目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

揚水発電システム

揚水発電システムは,夜間の電力を利用してポンプで下部池から上部池へ水をくみ上げ,水の位置エネルギーとして貯蔵し,昼間のピーク負荷時に発電して電力消費の平準化を行うシステムである。

可変速揚水発電システムは,揚水運転時の入力調整機能のほかに,回転子のはずみ車効果によって蓄えられる回転エネルギーも有効電力として入出力が可能である。

揚水式発電所の特長

夜間や休日など燃料費の安い時間帯に揚水して水を上池に汲み上げ,昼間の火力燃料費の高い時間帯に発電する。

夜間に揚水することで高効率の大容量火力などのベース電源を高出力で運転し,昼間に発電して低効率火力の運転を抑制又は回避でき全体としての燃料費が節約できる。

また,供給力が不足した場合,数分で全負荷運転が可能な電源であり発電調整力が高く,ピーク電源として活用できる。

揚水式水力発電所の経済運用効果

揚水式水力発電所の経済運用効果は,オフピーク時の余剰電力等単価の低い電力を利用して揚水し,ピーク時に発電して電力の価値を高めることにある。

複数の火力発電所が連系している次の三つの電力系統に,揚水式発電所を導入する場合の経済運用効果について,その評価の考え方(主として費用の増減)を説明する。

高効率火力発電機と低効率火力発電機が運転している系統

揚水動力用の深夜の高効率火力発電機の出力増加による熱効率向上,ピーク時の揚水発電による低効率火力発電機の起動回数低減により経済運用効果が得られる。

ピーク時の低効率火力の起動費,発電費の低減分と,揚水のための高効率火力の発電費増加分の差が経済効果となる。

揚水のための高効率火力発電費増加分は,ピーク時の低効率火力の発電費低減量を揚水発電所の総合効率で割ったものに等しい。

高効率火力発電機が部分負荷で運転している系統

高効率火力発電機も部分負荷で運転すると,効率が著しく低下する。

ピーク時に部分負荷運転の高効率火力機がある場合は,それを停止し揚水発電で不足分を補うようにするとき,部分負荷運転での高効率火力発電機の熱効率用も高ければ経済効果が得られる。

また,オフピーク時に部分負荷の高効率火力機がある場合にも,揚水動力を増やしてその負荷率を高めて熱効率向上を図りピーク時に揚水発電すれば,同様の経済効果を得られる場合がある。

運転予備力を火力発電機で保有している系統

運転予備力は,天候急変などによる需要の急増などに対応して即時または 10 分程度以内に発電可能な供給力であり,部分負荷運転中の火力発電機余力や停止待機中の水力が該当する。

火力機の部分負荷運転で保有する場合は熱効率が低下するため,これを揚水発電で肩代わりさせれば,火力機の運転台数低減・部分負荷運転の回避により経済効果が得られる。

揚水発電はいったん揚水すれば発電に使用しないかぎり運転予備力としての価値は維持されるので,運転予備力として期待する期間が長ければ長いほど効果は大きくなる。

可変速揚水発電

可変速駆動方式

揚水発電所は,夜間の余剰電力で揚水し,昼間の電力消費ピーク時に発電することで昼夜間の負荷の平準化に寄与している。

負荷追従運転を行わない発電所の比率が増大し,電力消費の少ない夜間において発電電力が負荷に追従できない場合には,系統周波数を維持するために負荷調整する必要がある。

この負荷調整方法として,揚水運転時に入力を調整できる可変速揚水発電システムが導入されている。

この可変速駆動方式としては,大容量化が可能であること及び同期機としての機能をもっていることなどの要求から,発電電動機の回転子を交流励磁する二次励磁方式が主流になっている。

可変速発電電動機の固定子

可変速発電電動機の固定子は従来の発電電動機と同一の構造をもつが,回転子は磁極の代わりに三相分布巻線をもち,スリップリングを介して三相交流電流によって励磁される。

回転速度が変化しても他励周波数を固定子周波数と回転速度との差の周波数に制御することで,回転子で発生する磁束を常に系統の周波数に同期させることができるため,同期機としての特性をもった運転を行うことが可能となる。

三相交流電流を回転子に供給する励磁装置

三相交流電流を回転子に供給する励磁装置には,サイリスタを使用したサイクロコンバータ又はゲートターンオフサイリスタGTO)などを用いたインバータが用いられている。

可変速揚水発電

可変速揚水発電では,発電電動機として二重給電同期機が用いられる。

一次巻線は交流電源に直接接続され,二次巻線はサイクロコンバータ等の交流励磁装置によって励磁され,二次励磁周波数(滑り周波数)を変えることによって発電電動機を可変速運転できるようにしている。

発電運転時には出力や落差に応じて水車の効率が最大になるような回転速度で運転ができ,揚水運転時にはポンプの回転速度を変えることによって電力系統の負荷電力を調整できる。また,電力動揺の抑制など系統の安定化を図ることができる。

可変速揚水発電方式を採用する理由

可変速揚水発電方式を採用する理由は,以下のとおり。

  • 揚水時の周波数調整(出力調整)が可能
  • 発電運転時の効率向上
  • 電力動揺の抑制
  • 運転可能落差の拡大

揚水発電所における発電電動機の揚水始動方式

近年の揚水発電所では,一般的にポンプ水車が採用されている。

ポンプ水車の発電方向の始動は普通の水車と同様の取り扱いとなるが,揚水方向の指導はポンプ運転時のランナの反抗トルクを減らす目的で水面押し上げが行われた状態で行う。

揚水発電所における発電電動機の揚水始動方式としては,次のものがある。

  1. 制動巻線始動方式は,発電電動機の制動巻線を利用してかご形誘導機として発電電動機を始動する方式である。
  2. 同期始動方式は,発電機と発電電動機を停止時に電気的に接続し,両機に励磁を加えた後に発電機を始動し,発電機から発生した交流電力が発電電動機に伝達され,両機は同期した状態で始動加速が行われる方式である。
  3. 直結電動機始動方式は,発電電動機と直結された巻線形誘導電動機により始動加速する方式であり,始動トルクは誘導電動機の二次巻線に接続された抵抗器で制御する。
  4. サイリスタ始動方式は,発電電動機の停止中に励磁を加え,サイリスタ変換装置で発生した交流電力を発電電動機に加え,その周波数を低周波から定格周波数まで連続的に変えて加速する方式である。

サイリスタ始動方式

発電電動機の始動方法としては,サイリスタ始動が広く用いられている。

サイリスタ始動とは,停止中の発電電動機の回転子にあらかじめ励磁を与えておき,発電電動機の回転子位置検出器からの信号によりサイリスタ始動装置を制御し,回転子の磁極位置に対応した零(0)から発電電動機の定格周波数まで変化する交流を電機子に供給して始動する方法である。

揚水発電機の有水試験

揚水発電機の有水試験の一つとしてポンプ入力遮断試験がある。

ポンプ入力遮断試験の目的

全出力で揚水運転中になんらかの原因によってポンプの入力が遮断(発電電動機の電源を遮断)された場合,鉄管およびポンプの水圧,回転速度,発電電動機電圧などが制限値を超えることなくポンプ水車および発電電動機が安全に停止できるかどうかを確かめる。

入力遮断時の運転状態の変化及び水圧管圧力の変化の状況

  • 鉄管水圧:入力遮断と同時に若干低下するが,ガイドベーンの動作により水圧は上昇する。このとき水圧は脈動する。
  • 吸出し管水圧:入力遮断と同時に上昇し,徐々に低下するが,常に水圧は脈動している状態である。
  • ポンプの流量:急激に低下する。
  • 水の方向:揚水は低下し,逆流を生ずる。
  • 回転速度:回転速度は低下し逆回転となり,ガイドベーンが閉止した段階で回転速度は零となる。
  • ガイドベーン:入力遮断と同時に閉まる方向に動作する。
  • 電動機電圧:数秒間程度発電機となって電圧は一瞬上昇するが,その後急激に低下する。
  • 励磁回路:励磁を急激に弱める方向に動作し,励磁を遮断する。

試験において,注意すべき異常状態とそれを避けるための留意事項

注意すべき異常状態
  • 鉄管内の水圧上昇と水の逆流:入力遮断によりガイドベーンを閉鎖する場合,閉鎖速度が速いと管路に激しい水撃作用を生じ,ポンプおよび鉄管に大きな機械的衝撃を与えることがある。
  • ガイドベーンあるいは主弁の不動作:ポンプ運転中に電源が遮断されたとき,ガイドベーンあるいは主弁が閉じないと,ポンプ運転からポンプ逆流運転を経て水車運転となり無拘束速度に達し,発電電動機の破損を引き起こすことがある。
注意すべき異常状態を避けるための留意事項
  • 最初から全入力遮断となるため,ガイドベーンの閉鎖特性をあらかじめ検討しておく。
  • ポンプはガイドベーンを急閉鎖して停止するが,このとき速く閉じすぎると水撃作用が大きく,遅すぎると逆流する水によって主機が逆回転するようになる。竣工時の試験においては,閉鎖時間をあらかじめ計算して見当をつけておく。前回の記録があれば無水試験時に比較しておく。
  • 竣工試験時は最初から全出力時の電源遮断を行わず部分出力時の試験を行い,水圧の変化や回転数の変化を見極めてから行う。
  • サージタンクあるいは水圧管路を複数台数で共通に使用している場合は,負荷遮断試験と同様に同時遮断試験を行う。
  • 入力遮断前の発電電動機・ポンプの回転速度,発電電動機電圧および力率は定格値に保持する。
  • サージタンクなど土木構造物の状況を確認しておく。
  • 系統に大きな動揺を与えないよう,試験時間や遮断容量を検討しておく。
  • 鉄管およびポンプの水圧,回転速度,発電電動機電圧,ガイドベーン開度などについてはオシロ測定を行い,遮断後の過渡現象を記録する。

参考文献

更新履歴

  • 2022年6月19日 新規作成
  • 2022年7月10日 参考文献に「平成23年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2022年8月28日 参考文献に「令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1」を追加
  • 2022年10月17日 参考文献に「平成25年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2022年12月17日 参考文献に「平成14年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2022年12月18日 参考文献に「平成11年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2024年11月23日 参考文献に「平成24年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加