目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力系統安定化装置(PSS)

電力系統安定化装置(PSS),統合型系統安定化システム(IRAS)について説明する。

電力系統安定化技術

電力系統安定化技術は,電力系統の基本特性を表す諸論理と高度な系統解析に基づき,電力系統が安定運転を継続できなくなるような事態に到達する前に,適切な制御を高速に実施して,大規模停電を未然に防止する技術である。

稀頻度ではあるものの,いったん発生すれば大規模停電にいたる過酷な事故の影響を最小限に留めるため,この技術は送電線や変電所の増設など,電力系統の主回路設備による基本的対策とあわせて,巨大に複雑化した電力系統の効率的形成と供給信頼度の確保に多大な貢献をしている。

電力系統安定化技術の歴史

電力系統安定化技術の分野では,これまで日本が世界の最先端を走っている。

第二次世界大戦後の急速な経済発展に伴う電力需要の急増に対応するため,日本は狭隘な国土での電源立地制約のなかで,大規模電源の遠隔集中開発,およびそこからの大電力を消費地まで送電する長距離基幹送電線や大規模変電所など,流通設備の整備を行いながら,世界的にみても信頼性の高い電力系統を構築してきた。

そして,この系統拡大の途上で,長距離大電力輸送に伴う同期安定性などの新たな技術的課題や,社会的に多大な影響を及ぼす広域的大停電事故も経験した。

こうした経験を踏まえ,日本の大規模停電を防止する電力系統安定化技術は開発・実用化されてきたのである。

電力安定化技術の発展に影響を与えた事故

過去,大規模停電を経験しており,これらが系統安定化技術の発展に大きな影響を与えている。

御母衣事故(1965年)

複合的・連鎖的な電気的現象により大規模停電に至った例として,1965 年の 275 kV 送電線盲点事故(いわゆる御母衣(みぼろ)事故)がある。

この事故は,保護上の盲点をきっかけとし,脱調,電源の脱落・周波数低下を引き起こし,最終的に大規模停電にいたったものである。

首都圏大規模停電(1987 年)

需要の急増により大規模停電にいたった例としては,1987年7月に発生した首都圏大規模停電があげられる。

この事故は,需要の急増により電圧を維持することができなくなり,三つの電源変電所が停止した結果,合計約 800 万 kW の大停電に至ったものである。

電力系統安定化装置(PSS)

電力系統安定化装置(PSS : Power System Stabilizer)は,発電機の動揺を検出して,発電機 AVR (自動電圧調整装置,Automatic Voltage Regulator)への補助信号を生成し,動揺を減衰させることを目的とした装置である。

補助信号の入力としては,電力系統の特性に応じて,発電機出力変化,軸回転速度変化 ,周波数変化のいずれか,あるいは,これらの内の 2 種類の組み合わせが用いられている。

補助信号は,フィルタと位相補償回路などを介して,AVR に入力され,発電機の制動トルクを増加させる効果がある。

電力系統安定化装置は同期安定性の向上に寄与するため,火力発電機等に採用されている。

電力系統安定化装置(PSS)

電力系統安定化装置(PSS)

系統事故等のじょう乱時に,同期発電機の励磁を迅速かつ適切に制御することで出力電力の過渡動揺(発電機相差角の動揺)を抑制することができる。そのために AVR を含む励磁系の応答を高めた超速応励磁方式が採用されている。

しかしながら,速応性を高めていくと,動揺の第一波は抑制できるものの第二波以降の減衰が悪くなって振動が長時間継続する弱制動現象が発生する傾向があり,場合によっては振動が増大して脱調に至ることもある。

この弱制動現象を抑制するために励磁を動的に調整し,電力動揺の減衰性(制動力)を高める機能を持つ PSS を AVR に付加する方策が広く適用されている。

上図に PSS 装置の概要を示す。

本装置は電力動揺 $\Delta P$ を検出する代表的な $\Delta P$ 形と呼ばれるものであり,$\Delta P$ 検出装置で検出した $\Delta P$ に対して補償装置で適切な利得と位相補償を施して補助信号を作成し AVR の入力に加算して励磁を動的に制御することで,動揺を減衰させる制動トルクが発生するようにしている。

超速応励磁装置の目的及び機能

送電線に地絡事故などが発生すると,発電機が加速しはじめ,場合によっては脱調に至ることがある。

超速応励磁装置は,このような系統事故時の発電機端子電圧の低下を迅速にとらえて,界磁電流を増加させることにより発電機の背後電圧を上げ,電気出力を増加させて脱調を防止するものである。

発電機には界磁電流を制御し,発電機端子電圧を自動的に調整する AVR 等が設置されている。

一般に超速応励磁制御装置とは,励磁機にサイリスタを用い,その応答性が数十 ms 以下ときわめて高速で,かつ励磁頂上電圧(励磁装置の出し得る最大の界磁電圧)を定格運転中の約 7 倍と高くし,高速励磁制御できるようにした装置をいう。

系統の事故発生後に発電機の界磁電流を高速に増加させ,その内部誘起電圧を急速に持ち上げ,送電電力を高め,発電機の加速エネルギーを抑えることにより,事故除去後の動揺第 1 波目の発電機相差角拡大の抑制,すなわち,過渡安定度を高めることができる。

系統安定化装置を併せて設置する理由

超速応励磁は,過渡安定度対策としてはきわめて有効であるが,系統操作などの微小な外乱に伴う動揺や,系統事故除去後,いったん過渡安定度が維持されたのちに残る動揺に対しては,反対にダンピングを弱める作用をする。

このための対策として,超速応励磁方式に系統安定化装置(PSS)を併せて設置する。

統合型系統安定化システム IRAS

2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震により,北海道エリアにおいて日本で初めて供給エリア全域が停電するブラックアウトが発生した。

この対策の一つとして,北海道電力ネットワーク(株)では統合型系統安定化システム(Integrated Remedial Action Scheme : IRAS)の導入を進めており,2024年3月の運用開始が予定されている。

IRAS の概要

IRAS はすべての装置をディジタルリレーで構成し,北海道の主要な電気所に設置,これらが高速で信号を伝送し,連携して系統安定に必要な制御を行うことで北海道の電力系統の安定を維持する。

IRAS を構成する主な装置の概要は次のとおり。

中央装置

系統制御所に設置し,各検出装置からの上り情報(発電機出力,電源脱落信号,線路潮流,送電線事故信号等)を基に制御演算を実施し,下り情報として発電機制御指令・負荷制御指令を各制御装置に送信する。

検出装置

発電所や変換所等に設置し,線路潮流計測や電源脱落検出,送電線停止検出を行う。

制御装置

発電所や変電所等に設置し,発電・負荷制御を行う。

参考文献

  • 伊藤 秀之(富士電機),「用語解説 第83回テーマ:PSS(電力系統安定化装置)」
  • 守谷 直之(北海道ネットワーク),「統合型系統安定化システム IRAS について」
  • 令和3年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統安定化装置(PSS)」
  • 平成27年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「同期発電機の励磁系と同期安定性」
  • 平成26年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統安定化装置(PSS)」
  • 平成23年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「同期発電機の励磁方式」
  • 平成17年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「超速応励磁装置」
  • 平成10年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「電力系統安定化装置(PSS)」

更新履歴

  • 2021年10月26日 新規作成
  • 2022年5月21日 参考文献に「平成26年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年6月5日 参考文献に「平成10年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」を追加
  • 2022年6月21日 参考文献に「平成27年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年12月11日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2023年10月21日 参考文献に「統合型系統安定化システム IRAS について」を追加,参考文献に記載した過去問題のテーマを記載
  • 2024年9月14日 「電気主任技術者」グループ貼り付け
  • 2025年12月20日 電力系統安定化技術を追加
  • 2026年3月25日 誤植訂正,SEO・SNS 向け設定を追加