変電所の耐震設計については,現在,「JEAG5003-2019 JESCE0001(2019) 変電所等における電気設備の耐震設計指針」が標準的に採用されている。
- 変電所の耐震設計
- 動的設計手法が採用されている理由
- 屋外用がいし形機器の耐震設計に関する設計手法,設計地震力
- 154 [kV] 以上の屋外変圧器の耐震設計
- 地震波の卓越振動数範囲
- 地震時の応動概要
- 参考文献
- 更新履歴
変電所の耐震設計
変電所の耐震設計は,通常の機器の設計地震力については重力加速度の 0.5 ~ 1.5 倍を水平加速度として設計している。
しかし,最近では高電圧・大容量化に伴い機器の頭部荷重が増大し,これに塩害対策を考慮することによって充電部の高さがこれまで以上に高くなる傾向にあるので,変電機器については,がいし形機器やブッシングを主な対象として耐震設計がなされている。
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変電機器のうち,がいし形機器やブッシングの固有振動数は 0.5 ~ 10 Hz 程度であり,高電圧の機器になるほど低くなる。
実際の地震波の卓越振動数は,上記固有振動数の範囲にあるので,頭部荷重が大きい変電機器は地震波との共振を起こす可能性があるため,適切な動的耐震設計を採用する必要がある。
がいし形機器の設計地震力は加速度 3 m/s2 の共振正弦 3 波を架台下端に印加する手法が用いられる。
また,変圧器のブッシングは,設計地震力として加速度 5 m/s2 の共振正弦 3 波をブッシングポケット下端に印加する設計手法が一般的に用いられるが,基礎や地盤の条件によっては個別検討となる場合もある。
変圧器本体は剛体とみなせるため静的耐震設計が採用されており,設計地震力は加速度 5 m/s2 である。
本体や中身の強度は輸送時の外力や短絡電磁力の大きさなどから決まり,耐震構造上は十分な強度を有している。
ただし,変圧器本体を基礎に固定するアンカーボルトについては,破断した際に本体の滑動が生じるおそれがあるため,強度を十分に確保することが必要である。
動的設計手法が採用されている理由
耐震設計手法には動的設計手法と静的設計手法の二つがある。従来広く用いられてきた静的設計手法に加えて,動的設計手法が採用されている理由を以下に説明する。
がいし類を多く使用するがいし形機器や変圧器ブッシングは地震に共振する可能性があり,地震に対する動的応答の方が静的水平加速度 5 [m/s²](0.5 G)よりも厳しい場合が多く,また,過去の地震による被害も静的設計手法により設計されたがいし形機器及び変圧器ブッシングに集中している。
したがって,これらの機器を対象に動的設計手法が採用されている。
屋外用がいし形機器の耐震設計に関する設計手法,設計地震力
設計手法は,擬共振法による動的手法を採用する。
設計地震力の水平加速度は 3 [m/s²],波形は共振正弦 3 波,印加点は架台下端とする。
ただし,機器の固有振動数が 0.5 [Hz] を下回るとき,または 10 [Hz] を上回るときは,設計波形の振動数をそれぞれ 0.5 [Hz],10 [Hz] とする。
応答スペクトルに基づく設計手法
2011 年に発生した東北地方太平洋沖地震では,がいし形機器やブッシング以外の部位においても被害が多数発生していることを踏まえ,単純ながいし形機器のような単一の振動数に対し評価を行う従来の設計手法である擬共振法から,幅広い振動数を含む波形に対して耐震強度の確認が可能で,海外の変電機器の耐震規格にも採用されている応答スペクトルに基づく設計手法へ見直された。
154 [kV] 以上の屋外変圧器の耐震設計
変圧器本体については,静的設計手法を採用する。設計地震力としては,静的水平加速度が 5 [m/s²] である。
ブッシング部分については,擬共振法による動的設計手法を採用する。
設計地震力の水平加速度は 3 [m/s²],波形は共振正弦 3 波,印加点は架台下端とする。
ただし,機器の固有振動数が 0.5 [Hz] を下回るとき,または 10 [Hz] を上回るときは,設計波形の振動数をそれぞれ 0.5 [Hz],10 [Hz] とする。
地震波の卓越振動数範囲
次表に,これまでに報告されている資料から地震波に含まれる振動数範囲を検討した例を示す。地表面地震力の卓越振動数範囲はほぼ 0.5 ~ 10 [Hz] と考えられる。
資料 | 振動数 [Hz] |
---|---|
Seed 氏らが米国の過去の地震記録をまとめたもの | 5 以下 |
国土交通省土木ガイドラインで採用されているもの | 1 ~ 10 |
一方,変電機器の固有周波数は 10 [Hz] 以下であり,高電圧の機器になるほど低くなり,卓越振動数範囲に存在するため,地震と共振する可能性が高く,その応答はかなり高くなる場合が多い。
このため,地盤の特性を勘案して,適切な動的耐震対策を行う必要がある。
地震時の応動概要
大規模地震が発生し,停電事故には至らなかったものの超高圧屋外一次変電所設備に高いレベルの地震力が加わったものと判断されたため,地震時の応動概要を考慮して巡視を中心とした点検を行い安全を確認することにした。
屋外用主要変圧器(送油風冷方式)
ブッシングの地震時の応動概要は以下のとおり。
また,本体の地震時の応動概要は以下のとおり。
地震時の応動概要を考慮した主な目視外観点検項目は以下のとおり。
- ブッシング(がい管)の亀裂・折損
- セメント部の損傷
- 締付ボルト類のゆるみ・ずれ
- 主回路端子部の変形
- 漏油(絶縁油)
- 配管支えの緩み
- 本体基礎及び基礎ボルトの変形・破損
目視外観点検項目以外の点検確認項目は以下のとおり。
- 電気的保護リレー類の動作(警報・記録等を含む)内容確認
- 上記以外の確認項目
- ガス検出リレー動作確認
- 衝撃油圧・ブッフホルツリレー動作確認(放圧板の動作等,機械的保護リレー動作確認)
- 油面計の指示確認
遮断器(空気・ガス等),屋外がいし形機器
遮断器(空気・ガス等),屋外がいし形機器の地震時の応動概要は以下のとおり。
地震時の応動概要を考慮した主な目視外観点検項目は以下のとおり。
がいし形機器共通の目視外観点検項目
- がいし・がい管(ブッシング)の亀裂・折損
- セメント部の損傷
- 締付ボルト類のゆるみ・ずれ
遮断器の目視外観点検項目
- 配管の支えの緩み
- 漏油(制御油)
断路器の目視外観点検項目
- 接触子の変形・ずれ
目視外観点検項目以外の点検確認項目は以下のとおり。
がいし形機器共通の目視外観点検項目以外の点検確認項目
電気的保護リレー類の動作(警報・記録等を含む)内容確認 《遮断器》
- ガス漏えい音確認
- 圧力計(ガス・空気・操作油)の指示確認
- 異音・異臭や過熱・変色確認
避雷器の目視外観点検項目以外の点検確認項目
気密確認(漏れ電流測定等)や異音・異臭確認
蓄電池
蓄電池の地震時の応動概要は以下のとおり。
地震時の応動概要を考慮した主な目視外観点検項目は以下のとおり。
- 蓄電池架台の転倒・滑り(傾斜・変形や亀裂・不等沈下)
- 母線・引き出し導体のはずれ
- 蓄電池容器破損
目視外観点検項目以外の点検確認項目は以下のとおり。
- 蓄電池液面・漏えい確認
- 充電器の動作確認
参考文献
- 令和6年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「変電所に設置する変電機器の耐震設計」
- 平成28年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5「変電所機器の耐震設計」
- 平成20年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「変電機器の耐震設計」
- 平成18年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「地震時の応動概要」
- 平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「屋外変電所の変電機器の耐震設計」
- 平成8年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「変電機器の耐震設計」
[rakuten:book:16219652:detail]
更新履歴
- 2022年5月28日 新規作成
- 2022年5月29日 地震波の卓越振動数範囲,参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」を追加
- 2022年6月11日 参考文献に「平成8年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」を追加
- 2022年8月14日 「変電所の塩害対策」のリンクを追加
- 2022年11月12日 参考文献に「平成20年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
- 2022年11月13日 参考文献に「平成18年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
- 2024年8月31日 参考文献に「令和6年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」を追加,検索エンジン向けタイトル,SNS 向けタイトルを追加