動作責務が遂行できる商用周波電圧であり,一線地絡時の健全相対地電圧,又は負荷遮断によって電気設備に印加される短時間の電圧に基づいて選択される。

また,定格の一つである公称放電電流は雷インパルス電流の波高値で示され,10 000 [A] 及び 5 000 [A] の 2 種類が標準的である。

下図に公称電圧 154 kV で使用される高性能特性避雷器の電圧-電流特性を示す。

電流 10 [kA] のときの電圧値 [kV] が雷インパルス制限電圧(波高値)である。

図 公称電圧 154 kV で使用される避雷器の電圧-電流特性

図 公称電圧 154 kV で使用される避雷器の電圧-電流特性

避雷器設置の目的

避雷器設置の目的は,外雷の進入により発変電所に発生する過電圧を主回路設備の雷インパルス耐電圧値以下に抑制することであり,避雷器は発変電所の送電線引込口に設置することにより発変電所全体の過電圧を下げる効果がある。

また,最大過電圧を発生するような地点に避雷器を設置した場合は,その地点の過電圧を抑制するとともに,侵入してきた雷サージと逆極性のサージ反射波を生じ,全体の過電圧を大きく抑制する効果がある。

なお,避雷器が動作したときの避雷器両端子間の過電圧の上限値を保護レベルという。

避雷器の種類

発変電所ではギャップレス避雷器を用いることが主流であるが,配電用や直流電気鉄道の電線路のがいし保護に用いられる避雷器では,万一 ZnO 素子が短絡状態になっても送電が可能なように,直列ギャップ付き避雷器も多く使用されている。

特性要素

特性要素として,従来は炭化けい素(SiC)を焼成したものが用いられてきたが,1970 年代に,わが国で酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする優秀な非直線抵抗体が開発された。

酸化亜鉛(ZnO)の場合には,常規運転電圧が加わったときに流れる電流がきわめて小さい(mA 以下)ので,直列ギャップを省略することが可能となった。

現在では,このような直列ギャップなしの酸化亜鉛形避雷器が世界の避雷器の主流を占めるようになった。

ZnO 焼結素子

近年,優れた非直線抵抗特性を有する ZnO 焼結素子を積層した酸化亜鉛型避雷器が多く用いられている。

避雷器の動作時の制限電圧をできるだけ低くし,常時の系統電圧に持続して耐えるようにすることで,避雷器の高性能化が進められている。

酸化亜鉛形避雷器はその優れた非直線電流-電圧特性により,発変電および送配電系統の過電圧保護に広く用いられ,電力系統のレジリエンスを下支えしてきた。

酸化亜鉛形避雷器では,ZnO 焼結素子の

  • 小電流領域での課電寿命特性改善
  • 短時間過電圧耐量と開閉サージ放電耐量の向上
  • 大電流領域の制限電圧の低減

が重要となる。

また,近年では ZnO 焼結素子の単位長当たりの動作開始電圧を高めた高抵抗・高耐圧化の素子が開発され,素子の直列数の低減により,避雷器の小型化・簡素化が図られている。

ギャップレス避雷器

酸化亜鉛素子だけで一切のギャップを用いない避雷器。

酸化亜鉛形避雷器は,優れた非直線抵抗特性を持っているため,直列ギャップを必要としないので,放電遅れがなく,構造的に簡単,かつ小形である。

ギャップ付避雷器

酸化亜鉛素子に直列又は並列に何らかのギャップを用いる避雷器

図 直列ギャップ付避雷器の構成

図 直列ギャップ付避雷器の構成

がいし形避雷器

絶縁容器(磁器,ポリマーがい管など)内部を絶縁媒体(気体,液体又は固体)で満たし,この中にこの素子又はこの素子と直列ギャップとを収納した構造のものをその構造からがいし形避雷器と呼ぶ。

避雷器の定格

避雷器の定格は,その避雷器の性能を保証する限界値であり,定格電圧,連続使用電圧,公称放電電圧,制限電圧などの項目があり,規定で定められている。

避雷器の保護性能及び復帰性能を表現するために用いる放電電流の規定値を公称放電電流という。

また,放電中,この避雷器の両端子間に発生する電圧を制限電圧という。

この避雷器が障害を起こすことなく,所定の回数流すことができる所定波形の放電電流波高値の最大限度を放電耐量という。

定格電圧(rated voltage)

避雷器の定格電圧は,その電圧が加わった状態で定められた動作責務を行うことができる上限の保証値であるが,1 線地絡時の健全相対地電圧のように,商用周波数の短時間過電圧を対象にしている。

たとえば公称電圧 500 kV の系統に用いられる避雷器の定格電圧は 420 kV であり,常規運転電圧の最高電圧 550 kV/$\sqrt{3}$ の 1.32 倍である。

避雷器以外の機器の定格電圧は,常規運転電圧を対象に線間電圧で表すことが多い。

避雷器の場合は,直列ギャップの続流遮断能力に重きを置いて定格電圧を定め,これが直列ギャップのない酸化亜鉛形避雷器にも引き継がれているのである。

低減絶縁

有効接地系統では,一線地絡事故時の健全相の電位上昇が非有効接地系統に比べて低く,これに合わせて変圧器等の絶縁レベルを下げることを特に低減絶縁と呼ぶ。

この場合,避雷器の定格電圧も低くできる。

公称放電電流

定格の一つである公称放電電流は雷インパルス電流の波高値で示され,10 000 [A] 及び 5 000 [A] の 2 種類が標準的である。

避雷器規格では,避雷器の保護性能を評価するために,8/20 μs の雷インパルス電流が公称放電電流として定められている。

制限電圧(residual voltage)

避雷器に放電電流が流れたとき,避雷器の端子に現れる電圧の最大値を制限電圧と呼ぶ。

一般に避雷器の端子に現れる電圧の最大値を避雷器の保護レベル(protective level)という。

避雷器に直列ギャップがない場合は,制限電圧が保護レベルになるが,直列ギャップがある場合は,直列ギャップの放電開始電圧と制限電圧の大きいほうが保護レベルになる。

避雷器と被保護機器の配置

変圧器などの被保護機器は,サージに対して静電容量として作用するため,直列共振により高い電圧が発生するおそれがある。

避雷器により異常電圧を抑制するためには,避雷器と被保護機器の配置について十分注意する必要がある。

サージ保護デバイス

避雷器,及び日本工業規格(JIS C 5381-1)によって規定された低圧配電システムの保護機器であるサージ保護デバイスには非直線抵抗特性をもつ ZnO 素子が主として使用されている。

その電圧 - 電流特性は大まかに小電流領域,中電流領域及び大電流領域の三つの電流領域に区分される。

小電流領域である連続使用電圧(動作開始電圧の 90 [%] 以下)における抵抗分電流は,数百マイクロアンペア程度である。

避雷器の試験

酸化亜鉛形避雷器の試験

酸化亜鉛形避雷器の試験には,一般的な構造検査や絶縁抵抗測定試験の他,代表的な次のような試験が挙げられる。

漏れ電流試験

漏れ電流試験は,定格電圧の 90 [%] 及び連続使用電圧に相当する商用周波電圧を印加して測定する。この場合,全漏れ電流の他,抵抗分漏れ電流も測定する。

動作開始電圧試験

動作開始電圧試験は,酸化亜鉛形避雷器の電圧-電流特性の小電流域における所定の電流値(抵抗分漏れ電流 1 ~ 3 [mA])に対する避雷器端子間電圧を測定する。

動作開始電圧は,連続使用電圧や短時間過電圧に耐える能力の指標になる。

制限電圧試験

制限電圧試験は,急しゅん波雷インパルス,雷インパルス及び開閉インパルスの 3 種類の電流波形について,所定の電流値における制限電圧の値を求める。

保護特性試験

保護特性試験は,急しゅん雷インパルス( 1/2.5 [μs]),雷インパルス( 8/20 [μs])及び開閉インパルス( 60/150 [μs])の三種類の電流波形について,所定の電流値における制限電圧を測定する。

放圧試験

放圧試験は,避雷器の内部地絡をヒューズ発弧で模擬し,所定の放電電流を通電した場合,放圧装置が確実に動作し,爆発飛散しないことを確認する試験である。

安定性評価試験

酸化亜鉛形避雷器が「実系統で課せられる責務を果たした後,引き続き使用できること」を確認するために行う試験を安定性評価試験という。

30 年間の使用期間中の連続運転電圧の課電,雷サージ(公称放電電流) 15 回,開閉サージ(遮断器の正常動作で発生するレベル) 50 回,短時間過電圧 50 回の 4 種類の電気的ストレスを等価模擬した試験を行う。

酸化亜鉛形避雷器の試験は JEC-217 に規定されており,下表のようになる。

酸化亜鉛形避雷器の試験
番号 大分類 試験項目
(1) 構造検査 a. 構造検査
(2) 絶縁抵抗試験 a. 絶縁抵抗試験
(3) 漏れ電流試験 a. 漏れ電流試験
(4) 保護特性試験 a. 急しゅん波雷インパルス制限電圧試験
b. 雷インパルス制限電圧試験
c. 開閉インパルス制限電圧試験
(5) 動作責務試験 a. 雷サージ動作責務試験
b. 開閉サージ動作責務試験
(6) 耐久性試験 a. 動作開始電圧試験
b. 安定性評価試験
(7) 汚損試験 a. 汚損試験
b. 活線洗浄試験
(8) 放圧試験 a. 放圧試験
(9) 耐電圧試験 a. 商用周波耐電圧試験
b. 雷インパルス耐電圧試験
c. 開閉インパルス耐電圧試験(定格電圧420[kV]のみ)
(10) 耐劣化性試験 a. 気密試験
b. 浸水試験

参考文献

[rakuten:book:13112614:detail]

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更新履歴

  • 2022年1月2日 新規作成
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」を追加
  • 2022年2月26日 加除修正
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年5月8日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5」を追加
  • 2022年5月21日 参考文献に「平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年7月3日 加除修正
  • 2022年7月16日 参考文献に「平成19年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」を追加
  • 2022年8月15日 参考文献のタイトルを追加
  • 2022年8月20日 参考文献に「避雷器等の施設」を追加
  • 2023年10月18日 参考文献に電気学会技術報告 第1544号「酸化亜鉛形避雷器の動作責務とエネルギー耐量に関する技術動向」

交流送電の特徴

電力系統の電気方式は,送配電線に流れる電流の種類によって直流方式と交流方式に大別できる。

電気事業の初期ならびに海底ケーブルを含む長距離大容量送電など特定な場合を除き,現在は交流方式がもっぱら採用されている。

これは交流送電の次に述べる利点による。

  • 大電力を効率よく送電できる高電圧送電が,静止器である変圧器により容易に,かつ,効率的に実現できる。
  • 半周期ごとに電流が零となるため,遮断器による系統構成の変更や系統事故除去が容易にできる。
  • 多端子のネットワークを構成でき,効率的,経済的な電力輸送が可能となる。
  • 直流発電機と異なり整流子を必要としない同期発電機が主な電源として利用される。
  • 構造が簡単で堅ろうで安価なかご形などの誘導機を動力負荷として利用可能である。

反面,系統内の発電機をほぼ一定の回転速度で運転し,発電機間の電圧位相差をある範囲に抑える同期運転が必要となることから,送電線の安定度による送電限界や事故時の発電機脱調等,直流送電にない問題がある。

また,線路リアクタンスによって送電容量に限界を受ける。

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この送電容量限界以内でも,受電端の負荷に応じて無効電力を補償して電圧を維持する調相設備(電力用コンデンサなど)が必要となる。

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系統を安定運用する主要要件

発電機や送電線のほか,変圧器,配電線,負荷など多くの機器で構成される電力系統には様々な制約事項が存在する。

電力系統を安定運用する主要要件には,以下の 4 つの制約がある。

  1. 熱容量
    電力系統を構成する機器の熱的耐力
  2. 周波数
    周波数の安定維持
  3. 同期安定性
    同期運転の安定性維持
  4. 電圧
    電圧の安定性維持

交流系統における送電能力の向上

交流系統における送電能力は,送電端と受電端の電圧値電圧位相差,送電線のインピーダンスによって決まる。

送電能力を大きくすれば,同一の電力を送電するときの電圧位相差が小さくなり,系統に大じょう乱が発生したときの過渡安定性も改善できる。

送電能力を大きくするには,送電端と受電端の電圧差を大きく,あるいは,送電線のインピーダンスを等価的に小さくする必要がある。

超高圧架空送電系統では送電線のインピーダンスリアクタンスが支配的であるので,直列コンデンサの設置が効果的である。

直列コンデンサに並列に接続されたリアクトルの電流をサイリスタの点弧角制御により変化させ,送電線のリアクタンスを連続的に補償することができる TCSC(Thyristor controlled series capacitor)は,電源と系統の相互作用による低周波共振を抑制することが可能である。

参考文献

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  • 2022年1月1日 新規作成
  • 2022年1月2日 送電線の送電容量,変電所に設置される調相設備のリンクを追加
  • 2022年5月8日 参考文献に「令和元年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加