目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力用油入変圧器の寿命の基本的考え方

油入変圧器 (Oil-immersed transformer) は運転に入った後,温度,湿度,酸素等により絶縁物が次第に劣化し,それが進行すると,雷サージ,開閉サージなどの異常電圧あるいは外部短絡の際の電磁機械力などの電気的・機械的異常ストレスを受けた場合,破壊する危険度が増してくる。

変圧器の寿命

変圧器内で経年劣化による特性値低下の対象となる材料は絶縁油と絶縁紙 (Insulation paper) である。

絶縁油

絶縁油の最も重要な特性は絶縁破壊電圧であり,一般に,劣化による低下度が小さい。

絶縁油の絶縁破壊電圧が低下する場合は何らかの原因で油中水分が大きくなった場合が多い。

こうした絶縁油の絶縁破壊電圧あるいは他の特性値が低下した場合は,新油との交換,脱気ろ過処理などを行うことになっている。

この処理によって,絶縁油の特性値は変圧器の運転に支障のないものとなる。

したがって,絶縁油の特性低下は変圧器の寿命を左右する因子とはならない

紙材料

紙材料では巻線に巻かれている絶縁紙が最も高い温度になっており,劣化による特性値低下への影響を受け易い。

絶縁紙の重要な特性である油中絶縁破壊強さは劣化による低下の程度が小さく,変圧器の長期間の運転でも問題にならないのが普通である。

絶縁紙の他の重要な特性である引張強さは劣化によって低下し,運転継続上問題になる場合も起こる。

例えば,変圧器巻線に外部短絡などのサージ電流が流れ,そのとき発生する電磁機械力により巻線被覆に引張り力がはたらく。

その力以下に絶縁紙の引張強さが低下した場合,絶縁紙に亀裂が生じたり,破壊したりする。

こうした状態が,絶縁紙の寿命であり,絶縁紙の巻き換え,巻線の交換は一般に不可能であるため,変圧器の寿命ともなる。

すなわち,絶縁紙の劣化は,油入変圧器の運転寿命を決める主な要因の一つである。

耐熱紙

変圧器では,普通紙(クラフト紙)にアミン化合物を添加して耐熱性を付与した耐熱紙 (Thermally upgraded paper) が用いられることがある。

耐熱紙を採用することで変圧器の長寿命化が期待できるだけでなく,温度上昇限度を格上げして増容量が可能となる。*1

寿命の目安の平均重合度

変圧器の寿命とは,巻線絶縁紙の機械的強さが低下し,潜在的な破損の確率が高まった状態ということができる。

変圧器絶縁紙の機械的強さは,引張り強さ,あるいは平均重合度で表現されるが,測定上の誤差要因のより出にくい平均重合度による表現が一般的となっている。

絶縁紙の寿命について,平均重合度残率が 40 % ~ 60 % の時点を寿命とするものが多い(平均重合度にして 400 ~ 600)。

一方,平均重合度 150 ~ 250 という非常に低い値を寿命とする例もあるが,紙としての強度が喪失する劣化度を示していると考えられるため,たとえば励磁突流時の電磁機械力によっても絶縁紙の破損が起こるような状態であり,これを変圧器の寿命とすることは適切でないと考える。

参考文献に示す電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」において,巻線絶縁紙の寿命レベルとして平均重合度 450 を推奨している*2

変圧器構成材料の劣化診断

変圧器構成材料の劣化診断 (Aging diagnosis) について述べる。

紙材料の中では,巻線に巻かれている絶縁紙が最も高温になるので,変圧器の寿命は巻線に巻かれている絶縁紙の最高温度部の劣化程度に左右される。

このため,運転時間とともに絶縁紙の機械的性能である引張強度が低下し,初期の引張強度の 50 ~ 60 % が寿命とされている。

絶縁紙の主要構成物質はセルロース分子であり,この分子の長さの目安として平均重合度が用いられ,絶縁紙が熱的に劣化すると,絶縁紙のセルロース分子間の連鎖が切断され,平均重合度が低下し,引張強度は低下する。

つまり,絶縁紙の引張強度は,平均重合度という物差しで決めることができる。

しかし,運転中に変圧器内の絶縁紙を採取することは困難であるため,変圧器の絶縁紙が劣化すると絶縁油中に溶解するセルロースの分解生成物であるフルフラール等の量を用いて,平均重合度との相関から絶縁紙の経年劣化度を診断する方法が実用化されている。

CO2+CO 量

絶縁紙が分解する過程で生成し絶縁油に溶出する物質のうち,(CO2 + CO) 量は平均重合度と相関性が高いことも知られており,劣化診断はこれらの物質に着目して行われる。

運転中の変圧器から絶縁紙を直接採取することは困難なため,絶縁油中の (CO2 + CO) 量を測定し劣化診断する方法が実用化されているが,気中放散があるので開放型変圧器に適用することは難しい。

プレスボードによる診断

停止中の変圧器から,絶縁に影響の無い部分のプレスボードを採取し,絶縁紙の平均重合度を推定し劣化診断する方法も採用されている。

温度の影響

変圧器の寿命を支配する絶縁物の劣化は,巻線最高点温度 $\theta$ に最も大きな影響を受ける。

この温度と寿命との関係は一般に次式で表される。

寿命 = $A e^{-0.1155 \theta}$

ただし,$A$ は定数,$e$ は自然対数の底である。

すなわち,温度 $\theta$ が 6 [°C] 上昇すると寿命は半減することとなる。

油入変圧器では,耐熱クラス A(許容最高温度 105 [°C])の絶縁物*3が最も多く使用されており,冷却媒体温度 25 [°C] における巻線最高点温度 $\theta$ は,巻線内を循環する油が自然循環,強制循環のいずれの場合においても 95 [°C] となる。

従来の経験によれば,適切な管理の下にこの温度が連続使用した場合,30 年程度の寿命が十分期待できるとされている。

温度上昇

変圧器に負荷を接続すると,損失により発生した熱によって変圧器各部の温度が上昇する。

各部の測定温度と冷媒温度との差は温度上昇と呼ばれる。

温度上昇は,変圧器の寿命に関係しており,定格値を定める主要な因子の一つである。

参考文献

  • JEC-2200-2014「変圧器」
  • 日本電機工業規格 JEM1463
  • 電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」(平成11年2月)
  • 平成28年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「変圧器構成材料の劣化診断」
  • 平成20年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5「油入変圧器を構成する絶縁紙の劣化診断」
  • 平成11年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「電力用油入変圧器の寿命の基本的考え方」

更新履歴

  • 2022年3月14日 新規作成
  • 2022年3月15日 参考文献に「油入変圧器の保守管理」を追加
  • 2022年5月14日 参考文献に「平成28年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年8月14日 参考文献に「平成20年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5」を追加
  • 2023年4月30日 変圧器の温度上昇の説明を追加
  • 2023年11月19日 耐熱紙の説明を追加,参考文献に「日本電機工業規格 JEM1463」を追加

*1:変圧器に関する国内規格 JEC-2200-2014 では,普通紙を採用した場合の巻線平均温度上昇限度は 55 K であるのに対し,耐熱紙を採用した場合は 65 K とすることができる。温度上昇限度の格上げにより,冷却器の小型化によるコンパクト化や,定格負荷電流を大きくすることによる増容量が可能となる。

*2:日本電機工業規格 JEM 1463 では,絶縁紙平均重合度 450(初期値 1 000 のときの残率 45 %)を寿命レベルとしている。

*3:木綿・絹・紙などの材料をワニス類で含浸したもの,または油中に浸したもの。