絶縁油は,油入変圧器や油入コンデンサなどの電気機器に広く使用されており,その主な役割は機器の絶縁と冷却である。
油入機器の内部で異常過熱や絶縁劣化が生じると,絶縁油から発生した分解ガスや絶縁物の劣化生成物が絶縁油に溶け込み,絶縁油の化学的特性に変化が生じてくる。
絶縁油の保守管理は,油入機器の絶縁状態を把握するとともに機器の性能を長く維持するために重要なことである。
油入変圧器を運転すると温度が変化し外気との間で呼吸作用が行われる。
その際,ブリーザ不良,パッキング劣化,シール部の締付不良,外装タンクの腐食などによる気密不良があると,絶縁油に空気中の酸素や水分が混入する。
絶縁油は,油中に酸素や水分が存在すると,変圧器内部の鉄や銅の裸金属に接触している状態で運転中の温度上昇により,酸化反応が促進され酸性有機物質の総量(酸価)が増大する。
酸価が増大すると絶縁油や金属のコイル絶縁物が化合しスラッジ(絶縁油の劣化によって生じる泥状物質)が生成される。これがコイル絶縁物,鉄心,放熱面に付着すると放熱機能が低下し,温度上昇が著しくなり絶縁物の熱劣化が加速される。
絶縁劣化した状態で油入変圧器の運転を続けていると,過電圧などによって部分放電が発生し,外部からのサージや外部短絡時の電気的又は機械的ストレスで絶縁破壊に至るおそれがある。
また,絶縁物自体も劣化生成物の溶解によって吸水性を増し,絶縁抵抗の低下や $\tan{\delta}$の増加など絶縁特性が低下する。
絶縁油は定期的に試験を行って劣化状況を確認する必要があり,試験項目としては,絶縁破壊電圧試験,酸価試験,水分試験などがある。
油中ガス分析
油入変圧器の内部で異常が発生した場合,異常部位での過熱や放電により絶縁油や絶縁物が分解し,正常な状態では発生しない分解ガスが発生し,絶縁油中に溶解する。油中ガス分析による劣化診断は,絶縁油中に溶解した可燃性ガス成分から内部異常の有無を推定する方法である。
可燃性ガス成分の中でも,アセチレンやエチレンは内部異常時の特徴的なガスであり,微量であっても検出された場合は内部異常の可能性が高いので特に注意する必要がある。
油中ガス分析の結果から異常と判定された場合には,ガスパターンや組成比及び特定ガスによる様相診断を行い,過熱や放電現象,異常の部位及び大きさの程度や進展度合いを診断する。
その結果,内部に異常ありと診断された場合は,確度の高い診断をするため電気的試験,外部一般点検,運転履歴や改修履歴などを総合して診断を行い,内部点検又は修理の要否などを決定する。
なお,変圧器絶縁油が大気に直接接触しない隔膜式コンサベータ方式の油入変圧器では,絶縁油中の窒素濃度測定も,ガスケットの劣化やピンホールの有無の診断に有効である。
過熱時に発生する特徴的なガス
過熱時に発生する特徴的なガスとしてエチレン(C2H4)とエタン(C2H6)が挙げられる。
過熱レベル(高温過熱・低温過熱)により発生ガスの成分が変化し,高温過熱ではエチレンが,低温過熱ではエタンが多く発生する。
また,組成比などから過熱部位(巻線部・金属部)の推定を行うことができる。
放電を伴う内部異常時に発生する特徴的なガス
放電時に発生する特徴的なガスとしてアセチレン(C2H2),水素(H2)が挙げられる。
アセチレンは絶縁油から発生する分解ガスのうち,アーク放電など特に高温時に発生するものである。
水素は経年劣化でも発生する一方,アセチレンは微量であっても検出された場合は内部異常の可能性が高い。
アセチレンは LTC(負荷時タップ切換器)動作時に切換開閉器室内の絶縁油が分解することでも発生することから,LTC 内の絶縁油が変圧器本体タンクへ混入すると内部異常と誤診断されるおそれがあるため,注意が必要である。
参考文献
- 令和元年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「油入変圧器の内部に発生する事故」
- 平成29年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4
- 平成28年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「変圧器の油中ガス分析」
- 平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4
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