汽力発電所の運転時における熱効率の維持向上対策は,以下のとおり。
過熱蒸気の採用
過熱蒸気を採用することによりエンタルピーが増大し,熱効率が向上する。
復水器真空度の向上
復水器の真空度が向上すると背圧が下がり,タービンの熱落差が大きくなって出力が増す。復水器の真空度を高めるためには,復水器の冷却水温度を低下させるか,あるいは冷却水循環流量を増加させる必要がある。
細管の定期的な逆洗及び清掃によって状態の回復を図ることが肝要である。
再生サイクルの採用
蒸気の膨張過程の途中からその一部を抽出して給水の過熱に利用し,抽気の復水熱を給水に回収させる。抽気段数の増加とともに熱効率は高くなる。
再熱サイクルの採用
高圧タービン内の蒸気の一部を取り出し,これをボイラで再加熱して過熱度を増し,タービンに返すことによって膨張後の蒸気中の湿り度を低下させ熱効率を向上させる。
蒸気温度及び圧力の上昇
蒸気温度を高くすると熱効率が向上する。また,蒸気温度を高くすると同温度におけるエントロピーは減少し,有効な仕事に変わる熱量が増加して熱効率が向上する。
タービン入口エンタルピーは,蒸気温度と蒸気圧力によりほぼ決定されるため,熱効率維持のためには,これらの基準値運転に努める必要がある。
その他
- 燃料が完全燃焼するためには,ある程度過剰空気を供給しなければならないが,必要以上に多いと排ガス量の増加,燃焼温度の低下などによって熱効率が低下する。
- 送電端効率の向上のためには,所内率の低下が必要であるが,このためにはユニット低負荷運転時における給水ポンプ,冷却水ポンプ,通風機などの補機の運転台数の検討を行うとともに,運転中における不要な所内雑電力の節減を図る必要がある。
- 部分負荷運転時での主蒸気圧力を低くすることにより,給水ポンプ軸動力の軽減やタービン効率(実際のタービン出力と理論出力の比率)の向上など,プラント効率の向上とタービン熱応力の軽減を図る運転方式を,ボイラの変圧運転という。
タービン効率の計算例
問題の概要
以下の条件が与えられている:
- 発電機出力:19 MW
- 発電機効率:95 %
- 蒸気の比エンタルピー(入口):3 550 kJ/kg
- 蒸気の比エンタルピー(復水器入口):2 500 kJ/kg
- 使用蒸気量:80 t/h = 80 000 kg/h
ステップ1:タービン出力の計算
まず、発電機出力からタービン出力を求める。
発電機出力は 19 MW、発電機効率は 95 % なので、タービン出力 \( P_t \) は以下の通り:
$$ P_t = \frac{19\ \text{MW}}{0.95} = 20\ \text{MW} $$
ステップ2:蒸気による理論出力の計算
蒸気のエンタルピー差(入口 − 復水器入口)を求める:
$$ \Delta h = 3550 - 2500 = 1050\ \text{kJ/kg} $$
使用蒸気量は 80 000 kg/h なので、1秒あたりの蒸気量は:
$$ \dot{m} = \frac{80000}{3600} \approx 22.22\ \text{kg/s} $$
理論出力(蒸気が持つエネルギー量) \( P_{th} \) は:
$$ P_{th} = \dot{m} \times \Delta h = 22.22 \times 1050 \approx 23331\ \text{kW} = 23.33\ \text{MW} $$
ステップ3:タービン効率の計算
タービン効率 \( \eta_t \) は、実際のタービン出力と理論出力の比率である:
$$ \eta_t = \frac{P_t}{P_{th}} = \frac{20}{23.33} \approx 0.857 $$
したがって、タービン効率は:
$$ \eta_t \times 100 \approx 85.7\ \% $$
蒸気タービンとボイラの効率に影響する運転時の管理項目
化石燃料を使用する現用の汽力発電方式で,蒸気タービンとボイラの効率に影響する運転時の管理項目について,どのように制御すれば効率を高めることができるか,損失の増加や設備への影響などを問題点と併せて説明する。
ボイラ排ガス中の酸素濃度(=過剰空気率)
過剰空気率が適正であるときは燃料が完全燃焼するため効率が高まる。
大きすぎるとボイラ内の燃焼温度が下がり,排ガス損失が増加する。
小さすぎると不完全燃焼となり未燃損失が増加する。
空気予熱器出口排ガス温度(=排ガス温度)
空気予熱器で燃焼用空気を予熱すれば炉内温度が高くなり,燃料の蒸発量,燃焼速度が増加するため,燃焼が完全燃焼し効率が高まるとともに,排ガスの熱を利用して空気を過熱することで効率は上昇する。
また,排ガスの熱を利用し,節炭器で給水を加熱すると効率を向上することができる。
排ガス温度が高くなると排出エネルギーが増加し,低すぎると空気予熱器や節炭器の低温部腐食が多くなる。
復水器真空度(=真空度)
復水器の真空度を増加させればタービン出口蒸気の排気圧が低くなり排出エネルギーが小さくなるため,タービンの熱落差を増加させることとなり,効率は向上する。
真空度を高めれば効率は上昇するが,復水が過剰に冷却されるため,効率は低下する。
他にも真空度が高いことによるタービン振動の増加も懸念される。
参考文献
- 平成30年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「蒸気タービンとボイラの効率に影響する運転時の管理項目」
- 平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1
- 平成15年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1
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