目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

水力発電所の設計・建設

水力発電所の設計・建設においては,土木設備を含めた設備全体の経済性を追求し,各機器の仕様検討を進める。

水車の基本特性

水車はランナの形状が相似であれば,その出力に関係なく,同じ特性を持つ。

今,二つの相似形状のランナにおいて,流量を $Q_1$,$Q_2$ [m3/m],落差を $H_1$,$H_2$ [m],回転速度を $N_1$,$N_2$ [min-1],ランナの直径を $D_1$,$D_2$ [m],出力を $P_1$,$P_2$ [kW] とする。

ランナに入る水の流速は落差の平方根に比例するとともに,ランナの周速度は流束に比例し,水の流量は流束と流入面積に比例するものとする。

このとき,水車の出力の比 $\displaystyle \frac{P_1}{P_2} = \frac{Q_1 H_1}{Q_2 H_2} = (\frac{D_1}{D_2})^2 \times (\frac{H_1}{H_2})^\frac{3}{2}$ が成立する。

同時に,水車の回転速度は周速度に比例し,直径に反比例することから,ここに $H_1 =$ 1 m,$P_1 =$ 1 kW,$H_2 =$ 50 m,$P_2 =$ 10 000 kW とすれば,$N_1$ は $N_1 = N_2 \times$ 0.75 で表される。

この $N_1$ のことを比速度という。

水力発電所の設計・建設の事例

その代表的な事例として,中小水力発電所においては,負荷遮断時の水圧変動率を小さく抑え,土木設備である水圧鉄管の肉厚を薄くすることで,発電所の建設コスト低減が見込める場合がある。

この場合,電気機械設備では,水車・発電機のはずみ車効果($GD^2$)は機器固有の値とし,水車のガイドベーン閉鎖時間を 20 ~ 30 秒程度に長くすることで,負荷遮断時の回転速度を無拘束速度,又はそれに近い速度まで許容する設計を行う。

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これにより水車・発電機の軸受性能など一部機能の向上が求められるが,ガイドベーンのサーボモータ容量を低減できることなどのメリットもある。

水力発電所の設計手順

  1. 計画地点の発電所の諸元データ(発電所型式,使用水量,有効落差など)を得る。
  2. 有効落差 [m],使用水量 [m3/s] から次式で与えられる発電所の理論出力 [kW] を算出する。
    理論出力 = 9.8 × 使用水量 × 有効落差
  3. 理論出力と有効落差から型式選定図などを用いて,水車型式を選定する。
  4. 仮水車出力 $P$ を算出する。(水車効率は,予想される最高効率を用いる。)
    仮水車出力 $P$ = 9.8 × 使用水量 × 有効落差 × 水車効率
  5. 有効落差 $H$ [m] から水車の比速度*1の限界を算出する。例えば,フランシス水車の場合,
    比速度 $\displaystyle \le \frac{21000}{H+25}+35$
  6. 回転速度 [min-1]の限界を求める。
    回転速度 $\le$ 比速度 $\displaystyle \times \frac{H^\frac{5}{4}}{P^\frac{1}{2}}$
  7. 次式から前述の回転速度の限界以下となる同期の回転速度 [min-1] を選定する。(ここで,$f$:周波数,$p$:発電機極数)
    回転速度 $\displaystyle =\frac{120f}{p}$
  8. 水車の「出力-効率曲線」から水車効率を求め,発電機の「負荷-効率曲線」から発電機効率を求める。
  9. 得られた効率特性から,水車出力,発電機容量などを決定する。
  10. 水車発電機の概略寸法,概略重量を算出し,発電所レイアウトを設計する。
  11. 水車の設置レベルの決定に当たり,キャビテーション防止を考慮した吸出し高さを水頭換算で算出する。
    吸出し高さ = 大気圧(水頭換算値) - 飽和蒸気圧(水頭換算値) - キャビテーション係数 × 落差

水力発電機の定格回転速度の選定の考え方

水車発電機の定格回転速度の選定の考え方について述べる。

周波数 60 Hz の系統の地点において,有効落差 162 m,出力 40 MW のフランシス水車 1 台を設置する場合,最も適切な水車の定格回転速度 [min-1] 及び発電機の極数を求めたい。

回転速度の上限値

フランシス水車において,適用できる比速度と有効落差の関係が,次式によって表されるとき,次式に基づき算出される回転速度の上限値を求める。

\[ n_\text{s} \le \frac{23000}{H+30}+40 \]

ただし,$n_\text{s}$ : 比速度(m·kW 基準),$H$ : 有効落差 [m] とする。

なお,比速度 $n_\text{s}$ は,出力 $P$ [kW],回転速度 $N$ [min-1] としたとき,$\displaystyle n_\text{s}=\frac{N\times P^{\frac{1}{2}}}{H^{\frac{5}{4}}}$ で与えられる。

限界比速度は,次式で求められる。

\[ n_\text{s} \le \frac{23000}{H+30}+40 = \frac{23000}{162+30}+40=159.8 \]

また,比速度 $n_\text{s}$ は,出力 $P$ [kW],回転速度 $N$ [min-1] の関係より,適用可能上限となる回転速度 $N_\text{max}$ [min-1] は,次式となり,与えられた数値を代入する。

\[ N_\text{max}=\frac{n_\text{s}\times H^{\frac{5}{4}}}{P^{\frac{1}{2}}}=\frac{159.8 \times 162^{\frac{5}{4}}}{40000^{\frac{1}{2}}}=461.78 \]

したがって,$N_\text{max}$ = 461 min-1 となる。

選定すべき定格回転速度

選定すべき定格回転速度は 450 min-1 である。

選定理由

周波数が 60 Hz という条件下で,選定できる定格回転速度は,低い順に 400 min-1,450 min-1,514 min-1,・・・となるが適用可能な回転速度の上限値が 461 min-1 のため,450 min-1 となる。

フランシス水車の比速度としては,180 程度で最も高い効率が得られること,また,水車及び発電機は高速化することでの小型化によるコスト低減が図れることから,できるだけ適用限界の回転速度に近い定格回転速度を選定することが望ましい。

水車発電機の回転数を高くとる場合の長所と短所

水車発電機の回転数を高くとる場合の長所
  • 回転子磁極数を少なくすることができるため,水車および水車発電機を小型・軽量化することができる。
  • 発電機建屋を小さくでき,クレーンも小型化できる。
  • 価格も安価となる。
水車発電機の回転数を高くとる場合の短所
  • 遠心力による回転子の強度,特に磁極取付部分,磁極コイル支え部の強度が問題となる。
  • キャビテーションが発生しやすくなり,壊食の問題が生じる。
  • 各水車には最適効率となる回転数があるため,水車の効率が低下する。

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発電機の極数

周波数 $f$ と定格回転速度 $N$ と発電機の極数の関係は,次式で表される。

\[ f=\frac{\frac{p}{2}\times N}{60}=\frac{pN}{120} \]

上式に各値を代入して,発電機の極数 $p$ を求める。

\[ p=\frac{120f}{N}=\frac{120\times60}{450}=16 \]

よって,発電機の極数は 16 である。

経済性を考慮して採用する極数は,比速度の限界を超えない範囲で極数を決定することである。

図 発電機の極数と定格回転速度の関係(60 Hz)

図 発電機の極数と定格回転速度の関係(60 Hz)

参考文献

更新履歴

  • 2022年5月23日 新規作成
  • 2022年5月28日 参考文献に「平成19年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年9月4日 参考文献に「令和2年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加
  • 2023年9月2日 参考文献に「令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1」を追加

*1:水車の比速度とは,その水車と相似な水車を仮想して,1 [m] の落差のもとで相似な状態で運転させ,1 [kW] の出力を発生するようにしたときの,その仮想水車の回転速度をいう。