目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

送配電系統の電圧上昇とその対策

都市部の送配電系統ではケーブル系統の採用や需要家側に設置された力率改善用コンデンサの常時投入などにより,深夜軽負荷帯などに無効電力発生が過剰となる場合がある。

軽負荷時には充電電流(進み電流)の影響,いわゆるフェランチ効果(Ferranti effect)によって,受電端電圧が送電端電圧よりも高くなる*1

フェランチ効果(Ferranti effect)とは,長距離の電線路で負荷が非常に小さい場合,特に無負荷の場合は充電電流の影響のほうが大きくなって電流は進み電流となり,受電端電圧が逆電端電圧よりも高くなる現象。

長距離送電線ではフェランチ効果によって異常電圧発生の恐れがある。

図 フェランチ効果

図 フェランチ効果

この電圧上昇対策として分路リアクトルの投入や,変圧器タップ位置の調整,発電機の進相運転(低励磁運転)などを行っている。

発電機の進相運転(低励磁運転)では同期安定性の悪化及び補機電圧の低下などの問題がある。

よって,あらかじめ運転可能範囲を十分に検討しておく必要がある。

一方,太陽光発電設備の多く導入された配電系統では,5 月上旬等日照条件がよく負荷の比較的小さい期間において,太陽光発電設備による逆潮流により,特に高圧配電線末端の電圧が上昇する。

電圧上昇対策は系統側条件と発電設備側条件の両面から検討することが基本であり,発電設備側では進相無効電力制御や出力抑制の機能をもつ自動電圧調整装置等を設置する方法が用いられている。

電圧調整の考え方

電力系統の電圧は,需要と供給力の変化に伴い絶えず変動する。

電圧が変動すると,需要家の各種電気機器の正常な使用あるいは寿命などに影響を与えるため,電気事業法施行規則で,電気を供給する場所において,標準電圧 100 V の回路では 101 V ± 6 V,200 V の回路では 202 V ± 20 V をそれぞれ超えない値に維持すべきと定められている。

そのため電力供給側においては,系統各所の電圧を,一般的に標準電圧の ± 5 % 以内に保つよう,発電機の自動電圧調整装置や変圧器の負荷時タップ切換装置などを使用し電圧・無効電力制御が行われている。

需要家電圧を適正に維持するために変電所の二次側電圧の維持目標を定め,調相設備によって系統の無効電力バランスを図りながら,電圧調整器によってこの目標値に維持する。

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電圧・無効電力制御の目的

電圧・無効電力制御の目的は,各発変電所における母線電圧を運転基準値内に制御するとともに,無効電力を低減することによって送電損失を抑制するほか,定常時の電圧安定度上の余裕度を高め,過渡的事故や負荷急変時の電圧回復を迅速に行うことである。

電圧・無効電力制御の方法

電圧・無効電力制御の方法は,変圧器の負荷時タップ切換制御と調相設備の制御並びに発電機の自動電圧調整(AVR)運転又は自動無効電力調整(AQR)運転の組合せによって行われる。

電力系統の電圧・無効電力制御の理論

送電端電圧 $V_\text{S}$,受電端電圧 $V_\text{R}$,線路の抵抗 $R$,リアクタンス $X$,負荷の電流 $I$,力率 $\cos\theta$(遅れ)の線路電圧降下 $e$ は次式で近似される。

\[e = V_\text{S}-V_\text{R}=\sqrt{3}I(R\cos\theta + X\sin\theta) \]

受電端の有効電力を $P$,遅相無効電力 を $Q$ で表すと次式のように表される。

\[ e = \frac{RP+XQ}{V_\text{R}}\]

上式から,一般に送電線では,線路抵抗 $R$ に比べて線路リアクタンス $X$ が著しく大きいので,無効電力 $Q$ により電圧が変化する。

そこで,系統の電圧調整方法として,無効電力の調整が行われている。

無効電力が過剰なとき(系統電圧が上昇)

分路リアクトルの投入,同期調相機の低励磁運転,発電機の進相運転(低励磁運転),軽負荷送電線の停止,需要家の電力用コンデンサの開放などを行う。

分路リアクトルは遅相無効電力負荷であり,深夜等の軽負荷時における電圧上昇を抑制するために用いている。

無効電力が不足する時(系統電圧が低下)

電力用コンデンサの投入,同期調相機の過励磁運転,発電機の進相運転などを行う。

電力用コンデンサは,進相無効電力負荷であり,系統の電圧が低下すると無効電力の容量が減少する等の特性があり,また連続制御ができない。

電圧・無効電力制御の必要性

電力系統の電圧変動の原因としては,有効電力および無効電力が需要と不平衡となった場合に表れるが,無効電力による変化がきわめて大きい。

このため電圧変動を一定に抑制するには無効電力を制御する必要がある。

電圧・無効電力制御の方式

電圧・無効電力制御の方式は,大きく分けて個別制御方式と中央制御方式とがある。

個別制御方式は,各発変電所ごとに発電機,変圧器又は調相設備を個別に制御する方式である。

中央制御方式は,系統内の各発変電所の運用に関するオンライン情報に基づき,各発変電所を総合的に調整する方式で,中央給電指令所などの計算機より直接各発変電所の個別制御装置を自動制御するものである。

進相運転

発電機は有効電力を発生すると同時に無効電力を発生し,また状況によっては系統から無効電力を吸収することができることから,最も有効な電圧調整機器の一つになっている。

一般に無効電力を発生する運転方法を遅相運転と呼び,発生電力は遅れ力率である。

この場合は最大出力であっても 85 % 程度の力率まで運転することができ,さらに出力を下げると力率は更に遅れるが励磁機電流容量の制限を受けて 60 % 程度以下には下がらない。

また,発電機自体の界磁電流を減少し,系統から無効電力を吸収する運転方法を進相運転と呼び界磁電流は進み力率である。

これは低励磁運転であるため発電機の内部誘起起電力が低下し,系統に短絡等の擾乱が発生すると系統電圧が低下し,それと同時に発電機も安定に同期運転を継続することができなくなる恐れがある。

進相運転(leading power factor operation)では発電機端子電圧が低下するため,補機類の出力が低下して,結果的には発電出力の減少を招いたり,発電機固定子端部が漏れ磁束により過熱する等の問題があるため,進み力率の 90 ~ 95 % が限度とされ,それほど大きな進相運転は一般には不可能とされている。

こうした有効・無効電力の発生限界を表す曲線が個々の発電機ごとに設けられており,これを可能出力曲線と呼んでいる。

変圧器による電圧調整

変電所においては,下位の系統の電圧が適正になるよう,変圧器の二次側(負荷側)に目標とする電圧を定め,主要変圧器のタップを手動又は自動で切り換えて電圧調整を行っている。

一般的には,重負荷である昼間には二次側の目標とする電圧を高く定めている。

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サイリスタの位相制御による電圧調整

サイリスタの位相制御により,無効電力を連続的に,また高速に制御できる静止形無効電力補償装置を変電所などに設置し,系統電圧を一定範囲に維持している。

参考文献

更新履歴

  • 2021年12月1日 新規作成
  • 2021年12月5日 電圧調整の考え方を追加
  • 2022年1月21日 フェランチ効果の用語の定義を追加
  • 2022年3月7日 参考文献に「平成27年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7」を追加
  • 2022年4月22日 参考文献に「平成22年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年7月31日 参考文献に「令和元年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3」「変圧器の負荷時タップ切換装置」を追加
  • 2022年8月20日 フェランチ効果の脚注を追加
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成19年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加

*1:このように,充電電流が流れると受電端電圧が上昇する現象は,イギリスの電気技術者 S. Z. de Ferranti によって Deptford 変電所のケーブルをで初めて観察されたため,フェランチ効果と呼ばれる。