汽力発電所(コンバインドサイクル発電所を除く。)が系統並列運転中に,以下の事象が発生した際に考えられる発電所設備への影響について,説明する。
系統周波数が異常に低下した場合
定格出力付近で運転している汽力発電所において,系統事故などにより周波数が低下した場合について説明する。
発電所出力変動とボイラ,タービンへの影響及び運転上の留意事項
定格出力付近で運転中に系統周波数が低下した場合,数時間程度であれば過負荷運転をすることができる。
過負荷運転を行うために,タービン蒸気流量を増やす方法をとる。
過負荷運転を行う場合には,機器の運転状態に十分に注意し,タービン軸のスラストおよび翼の振動,励磁機ブラシのスパーク,各種調整弁の開度の余裕に留意する必要がある。
発電機出力の上昇
タービン調速機は,速度調定率に基づいた出力となるよう,蒸気弁(CV)開度を制御している。
周波数が異常に低下した場合,速度調定率に応じて蒸気弁(CV)は大きく開方向に動作し,その結果,発電機出力が上昇する。
低圧タービン動翼の共振(振動,損傷)
タービン動翼の固有振動数は共振を避けるため,定格周波数の整数倍からずれるように設計されているが,低周波数運転を行うと,翼長の長い低圧タービン動翼の固有振動数と運転周波数の整数倍とが一致して共振現象を起こし,動翼に過大な応力を与える。
その疲労が蓄積するとクラックが発生し,最悪の場合,翼の折損に至る。
発電機・変圧器の過励磁による鉄心等の過熱
発電機や変圧器の鉄心磁束密度は電圧/周波数(V/Hz)の値に左右される。
周波数が低下すると電圧/周波数(V/Hz)の値が大きくなり,励磁電流が増加し磁束密度が増えるため,鉄心内では鉄損が増加し過熱する。
また,磁気飽和の程度が過度になると鉄心から近接する導体構造物への漏えい磁束が増加し,うず電流による過熱が発生する。
発電機機内冷却能力の低下
回転子に取り付けられている冷却ファンの回転速度低下により冷却能力が低下し,機内温度の上昇や局部過熱を引き起こす。
潤滑油等の油圧低下
タービン軸に直結した主油ポンプの回転数が低下して油圧低下を引き起こすと,軸受の油膜切れによる軸受損傷を引き起こす。
また,タービン軸に直結した主油ポンプで制御油も供給している場合は,制御油圧低下によりユニットトリップに至ることもある。
所内補機への影響及び運転上の留意事項
汽力発電所の所内電源は,主発電機または電力系統から受電するのが一般的であり,系統周波数が低下すると,補機を駆動している誘導電動機の回転速度も低下する。
そのため,ボイラの給水ポンプ,復水器冷却ポンプなどポンプ類の回転速度が低下し,吐出圧力,流量が低下するので,ボイラ蒸気圧力も低下し,それに伴って発電所出力も減少する。
系統周波数低下時はボイラの流量,復水器真空度などに注意しながら,ボイラ蒸気圧力や発電所出力を抑制する措置を講ずる。
周波数の低下が大きくなった場合に,発電機を解列させる理由
系統周波数が低下すると,タービン動翼の共振が問題となる。
振動により,材料の疲労蓄積,クラックの発生などによりタービン翼の破損・損傷など重大事故につながるおそれがある。
そのため,汽力発電所においては,低周波数運転限度を設定し,発電機を解列させる。
系統周波数が異常に上昇した場合
低圧タービン動翼の共振(振動,損傷)
タービン動翼の固有振動数は共振を避けるため,定格周波数の整数倍からずれるように設計されているが,周波数が異常に上昇した状態で運転を行うと,翼長の長い低圧タービン動翼の固有振動数と運転周波数の整数倍とが一致して共振現象を起こし,動翼に過大な応力を与える。
その疲労が蓄積するとクラックが発生し,最悪の場合,翼の折損に至る。
発電機出力の低下
タービン調速機は,速度調定率に基づいた出力となるよう,蒸気弁(CV)開度を制御している。
周波数が異常に上昇した場合,速度調定率に応じて蒸気弁(CV)は大きく閉方向へ動作し,その結果,発電機出力が低下する。
タービン車軸・車室などの熱応力の発生
周波数の上昇に伴い,タービン調速機の速度調定率に応じて蒸気弁(CV)が絞られるため,絞り損失により主蒸気温度が急速に低下し,車室や車軸などに熱応力を生じる。
主蒸気圧力の上昇(プラント制御の乱調)
周波数の上昇に伴い,タービン調速機の速度調定率に応じて蒸気弁(CV)が絞られるため,主蒸気流量が減少する。
蒸気流量の減少が急激な場合,あるいは主蒸気流量の減少に対応する燃料流量の絞り込みが十分でない場合は主蒸気圧力が過上昇し,ボイラトリップに至る場合がある。
異常な進相運転が行われた場合
固定子鉄心端部の過熱
電機子反作用による端部漏れ磁束は鉄心端から外部に向かい,回転子保持環を通ってまた鉄心に戻る。
進相運転時は電機子反作用漏れ磁束は多くなる。
この磁束は,回転子に対しては静止しているが,固定子に対しては同期速度で回転しているため,固定子鉄心端部及び固定子端部構造物に渦電流損やヒステリシス損が発生し,過熱を引き起こす。
安定度の低下
進相運転時は,低励磁によって発電機内部誘起電圧が低下し,発電機と系統間の電圧相差角が増加し,定態安定度が低下する。
なお,自動電圧調整装置(AVR)を使用していれば安定運転領域が拡大され,安定度は向上する。
所内電圧の低下による補機能力の低下
進相運転を行うと,発電機端子電圧が低下するため,所内の母線電圧も低下する。
所内母線には多くの補機用電動機がつながっており,電圧が低下するとトルク不足により,流量・圧力が低下する。
なお,流量・圧力制御されている補機については,流量・圧力を規定値に維持するため,電動機の電流が増えて電動機の過熱を引き起こす場合がある。
系統事故時に送電線の単相再閉路を実施した場合
タービン,タービン発電機の軸系への機械的影響
タービン,タービン発電機の軸系は,各ロータ部が軸部で連結された構造となっている。
単相再閉路*1方式を採用すると,送電線一線地絡事故→事故相遮断(1 相欠相状態,単相送電)→(事故点アーク消滅)→再閉路の過程において,機械的入力トルクは一定であるのに対して,電気的トルクが大きく変化し,この軸系には,ロータ間の相互作用によって,軸ねじれ振動が発生する。
このねじれ振動は,軸部材料の疲労・蓄積を招き,トルクの大きさ,回数によってはカップリングボルトや軸の破断を引き起こす。
タービン発電機固定子巻線への電磁力の影響
タービン発電機の固定子巻線にかかる電磁力としては,一線地絡電流,欠相送電中の逆相成分を含む電流,再閉路時の過渡電流を考えなければならないが,短絡事故時の電磁力と比較すると,それほど問題となるレベルではない。
電磁力に弱いコイル端で動揺・変形によって,コイルが損傷しないように強固に支持する必要がある。
タービン発電機回転子表面の温度上昇
電機子電流に逆相分が流れると回転子には 2 倍周波数の渦電流が流れるが,タービン発電機の場合は,この電流が回転子のくさび・歯部,制動巻線およびコイル保持環を環流するようになる。
このため,その一部が各部の接触面を通じて流れ,電流の集中する部分で過熱が問題となる。
短時間の減少で熱放散が期待できないので,短時間許容電流値は逆相電流の 2 乗とその継続時間の積で決まる。
単相再閉路の場合は,逆相電流の継続時間が短いので,あまり問題にならない。
参考文献
- 平成20年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「汽力発電所の系統並列運転」
- 平成11年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「系統事故などの汽力発電所への影響」
- 平成8年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「送電線の単相再閉路によるタービンへの影響」
更新履歴
- 2022年11月3日 新規作成
- 2022年11月12日 参考文献に「平成20年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加
- 2022年12月25日 参考文献に「平成8年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加
*1:電力系統事故の大部分は雷により発生する逆フラッシオーバの地絡事故であり,いったん事故相を遮断し,事故点のイオン消滅を待って再び充電すれば送電を継続できる場合が多く,電力の安定送電の維持確保に不可欠な対策である。単相再閉路は,その地絡事故の大半が一線地絡事故であることに着目して,1 回線 3 相のうちで 1 相が地絡事故になった場合に事故相だけを遮断し,残りの 2 相で送電を継続しつつ 1 秒程度の高速で再閉路するものである。