目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

架空送電線の再閉路

架空送電線では,雷による逆フラッシオーバやアーキングホーンを介した気中フラッシオーバ事故が多い。

気中フラッシオーバ事故は長い時間放置しておけば,がいし損傷などの機器故障に至るが,保護リレーで速やかに事故区間を遮断すればがいしは損傷を受けないで再使用できることが多い。

図 保護リレー

図 保護リレー

したがって,一旦事故電流を遮断すればアークイオンが消滅し絶縁耐力は回復するため,再閉路の成功率が高い。

このことに着目し,架空送電線路の故障時には,一定時間経過してから遮断器を自動的に再投入する再閉路方式が採用されている(特に架空送電線路では,再閉路を高速に行う場合が多い)。

この高速再閉路方式(high-speed reclosing system)は,電力系統の過渡安定度向上に対して極めて重要な役割を担っており,消アークイオン時間などを考慮し,一般的に 1 秒以下で再閉路する*1

過渡安定度(transient stability)とは,電力系統に急激なじょう乱があったとき再び安定状態に回復し送電できる度合。 時間的にはじょう乱発生から数秒程度までの時間領域の現象をさす。

過渡安定度は,送電電力だけでなく故障除去時間との関係で決まり,過渡安定度限界としては過渡安定極限電力と臨界故障除去時間などの指標を用いる。

また,発電機内部の過渡現象がおもな役割を演じ,応答速度の遅い制御装置の特性は大きな影響をもたないが,特に制御系を考慮した過渡安定度を動的過渡安定度という。

なお,過渡安定度と定態安定度の間の時間領域の現象を中間領域安定度という。

具体的には,高速継電器と高速遮断器や高速再閉路方式を採用することにより,事故区間を高速に除去し,事故の他系統への波及拡大を防止する。

高速再閉路方式のうち,単相再閉路方式は,2 回線の両回線同時の各 1 線地絡事故においては,事故相だけを遮断後に再閉路を実施し,再閉路が成功する限り系統の連系が維持できる。また,多相再閉路方式は,両回線同時の多重事故に対しても両回線合計で 2 相以上の連系が保たれていれば高速に再閉路しようとする方式である。

再閉路の目的

再閉路方式は,電圧階級,中性点接地方式,連系線・火力電源線・負荷線などの区分,系統構成など適用系統によりことなるものの,電力系統の信頼度向上と復旧操作の省力化を目的としている。

  • 系統間の連系維持能力向上
  • 系統の過渡安定度の確保
  • 系統故障遮断時における他の線路・機器の過負荷解消の迅速化
  • 系統復旧の迅速化
  • 停電時間の短縮

自動再閉路方式

架空送電線に適用される自動再閉路方式には,大別して次の方式がある。

以下では,平行二回線送電線の相の定義を 1 号線の a,b,c 相,2 号線の a,b,c 相の六相とする。

三相再閉路方式

平行二回線送電線の片回線側に事故が発生した場合,事故相に関係なく,事故回線を三相とも送受電端の変電所で遮断し,一定時間後再閉路する方式である。

健全相からの誘導はなく,無電圧時間を短くできる利点がある。

単相再閉路方式

回線毎の一線地絡故障に対し故障相のみ遮断し,残り二相で電力の送受を行い,同期を保ちながら,故障後の一定無電圧時間をもって再閉路する方式である。

健全相からの誘導により,無電圧時間は長くなる可能性がある。

多相再閉路方式

平行二回線送電線のうち事故相のみを遮断し,一定時間後再閉路する方式であり,両回線同時の多重事故に対しても高速に再閉路しようとするものである。

二回線六相のうち,遮断中における両回線の異なる相での二相以上の連系を条件としており,系統の過渡安定性向上への効果が非常に大きい。

なお,三相再閉路方式,単相再閉路方式の場合は,遮断器は相ごとに独立して開閉操作できることが必要である。

再閉路方式の時間

再閉路方式には時間の面から,無電圧時間を 1 秒程度以下とする高速度再閉路方式*2と 1 分程度の低速度再閉路方式がある。

再閉路方式は,遮断器の性能や保護方式の故障検出性能とのシステム的な協調が重要であり,適用する送電系統に応じて最適な方式を選定する必要がある。

表 再閉路方式の無電圧時間
再閉路方式 目的 無電圧時間
高速度再閉路 系統連系の維持と系統の安定度向上 0.4 ~ 1.0 秒程度*3
中速度再閉路 系統復旧操作の自動化および迅速化,高速度再閉路条件不成立時の系統連系の維持 1 ~ 15 秒程度*4
低速度再閉路 系統復旧操作の自動化および迅速化 1 分程度

 

再閉路成功率

架空送電線の再閉路成功率は 90 [%] 以上であり,自動再閉路方式は有効な事故復旧の自動化といえる。

また,単相再閉路,多相再閉路を行うと事故中も系統の連系が保たれるので,系統の安定度が崩れる可能性が低くなる。

参考文献

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更新履歴

  • 2021年11月27日 新規作成
  • 2022年1月21日 過渡安定度の定義を追加
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7」を追加
  • 2022年5月8日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年6月4日 参考文献に「平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5」を追加
  • 2022年10月19日 参考文献に「平成22年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加

*1:わが国の基幹系統では 3 サイクル程度で事故除去し,0.8 ~ 1.0 秒の再閉路が行われている。

*2:高速度再閉路方式の再閉路時間は,フラッシオーバ発生箇所の絶縁回復特性を考慮し,かつ,安定度向上に効果を出すよう,一般的に 1 秒程度に定められている。

*3:高速度再閉路の無電圧時間の設定は,消アークイオン時間などを考慮する。

*4:中速度再閉路の無電圧時間の設定は,タービン発電機軸振動の減衰や誘導電動機の残留電圧減衰及び風雪害による電線振動の減衰等を考慮する。