電力用機器に使用される SF6 ガス(六フッ化硫黄ガス)について説明する。
1. SF6 ガスの概要
六フッ化硫黄ガス (sulfur hexafluoride) は,化学式 SF6 で表される硫黄の六フッ化物である。
硫黄原子を中心にフッ素原子が正八面体構造をとる。
常温常圧下で化学的に安定な無毒,無臭,無色,不燃の気体で,大気中での寿命は 3,200 年である。
1960 年代から電気・電子分野で絶縁材などとして広く使用され,人工の温室効果ガスとされる。
使用量はさほど多くないが,近年では新用途開発の進展に伴って需要が増加している。
100 年間の地球温暖化係数は二酸化炭素の 22,800 倍と大きく,かつ大気中の寿命が長いため,HFCs,PFCs と共に京都議定書(第3回気候変動枠組条約締約国会議(通称 COP3))で地球温暖化防止排出抑制対象ガスの一つに指定された。
1-1. SF6 ガスの絶縁耐力
SF6 ガスは絶縁耐力に優れ,同一圧力で空気の 2 ~ 3 倍の絶縁耐力がある。
3 ~ 4 気圧(0.3 ~ 0.4 MPa)では絶縁油と同等の絶縁耐力がある。
1-2. SF6 ガスのアークに対する消弧性能
SF6 ガスはアークに対する消弧性能が高く,アークにより一時的な破壊が生じたとしても原因が除かれると,自然に絶縁性が回復し,絶縁油のように導電性の炭素沈着物を生じることがない。
SF6 ガスの消弧能力は空気の約 100 倍である。
1-3. SF6 ガスの冷却効果
SF6 ガスは総括熱伝達係数が大きく,冷却効果が優れているので,機器のエネルギー損失を小さくし,出力を増大させる。
1-4. 最大電界依存性
SF6 ガスは最大電界依存性が強く,絶縁破壊電圧は最大電界で決まる。
したがって,不平等電界における絶縁破壊電圧は著しく低下する。
2. SF6 ガスによるガス絶縁
SF6 ガスは高い絶縁性能を有しているため,ガス変圧器,ガス遮断器,ガス絶縁開閉装置などの電力用機器において,絶縁体や消弧媒体として利用されている。
機器を小型化でき,高い信頼性,保守の容易性,安全性や環境調和等の理由から,我が国の電力設備に広く適用されている。
2-1. ガス密度
SF6 ガスはガス密度の低下に伴い絶縁破壊電圧が低下するため,ガス密度計等で絶縁性能の維持に必要なガス密度が確保できていることを確認する。
2-2. ガス中水分量
SF6 ガス中の水分は温度変化に伴い絶縁物表面で結露すると沿面絶縁破壊電圧を低下させるため,水分量が規定値以下であることを露点計等で確認する。
2-3. 分解ガス
SF6 ガスは部分放電等のアークにより分解ガスを生じ,分解ガスからの生成物が絶縁物を劣化させるため,分解ガスの発生有無をガスチェッカ等で確認する。
2-4. 金属などの異物混入
金属異物が混入し不平等電界になると絶縁破壊電圧が低下(絶縁性能が低下)する。部分放電や振動の有無,分解ガスの発生をガスチェッカ等で確認する。
2-5. ガス純度
SF6 ガスは水分混入等により純度が低下すると絶縁破壊電圧が低下するため,純度計等で規定値以上の純度が維持できていることを確認する。
2-6. 誘電損
SF6 は液体や固体の絶縁媒体と比較して誘電率および誘電正接が小さいため、誘電損が少なく、電力損失の低減に寄与する。
3. SF6 ガス取扱時に配慮すべき点
温室効果が CO2 の 2 万倍以上と極めて高い SF6 ガスの大気放出を防止するためガス回収を実施する。
また,SF6 ガスのクローズドサイクル化を図るため,使用済み SF6 ガスは基本的に再利用し,再利用できない場合は再精製等的確に処理する。
4. SF6 代替
SF6 代替ガスとして,高気圧空気,CO2,N2 などの自然由来ガス,SF6 との混合ガス,2010年代に入ると,欧州を中心に新たに化学合成されたフッ素系ガスと CO2 などとの混合ガスも発表され,現在もなお,それら代替ガスを適用した機器開発検討が続けられている。
合わせて,SF6 ガス遮断器に替わる高電圧送変電用遮断器として真空遮断器の高電圧化技術が強く求められている。
4-1. SF6 ガス代替技術に求められる七つの要件
日本では,産学一体(学術有識者,電力会社,機器メーカ)の体制にて「SF6 代替ガス検討会」が設立され,2016年4月より活用を続けている。
検討会では SF6 ガス代替技術の適用ガイドラインとして,七つの要件を求めることとし,2020年8月の CIGRE パリ大会で初めて提案し,移行,継続的に国内外に発信することで,すでに広く定着している。
- 安全性・環境適合性 (EHS) : 分解ガス・分界生成物を含め毒性に対する取扱いが SF6 と同等である
- 常規使用状態 (Service Condition) : 規格に定める常規使用状態で使用可能である
- ガスの供給性 (Stable Supply) : 代替ガスは将来にわたり安定供給が可能であること,ガスは複数社にて供給できることが望ましい
- 簡易なハンドリング (Gas Handling) : SF6 代替ガスの取り扱いが簡便であることが望ましい
- ライフサイクルコスト (Life Cycle Cost) : トータルコスト(機器・付帯工事費用,運転保守費用など)が SF6 ガス機器と同等あるいは合理性があることが望ましい
- 既設設備リプレース性 (Footprint) : 屋内・地下変電所等の据付空間に制限のある場所でのリプレースが可能であることが望ましい
- 高電圧・大容量化への拡張性 (Voltage Coverage) : 将来的には,系統の最高使用電圧 550 kV まで対応可能とすることが望ましい
4-2. ドライエア絶縁開閉装置
ドライエア絶縁開閉装置とは,電力設備において乾燥空気(ドライエア)を絶縁媒体として使用する開閉装置である。
温室効果ガスを使用しないことから,SF6 代替えの一つとしてあげられる。
4-2-1. ドライエア絶縁開閉装置の概要
ドライエア絶縁開閉装置は金属製の密閉容器内に導体や遮断器などを収め,内部空間を乾燥空気で満たすことで絶縁性能を確保する。
空気は身近で安全な物質であるが,そのままでは湿度や不純物の影響により,安定した絶縁性能を得ることが難しい。
そこで,水分を除去し,管理された状態の「ドライエア」として密閉容器内に封入し,圧力を高めることで,電気機器に適した絶縁環境を作り出している。
遮断部には真空遮断器 (VCB) を用いる場合が多く,遮断と絶縁で役割を分担する点が特徴である。
- 電流の遮断は真空
- 導体間・対地間の絶縁はドライエア
4-2-2. ドライエア絶縁開閉装置の技術的課題
ドライエアは SF6 ガスと比較して絶縁性能,遮断性能が低いため,SF6 ガス機器と同性能を実現するためには真空遮断器の採用,高ガス圧力化,導体への絶縁コーティングなどの設計工夫が求められる。
その結果,機器の大型化やコストの増大が大きな課題である。
5. 参考文献
- 塚尾茂之(東京電力パワーグリッド)「脱 SF6 とエステル油変圧器について(概論)」,電学誌,146 巻 1 号,2026 年
- 電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第182回テーマ : ドライエア絶縁開閉装置
- 令和7年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「SF6 ガスの基本的な物性と課題,近年の代替ガス技術」
- 令和7年度 上期 第三種 電気主任技術者試験 電力 問6「ガス絶縁開閉装置」
- 令和7年度 上期 第三種 電気主任技術者試験 電力 問14「六ふっ化硫黄 (SF6) ガス」
- 令和4年度 上期 第三種 電気主任技術者試験 電力 問14「我が国の電力用設備に使用される SF6 ガス」
更新履歴
- 2025年2月7日 新規作成
- 2025年2月23日 SF6 ガスの概要を追加
- 2025年8月11日 誘電損の説明を追加
- 2025年10月27日 参考文献に「令和7年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
- 2026年1月18日 「SF6 ガス代替技術に求められる七つの要件」を追加,見出しに番号を付与
- 2026年2月13日 自動生成アイキャッチに変更
- 2026年3月27日 参考文献に「令和7年度 上期 第三種 電気主任技術者試験 電力 問6」「令和7年度 上期 第三種 電気主任技術者試験 電力 問14」を追加
- 2026年4月5日 参考文献に「令和4年度 上期 第三種 電気主任技術者試験 電力 問14」を追加
- 2026年5月3日 「ドライエア絶縁開閉装置」を追加,参考文献に「電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第182回テーマ : ドライエア絶縁開閉装置」を追加