目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

ガス絶縁変圧器

都市部の屋内・地下変電所では,防火対策*1が簡略化できることから従来の絶縁油に代わり,SF6 ガスにて絶縁し,不燃化を図るガス絶縁変圧器(gas insulated transformer)が採用される例が増えている。

GIS などのガス絶縁開閉機器との組み合わせも容易であり*2,コンサベータや放圧管が不要のため高さ低減もできるなどの利点がある*3

ガス絶縁変圧器の絶縁は,SF6 ガスと固体との複合絶縁で構成し,導体絶縁材料にはポリエステル系フィルム(PET)が使用されている。

また,冷却は 60 [MV・A] 程度以下の小容量器では,SF6 ガスを循環して冷却する方式が用いられている。

SF6 ガスは絶縁油に比べ,比熱が低く,巻線の冷却効率が劣るため,300 [MV・A] 程度の大容量器では,開発当初は,冷却媒体として不燃性で冷却性能の高いパーフルオロカーボンを用いる方式が用いられていたが,最近はSF6 ガスの圧力を高め,冷却性能を高めた方式が主に用いられている。

ガス絶縁変圧器の冷却方式

現在のガス絶縁変圧器では,巻線や鉄心を冷却する媒体として SF6 ガスを用いている。

SF6 ガスは絶縁油と比べて熱容量が小さいことから,容量が大きな変圧器では,冷却性能を向上させるために SF6 ガスの圧力(封入圧力)を高めたもの,ポーフロロカーボン(PFC)液を冷媒として用いるものが実用化されている。

ガス絶縁変圧器の適用の効果

ガス絶縁変圧器の適用効果の主なものとして,次のようなものがある。

  1. 絶縁,冷媒媒体が不燃性であり,消火設備や防火設備が簡素化できる。
  2. 集油槽,放圧管が不要となるとともに,温度変化による内圧変化が小さいためコンサベータが不要となり,建物階高の低減が図れる。
  3. ガス絶縁開閉装置と直結することにより,建物面積の縮小化が図れる。

このほか,SF6ガス,PFC 液は酸化劣化の心配がないこと,吸湿呼吸器がなく,シリカゲルの交換が不要であること,負荷時タップ切換装置にはアークによるガスの分解を防止するために真空スイッチを用いたものが適用され,活線浄油機が不要となるなどの特徴があり,保守性の向上も期待できる。

ガス絶縁変圧器の特長

図解 変圧器において,SF6 ガス絶縁変圧器の特長について,以下のように記されている。

  • 不燃性かつ非爆発性である。
  • 鉱油入変圧器に比べて軽量である*4
  • SF6 ガスは不活性であり,かつ完全密封方式であるため,劣化がほとんどなく,湿気,塵埃,塩害などの外気に影響されない。よって,変圧器の内部は常に正常に保たれるため,内部の保守・点検は不要である。
  • 乾式変圧器に比べると,タンク壁で遮音されるため騒音が低くなる。また,油入変圧器に比べると,油より SF6 ガスのほうが騒音伝達性が小さいため低騒音となる。
  • 真空ポンプと SF6 ガスボンベだけでガス封入作業が簡単にできるので,据え付け作業が容易である。また,万が一漏れが発生しても周囲を汚染することはない*5

ガス絶縁変圧器の適用

ガス絶縁変圧器はその安全性,防災性,環境調和性が評価され,1980 年代の後半から急速に普及してきている。

とくに,都市部の配電用あるいは送電用の地下式変電所や屋内式変電所に設置する変圧器としてのニーズが高まっている。

参考文献

  • 電気事業講座 電気事業辞典
  • 令和5年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「ガス絶縁変圧器」
  • 平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「ガス絶縁変圧器」
  • 平成18年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5「ガス絶縁変圧器の冷却方式,適用の効果」
  • 平成9年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「SF6 ガス絶縁変圧器」

更新履歴

  • 2022年6月3日 新規作成
  • 2022年6月4日 ガス絶縁変圧器の特長,ガス絶縁変圧器の適用を追加
  • 2022年6月11日 参考文献に「平成9年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2023年11月25日 参考文献に「令和5年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加

*1:消火設備や防火区画

*2:GIS との合理的な配置設計による建物建設コストの低減や長期信頼性が期待できる他,保守の省力化も可能である。

*3:変圧器の高さを低減できるため,ガス絶縁変圧器を地下や屋内変電所に適用した場合,変圧器室の高さも低減できる。

*4:中身も外形寸法も鉱油入変圧器に比べて若干大きくなるが,SF6 ガスが極めて軽いため,総重量は鉱油入りに比べて 10 ~ 14 % 軽くなる

*5:SF6 ガスは温室効果ガスであるため,外部に漏らさないことが望ましい。