目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

送電線の振動

本稿では,架空送電線の振動現象について述べる。

カルマン渦による微風振動

比較的緩やかな一様な風が,電線と直角に当たると電線の背後にカルマン渦*1ができて鉛直方向の周期的な力が電線に働き,これが電線の機械的固有振動数と一致すると微風振動(aeolian vibration)が発生する。

全振幅は数センチメートル以下と小さいが,電線が長い間繰り返し応力を受けて,電線を構成する素線が切れることがあり,さらに断線に至る可能性がある。

微風振動は径間が長い場合(長径間の場合)や,直径が大きい割に重量の軽い電線の場合,電線の撚り層数が少ない場合及び電線張力が高い場合には特に問題となる。

具体的には鋼心アルミより線などの場合に発生しやすい。

振動防止方法

電線振動による断線を防ぐ方法としては,クランプ近くの電線を補強するもの(アーマロッド),適当な制動子をつけて振動を防止するもの(ダンパ)などがある。

テーパアーマロッド

電線支持点付近の電線にアーマロッドを巻きつけ,振動による発生応力を下げる。

テーパアーマロッドは,電線支持点(懸垂クランプ)を中心にして,電線と同種の線で,両端に向かって適当なテーパをもった 1 ~ 3 m の長さのもの 8 ~ 10 本を巻き付けたもので,電線の補強と振動防止に役立てている。

特にアルミ電線使用の懸垂箇所には広く用いられている。

ダンパ

電線に防振用ダンパを取り付け,電線系の消費エネルギーを大きくすることにより,発生振幅を下げる。

ダンパにはストックブリッジダンパ,バイブレスダンパ,トーショナルダンパおよびベートダンパなどがある。

その他応力の抑制

フリーセンタ形懸垂クランプを使用し,振動クランプを通して次の径間へ移行し,減衰させ,電線支持点にはほとんど応力を生じないようにする。

ギャロッピング

電線に氷雪が付着して強風が当たると,付着した氷雪の非対称性が原因となって揚力が発生し,自励振動を生じて電線が上下に大きく振動する。

これがギャロッピング(galloping)*2という。

ギャロッピング防止対策(Galloping Preventive measures)

ギャロッピングは," 電線の断面の非対称性によって,水平風に対して揚力が発生することに起因する低周波の振動 " と定義され,特に電線に着氷雪が発生したときによく見られる。

送電線のギャロッピングは,着氷雪の形状がさまざまであること,径間条件,架線条件が異なることから,発生するギャロッピングの様相もさまざまである。

このため,ギャロッピング防止対策は,種々考案されており,考え方は次の対策品と設計の二つに大きく分けることができる。

電線振動時においても電線相互の間隔を確保するため,絶縁性の支持物で機械的に連結する相間スペーサ,多導体の送電線において,電線把持部に回転機構を設けたルーズスペーサが用いられる。

ギャロッピング防止に資する対策品

相間スペーサ,捻回防止装置(TCD),空力特性制御(スパイラルロッド),位相制御(偏心重量錘方式),その他(ルーズスペーサ,フリクションダンパ)

ギャロッピング防止に資する設計

電線の設計(断面,表面形状による空力特性を考慮),鉄塔装柱(電線運動範囲を確保),送電線のルート変更

コロナ振動

一方,電線の下面に水滴が付くとコロナ(corona)がさかんに発生する。電線から帯電した水の粒子が射出するためその反作用で電線の振動を誘発する。

これをコロナ振動といい無風の場合に発生しやすい。

高電圧の送電線に発生するコロナ放電現象

空気が絶縁破壊を起こす電位の傾きは,標準気象状態( 20 [°C,1013 [hPa] )では,波高値で約 30 [kV/cm] である。

電線表面のごく近い電位の傾きがこの値に達したときコロナ放電が発生し,そのときの電圧をコロナ臨界電圧と呼ぶ。

この放電が発生すると,コロナ損のために送電効率が低下する。

また,送電線近傍におけるラジオ等に受信障害をもたらすだけでなく,可聴音であるコロナ騒音などの問題も発生する。

サブスパン振動

多導体に特有の振動で,風上にある素導体によって乱された気流により風下の素導体が振動を起こす。

素導体の間隔を数十メートル毎に保持している金具を支点とした振動である。この振動をサブスパン振動という。

参考文献

  • 電気事業講座 電気事業辞典
  • 機械工学辞典
  • 令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電線の振動対策と着氷雪対策」
  • 平成28年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7「送電線の振動」
  • 平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「送電線の振動」
  • 平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「架空送電線に氷雪が付着したときの現象とその対策」
  • 平成20年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5「架空送電線路における電線の微風振動」
  • 平成15年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5「送電線の微風振動」
  • 平成15年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7「高電圧の送電線に発生する放電現象」

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更新履歴

  • 2021年11月28日 新規作成
  • 2021年12月8日 微風振動の英語表記,ギャロッピング防止対策を追加
  • 2021年12月19日 参考文献に「平成15年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7」を追加
  • 2022年2月5日 カルマン渦による振動対策に「その他応力の抑制」を追加
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成20年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5」を追加
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年5月29日 参考文献に「平成15年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5」を追加
  • 2023年1月15日 過去問題のタイトルを追加
  • 2023年8月26日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加

*1:円柱,角柱のような柱状物体が流れに直角におかれたとき,物体からのはく離せん断層が主流と直角方向に振動し,その 1 周期ごとに反対符号の渦が放出されるので,物体の下流には互い違いに並んだ渦の列が形成される。これをカルマン渦列という。(出典)機械工学辞典「カルマン渦列

*2:着氷雪などによって,電線の断面が非対称となり,これに強い水平風が当たると浮揚力が発生し,着氷雪の位置によっては,この浮揚力と電線の張力による復元力とが作用しあって,自励振動が生じて電線が上下に振動する現象。この現象は比較的周波数の低い,振幅の大きい振動のため線間短絡が生じやすい。