目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

変電所の塩害対策

変電所で電気絶縁のため使われるがいし,ブッシングの表面には,台風や季節風などによる強い海風により運ばれる海塩が付着する。

この表面が湿潤を受けて導電性を有するようになり,漏れ電流が流れ,その発熱により電流が集中するところに乾燥帯が形成される。

汚損,湿潤の程度によって乾燥帯での局部的な放電の発生にとどまる場合から,表面が絶縁破壊し停電事故に至る場合もある。

変電所の塩害対策は,一線地絡時の健全相電圧上昇に耐えることを基本に,塩分付着量度合いを考慮して決められる。

塩害対策は,母線がいしにおいては設計汚損量までは絶縁強化で対策し,機器用がいしやがい管は,0.03 ないし 0.06 [mg/cm2] まで絶縁強化で対策し,それ以上は洗浄による対策を施しているのが実情である。154 [kV] 以下の電圧ではシリコンコンパウンド塗布が用いられることもある。

また,重汚損地区では,屋内化や GIS など隠ぺい化の対策が採られることが多い。

表 塩害対策の適用の考え方
変電所 軽汚損地区
0.03 [mg/cm²] 以下
中汚損地区
0.03 超過 ~ 0.06 [mg/cm²] 以下
重汚損地区
0.06 超過 ~ 0.12 [mg/cm²] 以下
超重汚損地区
0.12 超過 ~ 0.35 [mg/cm²] 以下
特殊地区
0.03 超過 [mg/cm²]
154 [kV] 以下 絶縁強化 絶縁強化 絶縁強化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化
187 ~ 275 [kV] 絶縁強化 絶縁強化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化
500 [kV] 絶縁強化 絶縁強化または洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化

塩害が電力設備に及ぼす影響

母線,変圧器,遮断器,断路器のがいし・がい管の表面が海水の塩分を含んだ風を受けて汚損されると,それによりがいし類の耐電圧値が低下し,フラッシオーバ事故となり,送電線の停止や発変電所の停止を引き起こす。

塩害対策

電力設備の塩害対策は,以下のとおり。

  • がいしの増結,長幹がいし,スモッグがいしなど耐塩害がいし類を採用し,絶縁強化を行う。
  • 適時,塩分付着量の測定を行い,規定値を超えた場合にがいし洗浄を行う。
  • GIS(ガス絶縁開閉装置)等の密閉形機器を採用する。あるいは屋内化を実施する。
  • がいし類の表面にシリコーンコンパウンド等を塗布し,このアメーバ作用により付着した塩分をコンパウンド内に吸収させるとともに,はっ水性により湿潤を防止してがいし類の絶縁低下を防止する。

がいしの塩害対策

塩分ががいし表面に付着すると,霧や小雨により湿潤して溶解し,導電性があがり,がいし表面の漏れ電流が増加する。

これにより,がいし表面が乾燥して部分放電が発生したり,さらに,フラッシオーバーに移行して事故にいたる懸念があることから,塩害対策を行っている。

塩害対策として,隠ぺい化などもあるが,屋外変電所では汚損マップやパイロットがいしによる実測等をもとに,がいしの塩分付着密度を決定し,これとは別に耐塩対策設計の重要な項目であるがいしの耐電圧の目標値を決定しておく。

これらとがいし表面の漏れ距離を考慮して,使用するがいしを選定することになる。

electrical-engineer.hatenablog.jp

このほか,がいしを洗浄するのも対策の一つであるが,この場合,洗浄水の圧力や洗浄水の抵抗率とがいし洗浄耐電圧の関係をよく把握しておく必要がある。

がいし類の活線洗浄

変電所の塩害対策は保守が容易ながいし類の過絶縁設計が基本であるが,海岸に近く,台風や季節風によりがいし類に付着する塩分が多い地域にある変電所では,電圧が高いほど,過絶縁設計だけではなく,活線洗浄などを組み合わせて対策することが多い。

これらの地域では,活線洗浄などを組み合わせて対策するのに比べ,過絶縁設計のみで対策すると,がいし類を長大化する必要があり,電圧が高いほど,技術的に実現が困難,又は非常に高価となり,不経済となるからである。

シリコンコンパウンド

塩害対策の一つとして,絶縁性に優れたシリコンコンパウンドをがいし類に塗布する方策がある。

絶縁性以外に,シリコンコンパウンドが有する塩害対策として優れた特性は以下のとおり。

  • がいし類の表面に降りかかる水分をはじく,優れた撥水性
  • がいし類に付着した塩分を包み込むアメーバ作用

また,保守上注意すべき点は,シリコンコンパウンドの寿命が 1 ~ 2 年と短く,通常の点検よりも多頻度で設備を停止して,清浄再塗布する必要がある。

用語の定義

塩害に関する主な用語とその意味を以下に示す。

塩分付着密度(SDD : Salt Deposit Density)

がいし・がい管の外被に付着する塩分の付着密度(mg/cm2

等価塩分付着密度(ESDD : Equivalent Salt Deposit Density)

がいし・がい管の外被に付着した溶解性物質の導電率をすべて NaCl に換算した場合の付着密度(mg/cm2

等価塩分とは,実際の汚損物による水の導電率と同一の値を示す食塩(塩化ナトリウム)の量であり,管理指標として用いられるのは,がいし類の汚損時の絶縁耐力が等価塩分付着密度ごとに決められているからである。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月6日 新規作成
  • 2022年1月8日 用語の定義を追加
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成14年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
  • 2022年10月30日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加