目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力系統に発生する過電圧と絶縁

電力系統の過電圧(overvoltage)には,雷撃により発生する雷過電圧,遮断器の開閉操作に伴い発生する開閉過電圧,一線地絡電流や負荷遮断により発生する短時間交流過電圧がある。

これら三つの過電圧を比べると,一般的に,過電圧の電圧値の大きさの関係は短時間交流過電圧 < 開閉過電圧 < 雷過電圧であり,過電圧の継続時間の長さの関係は雷過電圧 < 開閉過電圧 < 短時間交流過電圧である。

過電圧の発生の防止又は過電圧の大きさを抑制するために,以下の対策が行われている。

  • 雷過電圧に対しては,避雷器や架空地線を設置する。
  • 開閉過電圧に対しては,遮断器に抵抗投入・抵抗遮断方式を採用する。
  • 短時間交流過電圧に対しては,分路リアクトルを設置して対地充電電流を補償する。

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雷過電圧

電力系統に発生する雷過電圧には,直撃雷あるいは逆フラッシオーバによるものと誘導雷によるものとがある。

直撃雷

直撃雷による過電圧は,雷しゃへい失敗により,送電線や機器が直接雷撃を受けたときに発生するもので,雷撃電流と雷撃点から見たサージインピーダンスの積になる。

過去に磁鋼片によって実測された例では,雷撃電流の波高値の最大は 100 ~ 150 [kA] で,ほとんどが負極性であり,著しく大きな過電圧なので架空地線により遮へいして直撃を受けないようにしている。

変電所内への直撃雷の防止対策

変電所の変圧器や開閉器などの電力機器を雷の直撃雷に耐えるように絶縁することは極めて困難であるため,架空地線と避雷鉄塔による変電所内の遮へいと接地を施して,直撃雷の発生を防止する。

逆フラッシオーバ

遮へい失敗あるいは架空地線や鉄塔への落雷による逆フラッシオーバがあると,送電線から変電所に雷サージ電圧が侵入する。

図 フラッシオーバと逆フラッシオーバ

図 フラッシオーバと逆フラッシオーバ

架空地線を布設しても,雷撃電流の波高値が小さい雷では,(架空地線の吸引力が弱いため)遮へい失敗し,電力線へ直接侵入することがある。

このとき発生する過電圧が大きいとアークホーンでフラッシオーバする(正フラッシオーバ)。

また,架空地線や鉄塔へ雷撃があった場合,雷撃電流が大きいと,鉄塔電位が上昇し,アークホーンで逆フラッシオーバが発生し,電力線に雷が侵入する。

雷によるフラッシオーバに伴う送電線事故は再送電が可能なことが多いため,ある程度の事故(フラッシオーバ)率は許容して,送電設備の小型化を図り,建設コストの上昇を抑えている。

500 kV 送電線では,架空地線を一般的に 2 条布設し,架空地線を電力線より外側に布設し負の遮へい角とし,下位電圧よりフラッシオーバを減らし,送電線事故を減少させている。

遮へい失敗や逆フラッシオーバにより電力線に侵入した雷撃電流は,アークホーンにより制限されるものの,電力線を伝搬して変電所に侵入する。

そこで,最近では,送電線の雷事故の防止を図るため,アークホーン間に過電圧を抑制し,閃絡を防止する送電用避雷装置が設置されている。

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誘導雷

誘導雷は雷雲が送電線路に近づいて送電線に電荷が誘導された状態で,その雷雲の電荷がほかの雷雲や大地に放電して送電線路の電荷が自由電荷となり,サージ性の過電圧を発生するもので,波高値は直撃雷より低い 100 ~ 200 [kV] 以下で正極性が多い。

開閉過電圧

遮断器の開閉操作によって,電力系統のある地点の相-大地間,あるいは相間に発生する過電圧。

送電線の絶縁に影響を与える代表的なものとしては,遮断器による送電線投入時の過電圧と,遮断器による地絡電流遮断時の過電圧がある。

開閉過電圧の波形や波高値は,線路長,系統構成,電源容量,中性点の接地方式など多くの要因に影響されるが,その継続時間は百マイクロ秒程度から数ミリ程度である。

開閉サージの大きさと発生頻度

開閉サージの大きさと発生頻度は,系統電圧,系統構成,線路の長短,遮断器・断路器の種類,中性点接地方式に依存する。

我が国では,常規対地電圧に対する開閉サージの倍率は,非接地系で 4 倍,抵抗またはリアクトル接地系統で 3.3 倍,275 kV 直接接地系で 2.8 倍を標準としている。

進み小電流遮断

無負荷送電線の充電電流は 90 度進み電流であり,線路側に波高値に相当する電荷を残留した状態で電流遮断されるので,その半サイクル後に遮断器の極間に波高値の 2 倍近い電圧が発生し再点弧しやすい。

再点弧が起こると,電源のインダクタンスとの間の高周波振動を伴い,異常に高い電圧を発生する。GIS の断路器を遮断するときも,遮断器との間の短い電路を開放するため,特に周波数の高い過電圧が発生する。

遅れ小電流遮断

変圧器の励磁電流などの遅れ小電流を消弧力の強い遮断器で遮断すると,電流さい断によって電流変化率 $\text{d}I/\text{d}t$ に比例した異常電圧が発生する。

遮断器の種類や変圧器の中性点接地方式によっても異なるが,最大でも常規対地電圧の 5 倍程度である。

故障電流遮断

故障した送電線路を遮断する場合は,一線地絡で常時より高くなった健全相の充電電流の遮断や,異相地絡・脱調時のように極間の回復電圧が高い状態などでの遮断になり,異常電圧が発生する。

また,中性点がリアクトル接地系統で零相インピーダンスの大きな系統では,故障電流が 90 度近く位相の遅れた電流となるため,これを遮断すると電源側電圧が遮断直前の最大アーク電圧より電源電圧に急変するため過渡的に異常電圧を発生する。

短絡インピーダンスの抵抗成分が無視できる事故点で地絡故障が生じ,交流の地絡電流が零値を通過するときに遮断が行われる場合では,遮断直後の電源側端子の対地電圧は平常時の交流電圧の波高値となる。

したがって,過渡的な電圧の最大値は平常時の波高値のおよそ 2 倍となる。また,変圧器の励磁電流のような小さな遅相電流を遮断(電流裁断)する際には,変圧器のインダクタンスを $L$,変圧器電流を $I$ とすると,遮断直後の変圧器端子の電圧は $\displaystyle L\frac{\text{d}I}{\text{d}t}$ と表される。このように,電流裁断が発生すると高い過電圧を生じる可能性がある。

遮断器による送電線投入時の過電圧

遮断器を投入することは,投入前の遮断器の極間電圧と同じ大きさで,かつ逆位相の電圧を遮断器極間に急激に印加することと等価である。

無負荷送電線を充電する場合,又は事故時に高速度再閉路を行う場合にはこの過渡現象によって大きな過電圧が生じる。

この過電圧の大きさは,回路条件のほかに,遮断器投入時の位相によって大きく影響される。

さらに,無負荷送電線の充電投入よりも高速度再閉路の方が線路残留電荷の影響によって大きくなり,単相投入時よりも三相投入時の方が他相からの誘導を受けるために大きくなる。

無負荷送電線の投入に際しては,送電線に電源電源圧の波高値で充電された電荷が残留している場合,最大で電源電圧のおよそ 3 倍まで送電線の対地電圧が上昇する可能性がある。

この対策として,我が国の 500 kV 系統では抵抗付の遮断器を用いることでサージ電圧を抑制している。

高速再閉路投入

高速再閉路方式では事故遮断後 1 秒程度の線路側にかなりの残留電荷が残った状態で再閉路され,再点弧に相当する投入サージを発生する。

開閉サージと長ギャップに対するフラッシオーバ電圧

長ギャップに対するフラッシオーバ電圧の $V-t$ 特性は,数十 ~ 数百 [μs] で最小値をとる。

これを U 特性と呼んでいる。この U 特性の発見をきっかけに開閉サージを模擬する開閉インパルス電圧標準波の波頭長が 250 [μs] と定められた。

開閉インパルス電圧の長ギャップ放電に特有な性質は, U 特性以外にもいくつか知られている。

その一つが飽和特性,すなわちギャップ長に比例してフラッシオーバ電圧が増加せず飽和傾向が顕著になる性質である。

500 [kV] 以上の電力系統で現れる開閉サージの大きさがこの飽和傾向の強まるところと一致している。

このため 500 [kV] 以上の送電線では開閉サージ倍数が大きいと絶縁間隔が大きくなり鉄塔も大形化して建設費も増大するため,高性能避雷器の設置,抵抗付き遮断器の採用などの開閉サージ抑制対策が行われる。

短時間交流過電圧

電力系統のある地点の相-大地間,あるいは相間に発生する持続時間が比較的長い過電圧。

地絡時の健全相電圧上昇

非接地系統や高インピーダンス接地系統では,一線・二線地絡時に中性点の電位が上昇して健全相対地電圧が上昇する。

負荷遮断時の電圧上昇

負荷遮断が起こると,送電線充電電流によるフェランチ現象,発電機の負荷遮断による回転数上昇に伴い発電機端子電圧の上昇により,過電圧が発生する。

電力系統の絶縁

電力系統の過絶縁は,雷過電圧,開閉過電圧,短時間交流過電圧に対して十分に耐えるように設計することが理想的である。

しかし,雷エネルギーは強大で,直撃雷に対してまで絶縁を保つことは技術的にも経済的にも実現困難である。

よって,発変電所内部および近傍送電線に架空地線を設置して直撃雷を遮へいし,架空送電線のがいしの絶縁は内部異常電圧に対してフラッシオーバしないように設計することを基本としている。

電力系統の絶縁協調

電力系統の絶縁設計上考慮しなければならない異常電圧には,雷サージ,開閉サージなどがある。

開閉サージは,内雷とも呼ばれ,その最大値は非有効接地系では通常常規対地電圧波高値の 4 倍以下であるため,全絶縁を採用する非有効接地系では問題になることは少ない。

架空送電線路においては,電線への直撃雷のほか,鉄塔又は架空地線への雷撃による鉄塔の電位変化により,線路がいしアークホーン(アークリング)を通じて電線にフラッシオーバする,いわゆる逆フラッシオーバが発生することがある。これによる雷サージは,線路がいしアークホーンにより制限されるものの,極めて高い波高値で変電所等に侵入する。

変電所に侵入する雷サージについては,それに耐える絶縁強度を機器に持たせることは経済的ではないため,雷サージに機器が設計上耐えるべき絶縁強度として公称電圧ごとに雷インパルス耐電圧が定められ,これを超える電圧が変電所内主要機器に侵入しないよう避雷器により対処している。

絶縁協調の考え方

電力系統各部の機器,設備の絶縁の強さに関して,技術上,経済上並びに運用上からみて最も合理的な状態になるように協調を図ることをいう。

絶縁協調の検討手順

絶縁協調の検討は,次の手順で行われる。

  1. 運用条件や避雷器の配置など,系統に発生する過電圧の解析条件を設定する。
  2. 過去の実績や解析結果に基づいて,系統に生じる各種過電圧(短時間交流過電圧,雷サージ過電圧,開閉サージ過電圧)の大きさとその発生頻度を予測し,最大値を設定する。
  3. 機器の絶縁性能に与える要因とその影響を考慮して,2. で求めた過電圧種類ごとの最大値に対する機器の所要耐電圧を決める。
  4. 各種過電圧に対して,試験電圧の選定や絶縁設計の条件を決定する。

絶縁強度と費用との関係

絶縁強度と建設・運用費用との関係を下図に示す。

  • 絶縁強度を大きくすると,建設費用は大きくなる
  • 絶縁強度を大きくすると,(絶縁破壊に起因する事故は減少するため)運用費用は小さくなる

建設費用と運用費用との間には,トレードオフの関係がある。

図 絶縁強度と費用との関係

図 絶縁強度と費用との関係

試験規格

送電線に現れる雷過電圧の波形は千差万別であるが,試験規格においては雷インパルス耐電圧試験の波形を一義的に統一し,標準波形と称している。

標準波形は JEC-0202(1994)「インパルス電圧・電流試験一般」に規定されており,正,負の極性とも波頭長は 1.2 μs,波尾長は 50 μs が採用されている。

雷インパルス耐電圧試験においては,高電圧のインパルス電圧を発生させるため,一般に多段式のインパルス電圧発生器が用いられる。

その方式の一つに,多数のコンデンサを並列状態で充電し,直列状態にして放電させるものがある。印加電圧の波形は,供試物との回路に直列に接続する制動抵抗,並列に接続する放電抵抗,波形調整用コンデンサ及びリアクトルによって調整する。

図 インパルス電圧発生器主回路(CRL 回路)

図 インパルス電圧発生器主回路(CRL 回路)

図 インパルス電圧発生器主回路(CR 回路)

図 インパルス電圧発生器主回路(CR 回路)

参考文献

  • 電気学会技術報告 第1258号,2012年8月,非有効接地系統および UHV 系統の絶縁協調技術協同研究委員会編「非有効接地系統および UHV 系統の試験電圧の考え方-JEC-0102-2010技術解説-」
  • 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統における開閉サージ」
  • 令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「絶縁協調」
  • 令和3年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「変電所の絶縁設計において支配的な要素となる雷サージ」
  • 令和元年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「電力系統に発生する過電圧」
  • 平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「雷過電圧とその試験法」
  • 平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「電力流通設備の絶縁協調」
  • 平成26年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「開閉過電圧」
  • 平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「開閉サージと長ギャップに対するフラッシオーバ電圧」
  • 平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統の絶縁協調」
  • 平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「超高圧送電線の絶縁協調」
  • 平成9年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「電力系統に発生する過電圧」
  • 平成8年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「変電所の絶縁協調」

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更新履歴

  • 2021年11月6日 新規作成
  • 2021年11月14日 加除修正
  • 2022年1月8日 電力用避雷器のリンクを追加
  • 2022年2月9日 参考文献に「平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年5月14日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年5月21日 参考文献に「平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年5月29日 参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年6月11日 参考文献に「平成9年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」を追加
  • 2022年8月21日 参考文献に「令和3年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2022年11月5日 参考文献に「平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2023年8月12日 架空送電線路の雷害対策へのリンクを追加
  • 2023年8月26日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2023年9月2日 参考文献に「令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加