エネルギーの安定供給が重要になるなか,エネルギーレジリエンスが注目されている。
本稿では,その概念や最新動向を解説する。
エネルギーレジリエンスとは
自然災害や人為的災害に持ちこたえ,迅速に復旧しうるエネルギーシステムにおける能力,いわゆるエネルギーレジリエンスが近年,重要視されるようになった*1。
レジリエンス
レジリエンスは生態学や心理学など各分野で使用されている概念であるが,イメージの一例として,ゴムやバネが外力を受けても復元するような,環境に適応する能力と言える。
レジリエンスは以下のように表現される。
- 環境から加えられる擾乱に対してシステムが適応し,平常状態をどれだけ継続できるかという脳力
- あらゆる物事が望ましくない状況から脱し,安定的な状態を取り戻す力
アメリカ科学アカデミー
アメリカ科学アカデミーでは,2012年に報告書「Disaster Resilience」の中でレジリエンスを定義し,「想定される悪い状況に対して,計画・準備し,受容・吸収し,回復し,さらにはうまく適応する能力」としている。
APEC マレーシア会合
2020 年にはアジア太平洋経済協力 (Asia Pacific Economic Cooperattion : APEC) のマレーシア会合でエネルギーレジリエンスの原則がとりまとめられた。
APEC のエネルギーレジリエンス原則を直訳すると,エネルギーレジリエンスとは,「エネルギーセキュリティ,持続可能な開発およびエネルギー源へのアクセスを提供するための重要な概念であり,極端な自然災害や人為的災害に耐え,タイムリーかつ効率的な方法で災害から回復して通常に戻り,より良く再構築を行う,能力と品質であり,それによって社会へのエネルギー供給の混乱による経済活動への悪影響を減らす」こととされている。
経済産業省
国内では経済産業省が APEC のエネルギーレジリエンス原則を踏まえて,エネルギーレジリエンスを,「平時には需要家を含む社会に対して所用のエネルギーを安定的に供給し,有事には自然的・人為的災害を始めとしたさまざまなショックがエネルギーの供給支障を生じた場合に,それが人命・資産や経済活動および社会にもたらす影響を低減するための,災害時等の発生前後における,ハード・ソフト面での安全性・堅牢性および迅速な停止復旧能力」と定義している。
エネルギーレジリエンスの評価項目
経済産業省は 2020 年にエネルギーレジリエンスの定量評価に向けた専門家委員会を設置し,エネルギーレジリエンスにつながる四つの視点を提示し,これらの観点からエネルギーレジリエンスの定量評価の方向性が検討されている。
1. 代替性のあるエネルギー調達
エネルギー種別の多様性,個別エネルギー源の多様性の項目がある。
2. イノベーション・設備投資
各指標を飛躍的に高めるイノベーション・設備投資の項目がある。
3. 流通網の強靭性
流通網の強靭性,設備の強靭性の項目がある。
4. 非常時の備え
エネルギー途絶時の自立性の確保,非常時の想定と備蓄,BCP の策定と着実な運用の項目がある。