遠隔地電源から無限大母線へ遅れ力率で送電している超高圧並行 2 回線送電線において,その片回線が開放され,生じた電力動揺が収まった後に投入された。
片回線開放直後,発電端電圧は急に上昇し,その後ある周期で振動する。投入時もやはり発電端電圧は投入に伴って急変した後,ある周期で振動する。
通常,開放後の動揺周期と投入後の動揺周期と比べると前者の方が長いが,これは以下の理由による。
超高圧架空送電系統では送電線の抵抗,静電容量成分はリアクタンス成分に比べて小さいので,送電電力 $P$ は発電機内部電圧及び無限大母線の大きさ $V_1$,$V_2$ とそれらの位相差 $\delta$ 並びに発電機から送電線にかけてのリアクタンスの総和 $X$ を用いて近似的に $P=V_1 V_2 / X \sin\delta$ と表すことができる。
両電圧及びリアクタンスをパラメータとし,$\delta$ を横軸,$P$ を縦軸として表した曲線を $P$-$\delta$ カーブとも呼んでいる。
片回線開放後は $X$ の値が大きくなるので,定常状態で比較すると,投入時に対して開放後の $\delta$ の値の方が大きい。
このため,開放後並びに投入後の定常状態における $P$-$\delta$ カーブの接線の傾きを比較すると開放後の方が小さい。
これは電力動揺によって $\delta$ が変化しても,それを戻そうとする作用が弱い,すなわち同期化力係数が小さいことを意味し,このため電力動揺周期を開放後と投入後で比べると前者の方が長い。
脱調現象
電力系統において系統事故が発生すると,発電機の機械的入力と電気的出力のバランスが崩れ,発電機が同期運転を保つことができず不安定な状態となる。
この現象は脱調現象と呼ばれ,電気系統の異常現象の一つである。
送電電力(単位法表記)が $\displaystyle \frac{V_{S}V_{R}}{X}\sin\delta$ と表現できることから明らかなように,同期発電機間の直列リアクタンス(単位法表記)低減は脱調現象を防止する対策の一つであり,具体的には次のようにして実現される。
各種安定化方策とその効果
各種安定化方策とその効果を次表に示す。
安定化対策 | 過渡安定度向上 | 定態安定度向上 | |
---|---|---|---|
流通設備の増強による対策 | 並列回線数の増加 | ○ | ○ |
中間開閉所の設置 | ○ | ○ | |
高次電圧系統の導入 | ○ | ○ | |
発電機の制御系の強化による対策 | 超速応励磁 | ○ | - |
PSS | - | ○ | |
タービン高速バルブ | ○ | - | |
特殊機器による対策 | 直列コンデンサ | ○ | ○ |
静止形無効電力補償装置(SVC) | ○ | ○ | |
制動抵抗 | ○ | - | |
リレー・システム | 高速度遮断器の採用 | ○ | - |
脱調未然防止システム | ○ | - | |
その他 | 機器の仕様(インピーダンス低減,慣性定数増加) | ○ | ○ |
同期発電機の励磁系と同期安定性
電力系統において事故が発生すると,同期発電機において機械入力と電気出力のバランスが崩れ,同期発電機間の位相差が広がる。
これがある範囲を逸脱する場合には,不安定な運転状態となり,同期運転が保てず脱調に至る。
系統の同期安定性を向上させることを目的に,同期発電機の励磁装置の速応性や頂上電圧を高める対策を採用することがある。
特にサイリスタ励磁方式は,励磁系としての時定数が小さく,また励磁変圧器の二次電圧を大きくとることで,同期発電機間の位相差の過渡的な変動を抑制すると,短時間領域での安定性向上に効果的である。
しかし,これらの対策によって,第 2 波以降の中間領域の同期安定性や小じょう乱同期安定性を悪化させることがあるため,PSS(電力系統安定化装置)が広く用いられている。
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過渡安定度の判別法
等面積法
電力系統の過渡安定度の基本的な説明には,図の等面積法が多く用いられる。
この図で,地絡等の故障中は発電機の機械入力 $P_\text{m}$ が電気出力 $P_\text{e}$ より大きいため,この発電機の回転数は増大し,相差角 $\delta$ は増大する。
次いで,一定時間後(相差角 $\delta_\text{c}$)で故障が除去されると,以降,電気出力 $P_\text{e}$ が機械入力 $P_\text{m}$ を上回り,発電機の回転数は減少し始める。
この間も $\delta$ は増加するが,図の面積 $V_\text{k} \lt V_\text{p}$ であれば,$\delta$ が $\delta_\text{u}$ に達する前にその最大値に達し,以降,$\delta$ はその最大値から減少する。
すなわち,安定と判定される。
一方,$V_\text{k} \gt V_\text{p}$ であれば $\delta$ は $\delta_\text{u}$ を越え,以降,$\delta$ は増大して発散する。この場合は,不安定(脱調)と判定される。
参考文献
- 令和5年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「等面積法を用いた過渡安定性の計算」
- 令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7「電力系統の過渡安定度の判別法の一つの等面積法」
- 令和元年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「電力系統の過渡安定性」
- 平成27年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「同期発電機の励磁系と同期安定性」
- 平成25年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統に生じる電力動揺」
- 平成17年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「電力系統の不安定現象とその対策」
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