目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

低圧・制御回路のサージ対策技術

わが国における発変電所の低圧・制御回路に発生するサージ現象については,電気協同研究「低圧制御回路絶縁設計(昭和51年8月)」で技術的調査や現象の調査が行われ,これらの成果に基づいた各種の対策が行われてきた。

しかしながら,この報告書の発行後,発変電所の低圧・制御回路の構成や設置環境が大きく変化してきた。

最近,電力用保護制御システムやその設置環境は大きく変化しており,保護制御システムについては,電磁形からマイクロプロセッサを用いたディジタル形が主流となって,電子機器化が進んでいる。

また,設置環境面ではガス絶縁開閉装置(GIS)の幅広い採用,機器の近傍への保護制御システムの設置などによって,サージの形態や考慮すべきサージ耐量が変化している。

低圧制御回路の絶縁設計上及び装置の信頼度設計上配慮すべき異常電圧はサージ性電圧であり,次のように分類される。

雷に起因するサージ性電圧

  • 電気所の母線,接地線等に雷サージ電流が流れ,近傍する制御ケーブルに誘導するもの。
  • 主回路に侵入した雷サージ電圧・電流が計器用変成器の二次回路に誘導するもの。
  • 電気所の接地系に雷サージ電流が流入し,流入点の接地電位が上昇,近傍に設置された低圧制御回路に誘導するもの。

母線,架空地線,埋設地線を伝搬する雷サージの電磁誘導

母線,地線,鉄構等に雷電流が流れることにより,周辺に磁束変化が生じ,この磁束変化を妨げる方向に逆起電力が発生する。

この逆起電力が電磁結合により,付近にある制御ケーブルに直接作用して,雷サージが伝搬していく。

したがって,雷電流が流れる母線,地線等と制御ケーブルとの距離や位置関係が,雷サージの伝搬特性に大きく影響することになる。

埋設地線から制御ケーブルへの雷サージの移行においては,距離が離れるに従い,制御ケーブルに移行するサージ電流は減少する。

計器用変圧器を介した電磁・静電誘導

計器用変圧器や変流器等の計器用変成器は,1 次側の巻線あるいは母線に流れる電圧や電流を,鉄心等を用いた電磁結合により所定の値にして,制御ケーブルに接続された 2 次側巻線に伝える。

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そのため,この電磁結合を介して母線に流れる雷サージが制御ケーブルへと移行していく。

さらに,計器用変成器は,1 次側と 2 次側巻線との間に浮遊静電容量が存在し,そのため母線に侵入した雷サージ電圧は静電誘導によっても制御ケーブルへと移行する。

また,コンデンサ形の計器用変成器の場合には,雷サージ電圧は静電容量比に応じて分圧され,制御ケーブルへと伝搬していくことになる。

これらの電磁・静電誘導は,計器用変成器の電磁・静電結合の周波数特性や巻数比,サージ対策の有無など,機器自身の構造や特徴が強く影響することになる。

接地電位上昇による静電誘導

架空地線への雷撃や誘導,あるいは避雷器からの雷電流の流入により,発変電所内の接地系に雷電流が流れると,接地インピーダンスによって雷電流入点の接地電位が上昇する。

これにより,各所,各機器の接地電位が上昇し,浮遊静電容量を介して制御ケーブルに電位が発生する。

また,各所での接地電位の差により,接地系を介して局所的な循環電流が流れたり,機器間で電位差が生じて絶縁破壊に至ることもある。

主回路の開閉に起因するサージ性電圧

  • 遮断部や断路器の開閉で主回路に発生した開閉サージが計器用変成器の二次回路に誘導するもの。
  • GIS 機器において発生した開閉サージが接地電位を上昇させ,近傍に設置された低圧制御回路に誘導するもの。

計器用変成器による主回路サージの伝搬

計器用変成器による主回路サージ移行の原理は,「計器用変成器を介した電磁・静電誘導」と同じである。

ただし,主回路サージは数 100 kHz ~ 数 10 MHz 程度の高周波振動であるため,計器用変成器の電磁結合はほとんど働かず,静電誘導が主となる。

直流回路の開閉に起因するサージ性電圧

  • 直流回路の容量性や誘導性の負荷を接点で開放するとき,近傍に設置された低圧制御回路に発生するもの。

サージ対策技術

低圧制御回路におけるケーブル敷設時

低圧制御回路におけるケーブル敷設時でのサージ低減対策は,以下のとおり。

  • 金属シース付き低圧制御ケーブルを採用しシースを接地する。
  • 低圧制御ケーブルを高電圧ケーブルから離す。
  • 直流回路では,リレー回路のコイルに並列コンデンサダイオードなどを接続し,開閉サージ電圧の発生を抑制する。

配電盤における対策

  • 避雷器又はコンデンサなどのサージ吸収装置を盤側端子に接続し,盤内へのサージ侵入を阻止する。
  • 絶縁変圧器,中和コイルなどによって,盤側へのサージ侵入を阻止する。

参考文献

  • 低圧・制御回路のサージ現象調査専門委員会編「低圧・制御回路のサージ現象」,電気学会技術報告 第1115号,2008年5月
  • 令和3年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「変電所の絶縁設計において支配的な要素となる雷サージ」
  • 平成23年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「電力設備の低圧制御回路の絶縁設計」
  • 平成15年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「電力用保護制御システムのサージ対策技術」

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更新履歴

  • 2022年6月16日 新規作成
  • 2022年6月19日 参考文献に電気学会技術報告「低圧・制御回路のサージ現象」を追加
  • 2022年8月21日 参考文献に「令和3年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2022年11月6日 参考文献に「平成23年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加