電力系統に並列運転する同期発電機*1は,系統から受けるじょう乱に対して同期運転を維持するための安定条件が必要であり,これを電力系統の安定度と呼んでいる。
安定度の分類
安定度は,対象とする時間領域や,じょう乱の大きさにより下表の分類で区分されることが多い。
| 定態安定度 | 電力系統の平衡運転状態にあって,ごく微小なじょう乱が加わったときに動揺が収まり元の状態に戻るか否かの安定度。 |
| 過渡安定度 | 電力系統に加わるじょう乱が比較的大きい場合で,じょう乱からの経過時間がごく短い領域の現象を対象とした安定度。 |
| 動態安定度 | 過渡安定度の領域に引き続く領域の現象を対称とし,励磁系や調速系などが重要な役割を持つ。 |
| 長時間動特性 | 動態安定度領域よりも電圧安定性や周波数変動といった長時間の領域の動特性を対象とする。 |
定態安定度の向上対策としては,系統に直列コンデンサを接続する方法があるが,直列コンデンサで補償された送電系統の共振周波数と,発電機の軸ねじり共振周波数とで低周波共振現象が発生する可能性があることからほとんど採用されていない。
実際には,送電電圧の昇圧や,諸外国で採用されている HVDC 送電などが効果的である。
過渡安定度や動態安定度の向上対策としては,送電線事故時の遮断時間や再閉路時間を短縮して事故によるじょう乱の影響を少なくする方法や,発電機の慣性定数を大きくすることで不安定に至るまでの時間を延ばす方法なども効果がある。
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過渡安定度
過渡安定度(transient stability)とは,電力系統に急激なじょう乱があったとき再び安定状態に回復し送電できる度合。
時間的にはじょう乱発生から数秒程度までの時間領域の現象をさす。
過渡安定度は,送電電力だけでなく故障除去時間との関係で決まり,過渡安定度限界としては過渡安定極限電力と臨界故障除去時間などの指標を用いる。
また,発電機内部の過渡現象がおもな役割を演じ,応答速度の遅い制御装置の特性は大きな影響をもたないが,特に制御系を考慮した過渡安定度を動的過渡安定度という。
なお,過渡安定度と定態安定度の間の時間領域の現象を中間領域安定度という。
電力系統の過渡安定度向上対策
直列コンデンサ
線路に直列にコンデンサを挿入して,送電線などのリアクタンスを補償し,全体のリアクタンスを小さくすることにより,減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
留意点は,発電機・タービン系との軸ねじれ共振(SSR : SubSynchronous Resonance),無負荷変圧器励磁時の鉄共振,故障電流によるコンデンサ端子電圧での異常電圧の発生などがある。
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励磁方式の応答性と発電機のシーリング電圧の改善
発電機励磁方式を速応化し,かつ,シーリング電圧(頂上電圧)を高電圧化することにより,発電機内部電圧を上昇させることにより,減速エネルギーを増加させて過渡安定度を向上させる。
留意点は,速応化により振動発散現象(負制動現象)が生じやすくなるので,一般にはPSS(電力系統安定化装置)が付加されること,発電機の界磁巻線の絶縁である。
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高速遮断と高速再閉路方式
高速な保護リレーによる事故判定と高速な遮断器動作によって事故除去時間を短縮し事故中の加速エネルギーを減少させ,また,高速な再閉路により減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
留意点は,高速再閉路に適した動作責務を持った遮断器にすること,発電機-タービン軸間に過大な軸トルクの発生と,消アークイオン時間を考慮した再閉路時間の設定である。
高速再閉路のタイミング
再閉路時に故障点の短絡が解消されていない場合に,再閉路が行われると再び三相短絡が発生し,大きな電気的トルクが再び軸に加わることになる。
このため軸は故障発生時に加速方向,故障除去時に減速方向,再閉路(失敗)時に再び加速方向の電気的トルクの急激な変化にさらされる。
この大きな衝撃によって軸にはねじれ現象が発生するが,その減衰は一般に極めて悪く,固有振動数は 10 Hz 程度である。
このため,再閉路失敗のタイミングが 0.1 秒程度以下の範囲で僅かに前後するだけで,その瞬間の軸のねじれ振動は様々な状態をとりうる。
最悪の場合としては軸がちょうど加速しているところで再閉路失敗の加速方向のステップ変化を受けることも考えられ,この場合には軸は大きく機械的に歪むことになり,材料疲労は過酷となる。
タービン高速バルブ制御
事故を検出して,高速に蒸気弁を閉鎖し,タービン出力を減じることにより,主に事故除去後の減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
蒸気弁としては,通常のインターセプト弁のみの制御であるが,加減弁を制御することもある。
留意点は,蒸気弁の閉鎖により蒸気圧力が上昇しすぎないこと,タービン出力の急変に対しPSSが正常に動作することを確認することである。
低インダクタンス送電線
送電線を複導体化し,主に複導体の等価半径を大きくして,送電線のリアクタンスを減少させ,主に減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
複導体化に伴う留意点は,電気的には静電容量の増加,機械的には荷重の増加,ギャロッピングやサブスパン振動および複導体の稔回(ねじれ)などへの対処である。
慣性問題
発電機は大きく直流発電機,誘導発電機,同期発電機の三種類に分類できるが,水力,火力,原子力などの従来の大型発電機は同期発電機を採用している。
同期発電機は,回転質量により慣性の維持を提供し,周波数を一定に保つ傾向があり,同期エリア内の発電機はすべて同じ回転数で回転している。
一方,現代のほとんどの風車や太陽光発電所,蓄電池は,パワーエレクトロニクス機器を介して接続されており,原理的に慣性応答を提供しない。
慣性が十分ある電力システムでは,その電力システムの中の最大の設備(原子力発電所や超高圧送電線)に事故があり,大きな容量が瞬時に脱落しても,電力システム全体で安定度が維持できるように設計されている。
慣性が十分にある電力システム
慣性が十分にある電力システムでは周波数低下の度合い(周波数変化率 RoCoF : Rate of Change of Frequency)が小さく,低下した周波数の最小値(周波数最大偏差 Nadir)もそれほど低くない。
通常はこの周波数低下の間にガバナフリーが自動的に働き,周波数を元に戻す方向で回復していく。
慣性力が不足する電力システム
慣性が不足する電力システムでは,RoCoF は大きく,Nadir は低くなる。
これらの値があらかじめ定められた限界値を超えると,各発電機が自身の安全性を守るために継電器(リレー)が働き,発電機が一時的電力システムから切り離され,最悪の場合は発電機が次々とストップし,連鎖停電やブラックアウト(全域停電)に至る。
これが慣性問題である。
系統慣性を管理する指標
系統慣性を管理する指標として SNSP と Msys が世界的に用いられている。
SNSP (the system non synchronous penetration)
総需要 (MW) に対する非同期電源の比率。
Msys (MW・sec)
系統全体の系統慣性エネルギー。
参考文献
- 佐々木龍一,「E-STATCOM による系統安定化対策~ヨーロッパにおける導入状況~」,電学誌,144 巻 7 号,2024 年
- 杉澤孝倫,「特集 電力安定供給を支える電力流通設備計画・運用技術―3 電力系統の特徴と制約」,電学誌,145 巻 4 号,2025 年
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Masassiah Web Site, 「電力系統の計画」
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平成29年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「高速再閉路がタービン発電機の軸に与える影響」
- 平成29年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「電力系統の過渡安定度向上対策」
- 平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6「電力系統の安定度」
更新履歴
- 2022年8月31日 新規作成
- 2022年10月16日 参考文献に「平成29年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
- 2022年11月4日 参考文献に「平成29年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
- 2023年9月30日 タイトルを「電力系統の安定度」から「電力系統の安定度~同期発電機が同期運転を維持するための安定条件~」へ見直し,Masassiah Web Site, 「電力系統の計画」を追加
- 2024年7月29日 同期発電機の脚注を追加
- 2024年9月23日 参考文献に「E-STATCOM による系統安定化対策~ヨーロッパにおける導入状況~」を追加
- 2025年7月5日 系統慣性を管理する指標を追加
- 2025年9月21日 記事の概要,検索エンジン向けタイトル,SNS 向けタイトルを見直し
- 2025年12月20日 「直列コンデンサによる送電能力の向上」へのリンクを追加