目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電圧フリッカ

配電線にアーク炉や溶接機などのような変動負荷が接続されると,その負荷電流による電圧降下のために配電線の電圧が変動する*1

この電圧変動が頻繁に繰り返され,照明の明るさにちらつきを生じる現象を電圧フリッカ(voltage flicker)という*2

電圧フリッカとは,連続的に発生する短い周期の電圧変動。

フリッカの評価

電圧変動に対し最も敏感にちらつきを生じるのは白熱灯であり,フリッカは,そのちらつきをもって評価される。

日本において,現在,次式により算出される値による評価が推奨されている。

$\Delta V_{10}$ は「各周波数成分にウェイト付けした後,1 分間実効値を求め,その成分を加重平均したもの」と定義されており,次式で示される。

\[ \Delta V_{10} = \sqrt{\sum_{n=0}^{\infty} (a_n \Delta V_n)^2} \]

式の $\Delta V_n$ は $n$ 次変動周波数における,電圧の実効値である。

また,$a_n$ は各変動周波数におけるちらつき視感度係数であり,その値が最大となる 10 [Hz] のときを 1.0 としたものとなっている。

図 ちらつき視感度係数

図 ちらつき視感度係数

なおフリッカは,ちらつき評価試験が 50 [%] の人にちらつきがあると認識される 0.45 [V] を限度値とする考え方が一般的である*3

フリッカ障害の対策

フリッカ防止の基本は発生源であるアーク炉や溶接機などの変動負荷側で対策を実施することである。

対策は高速応答性を要求されることから,負荷時電圧調整変圧器(LRT)などの機械式では対応できない。

大きな電圧変動を発生する可能性がある負荷の場合は,静止形無効電力補償装置(SVCSVG(自励式 SVC))を用いて無効電力の変動分を補償することが行われている。

装置自体による対策としては,アーク電流が不安定な交流アーク炉に代え,安定した電流が得られる直流アーク炉の採用も有効である。

このほかに,変動負荷を専用線あるいは専用変圧器で供給し,一般の負荷が接続された系統に電圧変動が波及しないような系統構成にする方法などがある。

以上のようなフリッカ障害の対策をまとめると,以下のようになる。

発生側(製鋼用アーク炉)で行う対策例

  • アーク炉,溶接機などの運転条件を改善してフリッカの発生を軽減する。
  • アーク炉用変圧器の二次側に直列に可飽和リアクトルを挿入する。
  • アーク炉用変圧器として三巻線補償変圧器を設置する。
  • 静止形無効電力補償装置(SVCSVG,STATCOM)等を施設する。
  • アーク電流が不安定な交流アーク炉ではなく,安定した電流が得られる直流アーク炉を採用する。
STATCOM による対策

STATCOM(自励式静止型無効電力補償装置)は系統電圧が上下しようとする際,無効電力制御によってその変動を抑える役割を担う。

SVC(無効電力補償装置)も同じ機能を備えるが,無効電力をより速く制御できる。

半導体素子によって高速に電流を開閉するためだ。

電力供給側で行う対策例

  • 発生源への供給を短絡容量の大きな電源系統に変更する。
  • 高圧配電線の昇圧,電線の太線化など電源側インピーダンスの低減を図る。
  • 発生源への供給を専用線あるいは専用変圧器で行う。
  • アーク炉をもつ需要家に供給する電路の途中に直列コンデンサを挿入し,見かけ上の短絡容量を増大させる。

配電系統のフリッカ

配電線にアーク炉,溶接機,太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)などが接続されると,起動時や運転中の負荷変動時,PCS の単独運転検出機能動作時などに線路電圧が変動し,照明の明るさにちらつき(フリッカ)が生じることがある。

この抑制対策は基本的に発生源である機器側で行われるが,系統側での対策としては,電圧降下を低減するような電線サイズの設定,変圧器・配電線の専用化などが考えられる。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月3日 新規作成
  • 2022年1月21日 電圧フリッカの定義を追加
  • 2022年2月27日 参考文献に「平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
  • 2022年4月21日 参考文献に「平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年4月22日 参考文献に「平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年5月21日 ちらつき視感度係数の図表を追加
  • 2022年11月5日 参考文献に「平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
  • 2024年4月20日 参考文献に電気新聞「GRID TECH STATCOM ブーム再燃 下」を追加

*1:製鉄用アーク溶解炉などの負荷を短絡容量の小さな系統に接続した場合,主に無効電力の変動によって母線電圧が連続的に短い周期で不規則に変動する。

*2:ドライヤーを使った際,部屋の照明がつらつくことがある。これは,大量の電力を使う機器の使用により屋内の電圧が急変するのが原因だ。電圧フリッカは,これと同じ原理である。

*3:フリッカは人間がちらつきをどの程度不快に感じるかという人間の主観的な要素も含んでいる。