架空送電線の絶縁設計では,常規商用周波電圧に耐えることはもちろん,線路の開閉時に生じる開閉サージ電圧及び負荷の急変あるいは線路故障時に発生する持続性異常電圧に対しても,絶縁破壊を起こさないような考え方が適用されている。
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内部異常電圧
外部より侵入する雷電圧(「外雷」又は「外部異常電圧」と呼ぶ。)と区別して,電力系統の内部的原因によって生じる異常電圧のことを意味し,開閉サージ,1 線地絡時の健全相電圧上昇や負荷遮断時の異常電圧などがある。
開閉サージ
遮断器の開閉操作によって生じ,最大数ミリ秒程度継続する過渡的異常電圧である。
開閉サージの大きさは,送電線のこう長や高さなど送電線路の静電容量の大きさ,再閉路時の残留電圧の有無などにより左右される。
1 線地絡時の健全相電圧上昇
1 線地絡故障時に健全相に発生する商用周波数の過電圧である。
電圧の大きさは,中性点接地方式などによって左右される。
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負荷遮断時の電圧上昇
遮断器などで負荷遮断時に発生する商用周波数の過電圧である。
電圧の大きさは,負荷遮断前の潮流,発電機の定数,送電線の静電容量などによって左右される。
送電線路の絶縁設計
電圧階級ごとの送電線路の絶縁設計の考え方を示す。
直接接地方式の超高圧送電線では,高速度再閉路における投入時と遮断時に高い開閉サージ電圧が発生する。
特に,多相投入時の開閉サージが過酷であり,これを対象にして絶縁設計の基準となるがいしの絶縁強度及びクリアランスが決められている。
この開閉サージ電圧の大きさは交流常規対地電圧波高値の倍数で表され,187 ~ 275 [kV] の送電線の絶縁設計に採用される対地過電圧倍数は 2.8 倍であり,送電線の両端に高性能避雷器が設置された場合には,この値は低減される。
500 kV 送電線路の絶縁設計
我が国の 500 kV 送電線路の絶縁設計は,がいし個数は交流,アークホーン間隔と標準絶縁間隔は雷サージ,最小絶縁間隔は開閉サージから決められている例が多い。
275 kV 以下 送電線路の絶縁設計
我が国の 275 kV 以下の送電線路の絶縁設計は,一般地区では開閉サージから決められている。
154 kV 以下 送電線の絶縁設計(磁器がいし一連個数の決定法)
154 kV 以下の電圧階級における磁器がいし一連個数の決定法について説明する。
がいし一連個数を決定する場合,内部異常電圧によってフラッシオーバが発生しないようにする。154 kV 以下の電圧階級では,開閉サージ電圧波高値とがいし連の注水時の開閉サージ耐電圧特性及び持続性異常電圧実効値とがいし連の注水時の商用周波数耐電圧特性の二つから所要連結個数を計算する。
両者の計算結果を比較すると後者の絶縁裕度の方が大きく,がいし個数は通常全て開閉サージによって決まる。
実際には,保守用にがいしを通常 1 個多く設けることとして最終的な一連個数が決定される。
また,臨海部などで塩害が甚だしい場合など,汚損条件下では耐圧特性が低下するので考慮が必要である。
1 000 kV 級 送電線路の絶縁設計
1 000 kV 級 送電線路の絶縁設計は,がいし個数に対する交流の比重がますます大きくなる。
絶縁距離(クリアランス)は,開閉サージフラッシオーバの飽和特性から地絡サージ,相間を含めた開閉サージから定めることになると考えられる。
1 000 kV 級領域においては,空気中のギャップの絶縁耐力が距離に対して飽和傾向を示すようになるので,遮断器開閉時などに発生する開閉サージの抑制が絶縁設計合理化の決め手となる。
このため,抵抗投入・抵抗遮断方式の遮断器が開発された。
また,GIS 断路器で充電電流を開閉操作するときに生ずる高周波の急しゅん波サージ(断路器サージ)を抑制するため,抵抗挿入式の断路器が開発された。
参考文献
- 河野 照哉,「系統絶縁論」(Insulation of Power System),コロナ社,1984年
- 平成28年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「架空送電線の絶縁設計」
- 平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4
- 平成9年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「送変電設備の絶縁設計の合理化」