目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

架空送電線路の雷害対策

架空送電線路の雷害対策として,送電線への直撃雷を防止するために架空地線を設置することが有効である。

架空地線の条数を増やせば,遮へい角は小さくなり,遮へい効率は向上する。架空地線や鉄塔に雷撃が生じると,雷撃電流は鉄塔を通して大地に流れる。

これによって鉄塔の電位が上昇し,がいし連の絶縁耐力を超えると鉄塔から電力線に逆フラッシオーバが発生する。

これを防止するためには,塔脚の接地抵抗を小さくする必要があり,棒状の接地電極を埋め込むが土壌の性質によっては埋設地線(counterpoise)を設けたりする。

フラッシオーバと逆フラッシオーバ

フラッシオーバと逆フラッシオーバのイメージを下図に示す。

フラッシオーバと逆フラッシオーバが生じる回数は,自然現象である雷の性質と架空地線,塔脚接地抵抗の特性を除くと,がいし,導体と鉄塔,導体と架空地線間の離隔距離*1で定まる。

フラッシオーバ

架空地線をかいくぐって導体雷撃が起こった場合(遮へい失敗),電力線の電位が上昇し,アークホーンがフラッシオーバ(閃絡)する。

逆フラッシオーバ

一方,遮へいは成功したが,架空地線や鉄塔への雷撃により,鉄塔の電位が上昇し,アークホーンが閃絡する場合を逆フラッシオーバという。

導体直撃の場合に,相導体の電位が上がってフラッシオーバするのを順方向と考えて,逆というのである。

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フラッシオーバと逆フラッシオーバ

直撃雷に対する遮へい設備を施した発変電所においては,一般に発変電所近傍の送電鉄塔への雷撃により電力線に逆フラッシオーバーが発生した場合に,その主回路設備が最も高い過電圧にさらされる。

アークホーン

架空送電線路では,腕金で電線を支持するために懸垂がいし連や長幹がいしを用いるが,一般に,このがいし連の両端にアークホーンが設置されている。

アークホーンを設置する主な目的は,落雷事故などにより絶縁破壊が生じ,交流アーク放電が続いた場合に,放電路ががいしの表面を通らないようにすることである。

この他にアークホーンを設置すると以下のような効果が得られる。

  • 個々のがいしの電圧分担を均等化することができる。
  • アークホーンの間隔を変えることによって送電線の絶縁を系統全体から見て適切な強度とする。また,コロナ放電の低減効果を併せて期待する場合には,シールドリングを設置することがある。

送電用避雷装置

いったん閃絡が発生してしまうと送電線事故*2になってしまう。

そこで,最近では,送電線の雷事故の防止を図るため,アークホーン間に過電圧を抑制し,閃絡を防止する送電用避雷装置が設置されている。

写真 送電用避雷装置

写真 送電用避雷装置

ギャップ付送電用避雷装置

近年,抵抗接地系の送電線にギャップ付送電用避雷装置が広く設置されてきている。

酸化亜鉛型の避雷要素部と直列ギャップから構成される 77 kV 用ギャップ付送電用避雷装置は,下図のように 77 kV 送電線に接続される。

下図のように接続される理由は,質量のある避雷要素部を常時無課電で安定的に取り付けるためである。

図 77 kV 用ギャップ付送電用避雷装置

図 77 kV 用ギャップ付送電用避雷装置

雷サージ過電圧の侵入時にギャップ付送電用避雷装置の気中ギャップがフラッシオーバして放電電流が流れた後,系統電圧による電流(続流)を避雷要素部の酸化亜鉛素子の特性により非常に小さく抑えて,ほとんど半サイクル以内に気中ギャップで消弧することにより,送電線トリップを防止する。

直撃雷と誘導雷

直撃雷

直撃雷は,送電線路の電線,鉄塔,または,架空地線へ直撃するもので,雷撃電圧は非常に高く,電線に直撃を受ければ,どんなに高度の絶縁を施した送電線路もがいし連のフラッシオーバは避けられない。

それゆえ,架空地線などの雷防護を行わなければならない。

直撃雷による異常電圧は 800 kV 程度が多く,最高 5 000 kV にも達し,波高上昇しゅん度は最大 4 000 kV/μs となっている。

誘導雷

誘導雷は,雷雲相互間または雷雲と大地との間に放電を生じたときに雷雲下の送電線路上に異常電圧を発生するもので,発生回数は多いが波高値は数万 V で 200 kV を超えるものは少ないが,最高 400 kV の記録がある。

したがって,66 kV 級以下の送電線路や配電線路では,絶縁が脅かされるため,その対策が必要である。

架空地線による雷遮へい

導線の上部に架空地線を架設すると,架設地線は線路への雷の直撃を防止し,また雷電流を二つ以上の道に分流させ,線路に同極性の電圧が誘起するので,がいし連にかかる端子電圧を低減させる効果がある。これを雷遮へい効果という。

わが国の送電線は 154 kV 以下の線路では,架空地線 1 条が多いが,275 kV 送電線や 500 kV 送電線では架空地線 2 条を架設している。

雷の直撃から保護するための遮へいの検討手法は,大別して 2 つのものがある。

電気幾何学的手法

遮へい装置の保護範囲を雷撃電流の大きさの関数として求める手法である。この手法では,電流値が小さい雷撃は遮へいされないと考える場合もある。

電気幾何学的手法には,例えば,電気幾何学モデルや回転球体法がある。

幾何学的手法

遮へい装置(線またはマスト)による保護範囲を幾何学的に求める手法であり,保護範囲内にある対象物への雷撃をすべて遮へいすると考える。

例えば,遮へい角の内側はすべて保護されるという手法(保護角法)や,吸引空間理論に基づいた手法がある。

架空地線と電力線の間隔

架空地線と電力線間における径間せん絡は,断線事故に発展するおそれがあり,これを防止するために,径間における架空地線と電力線の間隔は,支持点における間隔より小さくないこととされている。

架空地線の弛度を電力線の弛度より小さくすることで,架空地線と電力線(導体)間のフラッシオーバを低減する。

架空地線の多条化

架空地線を多条化することで,電力線直撃雷を防ぐ。

鉄塔塔脚接地抵抗の低減

鉄塔の電位上昇低減対策*3としては,鉄塔塔脚接地抵抗の低減が有効であり,耐雷性向上のために,わが国では一般的に 10 ~ 15 [Ω] 程度が採用されている。

また,鉄塔塔脚接地抵抗を低減するために,埋設地線,接地シート及び深打電極などが施工されている。

埋設地線

架空地線によって電線が雷の直撃から保護されると,雷撃はほとんど架空地線か鉄塔に落ち,架空地線,鉄塔,塔脚接地抵抗を経て大地に流入する。

鉄塔逆フラッシオーバを防ぐには,鉄塔の高さ,塔脚接地抵抗,架空地線の有無またはその条数,径間長,雷撃電流波形,回路の減衰などにより変化する塔頂電位等価インピーダンスを減少させるのがよい。

そのためには,最も関係の深い塔脚接地抵抗を小さくすることで,埋設地線(カウンタボイズ)を施設する。

埋設地線の設置方式は,放射形,平行形,連続形などがあるが,わが国では平行形が多いが,地形によっては放射形も採用されている。

連続形は鉄塔間を連続して埋設するもので,連続形が最も接地抵抗を減少させるのによいが工事費が高くなる。

事故点早期発見対策

雷事故発生後の事故点早期発見対策としては,雷撃箇所を表示するせん絡表示器の鉄塔への取り付けや,送電線の事故点を標定するフォルトロケータなどの設置が行われている。

参考文献

更新履歴

  • 2021年10月31日 新規作成
  • 2021年12月4日 アークホーンの説明を追加
  • 2022年1月29日 参考文献に「令和3年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 2022年4月21日 参考文献に「平成23年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年5月8日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5」を追加
  • 2022年5月28日 参考文献に「平成20年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年8月20日 フラッシオーバと逆フラッシオーバの説明を追記
  • 2022年10月18日 参考文献に「平成24年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2023年8月12日 送電用避雷装置の写真を追加
  • 2023年8月27日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問2」を追加
  • 2024年1月27日 検索エンジン向けタイトル「架空地線設置による雷害対策の効果とは」,SNS 向けタイトル「雷害から送電線を守る秘策とは? #架空地線 #逆フラッシオーバ」を追加(AI タイトルアシストを活用)

*1:これをクリアランス(clearance)という。

*2:系統に雷過電圧が侵入した場合,フラッシオーバが継続して送電線が遮断される。

*3:鉄塔の電位上昇による逆フラッシオーバを防ぐための対策