目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

変圧器の騒音

変電機器は大容量,大型化を辿ってきた。

大都市の電力需要が増加していた時代においては,変電所も都市周辺,あるいは人口密集地帯に設置されることが多くなり,変電機器に対する低騒音化の要求が厳しくなってきている。

変電所の機器の中では連続音を発生する変圧器,リアクトルの騒音が問題となり,各種の低騒音化対策が講じられてきた。

変圧器は実用化後 130 年以上基本原理,構造が大きく変わらない中で,騒音に対する要求(低騒音化)は大きく変化してきた。近年は変電所周辺の都市化が増々進み,変電所の騒音規制が一層厳しくなると同時に,変圧器への低騒音化の要求も増加している。(出典)変圧器・リアクトルの騒音対策に関する最新動向調査専門委員会

騒音に関する用語

騒音レベル(A 特性音圧レベル)

JIS C 1502(普通騒音計),または JIS C 1505(精密騒音計)に既定される A 特性で重み付けられた音圧の実効値 $P_\text{A}$ の二乗と,基準騒音 $P_0$(20 μPa)の二乗との比の常用対数の 10 倍で,単位記号は dB で表す。

A 特性音響パワーレベル

全 A 特性音響パワーを基準の音響パワー(1 pW)で除した値の常用対数の 10 倍で,単位記号は dB で表す。

基準放射面

音が放射されると考えられる面で,変圧器または冷却装置の周りに仮定した面をいう。

測定面

基準放射面から規定の間隔をとって測定を行う面をいう。

暗騒音

騒音測定時と同一の周囲騒音条件で,変圧器を停止した状態の変圧器騒音面の騒音レベルをいう。

騒音レベルの目安

騒音レベルの目安を次表に示す。

表 騒音レベルの目安
騒音レベル [dB] 目安
130 航空機のエンジン音
120 削岩機
110 自動車の警笛
100 電車のガード下
90 騒々しい工場
80 地下鉄電車内
70 騒々しい街角
60 静かな乗用車
50 静かな事務所
40 静かな住宅地

変圧器騒音の原因

変圧器騒音の発生原因としては,一次的原因と二次的原因に分類でき,それぞれ次のようなものがある。

一次的原因

変圧器の騒音の一次的原因には,けい素鋼板の磁気ひずみによる鉄心の振動,鉄心の継ぎ目及び積層鉄心間に働く磁気吸引力による鉄心の振動,電磁力による巻線の振動,冷却ファンや冷却水循環用ポンプなどの補機の振動などがある。

  1. けい素鋼板の磁歪現象による振動
  2. 鉄心の継ぎ目及び成層間に働く磁気力による振動
  3. 巻線導体間またはコイル間に働く電磁力による振動
  4. 強制冷却の場合,ポンプ,ファンなどの補機が発生する振動

二次的原因

変圧器の騒音の二次的原因には,鉄心,タンク,放熱器,附属器具,配管系の共振などがある。

  1. 鉄心,タンク,放熱器,付属器具などの共振
  2. 金属部分の締付不足,不完全接触によるチャッタリング
  3. 配管系のサージングによる異常振動
  4. 建造物の共振,反射によるもの

これらの原因のうち,けい素鋼板の磁歪現象による鉄心の振動が変圧器の騒音発生の主な原因と考えられている。

負荷電流騒音

JEC-2200-2014 にて負荷電流騒音の規定が追加されている。

これは,変圧器の低騒音化に伴い励磁騒音が低下するにつれて,従来注目されることが少なかった負荷電流騒音が顕在化してきたためである。

けい素鋼板の磁気ひずみ

けい素鋼板は,変圧器のように交番する磁界のもとでは,交流磁束が通る方向に磁界の強さに応じて振動する。

この振動周波数は電源周波数の 2 倍を基本波としているが,けい素鋼板にはヒステリシス特性があるので,その整数倍の高調波を含んでいる。

この振動が,変圧器の鉄心の締め付け金具,絶縁油などを介して,変圧器のタンク壁,タンク底板,放熱器に伝播し,これらを振動させて外部に騒音として放射される。

このような騒音を低減するために,高配向性けい素鋼板を使用したり,鉄心の磁束密度を減らしたりする方策が採られている。

さらに,変圧器の防音壁を取り付ける方法も採用されている。

変圧器騒音の低減

鉄心振動騒音の低減

鉄心から発生する騒音を低減するためには,磁器歪が小さく,締付圧力に対する応力に対して磁気ひずみの経時変化の少ない材料*1を使用したり,鉄心の磁束密度の値を下げたりする方法が考えられる。

通常,方向性けい素鋼板は,磁束密度が 1.7 T 付近で使用されており,これを 0.1 T 低下させるごとに約 3 ホン騒音レベルを下げることができる。

しかし,磁束密度を下げると逆に鉄心断面積が増大して寸法・重量が増大し,経済的ではなくなる。

大容量器では,磁束密度の低減は 10 % 程度(1.53 T 付近),中容量器で 20 % 程度(1.36 T 付近)が限度で,それ以上は他の方法を併用する。

防音壁による遮音

鉄板やコンクリート製の防音壁で,変圧器の周囲を覆い,変圧器本体からの騒音を大幅に低減することができる。

防音壁にはいろいろな構造があるが,基本的には次の四つに区分される。

鉄板方式(ひさし構造)

鉄板を遮音材として用い,タンクの側面だけを囲ったもので,鉄板製のパネルの内側に吸音材としてロックウールなどをはり付ける。

5 ~ 10 ホンの減音が期待できる。

鉄板方式(全閉構造)

ひさし構造の鉄板方式と同様に,吸音材をはり付けた鉄板で,側面だけでなくタンク上面をも覆った構造。

10 ~ 20 ホンの減音が期待できる。

コンクリートパネル方式

鉄板の内側に 100 ~ 150 mm 程度のコンクリート層を組み合わせ,その内側に吸音材をはり付けたもので,コンクリートの厚い壁で遮音効果をもたせている。

15 ~ 25 ホンの減音が期待できる。

コンクリート防音壁

変圧器本体と上面と側面を鉄筋コンクリートの内側に吸音材をはり付けた防音壁で囲ったもの。

25 ~ 40 ホンの減音が期待できる。

補機騒音の低減

油入風冷式や送油風冷式などの強制冷却式の変圧器においては,送油ポンプや冷却ファンから騒音が発生するので,これを低減させることも重要である。

このため,冷却器を風胴内に収納して防音したり,ファンの羽根の形状を合理的にする,ファンの回転数を下げる,ファンとケーシングとの間に発生する空気のうずを少なくするなどの対策がとられている。

その他の防振,防音対策

変圧器本体に発生する振動が直接,基礎に伝わらないようにするため,タンクの底板と基礎の間に防振ゴムを入れて振動を遮断する。

また,防音壁の外部に配置された冷却器と,防音壁内の変圧器本体とをつなぐ送油管の中間部に,ベロー式などの防振管継手で接続して,送油式から振動が伝わるのを防止することにより,振動や騒音が外部に漏れるのを防止する。

変圧器・リアクトルの騒音対策に関する最新動向

変圧器・リアクトルの騒音対策に関する最新動向調査専門委員会(2019年10月~2022年9月)では,変電所の周囲環境の変化による変圧器およびリアクトルへの騒音仕様の変遷や低騒音化技術,解析技術の進歩による近年の動向について調査が行われた。

  1. 変電所の騒音仕様の変遷について
  2. 低騒音化技術の変遷について(防音壁,防音建屋,遮音板,ユニットクーラー,ファン,ポンプ,アクティブ防音,鉄心材料,タンク構造,など)
  3. 騒音および振動解析技術適用による変圧器およびリアクトル騒音設計の高精度化について(励磁騒音,負荷電流騒音,など)
  4. 騒音測定技術について

参考文献

更新履歴

  • 2021年12月21日 新規作成
  • 2021年12月24日 変圧器騒音の原因と対策を加除修正,参考文献に「最近の変電機器の低振動,低騒音化技術」を追加
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年12月3日 騒音に関する用語を追加,参考文献に「JEC-2200-2014」「変圧器・リアクトルの騒音対策に関する最新動向調査専門委員会」を追加
  • 2023年5月17日 騒音レベルの目安を追加
  • 2023年8月3日 参考文献に記載した過去問題のタイトルを追加

*1:鉄の結晶がきれいに整列する様子から,業界では「鉄の芸術品」とも呼ばれている。