目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

大容量タービン発電機に採用される水素冷却方式

大容量タービン発電機の冷却方式には,冷却媒体に水素ガスを用いる水素冷却が多く採用されている。

水素冷却発電機*1は水素ガスの漏えいや,空気の侵入を防止するため,水素ガスシール装置を備えている。

水素ガスシールは回転子軸とシールケーシング内に取り付けたシールリングの間隙に,機内水素ガス圧力と比べ高い圧力のを供給し,この油が水素ガス側と空気側に流出し続けることで水素ガスが機外に漏洩するのを防止している。

シール油の制御方式のうち,連続掃気方式は,使用後のシール油をそのまま供給する方式で,シール部と発電機本体の間に隔室を設け,ここから純度の低い水素ガスを排出している。

同じく,複流方式は,シール油の供給回路を空気側と水素側とに分けてシールする方式である。

水素冷却方式の特徴

空気冷却と比べた,水素冷却の特徴を列挙する。

  • 水素の比重は,空気の 0.07 倍と小さいため,風損を約 1/10 に低減できる。このため,発電機効率を 1 ~ 2 % 程度向上させることができる。
  • 水素の比熱は,空気の 14.3 倍と大きく,かつ,熱伝達率が大きいので,冷却効率が向上する。
  • コロナの発生開始電圧(コロナ発生電圧)が高いため,コロナが発生しにくくなり,絶縁物の損傷が少なくなり,寿命を延ばすことができる。
  • 運転中の騒音が少ないので,環境保全上,優れている。

引火,爆発の対策

水素と空気の混合ガス(水素ガスに空気がある割合(30 ~ 90 %)混入)は引火,爆発の危険があるので,対策を実施する。

  • 水素純度を常に高く保つ(90 % 以上)
  • 固定子枠を耐爆構造とする
  • 軸貫通部の水素漏れを防止するため軸受の内側に密封油制御装置を設ける

発電機に付属される密封油装置の設置目的と密封方法

密封油装置は機内の水素ガスを密封する目的で設置される。

密封方法としては,密封油を機内ガス圧より 70 [kPa] 程度高い圧力で供給し,この油を密封リングのなかの小穴を通って軸と密封リングのすき間に流れ込ませて軸に沿って空気側および水素側に押し出し,軸と密封リングの間に油膜をつくって密封する。

可能出力曲線(発電機容量特性曲線)

水素冷却発電機において,横軸に有効電力,縦軸に無効電力をとり定常運転を行う範囲を表したものを可能出力曲線(発電機容量特性曲線)という。

可能出力曲線(発電機容量特性曲線)の一例を図に示す。

図中,曲線①において,A-B 部は界磁電流,B-C 部は電機子電流,C-D 部は固定子鉄心端部温度によりそれぞれ制限される。

また,曲線② は曲線① に比べて,発電機の水素ガスの圧力が低い状態における定常運転範囲を表している。

図 可能出力曲線(発電機容量特性曲線)

図 可能出力曲線(発電機容量特性曲線)

電気設備に関する技術基準を定める省令

第35条 水素冷却式発電機等の施設では,以下のように定められている。

水素冷却式の発電機若しくは調相設備又はこれに附属する水素冷却装置は,次の各号により施設しなければならない。

  1. 構造は,水素の漏洩又は空気の混入のおそれがないものであること。
  2. 発電機,調相設備,水素を通ずる管,弁等は,水素が大気圧で爆発する場合に生じる圧力に耐える強度を有するものであること。
  3. 発電機の軸封部から水素が漏洩したときに,漏洩を停止させ,又は漏洩した水素を安全に外部に放出できるものであること。
  4. 発電機内又は調相設備内への水素の導入及び発電機内又は調相設備内からの水素の外部への放出が安全に検知できるものであること。
  5. 異常を早期に検知し,警報する機能を有すること。

参考文献

更新履歴

*1:回転子および固定子を水素で冷却する発電機である。タービン発電機のように高速かつ大容量になると,冷却効果および損失の観点から水素冷却方式が採用される。