目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

送配電系統の高調波

近年,需要家で使用する機器に変換装置(サイリスタダイオードなど),アーク炉,サイクロンコンバータ,交流電力調整機器など交流波形をひずませる高調波を多く含んでいるものが広く使用され,電力系統の高調波含有率が増加する傾向にある。

高調波含有率(ひずみ率)=高調波成分実効値 / 基本波成分実効値

高調波による障害

高調波が電力系統および負荷機器に与える障害としては次のものがある。

  1. 電力系統では電力機器の損失増大による過熱,異常騒音と振動,焼損,容量性負荷での高調波電流の課題による機器の過熱,電力用コンデンサ(付属直列リアクトル)や周波数変換所フィルタの過負荷,過熱など
  2. 負荷機器では過大な高調波電流の注入による電力用コンデンサ(付属直列リアクトル)の過負荷,過熱,ラジオ・テレビの音響装置の雑音・映像のちらつきなど
  3. 共通として通信線の誘導障害,波形ひずみによる保護継電器の誤動作や制御装置の制御不安定,測定計器の指示不良など悪影響を与えるもの
  4. 蛍光灯のチョークコイル・力率改善用コンデンサの過熱・焼損
  5. 電子計算機,OA 機器の停止,動作不安定
  6. ノーヒューズブレーカの誤動作
  7. 回転機の振動,異常音,回転数変動,効率低下
  8. 変圧器の騒音増加,効率低下

鉄心を使用する機器への高調波の影響

変圧器や電動機など鉄心を使用する機器では,鉄損の増大による過熱,うなり,振動が発生する。

進相コンデンサや進相コンデンサ用リアクトルの高調波障害

進相コンデンサや進相コンデンサ用リアクトルの高調波障害は,主に,回路共振によることが多い。

高調波対策

送配電系統の高調波電流抑制対策としては,発生源の一つであるパルス数 p の三相ブリッジ回路を持つ電力変換装置の発生する高調波次数は pm ± 1 ( m は整数)で,大きさは次数に反比例するため,パルス数を増加することにより低次数の高調波を抑制することができる。

また,パルス幅変調方式など高調波発生を抑制した制御方式を採用した電力変換装置も使用されている。

単相整流及び三相ブリッジ整流回路の場合は,交流側にリアクトルを直列に挿入することにより高調波電流の発生を抑制することができる。

電気機器や装置の負荷電流の高調波成分の電力系統への流出を抑制する方法の一つとして,受動(パッシブ)フィルタが用いられる。

受動フィルタは負荷電流に含まれる高調波成分を吸収するもので,複数の所定次数調波吸収用の同調フィルタと,高次調波吸収用の高次フィルタで構成される場合が多い。

需要家に設置される力率改善用コンデンサは,一般的に高圧側に設置されることが多いが,これを低圧側に設置することにより配電系統に流出する高調波電流を抑制することができる。

電力変換装置の多パルス化(多相化)

電力変換装置のパルス数をベースとなる 6 パルスの整数倍にし,入力電流の波形をより正弦波に近づける方式である。

電力変換装置の多パルス化(多相化)の特徴は,次のとおり。

  • 等価 12 パルス接続では,特別な機器を追加する必要がなく,技術的な課題も少ない。さらに変圧器本体は本来設備として必要なものであるため,コストアップにつながらないというメリットがある。
  • 系統で障害となっている第 5,第 7 調波の発生が理論的にない。
  • 種類の異なる三相ブリッジ接続(コンデンサ平滑)変換器を組み合わせても効果が得られる。
  • Y-Y 結線変圧器を用いると中性点の電圧が不安定となったり,各相の誘起電圧に大きな第 3 次高調波を含む可能性があるので,変圧器巻線には Δ 結線であることが必要である。
  • 一次側が高圧または特別高圧で,二次側が 400 [V] 級 Δ 結線変圧器を使用する場合には,電技の規定により混触防止板付きとしなければならない。
  • 電力変換装置のみで多パルス化することが理想であるが,装置が高価となる。

受動フィルタ(パッシブフィルタ)

特定の次数に対して低インピーダンスになるような分路を,コンデンサ,リアクトルを組み合わせて実現し,高調波電流を吸収する方式である。

一般的に低次の高調波を吸収する同調フィルタを用いる場合には,複数次数の高調波を対象とするため,複数の同調フィルタが用いられる。また,高次の高調波を吸収するためには広い周波数に対して低インピーダンスとなる高次フィルタが用いられる。

受動フィルタ(パッシブフィルタ)の特徴は,次のとおり。

  • 構成が簡単であり,特定次数の高調波吸収を目的とする場合には有効である。
  • 受動フィルタ接続位置から系統側を見た場合,系統のインピーダンスしかない場合(受電用のトランスなどがない場合)には,系統のインピーダンスとの兼合いで十分小さな受動フィルタのインピーダンスが要求される。また,ほかの需要家から発生する高調波電流を吸収することになりかねないので,限流リアクトルの設置が必要である。
  • 基本波に対しては進相作用があるため,高調波発生機器停止時の過進相に注意が必要である。
  • 当該需要家からの発生高調波,系統に存在する高調波を事前に十分把握し,過負荷とならないよう設計を行う必要がある。

能動フィルタ(アクティブフィルタ)

図に示すように,負荷から発生する高調波電流を検出し,これを打ち消す位相をもった高調波電流を発生して重畳することにより,系統へ流出する高調波電流を抑制するものである。

負荷電流から高調波成分を検出し,この量に応じて発生すべき高調波を演算,発生装置への出力指令を出す。高調波の抑制手法としては理想的である。

図 能動(アクティブ)フィルタ

図 能動(アクティブ)フィルタ

能動フィルタ(アクティブフィルタ)の特徴は,次のとおり。

  • 任意の次数の高調波に対応できる。しかし,現実には追従性能などの点からすべての高調波次数について完全な補償効果があるわけでなく,指針では補償率として,5 次,7 次が 80 [%],11 次,13 次が 60 [%] とされている。
  • 複数調波の同時抑制が 1 台でできる。
  • 設置後に高調波の次数や発生量が変化しても対応できる。
  • 運転時の損失が大きい。
  • 比較的高価である。
  • 高速のスイッチング素子を用いて電流波形をつくるため,適切なフィルタを用いないと数 [kHz] ~ 数十 [kHz] の高調波成分が接続点に流出するおそれがある。
  • 系統へ流出する高調波電流が抑制されるよう,検出箇所を十分に検討する必要がある。特に高調波を吸収する設備が併設される場合には,注意しなければならない。

高調波抑制ガイドライン

配電系統の 6.6 kV 母線における高調波電圧総合ひずみ率の管理目標値を 5 %,特別高圧系統の高調波電圧総合ひずみ率の管理目標値を 3 % とし,これを維持するため,「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」による高調波電流抑制のための技術要件が定められている。

ガイドラインでは,高圧又は特別高圧の電圧で受電する需要家に対して,その電気設備を使用することにより発生する高調波電流の抑制を目的として,契約電力 1 [kW] 当たりの高調波流出電流の上限を定めている。

高調波流出電流の算出

特定需要家から系統に流出する高調波流出電流の算出は次によるものとする。

  1. 高調波流出電流は,高調波発生機器毎の定格運転状態において発生する高調波電流を合計し,これに高調波発生機器の最大の稼働率を乗じたものとする。
  2. ここで,「高調波発生機器の最大稼働率」とは,高調波発生機器の総容量に対する実稼動している機器が最大となる容量との比とする。実稼動している機器の容量は, 30 分間の平均値とする。
  3. 高調波流出電流は,高調波の次数毎に合計するものとする。「高調波の次数毎の合計」とは,高調波電流の算出に当たっては,一般的には高調波電流の各次数毎に各高調波発生機器の高調波電流を合計することであるが,本ガイドラインでは,各次数内での高調波電流の位相差を考慮せず大きさを合計することとしてよい。
  4. 対象とする高調波の次数は 40 次以下とする。「対象次数」は,高次の高調波が特段の支障とならない場合は, 5 次及び 7 次とする。
  5. 特定需要家の構内に高調波流出電流を低減する設備がある場合は,その低減効果を考慮することができるものとする。

参考文献

更新履歴

  • 2021年12月29日 新規作成
  • 2022年2月26日 参考文献に「令和3年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年2月27日 参考文献に「平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
  • 2022年4月21日 参考文献に「平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3」を追加
  • 2022年12月17日 参考文献に「平成13年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2022年12月25日 参考文献に「平成8年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 2023年12月3日 高調波による障害の説明を追加