目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

変圧器の信頼性向上対策

変圧器事故の未然防止策として,設計・製作及び施工面での品質管理の向上が図られている。

保守面でも,以下のような診断技術も広く用いられ,また,近年では絶縁物の劣化生成物であるフルフラールなどの含有量を基にした劣化診断技術の適用も進められ,事故の未然防止が図られている。

変圧器の絶縁油の絶縁破壊電圧

変圧器の絶縁油において管理すべき最も重要な特性は絶縁破壊電圧であるが,これは絶縁油中の水分により大きく左右される。

長期使用に伴う絶縁油の劣化は全酸価,体積抵抗率などの特性変化となって現れるため,管理基準に従った十分な管理が必要である。

絶縁油耐圧試験

絶縁油の劣化を判定することを目的とする試験である。

絶縁油の中に溶け込んだ空気中の酸素によって絶縁油は酸化され,絶縁油の抵抗率や耐圧は低下する。

これらの低下の度合いにより,絶縁油の劣化を判定する。

測定方法は,日本工業規格(JIS)に定められた電極容器に絶縁油を入れ約 3 分間放置し,印加電圧を毎秒 3 [kV] の割合で上昇させ絶縁破壊を生じる電圧を測定する。

絶縁油全酸価試験(絶縁油酸価度試験)

絶縁油の劣化を判定することを目的とする試験である。

絶縁油の中に溶け込んだ空気中の酸素によって絶縁油は酸化され,絶縁油の酸価度は上昇する。

この上昇の度合いにより絶縁油の劣化を判定する。

測定方法は,試料油 20 [g] を正確に測定し,トルエンエチルアルコールを混合した溶剤を入れ,アルカリブルー 6B 溶液を指示液として N/20 水酸化カリウム溶液を用いて滴定し酸化を測定する。

油中ガス分析試験

絶縁油,絶縁紙,プレスボードなどの劣化判定を目的とした試験である。

変圧器運転中の熱(アーク熱,部分放電,局部加熱など)により,絶縁油が熱分解して種々のガスを発生する。

このガスの油中溶存量より絶縁油の劣化を判定する。

測定方法は,絶縁油中に溶け込んだガスの成分(種類と量)をガスクロマトグラフにより測定する。

経年劣化診断

絶縁紙の劣化判定を目的とした試験である。

絶縁紙の劣化が進行すると絶縁紙の引張り強さや平均重合度残率などが低下するとともにフルフラール有機化合物の一種)などの生成物が発生する。

フルフラール生成物と絶縁紙の平均重合度残率との間に相関関係がある。

したがって,フルフラール生成物の量を測定して変圧器のコイルの余寿命を判定する。

測定方法は,少量の絶縁油を採取し,アサトニトリル溶液でフルフラールを抽出する。

この抽出液を高速液体クロマトグラフHPLC)により,フルフラール生成物の量を測定する。この量からコイル絶縁紙の平均重合度残率を推定する。

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流動帯電現象

大容量の送油式変圧器では,絶縁油が変圧器内を冷却循環することにより絶縁紙などの表面や絶縁油中に電荷が蓄積し,絶縁油の耐圧値を超えると局部的に部分放電が発生する流動帯電現象による事故の防止が課題となっている。

流動帯電の現象は,変圧器内部で油が流動することにより固体絶縁物の界面で電荷の分離を生じ,巻線内部や油道周辺の絶縁物に電荷が蓄積され,その部位の直流電位が上昇して静電気放電が発生する現象であり,この静電気放電が進展すると絶縁破壊を起こす。この流動帯電は,近年の変圧器の高電圧化・大容量化に伴い輸送限界容量を増大するため,油流量増大による冷却効率の向上や絶縁性能の向上を目的に絶縁物の乾燥処理など新しい技術が導入されたことにより,これまで変圧器では問題とされなかった油流による帯電がクローズアップされてきた。

電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」

この現象は,絶縁油及び絶縁材料の処理技術向上に伴い,高い固有抵抗の絶縁油がよく乾燥された紙絶縁物表面を流れるときに顕著に現れる現象であり,絶縁物への添加剤の適用や変圧器構造,絶縁油の流速などについて総合的に検討を行い対策する必要がある。

また,変圧器の絶縁油中には極微量の硫黄分が含有されておりこれが銅と反応し銅表面を腐食し化合物を生じさせ,これが油中に浮遊し,導体間等に入り込み,絶縁性能を低下させ,絶縁破壊が生じることがある。

これを防止するためには,硫黄及びその化合物と反応性の低い材料の使用や銅の表面処理などの対策が必要である。

雷サージ

雷サージは変圧器に対してその絶縁を脅かす脅威であり,系統の絶縁協調を考慮して巻線端子に加わる雷サージ電圧を想定し,一定の波形と波高値の雷インパルス耐電圧試験に耐えることを目標にして絶縁設計しなければならない。

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地震

設計にあたって基準とする地震は,地表面水平加速度 0.3 [G],卓越振動数の範囲を 0.5 ~ 10 [Hz] とする。また,S 波速度 150 [m/s] 以上,または,N 値が 5 以上の地盤を選定する。

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参考文献

  • 電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」
  • 令和元年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「油入変圧器の内部に発生する事故」
  • 平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3
  • 平成15年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「油入変圧器の絶縁状態の診断」
  • 平成13年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「超高圧大容量油入変圧器の重大事故防止対策」

更新履歴

  • 2022年4月23日 新規作成
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成15年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
  • 2022年10月30日 参考文献に電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」,「令和元年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2022年12月17日 参考文献に「平成13年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加