台風や地震による停電時に,避難所や病院等に電気を供給する高圧発電機車など,車載式や貨物自動車等で移設して使用する電気工作物を移動用電気工作物といい,移動用発電設備,非自航船用電気設備,移動用変電設備,移動用予備変圧器の四つに分類される。
このうち,移動用変圧器とは,二つ以上の発電所,変電所又は需要設備に移設して使用することを目的とする予備変圧器をいう。
移動用発電設備は,発電所,変電所等の非常用予備発電設備として使用するもの以外のものは,電気事業法において発電所として取り扱われる。
したがって,移動用発電設備として内燃力(ディーゼル)発電装置を倉庫に保管し,電源のない建設現場に移設して使用しようとする場合,使用電圧が 600 V 以下で出力 10 kW 未満の小出力発電設備であれば,電気事業法上の手続きは不要であるが,出力が 10 kW 以上の場合は,使用電圧が 600 V 以下であっても,主任技術者選任の届出又は申請と保安規程の届出を,移動用発電設備を使用する場所を管轄する産業保安監督部長(当該場所が二つ以上の産業保安監督部の管轄区域にある場合は,経済産業大臣)に提出しなければならない。
移動式変電所
トレーラーまたはトラック上に移動用変圧器,ケーブル,キュービクルなどを積載したものである。
既存の変電所の機器故障時や増設工事期間中などには変電所出力が低下するため,そこに移動式変電所を運び込むことで,出力低下を補うことがある。
移動用変電設備の所要機能
配電用変電所の設備更新工事又は緊急対応などに活用されている移動用変電設備(66 [kV] / 6 [kV] 又は77 [kV] / 6 [kV])は,事故時や既設の変電所の増設工事用に使用する目的の,機動性,汎用性を持つ変電設備である。
移動用変電設備には,以下のものがある。
- 移動用変圧器
- 移動用キュービクル
- 移動用ケーブル
- 開閉設備
移動用変圧器
移動用変圧器(mobile transformer)とは,変電所において,変圧器の点検または故障の際に,あるいは変電所の工事期間中に,停止した変圧器の代わりに使用される可搬式の変圧器。
また,場合によっては季節的または一次的な負荷増加時に変電所供給力を確保するために用いられることもある。
移動用変圧器にはトレーラー台車積載形,トラック積載(自走式)形および据置形があり,前の二つは車両に積載したまま使用可能。
66 (77) / 6 kV 3 ~ 20 MVA 等の定格の配電用変圧器が各電力会社の設備実態に応じて設置されている。
配電用変圧器の取替工事において使用されているトレーラー台車積載形の移動用変圧器(66 (77) / 6 kV,20 MVA)の写真を示す。
参考文献
- 電気事業講座 電気事業辞典
- 電気事業講座 第10巻「電力流通設備」
- 令和元年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3「移動用電気工作物の取扱い」
- 平成18年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「移動用変電設備」
更新履歴
- 2022年3月30日 新規作成
- 2022年8月30日 移動式変電所,移動用変圧器の説明を追加
- 2022年10月22日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加