分路リアクトル(shunt reactor)は,交流回路の分路に接続され,進相電流を補償する目的に使用されるリアクトルをいう。
分路リアクトルの設置目的
わが国の電力系統は 500 kV 基幹系統が拡大し,都市における超高圧ケーブル系統を始め高圧ケーブル系統が増大し,かつ深夜の進相負荷傾向が顕著となること等により,系統の静電容量が非常に増加しており,軽負荷時には進相無効電力に起因する系統電圧の上昇が問題となる。
この進相無効電力を吸収し,もしくは系統電圧を調整するため,変電所に分路リアクトルを設置する。
分路リアクトルの構造
分路リアクトルは,外観等は電力用変圧器とほとんど変わらないが,変圧機とした場合の相違点は,
- 変圧器は 1 相当たり一次,二次,さらに場合によっては三次からなるのに対し,1 個の巻線しか持たない
- 鉄心がない場合もあり,鉄心を有する場合はギャップ付き鉄心が採用される
- 鉄心を通らない漂遊負荷損が大きい
等である。
分路リアクトルにはギャップ付鉄心リアクトルと空心リアクトルの二種類がある。
ギャップ付鉄心は容量の大きなものでは,ギャップ部分の磁束のフリンジングによって鉄損が増加する。
それによる過熱を防ぐため,方向性けい素鋼板を放射状に積層し,樹脂で一体化した鉄心ブロック(放射状鉄心)が使用され,絶縁スペーサと交互に積み上げられたものを上下継鉄を通して強固に締め付ける構造となっている。
空心リアクトルは,方向性けい素鋼板を使用すると高コストになる場合,また,鉄共振や高調波による鉄損が問題となる場合に用いられる。
容量可変形分路リアクトル
単器容量を大きくしたまま開閉時の系統の動揺を抑制するため,容量可変形分路リアクトルが用いられることもある。
容量切換えの方式には,鉄心の一部を共用化した並列切換方式と巻線にタップを設けた OLTC 切換方式の 2 種類がある。
分路リアクトルの開放
分路リアクトルを開放をするとき,リアクトル回路の遅れ小電流を電流遮断能力の高い遮断器で遮断すると,電流裁断により高い過渡回復電圧が発生する場合がある。
分路リアクトルの損失
分路リアクトルの損失は漂遊損と抵抗損とに大別される。
これらを低減するため,一般に次のような方策がとられている。
漂遊損の低減
漂遊損の低減については,電線の導体サイズの縮小・細分化と構造の改善を図った転移電線の採用による巻線内損失の低減,ラジアルコア(放射状鉄心)などの採用による磁気回路の構造改善,鉄心材の改善及び構造材の非磁性化・低損失材化などが行われている。
抵抗損の低減
抵抗損の低減については,巻線の冷却と絶縁構造の改善による巻線の小形化,及びギャップ鉄心の高占積率化とラジアルコアの採用がもたらす高磁束密度化による巻線の短縮と巻回数の低減などが行われている。
分路リアクトルの損失は年とともに減少し,275 kV,100 MVA 級で損失率が 0.2 % 程度となっている。
分路リアクトルの騒音
分路リアクトルの騒音も低減され,40 MVA 器で 40 dB が実現されている。
分路リアクトルの冷却
分路リアクトルの冷却には,一般の変圧器と同様の方式が多く用いられる。
冷却器を振動させないため,本体と別置きすることもある。
参考文献
- 電気事業講座 電気事業辞典
- 平成27年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「大形変圧器と分路リアクトルの鉄心材料及び構造」
- 平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「調相設備設置の目的とその開閉装置の特徴」
- 平成10年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「分路リアクトル」