送電線に隣接する通信線路への電磁誘導(electromagnetic induction)による異常時誘導電圧は,送電線に 1 線地絡事故が発生した場合に事故電流が大地帰路電流となって流れることにより誘起される。
誘起電圧低減対策のうち,送電線の対策としては,架空地線の低抵抗化や条数を増やす方法などが実施されている。
また,通信ケーブルの対策としては,通信線ルート変更による離隔の確保,遮へい効果の高いケーブルへの張替え,避雷器の設置による誘導電圧の低減などが実施されている。
通信ケーブルの対策は,次のページが参考になる。
通信線に誘起される電圧の種類と発生原理
特別高圧架空電線路による電磁誘導(electromagnetic induction)作用により,通信線に誘起される電圧の種類と発生原理について述べる。
特別高圧架空送電線路は,故障時以外はバランスして相電流が流れているため,大電流が流れていても,ある程度通信線が離れていれば,各相と通信線との間の相互インピーダンスは等しく,電磁誘導電圧は生じない。
しかし,下図のように導線 A に電流が流れる瞬間,(電流 A が流れ始めることによる磁束の変化により)導線 B に反対方向に電流が流れる。
導線 A の電流が切れる瞬間,(電流 A が切れることによる磁束の変化により)導線 B に電流が流れる。
導線 B に起電力を発生させる源は磁束の変化であり,この現象を電磁誘導という。
異常時誘導電圧
特別高圧架空電線路(送電線)に一線地絡事故が発生した場合,地絡電流が大地帰路電流となって流れることにより,隣接する通信線路と大地との間に誘起される電圧
常時誘導電圧
送電線の常時運転時に,各相の負荷電流の不平衡や各相の送電線と通信線の離隔の不整合によって誘起される電圧。
常時誘導縦電圧
常時誘導縦電圧は,送電線などの正常運転時に,誘導作用により通信線の長さ方向に生ずる誘導電圧である。
送電線の常時運転時に,各相の負荷電流の不平衡などによって近接する通信線と大地との間に誘起され,作業者の安全確保を対象とした場合の制限値は,一般に,60 V とされている。
誘導雑音電圧
送電線に常時流れる高調波電流に起因して生じる電圧。一般電話回線の場合の制限値は,一般に,0.5 mV とされている。
電磁誘導電圧の制限値等
特別高圧架空電線路の弱電流電線路に対する電磁誘導電圧の制限値は,弱電流電線路の管理者と協議のうえ決定することとしている。
なお,わが国では,誘導調査特別委員会報告(電気学会・電子情報通信学会 平成5年11月)において次のように報告されている。
「屋外作業などにおいて人間の胴体と電柱や通信線の吊線などとの接触部が誘導電流の通電経路にならないような設備上の絶縁対策を実施したうえで,故障電流が 0.06 秒以内に除去されるように維持されている高安定特別高圧架空電線路からの誘導電圧については,650 [V] を制限値とすることが適切である。」
電磁誘導電圧の計算式
この電磁誘導電圧の計算式は,一般に竹内式あるいは深尾式を用いて計算し,特に必要があるときには,カーソンポラチェック算式を用いることで運用されている。
また,この計算において,特別高圧架空電線路と弱電流電線路との水平距離は,架空送電規程(JEAC 6001)によると通常 5 000 [m] までが影響範囲として計算される。
誘導障害の防止対策
送電線と通信線が接近交差している区間が長くなると,通信線に対して静電誘導あるいは電磁誘導などの誘導障害を及ぼすことがあるので,送電線建設時には予測計算を行って過大にならないようにする。
静電誘導電圧は,送電線の対地電圧と通信線の対地静電容量 ,両者の相互静電容量によって決まる。
一方,電磁誘導障害は,主に送電線に地絡故障が発生した場合に生じ,中性点接地方式が直接接地の送電線において問題になりやすい。
実用的な計算式として知られる深尾の式では,起誘導電流 1 A あたりの誘導電圧の計算値は,周波数の他,その土地の地質係数にも依存する。
送電線側で可能な電磁誘導障害の対策としては,架空地線の条数や導電率を増やす,送電線をねん架するなどがある。
架空電線路側の対策
電磁誘導障害の防止対策のうち,架空電線路側の対策には,次のようなものがある。
- 架空地線の条数を増やし,故障電流を分流させ,起誘導電流を小さくする。
- 架空地線に導電率のよい鋼心イ号アルミより線やアルミ被鋼より線を使用する。
- 送電線をねん架して,不平衡を防止する。
- 負荷のバランスを図り,不平衡を防止する。
- 送電系統の保護継電方式に高速遮断方式を採用する。
- 遮へい線を設置する。
- 送電線のルートを変更し,お互いの離隔距離を大きくする。
- 中性点抵抗接地方式の抵抗値を大きくする。
- 中性点接地方式に消弧リアクトル接地方式を採用する。
静電誘導低減対策
静電誘導を低減するための対策としては,送電線地上高の増加や,遮へい設備の施設,2 回線垂直配列の送電線では逆相配列の採用が行われる。
電気設備に関する技術基準を定める省令
電気設備の電気的,磁気的障害の防止
第 16 条 電気設備は,他の電気設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を与えないように施設しなければならない。
高調波利用設備への障害の防止
第 17 条 高調波利用設備*1は,他の高調波利用設備の機能に継続的かつ重大な障害を及ぼすおそれがないように施設しなければならない。
電気設備技術基準の解釈
electrical-engineer.hatenablog.jp
参考文献
- 誘導対策/目指せ!電気通信主任技術者
- 令和6年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「中性点接地方式の架空送電系統」
- 令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「送電線の誘導障害」
- 令和2年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「特別高圧架空電線路による電磁誘導障害」
- 平成29年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「送電線における誘導障害」
- 平成24年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「三相交流送電線と通信線の間の遮へい線」
- 平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7「通信線路の電磁誘導障害」
- 平成18年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4「電磁誘導電圧の制限値等」
- 平成17年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「特別高圧架空電線路による電磁誘導障害」
更新履歴
- 2021年10月17日 新規作成
- 2021年11月21日 加除修正
- 2021年12月11日 参考文献に「令和2年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
- 2022年5月2日 電磁誘導の英語表記,電磁誘導の発生原理を追加
- 2022年5月14日 タイトルを「特別高圧架空電線路による電磁誘導障害」から「送電線における誘導障害」へ変更,参考文献に「平成29年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
- 2022年8月15日 参考文献に「平成18年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
- 2022年8月28日 参考文献に「令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
- 2022年10月22日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
- 2023年8月4日 参考文献に記載した過去問題のタイトルを追加
- 2024年11月15日 参考文献に「令和6年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加
- 2024年11月23日 参考文献に「平成24年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加
*1:電路を高周波電流の伝送路として利用するものに限る。以下この条において同じ。