目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

水車発電所の調速機

調速機(governor)は,起動時の系統並列に向けた速度調整や負荷遮断時の異常な水圧上昇等を抑える役割を持つが,通常時は,系統の周波数を安定させることが要求されており,負荷の増減に関わらず,水車の回転速度を一定に保つ役割を持っている。

調速機は,電圧制御部,油圧機構部,サーボモータ操作部などで構成されるが,大別して,電気制御部をレギュレータ,圧油操作部をアクチュエータと呼んでいる。

最近では,発電所の油レス化を図るために,圧油に代わり,電動サーボモータが用いられる場合も多い。

今,単独運転状態で定格出力が $P_\text{n}$ の水車発電機において,発電機が出力 $P_1$,定格回転速度 $N$ で回転しているとする。

次に,負荷が減少して発電機出力が $P_2$ に減少すると,回転速度は $N_2$ となり,少し回転速度が上昇する。

速度調定率 $R$ は,その変化度合いを表すものであり,次式により,求められる。

\[R = \frac{(N_2 - N)}{N}/\frac{(P_1-P_2)}{P_\text{n}}\]

フランシス水車で用いられる電気式調速機

調速機の制御部は,PMG (永久磁石発電機)等からの電気信号により周波数を検出する部分,目標となる出力を設定する部分,基準周波数を設定する部分,ガイドベーンサーボモータ からのリターン信号から出力偏差を検出する部分,そしてアクチュエータへの指令信号を作成する演算増幅回路から構成される。

最近の大型機には PID 制御*1が用いられることが多い。

PID 制御は,目標値と現在値の偏差に比例した制御出力を発生する比例要素,目標値に対するオフセットを埋める積分要素,目標値に迅速に近づけるための微分要素を組み合わせて,調速機の安定性と速応性を高めている。

水力発電所の負荷遮断

ある出力で運転中の水車発電機を系統から解列することを負荷遮断というが,解列すると調速機の応答によりガイドベーンが急閉し,水撃作用によって水圧が上昇するとともに過渡的に水車入出力のバランスが崩れて回転速度が上昇する。

特に,揚水発電所で用いられるフランシス形ポンプ水車の場合は,流量-回転速度特性により,単に水圧上昇が大きくなるだけでなく,ガイドベーン閉鎖方法によっては,ポンプ水車は逆転ポンプ域に大きく入り,流量が急激に変化して水圧管水圧が異常に上昇する可能性がある。

また,サージタンクのない長大放水路をもつポンプ水車では,ランナ出口下端において圧力が異常に低下して,水柱分離が発生する可能性もある。この現象を避けるため,ガイドベーン閉鎖速度を途中から遅くして 2 段あるいは 3 段操作を行っている。

揚水発電所におけるポンプ水車の入力遮断

揚水運転中の発電電動機が電力系統から遮断されると,ガイドベーンが急閉される。

揚水量は回転速度の低下に伴って減少し,流水はガイドベーンが全閉するよりも早く水車方向に逆流し始める。

水圧管路内部の水圧は,最初は揚水量の急減により急速に降下するが,ガイドベーン全閉時には水車方向の流水を遮断するので水圧上昇が起こり,運転時の水圧より高くなった後に静水圧になる。

これらの現象により,サージタンクがない揚水式発電所では,ポンプ水車の入力遮断時に,水圧管路と導水路の接続部の曲がり部で,水流が急減して水中分離を発生する場合がある。

入力遮断時に万一ガイドベーンが閉鎖しない場合には,揚水量は回転速度の低下によって急減し,流水は数秒後に水車方向に逆流し,回転もポンプ方向から水車方向に転じて,無拘束速度状態に至る。

参考文献

更新履歴

  • 2022年5月19日 新規作成
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成23年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1」を追加
  • 2023年8月26日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1」を追加
  • 2023年10月15日 加除修正

*1:P は Proportional(比例),I は Integral(積分),D は Derivative(微分)を意味する。