目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

送電線路の送電容量

送電線路により送電できる有効電力の最大値(本問題では「送電容量*1」という)は様々な制約を考慮して定められているが,それぞれの制約によって,送電容量を増加させるための対策は異なる。

送電容量(transmission capacity)とは,送電線で安定して送ることのできる電力の限界値。

送電容量を決める要素としては,a. 熱容量($RI^2$),b. 電圧安定性,c. 送電側と受電側の位相差に基づく発電機の安定性などがある。

(出典)電気専門用語集(WEB 版)

電線温度の制約で定まる送電容量を増加させる方法としては,断面積が大きい電線や耐熱性の高い電線を用いることで,電線の許容電流を大きくする方法がある。

送電線路に多導体を採用すると,断面積の合計値が同一である単導体の送電線路に比べ,送電線路のリアクタンスが減少することから,過渡安定性,定態安定性(小じょう乱同期安定性),電圧安定性の制約から定まる送電容量も増加する。送電線路のリアクタンスを減少させる方法としては,多導体の採用のほかに,並列して使用する回線数を増やす方法や,直列コンデンサ*2の採用も考えられる。

電圧階級を上げると,電線温度の制約によって定まる送電容量は電圧に比例して増加する。また,ある位相差角のときに送電できる有効電力が電圧の二乗にほぼ比例することから,電圧階級を上げることにより,過渡安定性,定態安定性(小じょう乱同期安定性)の制約から定まる送電容量も増加させることができる。

許容電流

電線に電流が流れると,抵抗による発熱のため電線温度は周囲温度より高くなる。

電線の温度が限度以上に高くなると,電線の諸性能,例えば,引張強さが低下する。

そのため,一定の温度(最高許容温度)を超えて電流を流してはならない。

このときの電流を許容電流という。

すなわち,電流に流すことのできる電流(許容電流)は,電線の軟化特性を考慮して決定された最高許容温度を超えない電流として算定される。

抵抗損

送電線の抵抗 $r$ [Ω] に電流 $I$ [A] が流れるとジュール熱 $rI^2$ が発生し,抵抗損が発生する。抵抗および電流の低減が対策の基本であり,具体的な対策は以下のとおり。

  • 送電線の電線の太線化による導体抵抗の低減
  • 送電電圧を高くすることによる線路電流の低減
  • 並列回線数増加による線路電流の低減

コロナ損

コロナが発生すると,有効電力損失が生じる。コロナ臨界電圧を上げる対策は以下のとおり。

  • 外径の大きい鋼心アルミより線(ACSR : Alumium Cables Steel Reinforced)などを用いる。
  • 電線を多導体化する。
  • がいし装置の金具はできるだけ突起物をなくして丸みを持たせた構造として,シールドリングなどを用いたコロナシールドを行う。
  • がいし連の重量加減を行って,電線とがいし連系の固有振動数コロナ放電による振動数である 1~3 [Hz] から遠ざける。

過負荷許容電流の考え方

架空送電線の許容電流は,電線の許容温度,気象条件(気温,風速,日射量),電線の材質や表面状態による放射率(日射からの吸熱,電線からの放熱)から求まる。

連続許容電流

平常時に連続して流すことのできる電流値であり,ある気象条件のもとでこの電流を流し続けると連続許容温度に達する。

電流が連続的に流れる場合の許容電流(連続許容電流)は,外部環境の影響をうけるため,最高許容温度の状態において抵抗損と日射による熱量の増加と,風と放射による熱量の減少が平衡する電流値として計算される。

このとき,電線の抵抗値が電線温度の上昇により増加することや,表皮効果などにより電線の抵抗値が直流の場合に比べて増加することを考慮する必要がある。

短時間許容電流

数分から数時間に時間を限定して流すことのできる電流値であり,ある気象条件のもとでこの電流を流し続けると短時間許容温度に達する。

過負荷許容温度

架空送電線は,硬銅より線(HDCC),鋼心アルミより線(ACSR),鋼心耐熱アルミより線(TACSR)などの種類ごとに,連続許容温度および短時間許容温度が定められている。

このうち,過負荷許容限度を制限するのは短時間許容温度であり,この温度を超えない範囲で一時的な過負荷を許容している。

過負荷許容温度の考え方

架空送電線の許容温度は電線の寿命面から定められている。

電線材料が熱履歴を受けると組織に変化が生じて引張強さが低下する。

この引張強さの低下が 10 % に達した時点を電線の寿命としている。

連続許容温度

平常時における電線の最高許容温度のことを連続許容温度という。

連続許容温度は,現行の法定耐用年数である 36 年間連続通電した場合に引張強さが 10 % 低下すると考えられる温度であり,電線の材質で決まる。

算定にあたっては,気象や負荷条件なども考慮している。

短時間許容電流

2 回線送電線の 1 回線事故時,健全側 1 回線に 2 回線分の電流が流れる条件で定めた最高許容温度のことを短時間許容電流という。

短時間許容温度は,送電線の法定耐用年数における故障累積時間 400 時間程度(耐用年数 36 年,年間あたり過負荷が 20 回発生,1 回あたり過負荷が 30 分以上継続)として,故障累積時間経過後に引張強さ低下の限度を 10 % として定めた温度である。

多導体

多導体は,単導体に比べて次に挙げるような多くの利点があるため,主に超高圧以上の送電線に多く採用されている。

  • 単導体と合計断面積が等しい多導体は,単位長当たりの全導体表面積が大きくなるとともに,表皮効果が小さいので,許容電流を大きくとることができる。
  • 送電線のインダクタンスが減少し,また,静電容量が増加するため,固有送電容量が増加する。
  • 導体表面の電位傾度を減少できるので,コロナ開始電圧が高くなり,コロナ損失,雑音障害を防止できる。
  • 送電線のインダクタンスが小さくなるので,系統安定度が向上する。

なお,多導体では,導体相互の間隔を保持するためにスペーサを取り付ける必要があるが,スペーサの取り付け間隔は,サブスパン振動,常時電流による電磁吸引現象,捻回復元現象及びクランプ把持力によって決定される。

電力用ケーブルの送電容量

電力ケーブルの許容電流は,絶縁体に影響を及ぼさない導体の最高許容温度によって定められている。

電力ケーブルの課電通電時に,その温度が限界を超えて高くなると,絶縁体の機械的及び電気的強度が低下し,寿命を短縮する。

そこで電力ケーブルの最高許容温度を超えない電流を許容電流と言っている。許容電流は,連続して流してよい常時許容電流,線路や機器などの事故時などに系統の切替後数分ないし数時間を対象とした短時間許容電流及び線路事故の際に流れる 2 秒程度以下を対象とした瞬時許容電流の 3 種類に大別される。

CV ケーブルの充電電流

電力用 CV ケーブルの充電電流が大きくなると,送電容量に影響を与えることから,設計に際して考慮が必要である。

充電電流は単位長当たりのケーブル静電容量,送電電圧及び線路長に比例して大きくなる。ケーブル導体サイズが同じであれば,単位長当たりのケーブル静電容量は,絶縁体の誘電率が大きいほど,また,絶縁体厚さが小さいほど大きい。

CV ケーブルの誘電体損失

CV ケーブルの誘電体損失も送電容量に影響を与える。これは,充電電流にいくらかの有効成分があるために発生する損失であり,送電電圧が同じ場合,誘電正接が大きいものほど発生量が大きい。

また,単心ケーブルを鉄管に入線すると鉄損が大きくなることから,送電容量が低下させることになるので注意が必要である。

電力ケーブルの熱放散

電力ケーブルを構造面からみると,コンパクトな外形を実現するため,高い電界の下で長期間安定に使用できる絶縁体が必要である。

このため,使用される電圧階級に応じ,各種のケーブルが開発され使用されている。また,電力ケーブルは地中の暗きょ等で使用されるので,架空送電線に比べて熱放散が悪く,電流容量の確保が重要な技術的課題となっている。

このため,送電損失を少なくし,熱抵抗を減らす工夫が積極的になされている。

大容量送電が必要な場合には強制冷却方式が採用される。また,負荷変動に伴って生じるケーブルの伸縮に対する配慮も重要である。

送電系統の損失低減対策

送電系統の電力損失は線路の抵抗損と変圧器の銅損及び鉄損が主なものである。

このため,電力損失の低減には,線路電流の減少と電線,変圧器の電気抵抗の低下が有効であり,具体的な電力損失の低減対策としては次の方法がある。

  1. 送電電圧の昇圧
  2. 電力用コンデンサの設置
  3. 電線の太線化,こう長の短縮,回線数の増加
  4. 需要地近辺に変電所を導入
  5. 変圧器の鉄心に方向性けい素鋼板,アモルファスなどの材料の採用
  6. 並列運転している変圧器の台数制御

コネクト&マネージ

送電容量を確保するため,各国で様々な方策が模索されているが,その一つとして英国では「コネクト&マネージ」の導入を進めている。

日本でもこれに倣い,新たな系統利用ルールとして「日本版コネクト&マネージ」を策定した。

「日本版コネクト&マネージ」の具体的な施策は,以下の 3 つである。

想定潮流の合理化

送電線の空き容量を,すべての電源がフル稼働した前提ではなく,実際の利用に近い想定で算定する方法

N-1 電源制限

緊急時用に空けておいた送電容量の一部を,事故時には瞬時に遮断する条件で平常時に活用する方法

ノンファーム型接続

送電線の混雑時には出力を制御する条件で,新規電源の接続を認める方法

ダイナミックレーティング

近年では,送電線をより効率的に運用する取組として,線路電流,電線温度,日射量などを実測して,許容電流を管理する手法(ダイナミックレーティング*3,Dynamic Rating)が試行されている。

再生可能エネルギーの導入が進んでいるヨーロッパでは,現地の気温や風速,電線温度や弛度を実測し,動的に系統運用状況を解析し,送電線の送電容量を増やす試みが,近年,行われている。

今後,現地観測する各種観測データの取得方法やそのコストの低減,気象予測精度の向上や実運用時のコントロール方法などの技術開発が進むことにより,より効率的な送変電設備の運用が期待される。

www.iee.jp

参考文献

  • 電気専門用語集(WEB 版)
  • 令和5年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「多導体送電線」
  • 令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「送電系統の損失低減対策」
  • 令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5「架空送電線の許容電流」
  • 令和元年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「送電容量」
  • 平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「架空送電線路に使用される電線」
  • 平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「主に超高圧以上の送電線に多く用いられる多導体」
  • 平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7「電力用 CV ケーブル」
  • 平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7「電力ケーブルの構造面からみた問題点」
  • 平成17年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「架空送電線で発生する抵抗損とコロナ損」
  • 平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「電力ケーブルの許容電流」
  • 平成12年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「超高圧以上の送電線に多く用いられる多導体」
  • 岡本 浩「グリッドで理解する電力システム」

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更新履歴

  • 2021年11月7日 新規作成
  • 2021年11月27日 用語解説「ダイナミックレーティング」追加
  • 2021年12月8日 過負荷許容電流,過負荷許容温度の説明を追加
  • 2021年12月11日 コネクト&マネージの解説を追加
  • 2021年12月25日 参考文献に「平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7」「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7」を追加
  • 2022年1月22日 参考文献に「電気専門用語集(WEB 版)」を追加
  • 2022年5月21日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」「平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」を追加
  • 2022年5月28日 参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年6月5日 参考文献に「平成12年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年8月27日 参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加
  • 2023年9月30日 参考文献の過去問題のタイトルを追加
  • 2023年11月25日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2024年1月28日 検索エンジン向けタイトル「送電容量とは?限界値を超えずに電力を送る方法とは」,SNS 向けタイトル「制約による送電容量増加の対策とは? #送電容量」を追加

*1:transmisson capacity. 送電線が支障なく常時継続して送電できる最大送電能力。

*2:直列コンデンサを挿入することによる利点は,電圧変動の改善,長距離送電線の安定度向上,送電損失の低減などが挙げられる。

*3:送電線にダイナミックレーティングを適用しているため,ダイナミック・ライン・レーティングともいう。