目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

配電線の高低圧混触

一般に低圧電路は,変圧器の内部故障や電線等の断線故障の際に高圧電路と混触を起こし,高圧側の電圧が低圧側に現れて危険となるおそれがあるため,変圧器には B 種接地工事を施して,発生する電位上昇を抑制している。

電気設備に関する技術基準を定める省令 第10条 電気設備の接地

電気設備の必要な箇所には,異常時の電位上昇,高電圧の侵入等による感電,火災その他人体に危険を及ぼし,又は物件への損傷を与えるおそれがないよう,接地その他の適切な措置を講じなければならない。ただし,電路に係る部分にあっては,第5条第1項*1の規定に定めるところによりこれを行わなければならない。

図 1 に示すように,線間電圧の大きさが $V$ の三相 3 線式電線路に接続された単相変圧器において,高低圧巻線間に混触が生じた際の低圧側電線の対地電圧 $\dot{V}_\text{R}$ の大きさを $V_1$ 以下にするための接地抵抗 $R$ の最大値 $R_\text{M}$ を以下の用に求める。

ただし,$C$ は三相線路の電線 1 条の対地静電容量,$\omega$ は電源の角周波数である。

また,変圧器のインピーダンスは無視する。

図 2 に示す高低圧混触時のテブナンの定理による等価回路より,接地抵抗 $R$ に流れる電流 $\dot{I}_\text{R}$ の大きさは $\displaystyle |\frac{\frac{V}{\sqrt{3}}}{R+\frac{1}{\text{j}3\omega C}}|$ で表される。

ここで,$\displaystyle R \ll \frac{1}{3\omega C}$ とすると,最大値 $R_\text{M}$ は $\displaystyle \frac{V_1}{\sqrt{3}V\omega C}$ で表される。なお,柱上変圧器の高圧巻線と低圧巻線の混触は,配電用変電所の地絡保護リレーで検出され,配電用変電所の遮断器で遮断される。

配電系統における高低圧混触

配電系統における高低圧混触

高低圧混触時のテブナンの定理による等価回路

高低圧混触時のテブナンの定理による等価回路

参考 テブナンの定理

内部に電源電圧 $E_1$,$E_2$,…,$E_n$ を含む回路網 A があり,一つの端子 ab に着目する。

ab 間の電圧を $V(=E)$,ab から見た回路網 A のインピーダンスを $Z_0$ とすれば,端子 ab に任意のインピーダンス $Z$ を接続したときに,$Z$ に流れる電流 $I$ は次式で与えられる。

\[ I=\frac{E}{Z_0 + Z} \]

柱上変圧器の事故と保護

柱上変圧器の地絡事故は,巻線と変圧器ケース,一次巻線と二次巻線との接触などにより発生する。

変圧器内部の一次巻線の地絡事故は,変電所の地絡リレーによって検出され,変電所内の遮断器によって遮断される。

また,一次巻線と二次巻線の混触事故は,二次巻線の B 種接地工事を行った接地を通じて,同様に変電所で検出,遮断される。

このような事故は変圧器の構造からして自然に発生するものではなく,過負荷の繰り返し,雷によるショックなどによって絶縁劣化し発生する。

また,雷によりブッシングが破損し,一次側リード線と変圧器ケースとがフラッシオーバすることで地絡事故は発生する。

高圧又は特別高圧と低圧との混触による危険施設の防止

高圧電路又は特別高圧電路と低圧電路を結合する変圧器(混触防止板付き変圧器,鉄道又は軌道の信号用変圧器は除く。)の低圧側の中性点には,B 種接地工事*2を施すこと。

ただし,低圧電路の使用電圧が 300 [V] 以下の場合において,当該接地工事を変圧器の中性点に施し難いときは,低圧側の一端子に施すことができる。

分散型電源が連系されている配電系統における高低圧混触

分散型電源が連系されている配電系統における地絡事故時(高低圧混触事故時),分散型電源の運転が継続されていると,地絡電流を供給し続けることになり,人身の安全や設備の保安上の問題がある。

高圧系統の地絡事故の直接検出は,低圧連系の分散型電源では現実的に困難であり,高圧系統での地絡事故発生時は,送配電事業者の変電所遮断器を開放し,分散型電源が単独運転*3となったことを検出することで,間接的に対応している。

高低圧混触事故も地絡事故と同様であり,単独運転検出装置により高低圧混触を間接的に検出している。

electrical-engineer.hatenablog.jp

参考文献

更新履歴

  • 2021年11月8日 新規作成
  • 2022年2月9日 参考文献に「電気設備に関する技術基準を定める省令」を追加
  • 2022年4月24日 参考文献に「平成16年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3」を追加
  • 2022年8月27日 参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年9月20日 分散型電源が連系されている配電系統における高低圧混触を追加,参考文献のタイトルを追加

*1:第5条 電路の絶縁 第1項 電路は,大地から絶縁しなければならない。ただし,構造上やむを得ない場合であって通常予見される使用形態を考慮し危険のおそれがない場合,又は混触による高電圧の侵入等の異常が発生した際の危険を回避するための接地その他の保安上必要な措置を講ずる場合は,この限りでない。

*2:使用電圧が 35 000 [V] 以下の特別高圧電路であって,電路に地絡を生じた場合に 1 秒以内に自動的にこれを遮断する装置を有するもの及び第133条 第1項に規定する 15 000 [V] 以下の特別高圧架空電線路の電路以外の特別高圧電路と低圧電路とを結合する場合において,第19条 第1項(接地工事の種類)に規定により計算した値が 10 を超えるときは,接地抵抗値が 10 [Ω] 以下のものに限る。

*3:電気設備の技術基準の解釈 第220条 分散型電源の系統連系設備に係る用語の定義によれば,単独運転とは「分散型電源を連携している電力系統が事故等によって系統電源と切り離された状態において,当該分散型電源が発電を継続し,線路負荷に有効電力を供給している状態」である。