目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力系統の中性点接地による異常電圧抑制

電力系統に 1 線地絡故障のような不平衡故障が起こると変圧器や回転機の三相巻線の Y 結線の中性点接地を経由して大地を帰路とする地絡電流が流れる。

送電線の 1 線が地絡した結果,他の健全な相の対地電圧が上昇する 1 線地絡時健全相対地電圧上昇がおき,商用周波電圧が一時的に最高電圧よりも上昇する*1

中性点と大地との接地インピーダンスを小さくすると*2,地絡電流を検出する保護リレーの動作が確実となり,健全相の電位上昇を抑えることができて,機器の絶縁レベルを軽減できる。

その反面,近辺での通信線路に発生する電磁誘導電圧が大きくなる。

electrical-engineer.hatenablog.jp

一方で,接地インピーダンスを大きくすると,1 線地絡故障の場合には,健全相の対地電圧は相電圧の $\sqrt{3}$ 倍まで上昇するとともに,長距離線路では対地静電容量が大きいために間欠アーク地絡が発生して機器の絶縁を脅かす過渡的異常電圧が生じることがある。

electrical-engineer.hatenablog.jp

回路理論的な考察

中性点接地方式の差は回路理論的には零相回路の差である。

この差が特に過渡時(系統事故発生,雷撃・開閉操作など)の系統の変動を大きく左右する。

直接接地系統の異常電圧

直接接地方式

直接接地方式は,わが国の 187 [kV] 以上の系統に適用されているが,1 線地絡事故時の健全相電位上昇を小さく抑制することができ,絶縁設計,設備形成の合理化に優れている。

ただし,地絡事故時の故障電流が三相短絡電流と同様に非常に大きくなる場合があるため電磁誘導障害の検討が必要である。

直接接地方式は,下図に示すように三相変圧器の Y 結線の中性点を直接接地している。

図 中性点の直接接地方式

図 中性点の直接接地方式

抵抗接地系統の異常電圧

抵抗接地方式

抵抗接地方式(resistance-grounded sysytem)は,中性点を百アンペアから数百アンペアの電流が流れる抵抗器で系統の要所で接地し,地絡事故時の故障電流を抑制しつつ保護リレーの動作を確実にするとともに,事故時の健全相電位上昇を通常時の 1.73 倍程度以下に抑える方法である。

非接地系統の異常電圧

非有効接地方式では地絡時に地絡故障電流を低減できる(したがって,誘導障害対策上も有利)。

非接地方式

非接地方式は,地絡事故時の故障電流が小さいなどの利点があるが,保護リレーの事故点選別能力が低く,また,健全相電位上昇も大きくなりやすいことから, 30 [kV] 程度以下の小規模系統に適している。

地絡時の過渡異常電圧

非接地系統(ungrounded sysytem)における地絡発生時の故障電圧,電流には回路定数や故障発生位相によって過渡振動成分が含まれる。

1 線地絡時に健全相に現れる過渡振動電圧(TOV : Temporary Over-voltage)は,地絡相電圧が最大位相で地絡した時に最大で,非接地系統では,地絡相電圧と同程度となり,回路の抵抗分によって時間的に減衰する。

したがって,健全相電圧は,基本周波分が故障前相電圧の $\sqrt{3}$ 倍,過渡振動分が最大 1 倍程度で,合計 2.7 倍程度に上昇することもある。

間欠アーク地絡とは

非接地系統の地絡時,地絡電流が零の位相で自然消弧すると,対地静電容量には,残留電荷が蓄えられる。

これが放電する前に地絡点で再点弧すると,健全相に大きな過渡異常電圧が現れることがあり,この現象は間欠アーク地絡*3と呼ばれている。

配電系統に電力ケーブルが多く適用されれば,対地静電容量が大きくなるため(すなわち放電時間が長くなるため),間欠アーク地絡が起こりやすくなる。

間欠アーク地絡とは,中性点非接地方式で発生する異常現象の一つ。

中性点非接地方式で 1 線地絡故障が起こったとき,地絡点のアーク電流が消弧と再点弧を交互に繰り返し,健全相に異常振動電圧を発生することがあるが,この現象をいう。

(出典)E&M JOBS 技術者のための転職サイト

配電系統の絶縁強度

配電系統の絶縁強度は電気的な要素以外の条件(例えば,導体の機械的強度)で決定せざるを得ない。

例えば,仮に配電系統を直接接地方式に切り替えたとしても,配電線(被覆導体)や配電用変圧器の絶縁レベルを下げて,経済効果を期待することはできない。

(参考)電磁誘導電圧の制限値の変遷

日本では従来,電磁誘導電圧の制限値は,中性点直接接地方式の超高圧送電線の場合は 430 V,0.1 秒,そのほかの送電線では 300 V を基準としていた。

ところが,国際電気通信連合(ITU-T)では,一般的に 2 000 V,保守管理作業など過酷な場合に 650 V を制限値として勧告としている。また,アメリカやヨーロッパ諸国では,一般送電線で 430 V,高安定送電線で 650 V としていた。

このような背景の中,わが国の基幹送電系統は 500 kV 送電線で構成され,送電系統の信頼性は向上してきたこともあり,超高圧以上の送電線で事故の発生頻度が少なく,かつ事故の継続時間がきわめて短い(0.06 秒以下)高安定送電線では 650 V まで許容することに改められた。

参考文献

  • 長谷 良秀,「電力技術の実用理論 第3版 発電・送配電の基礎理論からパワーエレクトロニクス応用まで」第8章 中性点接地方式
  • 新田目 倖造,「電力系統技術計算の応用」6. 中性点接地方式と故障現象
  • 雪平 謙二,「配電線の間欠孤光地絡時における電流波形形状の解明と故障点探査への適用」,電力中央研究所報告(185016),昭和60年12月
  • 令和3年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「電力系統の中性点接地による異常電圧抑制」
  • 平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7「電力系統の中性点接地方式に関する記述」

更新履歴

  • 2021年10月29日 新規作成
  • 2021年11月23日 加除修正
  • 2022年1月22日 「特別高圧架空電線路による電磁誘導障害」「電力系統の中性点接地の目的と方式」のリンクを追加
  • 2022年3月17日 参考文献に「電力系統技術計算の応用」「配電線の間欠孤光地絡時における電流波形形状の解明と故障点探査への適用」を追加
  • 2022年4月22日 参考文献に「電力技術の実用理論 第3版 発電・送配電の基礎理論からパワーエレクトロニクス応用まで」を追加
  • 2022年7月30日 参考文献の過去問題の題目を追記
  • 2022年8月13日 クリエを参考にリライト
  • 2022年8月20日 1 線地絡時健全相対地電圧上昇の説明を追加

*1:1 線地絡時健全相対地電圧上昇は,商用周波過電圧といい,高調波過電圧とまとめて短時間交流過電圧という。

*2:中性点と大地との接地インピーダンスを最も小さくできるのは,直接接地方式である。

*3:アークが点弧と消弧とを繰り返す現象を間欠アークという。