同期機の運転において,負荷が急変すると,同期機の入出力に過渡的なアンバランスが生じて,回転速度が同期速度を中心に動揺する。
この現象を乱調という。
条件によっては,乱調が激しくなって,回転速度が同期速度から外れて継続的な運転ができなくなることがあり,この現象を脱調(または,同期はずれ(step out))という。
回転速度の動揺が起こると,回転磁界に対して回転子の相対速度が生じるため,回転子の鉄心が塊状構造であれば回転子表面に誘導電流が流れて回転子の動揺を制動するように働く。
回転子の鉄心が積層構造の場合は,鉄心が軸方向に絶縁されているため,回転子表面の軸方向に沿って複数本の導体を接地して誘導電流の経路を形成すると,有効な制動効果が得られる。
この導体を制動巻線(damper winding)またはアモルト巻線(amortisseur winding)という。
大型のタービン発電機などでは,回転子の鉄心は塊状構造が一般的であるが,制動効果を強めるため,鉄心により導電率の高い材質の制動巻線を設置している場合が多い。
同期機が突発短絡したときにも制動巻線に電流が流れる。
そのような状態における制動巻線に流れる電流も考慮した同期機のリアクタンスを初期過渡リアクタンスという。
制動巻線
突極形同期機の回転子の磁極片に設けたスロットに,銅棒若しくはしんちゅう(真鍮)棒を挿入して,かご形誘導電動機の二次巻線のように短絡環にて相互に接続して構成する巻線を制動巻線(damper winding)またはアモルト巻線(amortisseur winding)という。
制動巻線は,電機子巻線と界磁巻線の磁路中に介在する低インピーダンス巻線であるため,三相不平衡負荷若しくは負荷電流のひずみなどに起因する高調波回転磁界を吸収するほか,初期過渡リアクタンス*1を低下させることにより,系統事故時の開閉サージに対して高調波異常電圧を抑制できるので,開路の遮断を容易にする効果が期待できる。
制動巻線の得失
制動巻線を設ける利点は以下のとおり。
- 同期化力を増加して乱調を防止することができる
- 系統の安定度が増加する
- 同期発電機または同期電動機を制動巻線によって,かご形誘導電動機の原理で起動することができる
一方,初期過渡リアクタンスの低下により,短絡電流が大きくなるので,機械的強度を増加する必要があるという欠点を有する。
始動巻線としての利用
始動巻線としても利用され,制動巻線によって同期速度付近となったところで,回転子に施された界磁巻線に励磁電流を流すことで,回転子は同期速度に引き入れられる。このため,制動巻線を始動巻線ともいい,この始動法を自己始動法という。
一般に,この駆動トルクはあまり大きくできないので,始動は軽負荷で行う。
参考文献
- 令和5年度 エネルギー管理士 電気分野 問9
- 令和2年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「同期機の制動巻線」
- 平成8年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「同期機の制動巻線」
更新履歴
- 2022年3月16日 新規作成
- 2022年6月18日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1」を追加
- 2022年7月10日 制動巻線の英語表記を追加
- 2022年9月27日 参考文献のタイトルを追加
- 2023年12月10日 参考文献に「令和5年度 エネルギー管理士 電気分野 問9」を追加
- 2024年1月28日 検索エンジン向けタイトル「乱調とは?同期機の運転時における重要な現象」,SNS 向けタイトル「同期機の運転で起こる乱調とは何か?#同期機 #乱調」を追加
*1:電機子漏れリアクタンスと制動巻線漏れリアクタンスの和で,制動巻線を有しないものは,電機子漏れリアクタンスと界磁漏れリアクタンスの和で決まる過渡リアクタンスに等しい