目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

三相変圧器における巻線の結線方式

三相変圧器巻線の結線方式(three phase connection)には Y 結線(星形結線)と,Δ 結線(三角結線)の 2 種類がある。

結線

星形結線

三相変圧器のそれぞれの相巻線または三相バンクを構成する単相変圧器の同一定格電圧の巻線の一端を共通点である中性点に接続し,他端をそれぞれの線路端子に接続した巻線接続をいう。

三角結線

三相変圧器のそれぞれの相巻線または三相バンクを構成する単相変圧器の同一定格電圧の巻線を閉回路を作るように直列接続した巻線接続をいう。

三角結線において三角の一つを閉じずに,開放端をそれぞれ端子に接続したものを開放三角結線という。

千鳥結線

位相が異なる電圧を誘導する二つの部分からなる三相変圧器のそれぞれの相巻線または三相バンクを構成する単相変圧器の同一定格電圧の巻線の一端を共通点である中性点に接続した巻線接続をいう。

スコット結線

三相,二相変換を行うための結線で,三相側回路の一相の線路に接続される巻線の一端が,他の二相の線路に接続される巻線の中点に接続され,両者の巻線の誘導電圧が互いに直角位相となるものをいう。

Y-Y 結線(星形星形結線)

Y-Y 結線(Y-Y connection, star-star connection)は,変圧器の一次側,二次側とも巻線を Y 結線とする方法である。

下図の三相変圧器巻線の Y-Y 結線において,U,V,W は高圧側,u,v,w は低圧側を示す。

図 三相変圧器巻線の Y-Y 結線

図 三相変圧器巻線の Y-Y 結線

この結線の特徴としては,中性点接地が採用できるので,巻線の絶縁低減が可能となること,事故検出に十分な地絡電流が流れ保護が容易となることが挙げられる。

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しかし Y-Y 結線では,変圧器の励磁電流に含まれる第 3 次調波による近接通信線への電磁誘導障害などが発生する。

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この第 3 次調波による障害を解決するために,三巻線変圧器を用いてその結線方式を Y-Y-Δ とすることにより第 3 次調波の影響を小さくすることができる。

この結線は超高圧の変圧器に広く適用されている。

その特徴は,異常電圧を低減でき,一次側,二次側に位相変位がないこと,および参事巻線を設けることで,① 第三調波を環流させ,各相電圧を正弦波にする,② 一次地絡時の零相電流を循環させ,変圧器の零相インピーダンスを減少させる,③ 調相設備や所内負荷などの回路に必要な低電圧を供給すること,などである。

Y-Δ 結線と Δ-Y 結線(星形三角結線と三角星形結線)

中低圧でよく使われる Y-Δ 結線(star-delta connection)と Δ-Y 結線(delta-star connection)は Δ 結線が励磁電流中の第 3 次調波成分の環流回路として働き,電流のひずみが小さくなる。

図 三相変圧器巻線の Y-Δ 結線

図 三相変圧器巻線の Y-Δ 結線

図 三相変圧器巻線の Δ-Y 結線

図 三相変圧器巻線の Δ-Y 結線

Y-Δ 結線と Δ-Y 結線は,励磁電流の第三調波は Δ の部分の循環電流として存在し,Y の部分では中性点接地ができるので,一次,二次の位相が 30 ° 変位する欠点があるにもかかわらず,送配電系統に普通に用いられる。

Y-Δ 結線を受電端に,Δ-Y 結線を送電端に用いると,高電圧側を Y で受け持つことになるから,絶縁の点で有利である。

Y-Δ 結線の例

定格容量 100 [kV・A],定格一次電圧 6 600 [V],定格二次電圧 200 [V],定格周波数 50 [Hz] の Y-Δ 結線の三相変圧器がある。

この変圧器を定格で使用したときの二次巻線の相電流は,167 [A] である。

一次電圧と二次電圧の位相差は π/6 [rad] である。

変圧器の励磁電流には,鉄心の非線形特性のために,高調波成分が含まれる。この内,電源周波数の 3 倍の周波数成分は,三つの相で同相であり,二次巻線で環流する。

この変圧器の二次端子に 2 [Ω] の抵抗器 3 台を星形結線で接続し,一次端子に定格電圧を印加した。

図 Y-Δ 結線の三相変圧器

図 Y-Δ 結線の三相変圧器

変圧器の短絡インピーダンス及び励磁電流を無視したとき,一次電流は,1.75 [A] となる。

この変圧器を同じ定格電圧の 60 [Hz] で使用することはできる。

Δ-Δ 結線(三角三角結線)

Δ-Δ 結線(delta-delta connection)は,第三調波を吸収できること,一次側,二次側間に位相変化がなく,1 台に故障を生じても V-V 結線で運転できる利点がある*1。日本では主として 77 kV 以下の変圧器に適用される。

図 三相変圧器巻線の Δ-Δ 結線

図 三相変圧器巻線の Δ-Δ 結線

欠点としては,Δ-Δ 結線では中性点接地が採用できないため,アーク地絡によって異常電圧が発生すること,地絡保護が困難で別に接地用変圧器を設ける必要があること,不平衡負荷の場合に巻線に流れる循環電流が大きくなることなどが挙げられる。

上記のような欠点があるため,Δ-Δ 結線は,主として 77 kV 以下の回路に使用される。

V 結線

三相電源に 2 個の変圧器を接続して三相電力を供給する結線を V 結線(V connection, open-delta connection)という。

Δ-Δ 結線の容量 $3VI$ に対して,V 結線の容量は $\sqrt{3}VI$ である。

図 三相変圧器巻線の V 結線

図 三相変圧器巻線の V 結線

変圧器を設置時の初期負荷が軽い場合,または,1 台の単相変圧器が故障したときの応急処置として用いられる。

利用率が $\sqrt{3}/2$(約 87 %),出力が \sqrt{3}/3(約 58 %)と低く,電圧降下も不平衡となるため常用されることは少ない。

T 結線

T 結線(T connection)は,三相結線としてはほとんど用いられない。

スコット結線(Scott connection)を用いれば,三相と二相との変換ができる。

図 スコット結線

図 スコット結線

主座巻線および T 座巻線

主座巻線とは,スコット結線の三相側巻線のうち,三相側回路の 2 相の線路間に接続される巻線をいう(図「スコット結線」における W-V 巻線)。

T 座巻線とは,スコット結線の三相側巻線のうち,三相側回路の 1 相の線路と主座巻線の中点との間に接続される巻線をいう(図「スコット結線における U-O 巻線」)。

 

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参考文献

更新履歴

  • 2022年1月20日 新規作成
  • 2022年1月22日 参考文献に「平成25年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」「平成23年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」を追加,参考文献に JEC-2200-2014「変圧器」を追加
  • 2022年7月7日 「変圧器のスコット結線」のリンクを追加
  • 2022年8月30日 参考文献のタイトルを追加
  • 2022年12月3日 星形結線,三角結線,千鳥結線,スコット結線の説明を追加

*1:独立した単巻変圧器 3 台による場合には,1 台の単相変圧器が故障しても健全な変圧器 2 台による V 結線として,最大出力は落ちるものの三相電力の伝達ができる

同期発電機の特性曲線

本稿では,同期発電機(synchronous generator)の特性曲線について説明する。

無負荷飽和曲線(no-load saturation curve)

同期発電機を定格回転速度,無負荷で運転している場合の界磁電流に対する端子電圧の関係を示す曲線を無負荷飽和曲線という。

界磁電流の増加に伴い鉄心が飽和するため,界磁電流と端子電圧の関係は比例関係にならず,いわゆる飽和特性を示す曲線になる。

原点において,曲線 OM に接線 OG を引くと,OG はギャップに要する起電力(電流値で表されている)と誘導起電力の関係を示す(いわゆるギャップ線である)。

電圧 $V$ を誘導するのに必要な起電力は,図において $(a+b)$ であって,$a$ および $b$ は,それぞれギャップおよび鉄部分に磁束を通すために必要な起磁力である。

磁気回路の飽和が大きいほど,$b$ が大きくなる。

$b$ と $a$ との比をもって飽和の程度を表すことができ,σ $= b/a$ を飽和係数(saturation factor)という。

図 無負荷飽和曲線

図 無負荷飽和曲線

飽和特性(saturation characteristic)

飽和特性(saturation characteristic)とは,規定された負荷,速度などの条件下で,界磁電流と誘導起電力の関係を示す特性である。

無負荷飽和特性(open-circuit characteristic no-load characteristic)

無負荷飽和特性(open-circuit characteristic no-load characteristic)とは,電機子巻線開路状態での回転機の飽和特性である。

図は,三相同期発電機の界磁電流 $I_\text{f}$ に対する 1 相分の無負荷誘導起電力 $E_0$ 及び三相短絡電流 $I_\text{S}$ の特性である。無負荷誘導起電力 $E_0$ と界磁電流 $I_\text{f}$ との間の関係は,

\[ E_0 = \frac{\omega M I_\text{f}}{\sqrt{2}} \]

で与えられる。

ただし,$\omega$ は電気角速度,$M$ は界磁巻線と電機子巻線 1 相との間の相互インダクタンスである。

しかし,実際の無負荷誘導起電力には,図中の $E_0$ のように飽和特性を生じる。

これは,相互インダクタンス $M$非線形性に起因するもので,界磁電流の増加に伴って透磁率が減少することにより生じる。

一般に,定格電圧 $V_\text{n}$ を得るための界磁電流 $I_\text{fn}$ は,飽和特性を考慮しない場合の界磁電流 ${I_\text{fn}}'$ に比べて 5 ~ 15 [%] 程度大きい。

図 三相同期発電機の界磁電流に対する 1 相分の無負荷誘導起電力及び三相短絡電流の特性

図 三相同期発電機の界磁電流に対する 1 相分の無負荷誘導起電力及び三相短絡電流の特性

短絡特性曲線(short-circuit curve)

同期発電機の端子を短絡し,定格回転速度で運転した場合の,界磁電流に対する電機子電流の関係を示す曲線を短絡特性曲線という。

端子短絡状態では,電機子反作用による減磁作用で界磁起磁力の大部分が打ち消されるため界磁電流を増加させても鉄心は磁気飽和せず,特性曲線はほぼ直線となる。

無負荷飽和曲線と短絡特性曲線が得られると,同期発電機の短絡比を求めることができ,この短絡比 $K$ と単位法(p.u.)で表した同期インピーダンスは互いに逆数の関係になる。

短絡特性(short-circuit characteristic)

短絡特性(short-circuit characteristic)とは,同期機の電機子巻線の全端子を短絡し定格回転速度で運転した場合の界磁電流と電機子巻線に流れる短絡電流との関係を示す特性である。

三相短絡電流は界磁電流にほぼ比例し,通常の界磁電流の範囲では,飽和特性の影響は現れない。

これは,電機子電流の減磁作用によるものである。同期リアクタンス $X_\text{S}$ 及び巻線抵抗 $r$ を用いると,三相短絡電流は,$\dot{I}_\text{S} =$ $\displaystyle \frac{E_0}{r+\text{j}X_\text{S}}$ である。

この式を電機子巻線 1 相の自己インダクタンス $L_0$ 及び漏れインダクタンス $l$ で書き換えると,

\[ \dot{I}_\text{S}=\frac{\frac{\omega M I_\text{f}}{\sqrt{2}}}{r+\text{j}\omega(\frac{3}{2}L_0 + l)} \]

となる。

界磁電流による磁束鎖交数は $\displaystyle \frac{MI_\text{f}}{\sqrt{2}}$,短絡電流による磁束鎖交数は $\displaystyle \frac{3}{2}L_0 I_\text{S}$ であるので,界磁及び電機子の漏れインダクタンスと巻線抵抗とを無視すると,

\[ I_\text{S}=\frac{\sqrt{2}}{3}KI_\text{f} \]

となる。

ただし,$K$ は界磁巻線の電機子巻線に対する巻数比である。

上式には,$M$ や $L_0$ などの磁気的に非線形な係数を含まないので,界磁電流 $I_\text{f}$ と三相短絡電流 $I_\text{S}$ とは比例関係になる。

三相同期電動機の短絡比

同期機の特性を示すパラメータの一つに短絡比がある。

短絡比 $K$ とは,定格速度において,無負荷で定格電圧を発生するのに必要な界磁電流(すなわち定格電流 $I_\text{N}$)と,三相短絡の場合に定格電流に等しい短絡電流を発生するのに必要な界磁電流(すなわち短絡電流 $I_\text{N}$)との比である。

\[K=\frac{I_\text{S}}{I_\text{N}}\]

短絡比が大きい機械は,同期インピーダンスが小さいので電機子反作用の影響が小さい機械である。

このような機械とするには,電機子巻線の巻数を少なくするか,ギャップの長さを大きくするか又は両方である。

この場合,一定の誘導起電力を得るには,磁束を増すため界磁起磁力を増やすか又は鉄心断面積を増加させることになり,いずれの場合でも,機械の寸法が大きくなる。

所要巻線量(銅量)はほぼ寸法に比例し,所要鉄量は寸法の 3 乗に比例する。

したがって,短絡比の大きい機械は鉄機械といわれ,電圧変動率が小さく,過負荷耐量も大きく,高価である。

負荷飽和曲線(load saturation curve)

同期発電機を定格回転速度で運転し,電機子電流一定で力率一定の負荷をかけた場合の界磁電流に対する端子電圧の関係を示す曲線を負荷飽和曲線という。

負荷飽和曲線のなかで特に電機子電流値が定格で零力率の負荷をかけた場合の曲線を零力率飽和曲線といい,無負荷飽和曲線をポーシェの三角形を用いて平行移動することでもこの飽和曲線を描くことができる。

負荷飽和特性(load characteristic)

負荷飽和特性(load characteristic)とは,ある負荷条件下での回転機の飽和特性である。

演習問題

令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1

16 000 kV·A,11 000 V の定格を持つ三相同期発電機(以下,試験機と呼ぶ)の試験結果は以下のとおりであった。また,試験結果をグラフ化すると図のようになった。

(a) 無負荷飽和特性試験
端子電圧(線間電圧) [V] 4 000 8 000 11 000 14 300
界磁電流 [A] 205 410 680 1 400
(b) 三相短絡特性試験(定常短絡試験)
電機子電流 [A] 400 600 840
界磁電流 [A] 435 652 913

一般的に同期機には磁気飽和特性があるため,同期リアクタンスには飽和値と不飽和値が定義される。試験機の同期リアクタンスの飽和値 $X_\text{s}$ [%] は,134 % であり,これを Ω 値で表した毎相の同期リアクタンスの飽和値 $X_\text{s}$ [Ω] は,10.2 Ω である。

試験機の同期リアクタンスの不飽和値 $X_\text{su}$ [%] は,図中の記号を用いて $X_\text{su}$ [%] = $X_\text{s}$ [%] × $\displaystyle \frac{I_\text{f0}}{I_\text{f0g}}$ として求められ,試験機の $X_\text{su}$ [%] は,162 % である。

定格電圧における同期機の磁気飽和の程度を表す飽和率 σ は,図中の記号を用いて σ = $(I_\text{f0}-I_\text{f0g})$/$I_\text{f0g}$ として求められる。

図 三相同期発電機の無負荷飽和曲線と三相短絡特性曲線

参考文献

  • 電気専門用語集(WEB 版)
  • 令和4年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 機械・制御 問1「同期発電機」
  • 令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「三相同期発電機の試験結果」
  • 令和元年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「同期発電機の特性曲線」
  • 平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「同期発電機の無負荷飽和曲線と短絡特性曲線」
  • 平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「三相同期発電機の短絡比」

更新履歴

  • 2022年1月19日 新規作成
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成18年度第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2022年5月13日 参考文献に「電気専門用語集(WEB 版)」を追加
  • 2022年5月14日 無負荷飽和曲線の図を追加
  • 2022年5月16日 飽和係数の説明を追加
  • 2022年6月18日 参考文献に「令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1」を追加
  • 2022年7月3日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1」を追加
  • 2022年7月21日 加除修正
  • 2022年7月30日 参考文献の過去問題の題目を追記
  • 2022年8月13日 クリエを参考にリライト
  • 2023年1月15日 短絡比の定義式を追加,参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 機械・制御 問1」を追加
  • 2024年1月27日 検索エンジン向けタイトル「同期発電機の特性曲線とは?」,SNS 向けタイトル「同期発電機の特性曲線を解説!無負荷飽和や短絡特性についても #発電機 #特性曲線」を追加(AI タイトルアシストを活用)

オペレーティングシステム

タスク管理

オペレーティングシステムは,複数のタスクに対して,優先度に基づき CPU やメモリ,通信インターフェースなどのハードウェア資源を効率的に割り当て,システム全体の遊び時間を少なくすることでスループットを高めている。

このように,タスクを管理して,ハードウェア資源を有効活用する機能をタスク管理という。

タスクは生成されると,実行可能状態となる。

実行状態にあるタスクから CPU の占有が解かれると,タスクディスパッチャが実行可能状態にあるタスクの中から最も優先度の高いタスクに CPU の使用権を与え,実行状態に移行させる。

複数のタスクを切替えて実行する場合,タスクの切替えタイミングが重要となる。

一例として,外部や内部の割込みにより発生する状態変化のタイミングを用いるイベントドリブン方式がある。

タスクの実行順序は,FIFO と呼ばれる構造の待ち行列にタスクを格納して処理を行う到着順方式や,処理時間の短いタスクを最初に実行する処理時間順方式がある。

その他に,あらかじめタスクに優先度を付与しておき,優先順位に従って処理する方法がある。

しかしこの方式では,優先度の低いタスクが実行されないスタベーションと呼ばれる現象が起こる可能性があり,動的に優先度を変更する対策などが行われる。

ラウンドロビン

マルチタスクの実行順序に関するタイムスケジューリングの一方式で,優先度を設定せず,均等に CPU の実行時間をタスクに割り当て,CPU の使用権を開放されたタスクは,タスク郡の最後に回って実行順序を待つ方式。

スワッピング

限られた格納領域をもつ主記憶装置に,プログラムやデータをロードする領域を有効に割り当てる記憶管理の一方式で,主記憶と補助記憶の内容を入れ替えながら,優先順位の高いジョブを優先的に主記憶にロードする方式。

トランザクションファイル

業務処理などによって,イベントなど逐次発生するデータを一時的に保管しておくためのファイル。

ブート

電子計算機の電源を入れたときに,オペレーティングシステムを起動するまでの処理の流れ。

スプール

時間のかかる入出力装置などの入出力処理において,一時的にデータを補助記憶装置に出力し,少しずつ処理させることで,処理効率を高める機能。

参考文献

masassiah.web.fc2.com

更新履歴

  • 2022年1月18日 新規作成
  • 2022年7月10日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問7」を追加

三相誘導電動機

三相誘導電動機(induction motor)の一次巻線に三相交流電源を接続すると回転磁界が発生する。

誘導機(induction machine)とは,固定子および回転子がたがいに独立した巻線を有し,一方の巻線が他方の巻線から誘導電動作用によってエネルギーを受けて動作する非同期機。(出典)電気学会 電気専門用語集(WEB 版)

回転磁界と回転子の回転速度に差があると,回転子の二次巻線に誘導電流が流れ,回転磁界との間でトルクが生じる。

このとき,発生するトルクは,回転磁界と回転子の回転速度の差を減少させる方向に働く。

誘導電動機の L 形等価回路

図は,三相誘導電動機の 1 相分の L 形等価回路である。

図 三相誘導電動機の 1 相分の L 形等価回路

図 三相誘導電動機の 1 相分の L 形等価回路

三相変圧器や三相誘導電動機の一次換算等価回路を作成する場合,二次側の諸量を一次側に換算する必要がある。

変圧器では,一次・二次巻線間の巻数比が換算係数として使用されるが,誘導電動機では,巻数比に加えて,巻数係数及び相数を考慮する必要がある。

$m_1$ 相の対称交流を電源とする多相誘導電動機の一次及び二次巻線一相の巻数を $w_1$ 及び $w_2$,巻数係数を $k_{w1}$ 及び $k_{w2}$,相数を $m_1$ 及び $m_2$,一次及び二次 1 相の抵抗及び漏れリアクタンスをそれぞれ $r_1$,$r_2$,$x_1$,$x_2$ とする。

なお,二次リアクタンス $x_2$ は,回転子静止時の値とする。

回転子を静止させた状態で一次巻線に三相電源を印加すると励磁電流が流れ回転磁界が生じて,一次誘導起電力 $\dot{E}_1$,二次誘導起電力 $\dot{E}_2$ が誘導される。

この誘導起電力の比は $\displaystyle \dot{E}_2 = \frac{\dot{E}_1}{u_\text{e}}$,$\displaystyle u_\text{e} = \frac{k_\text{w1} w_1}{k_\text{w2} w_2}$ で示される。

$\dot{E}_2$ は二次回路に印加され,二次巻数の電流 $\dot{I}_2$ は $\displaystyle \frac{\dot{E}_2}{r_2 + \text{j}x_2}$ となる。

この $\dot{I}_2$ による起磁力を打ち消すために一次側に ${I_1}'=u_\text{i}I_2$ が流れる。

$u_\text{i}=$ $\displaystyle \frac{m_2 k_\text{w2} w_2}{m_1 k_\text{w1} w_1}$ であらわされ,この ${I_1}'$ が二次電流 $\dot{I}_2$ の一次側への換算値となる。

$r_2$ 及び $x_2$ を一次側へ換算するには,変換係数 $\displaystyle \frac{m_1 (k_\text{w1} w_1)^2}{m_2 (k_\text{w2} w_2)^2}$ をかければよい。

三相巻線形電動機では,$m_1=3$,$m_2=3$ である。

三相かご形誘導電動機では,二次側回転子の全導体数を $K$,極対数を $p$ とすれば,電気角 $2\pi$ 当たりの導体数は $\displaystyle \frac{K}{p}$ であり,相数 $m_2$ に等しい。

よって二次一相分の導体数は 1,巻数は $w_2=$ $\displaystyle \frac{1}{2}$,巻数係数は $k_\text{w2}=1$ となる。

三相誘導電動機の基本的な特性

巻線形三相誘導電動機の二次端子を開放した状態で,一次巻線に一定周波数 $f_1$ の三相正弦波交流電圧を印加すると,励磁電流は流れるが,二次電流が流れないので回転子は回転しない。

二次電流を短絡すると二次電流が流れ,これと一次電流により発生する回転磁界とによって,回転子にトルクが発生し,回転子は回転し始める。

回転子が滑り $s$ で回転している場合,回転速度を $n_0$ とすれば回転子の回転速度は $(1 - s)n_0$ で表され,このとき,二次巻線に発生する起電力の周波数は $sf_1$ である。

回転子に負荷を接続し,その負荷を増大させると回転速度は低下する。

すなわち,滑りは増加することになり二次巻線に発生する起電力が大きくなる。

その結果,二次電流が増加し,負荷トルクと平衡するだけの大きさのトルクを発生する。

0 < $s$ < 1 の領域

通常の誘導電動機動作で,回転子は回転磁界と同方向に同期速度以下で回転し,発生トルクは正である。

$s$ < 0 の領域

回転子は回転磁界と同方向に同期速度以上で回転する。

したがって,入力は負であり,トルクは回転方向と反対方向となるので,電動機運転では制動トルクとなる。

このため回転体の運動エネルギーを吸収して電源に電力として返還されるので,効率よく制動できる。これを回生制動という。

もし,負荷トルクが発電機としての最大トルクの点を超えると逸走する。

三相巻線形誘導機の二次側に抵抗を挿入すると,発電機動作の場合にも比例推移が成り立ち,同一負荷トルクで回転速度は上がる。

巻上機,クレーンなどで重量物を降下させる場合に使用される。

また,この領域では誘導発電機として動作するが,励磁電流を必要とするため単独では発電できない。

系統と連系する場合,機械的な入力が変動しても商用周波数の電力が得られる。

構造が簡単で低コストであるかご形誘導発電機が風力発電に広く用いられてきた。

かご形誘導発電機は一次端子電圧が一定ならば,その滑りだけで出力が決まるため,風速の変動によって出力が変動する。

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$s$ > 0 の領域

回転子が回転磁界と反対方向に回転する。

発生トルクは正であるが回転子の回転方向と反対であるため,機械的出力は負となる。

これを誘導ブレーキといい,重量物の低速度巻下ろしなどに利用される。

機械的出力は負であるから,動力は外部から供給され,この動力及び一次側から供給される入力は主として二次抵抗で熱として消費される。

トルクの比例推移

三相誘導電動機の一次端子から見たインピーダンスは,二次抵抗 $r_\text{s}$ と滑り $s$ の比 $r_\text{s}/s$ の関数になる。

したがって,一次電流,力率,トルクなども $r_\text{s}/s$ の関数となる。

このことは電動機の回転速度が変わっても, $r_\text{s}/s$ が一定ならばトルクは同じ値になることを示している。

このような特性をトルクの比例推移という。なお,最大トルクは,二次抵抗値にかかわらず一定であり,これを生じる滑りは,二次抵抗が大きいほど大きくなる。

この特性を利用して,巻線形誘導電動機では,二次側にスリップリングを介して抵抗値を変えることができる外部抵抗を接続し,始動時にはこの値を大きくしてトルクを大きくし,定常運転時にはスリップリングを短絡する。

このための二次挿入抵抗には,金属抵抗器あるいは液体抵抗器が用いられる。

三相誘導電動機の不平衡運転

誘導電動機に接続されている三相電源の供給電圧が不平衡になった場合,対称座標法を用いて正相分と逆相分とに分けて電流を計算し,重ねの理(重ね合わせの理)によって実際の電流を求めることができる。

正相電圧に対して誘導電動機が滑り $s$ で運転しているとき,逆相電圧に対しては滑り $2-s$ で運転している。したがって,誘導電動機の逆相等価回路は,正相等価回路における滑り $s$ を滑り $2-s$ に置き換えたものとなる。

また,電動機トルクについては,正相電流によるトルクに対して逆相電流によるトルクは逆方向であるから,三相電源の供給電圧が平衡である場合のトルクに比して,不平衡である場合にはその大きさは減少する。

通常は三相運転であるが,もし三相電源と誘導電動機を接続する線路の 1 線が断線した異常な場合には,他の 2 線から電圧・電流の供給を受けて,単相誘導電動機として運転を継続する。

逆相制動機

実際の動作では,すべり $s$ で運転中の三相誘導電動機の一次側の 3 端子中 2 端子を入れ替えると,回転磁界の方向が逆転し,電動機の滑りが $s$ から急に $2-s$ になり,誘導制動機として動作する。

これを逆相制動またはプラッキング(plugging)と呼ぶ。

逆相制動を行うと,大きな電流(電動機に定格電流の 500 ~ 800 % 程度)が流れる割に制動トルクが小さいので,三相巻線形誘導電動機では二次回路に抵抗を挿入し,比例推移を利用して負荷に適したトルクとし,同時に電流を制限し,電動機の発熱を抑える必要がある。

誘導電動機の速度制御

誘導電動機の速度を自由に,かつ広範囲に制御できれば,回転機の可変速制御を必要とする分野で広く応用できる。ここに誘導電動機の同期角速度を $\omega_\text{s}$,極数を $2p$,滑りを $s$,電源周波数を $f$ とすると,回転角速度 $\omega_\text{m}$ は,次のように表現される。

\[ \omega_\text{m}=\omega_\text{s}(1-s)=\frac{2\pi f}{p}(1-s) \]

上式より,極数,滑りあるいは周波数のいずれかを変化できれば,誘導電動機の速度は制御できることになる。

極数を変化させる方法はあらかじめ極数が変更できるように巻線の接続法を工夫しておき,必要に応じてスイッチで切り換えることにより変える方法であるが,段階的な制御であり連続した可変速を必要とする用途には不向きである。

滑りを変化させる方式では,誘導電動機の発生トルクが入力電圧の 2 乗に比例することを利用する一次電圧制御がある。

本方式は滑りの増加とともに電動機の効率が悪化するので,電動機の効率を重視する用途には不向きである。

周波数を連続的に制御する方式は,近年の自励式インバータ電源(電力変換器)による駆動が可能となったことにより広く採用されるようになった。

例えばオープンループ制御のインバータ電源による駆動では $V/f$ 一定制御が行われ,電動機の磁束が飽和しないようにしている。

さらに精密な回転機の制御が求められる時には,ベクトル制御による高精度制御が行われる。

一次電圧制御

一次電圧制御は,誘導電動機のトルク速度特性が電圧のほぼ 2 乗に比例して変化する性質を利用したものである。

この方式は電圧の変化に対する速度制御の範囲が狭く,また,速度を低くするために一次電圧を下げると,滑りが大きくなって二次回路の損失が増大するので,適用は小容量機に限られる。

一次周波数制御

一次周波数制御は,周波数に比例して誘導電動機の同期速度が変化することを利用したものであり,現在,インバータ制御方式として広く適用されている。

この方式では,通常,誘導電動機のギャップ磁束を一定に保つため,周波数にほぼ比例して一次電圧も変化させている。

速度を変化させても同一負荷トルクに対する滑り周波数がほぼ一定になり,巻線形誘導電動機の二次抵抗制御に比べ,速度の変化の割合に対して滑りの変化の割合が小さいので,広い速度範囲にわたって二次損失の増加を抑制した制御ができる。

二次励磁制御

巻線形誘導電動機の二次端子に外部から二次電圧と平衡する滑り周波数の電圧を与え,その大きさ・位相などを変化させて速度を制御する方式で,代表的な方式としてクレーマ方式とセルビウス方式がある。

クレーマ方式

クレーマ方式は,誘導電動機の二次端子における電力を補助変換装置を介して機械力に変換し,誘導電動機の軸へ返す方式である。

セルビウス方式

セルビウス方式は,二次電力を補助変換装置を介して電源周波数の交流電力に変換して電源へ返す方式である。

インバータの出力電圧の大きさと周波数とを制御する方法

電動機の 1 相当たりの等価回路は定常状態にある電動機の特性を表すので,それに与える電圧及び周波数を決めると,ある運動点における平均トルクが求まる。

したがって,その電圧及び周波数をインバータで発生することで平均トルクの制御ができることになる。この代表例が $V/f$ 一定制御である。

$V/f$ 制御

三相誘導電動機の可変速制御方式として,三相電圧形 PWM インバータを用いた $V/f$ 制御が広く用いられている。

誘導電動機の回転磁界の回転速度と回転子の回転速度はほぼ等しいので,回転磁界の回転速度を調節することによって,回転子のおおよその回転速度を制御することができる。

$V/f$ 制御では,可変速制御を行う際に,目標とする回転子の回転速度が変化しても,一次電圧と一次周波数との比率を一定に制御する。

これによって,回転子の回転速度にかかわらず,回転磁界を発生するための励磁電流の振幅をほぼ一定に保つことができる。

このとき,二次巻線に誘導する起電力及び二次漏れリアクタンスは滑り周波数に比例する。

その結果,回転磁界の回転速度が変化しても,トルクと滑り周波数との関係はほとんど変わらない。

実際の誘導電動機に $V/f$ 制御を適用する場合,低速領域ではトルクの低下が生じる。

これは,誘導電動機の一次巻線抵抗による電圧降下に起因するものであり,この電圧降下の補償制御が必要になる場合もある。

また,高速領域では,インバータの出力電圧が飽和し,$V/f$ 制御の比率を一定に制御できない場合がある。

このような場合,一次電圧を一定にして回転子の回転速度を増加させる制御方法がある。

一次電圧を一定としたとき,滑り周波数が一定であれば,誘導電動機のトルクは回転子の回転速度に対しておおよそ 2 乗に反比例の関係となる。

V/f 一定制御されている誘導電動機のトルク特性

V/f 一定制御されている誘導電動機の定常状態のトルク特性が,端子電圧の周波数 $f_1$,$f_2$ に対し,図のように与えられている。

また,負荷のトルク特性は回転数 $N$ に関わらず $T_\text{L}$ 一定で図のように与えられている。

このとき,電動機の回転数はそれぞれ,$N_1$,$N_2$ である。

図 V/f 一定制御されている誘導電動機の定常状態のトルク特性

図 V/f 一定制御されている誘導電動機の定常状態のトルク特性

今,この電動機が周波数 $f_2$ にて運転中で,回転数が $N_2$ のときに,周波数 $f_1$ に切り換え,$N_1$ まで減速して,点 A で負荷トルクと電動機トルクがつりあう。

$N_2$ からの減速過程のうち,$N_0 \lt N \lt N_2$ では電動機は発電機動作をするので,電動機は負のトルクを発生する。

これにより減速する回転系としては,軸受の摩擦などを無視すると,この発電機動作のトルクと負荷トルクの合成が減速トルクとなる。

続いて,$N=N_0$ まで減速すると,このとき,電動機は同期速度で運転しているので,負荷トルクのみが減速トルクとなる。

さらに減速して,$N_1 \lt N \lt N_0$ となると,電動機は電動機動作をするので,正のトルクを発生する。

この区間では電動機の発生トルクは負荷トルクより小さいので,負荷トルクから電動機トルクを差し引いた差が減速トルクとして働く。

インバータの出力電流をその大きさと位相とを含めて制御する方法

電動機の一次回路と二次回路とを電圧方程式で記述することによって,電流及び瞬時トルクを求めることができる。

ベクトル制御を用いて電流を制御することによって,一次電流に含まれるトルク成分電流と磁束成分電流は個別に制御することができるので,他励直流電動機と同等の良好なトルク特性となる。

このとき,二次の鎖交磁束の位置,すなわち磁束軸をとらえる必要がある。

その方法として,直接磁束を検出することをしないで,そのときの回転子の位置に滑り角周波数の積分値を加算して磁束軸を求める制御方法が多く用いられている。

参考文献

更新履歴

同期電動機の始動法と運転特性

三相交流による回転磁界と同期して回転する交流電動機である同期電動機(synchronous motor)の始動法,運転特性についてまとめる。

同期電動機の始動法

同期電動機は,同期速度に達して始めてトルクを同一方向に生じるのであって,そのままでは始動トルクはほとんど零に近い。

通常,自己始動法,始動電動機始動法,低周波始動法,サイリスタ始動法等により,回転子を同期速度まで加速した後,励磁巻線を励磁する必要がある。

全電圧始動(direct on line starting, across the line starting)

定格電圧,定格周波数の電源電圧を直接加えて始動する方法。直入ともいう。

この方式は,電動機容量に比べて電源容量が大きい場合,全電圧を加えて始動する方式で突入電流は大きくなるが,始動トルクは大きい。

始動の際の電流を制限し,トルクを大きくするため,始動巻線のスロットを深みぞ形または二重かご形にし,高抵抗導体(たとえば,黄銅)を用いた高始動トルク形同期電動機とすることが多い。

低減電圧始動(reduced voltage starting)

始動時に始動電流を制限するために,電動機の端子電圧を低減して始動する方法。

始動の装置にはリアクトル,単巻変圧器などがある。

補償器始動(auto transformer starting)

単巻変圧器を使用する低減電圧始動。

この方式は,自己始動の際,全電圧を電機子に加えると大きな突入電流が流れるので,これを制限するために,単巻変圧器で電圧を定格電圧の 50 ~ 80 % に低下して加える方法で,始動トルクは小さい。

始動補償器としてリアクトルを用いることもある。

開路式補償器始動(open transition autotransformer starting, open circuit transition autotransformer starting)

補償器始動において,低い電圧から定格電圧に切り換えるときに,電源から電動機が開路されている方法。

閉路式補償器始動(close transition autotransformer starting, close circuit transition autotransformer starting)

補償器始動において,低い電圧から定格電圧に切り換えるときに,電源と電動機の接続状態が続いている方法。

単巻変圧器の電源を直列リアクトルとして使用して,電源から切り離さないで切り換える方法をコンドルファ始動という。

リアクトル始動(reactor starting)

リアクトルを使用する低減電圧始動。

一次抵抗始動(starter resistance starting)

一次側に直列に抵抗を使用する低減電圧始動。

二次抵抗始動(rotor resistance starting)

巻線形誘導電動機や誘導同期電動機において始動電流または始動トルクを調節するために二次側回路に抵抗を挿入して始動する方法。

スターデルタ始動(star delta starting)

始動電流を制限するために,最初は一次巻線を星形接続にして始動し,ほぼ全速度に達したとき,これを三角接続にして始動する方法。

分割巻線始動(part winding starting)

始動電流を制限するために,電機子巻線を2回路以上に分割し,始動時には分割した一部の回路だけ電流を流し,速度が上昇した後に残りの回路を並列に入れていく方法。

自己始動法

自己始動法は,回転子に施されている制動巻線を,誘導電動機の二次巻線として始動トルクを発生させ,同期速度付近に達したとき,界磁巻線に直流励磁を与えて,引入れトルクによって同期化する方法である。

始動時に定格の三相交流電圧を加えると,大きな始動電流が流れる割には大きなトルクが得られないので,電流値を制御しながら適切な始動トルクを得るため,始動用変圧器,始動補償器,直列リアクトルあるいは変圧器等により低減した電圧を印加する。

また,自己始動法を採用する場合,始動時滑り周波数が大きい場合には,回転磁界によって界磁巻線内に高電圧が誘導され,絶縁破壊するおそれがあるので,界磁巻線を数個に分割して,これを開いておくか又は抵抗を通して閉じておく必要がある。

この始動法の場合,定格電圧,定格周波数の電源電圧を直接加えて始動する全電圧始動と,始動時に始動電流を抑制するために,電動機電機子電圧を低減して始動する低減電圧始動がある。

このようにして自己始動法により始動し,回転子が同期速度に近くなったときに,界磁巻線を励磁すると,引入トルクによって同期速度で回転を始める。その後,電機子電圧を定格の全電圧に切り換えて運転状態にする。

始動電動機法(starting-motor starting)

直結された始動電動機(誘導電動機,誘導同期電動機,直流電動機など)によって同期電動機を始動する方法。

始動電動機法は,主機と同軸に設備した小形の始動電動機によって主機を同期速度まで加速してから交流電源に接続して同期化させる方法である。

始動電動機として誘導機を用いる場合は,主機よりも 2 ~ 4 極程度極数が少ないものが使われる。

低周波始動(low frequency starting)

同期電動機を,可変周波数電源で低周波より始動する方法で,一般につぎの方法がある。

  1. 低周波自己始動法電源を低周波状態に保ち,同期電動機を接続して自己始動し,同期化した後,電源電圧および周波数を上昇させて加速する方法。
  2. 同期始動法 始動用電源発電機と同期電動機の電機子回路を接続し,両者の界磁を適当な比率で励磁しておいたのち電源発電機を徐々に始動して同期状態を保ちながら回転速度を上昇させる方法。
  3. サイリスタ始動法 同期電動機の始動電源にサイリスタ周波数変換器を使用した始動法。

低周波始動法は,始動用電源として可変周波数の電源を使用し,定格周波数の 25 ~ 30 % の周波数で同期化し,その後,定格周波数まで周波数を上昇させてから主電源に同期投入する方法である。

大形同期電動機の始動

大形同期電動機では自己始動法によって始動すると,始動電流が大きいため電力系統を動揺させる。

このため,次のような方式が採用される。

始動電動機始動法

無負荷で始動することが許される場合には,始動電動機始動法が採用できる。

この始動法は,小形の始動電動機によって主機である大形同期電動機を同期速度まで加速してから交流電源に接続して同期化させる方式である。

始動電動機として誘導機を用いるとき,その極数は主機よりも 1 極対少ないものが使われる。

低周波始動法

低周波始動法は,始動用電源として可変周波数の電源を使用し,周波数が定格周波数の 30 [%] くらいのときに同期化してしまい,同期状態を保ったまま周波数を定格周波数まで上げてから主電源に切り換える方式である。

低周波では回転部分の運動エネルギーが小さいので,容易に同期化できる。

同期始動法

同期始動法は,可変周波数の始動用電源と同期電動機を静止状態で電気的に接続しておき,同期電動機の界磁巻線に直流電流を流し,始動用電源の周波数を徐々に上げて最初から同期電動機としてのトルクによって始動する方式である。

運転特性

同期電動機は,定常運転時において,負荷の大小にかかわらず,極数と電源周波数とで定まる同期速度で回転する交流機であり,一般に定速度電動機として用いられる。

同期電動機が一定の負荷にて定速運転を行っているとき,界磁電流を増加させると電機子電流の位相は界磁電流増加前よりも進み方向に変化し,減少させると逆方向に変化する。

これにより,運転力率を任意に調整することができる。

同期発電機として動作

同期電動機を原動機で駆動すれば,同期発電機として動作させることができる。

電機子電流及び端子電圧の大きさ並びに同期速度及び回転方向は電動機運転時と変えず,同期発電機として遅れ力率で運転する場合の界磁電流は,遅れ力率で運転していた同期電動機の界磁電流より大きい。

同期電動機の可変速運転

同期電動機は,インバータ電源などを用いて電源周波数を制御することによって可変速運転を行うことができる。

一般に,誘導起電力は回転速度に比例して増減する。

したがって,回転速度を定格速度より低くする場合,電源電圧と電源周波数との比を一定に維持するように制御を行えば,磁束をほぼ一定に保つことができる。

永久磁石同期電動機での速度制御

永久磁石同期電動機で速度制御を行う場合,高速領域で誘導起電力が電源電圧より高くなり,そのままでは回転速度を上げることができなくなるときがある。

このような場合に,電機子電流の位相を進み方向に制御し,電機子反作用によって磁束を弱めるようにすれば,運転領域を高速側に拡大することができる。

同期発電機の出力波形

同期発電機の電機子巻線に誘導される起電力の波形は,ギャップの磁束密度の分布と相似であり,ギャップの磁束密度分布がなるべく正弦波形になるように構造上の工夫をしている。

実際には磁束密度の分布はほぼ台形になり,起電力の波形もひずみ波になる。そこで電機子巻線を分布巻の短節巻にすることによって,誘導起電力を正弦波形に近づけている。

毎極毎相のスロットの数が1の集中巻・全節巻では,毎極毎相の起電力は,スロット中の各コイル導体の起電力の代数和となる。

分布巻の場合は,いくつかのスロットにコイルが分布して巻かれているため,隣りあったスロットのコイルの起電力は位相を異にするので,毎極毎相の起電力は,それらのコイルの起電力のベクトル和となる。

分布巻・短節巻での合成起電力は,集中巻・全節巻で得られる誘導起電力の値よりも,巻線係数を乗じただけ減少したものとなるが,起電力の高調波が少なくなる利点がある。

参考文献

更新履歴

アナログ-ディジタル変換

アナログ信号をコンピュータで利用するには,アナログ-ディジタル変換(analog-to-digital conversion,略して A-D 変換)によりディジタル信号に変換する必要がある。

連続したアナログ信号を適当な時間間隔で区切り,断続的な信号とすることを標本化という。

標本化定理によると,入力信号を完全に復元するためには,その入力信号に含まれる最高周波数成分の 2 倍を超えたサンプリングレートとすればよい。

標本化されたアナログ値を飛び飛びの不連続な数値で表すことを量子化という。量子化の段階数が増え,量子化の単位が小さくなるほど,量子化誤差は小さくなる。

A-D 変換器の方式

積分

A-D 変換器には主に次のような方式がある。

積分形には,入力信号を一定時間積分し,この積分結果と一定の基準信号を積分した値が等しくなる時間を計測し,この計測値から変換結果を得る方式がある。

サンプリングレートは低いが,高精度でノイズに強い方式である。

逐次比較形

逐次比較形には,入力信号と内部の D-A 変換器の出力を 2 分探索で比較していき,ディジタル値に変換する方式がある。n ビットの変換には,MSB 側から n 回の比較が必要なため,中程度のサンプリングレートとなる。

変換精度を得るために,サンプリングホールド回路により,標本化される信号レベルが変換終了まで変動しないようにする場合がある。

並列形

並列形はフラッシュ形とも称され,n ビットの変換には (2n - 1) 個の基準電圧と比較器を準備し,入力信号をそれらで同時に比較して変換する方式がある。

高いサンプリングレートを得られるが,回路規模は大きくなる。

ディジタル制御システムの入出力処理

マイクロプロセッサを用いたディジタル制御システムは,目覚しく発展している。

このようなディジタル制御においては,時間軸方向と振幅方向の成分を持つアナログ信号を,ある一定の離散時間間隔で取り出す標本化と,ビット列に数値化する量子化によってディジタル信号に変換する。

この際,サンプリング定理で定まるナイキスト周波数よりも低い周波数帯域に,アナログ信号を限定する必要がある。

アナログ信号にナイキスト周波数以上の周波数が含まれると,本来存在しない低周波数の信号としてディジタル信号に雑音がのることになる。

これを折り返し現象という。この現象を防ぐには,あらかじめ低域通過フィルタを用いて,アナログ信号の周波数帯域を制限すればよい。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月15日 新規作成
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加

電気加熱

電気的現象によって発生する熱による加熱を電気加熱(electric heating)と呼ぶ*1

電気加熱

直接電気加熱(direct electric heating)

直接電気加熱は,被加熱物に電流を通すことによって発生する熱による加熱である。

間接電気加熱(indirect electric heating)

間接電気加熱は,電気的現象によって発生した熱を被加熱物を移行させる加熱である。

抵抗加熱(resistance heating)

抵抗加熱は,電源に直接つながれた導電体中に発生するジュール熱による直接または間接電気加熱である。

抵抗加熱は,電気加熱のうち最も広く使われている。

抵抗加熱は抵抗体に電流を流すことにより生じるジュール熱を利用する。

このとき,抵抗体が達する温度はジュール熱により生じる熱と抵抗体から放散する熱が等しくなる温度である。この状態を熱平衡という。

直接抵抗加熱(direct resistance heating)

直接抵抗加熱は,被加熱物に直接電流を通すことによって加熱を行うことをいう。

直接通電加熱ともいう。

間接抵抗加熱(indirect resistance heating)

間接抵抗加熱は,発熱体に電流を通じ,発生する熱によって被加熱物を加熱することをいう。

ニクロムや炭化けい素などで作られたヒータに通電し,発生するジュール熱を利用して非加熱物を間接的に加熱する方式は間接抵抗加熱と呼ばれ,工業分野の電気加熱において最も多く利用されている加熱法である。

この方式の加熱炉では,炉内のヒータに供給する電力を調整して,炉内温度を制御している。この温度制御には,サイリスタを用いた位相制御が多く用いられている。

位相制御では高調波が発生するので,このための対策が必要であるが,制御応答は速い。

ヒータで発生したジュール熱は,放射,対流,伝導の組合せによって被加熱物に伝えられ,被加熱物が加熱される。

放射ではヒータやヒータによって加熱された炉壁から発生する電磁波(主に赤外放射)によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。

対流ではヒータによって加熱された炉内の空気の移動によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。

対流による被加熱物への熱流束(単位時間に単位面積を横切る熱量)は被加熱物近傍の炉内空気温度と被加熱物の表面温度との温度差に比例する。

また,炉内で被加熱物を保持する物体と被加熱物とが接触する部位からは伝導によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。

赤外加熱(infrared heating)

赤外加熱は,エネルギーが赤外放射によって伝達される加熱をいう。

赤外加熱の用途

赤外加熱は,塗装や印刷の乾燥のほか,食品,電子部品,半導体などの製造工程においても用いられている。

これらの物質は赤外放射の波長領域において多くの吸収帯をもつ。

これらの表面に照射された赤外放射は,内部に浸透する過程で吸収されて熱に変わり,物質自体が発熱する。

一般に,赤外加熱の加熱対象は赤外放射をよく吸収するがゆえに,赤外放射の浸透深さはせいぜい 10 ~ 100 μm のオーダーである。

この領域で発生した熱は,その後,伝導や対流によって内部に伝わり,加熱が進む。

赤外放射源

赤外加熱に用いられる赤外放射源は,電熱線によって加熱されたセラミックスや,通電によって高温になったフィラメントなどである。

放射源であるこれらの物質表面の単位面積から放射される分光放射パワー(波長成分ごとの放射パワー)は,分光放射率プランクの放射則とで決まる。

なお,黒体の分光放射パワーの特性は,例えば黒体表面の温度が 900 K の場合,以下のグラフのようになる。

図 黒体の分光放射パワーの特性

図 黒体の分光放射パワーの特性

分光放射率が波長及び温度に関係なく一定とすれば,物質表面から放射される全放射パワーは絶対温度で表した表面温度の 4 乗に比例する。

これはステファン・ボルツマンの法則と呼ばれている。

また,分光放射パワーが最大となる波長は黒体表面の絶対温度反比例する。

これはウィーンの変位則と呼ばれている。

一方,被加熱物の表面に照射された赤外放射の一部は表面で反射されるが,残りは非加熱物内部に浸透し,浸透する過程で被加熱物に吸収され,被加熱物自体が発熱して加熱される。被加熱物の吸収係数が大きいほど赤外放射は被加熱物の表層で吸収される。

通常,遠赤外加熱の熱源として利用される物質は,摂氏数百度の温度で,被加熱物のもつ幾つかの大きな熱振動の領域である数 μm ~数十 μm の波長の遠赤外放射を発生する。

赤外放射(infrared radiation)

赤外放射は,波長が可視放射の長波長限界(ほぼ 800 nm)とマイクロ波の限界(ほぼ 1 mm)との間にある放射である。

アーク加熱(arc heating)

アーク加熱は,主としてアークによって発生する熱によって被加熱物を加熱する,直接または間接電気加熱である。

製鋼用アーク炉はアーク加熱の代表的な例であり,商用周波数の三相交流をそのまま用いる交流アーク炉と直流に整流して用いる直流アーク炉とがある。

両者共に電圧は数百ボルト程度,電流は数千アンペアから数万アンペア以上のアークを黒鉛電極と被加熱物である鉄くずや還元鉄との間に発生させて過熱・溶解する。

大容量の電気負荷であるため,その負荷変動や波形ひずみがフリッカや高調波などの電源障害の発生源となるので,対策が必要な場合がある。

アーク放電

アーク放電において,放電電極間の距離(アーク長)を一定とすると,アーク放電路(アーク陽光柱)の電圧(アーク電圧)は,電流が小さい領域では,電流が増えるにつれて低下する特性をもつ。

さらに電流が増えて大電流の領域になると,アーク電圧は,電流に依存せず,ほぼ一定となる。

この領域では,アーク電圧はアーク長にほぼ比例する

製鋼用アーク炉

このような大電流アークを用いた代表的な電炉として,鉄鋼スクラップを溶融する製鋼用アーク炉がある。

電極には黒鉛を用い,被加熱物の鉄鋼スクラップが通電経路の一部となっている。電極は可動式でアーク長を調整する。

アーク長とアーク電流を制御することで,鉄鋼スクラップへの投入熱量を制御している。

アーク加熱のフリッカ低減対策

  1. アーク炉の引出母線の短絡容量を増加する
  2. 直列コンデンサを接続してみかけの短絡容量を増加する
  3. 専用線からアーク炉へ供給する
  4. 同期調相機と緩衝リアクトルにより無効電力変動を吸収する
  5. 炉用直列リアクトルを挿入して,アーク炉電流の変動を抑制する
  6. TCR(Thyristor-Controlled Reactor)方式などの SVC(静止形無効電力補償)を用いる

electrical-engineer.hatenablog.jp

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交流アーク炉では,炉用変圧器二次側の電極までの三相回路のリアクタンスが不平衡であるとアーク電圧に高低を生じ,局所的に高温となって炉壁を損傷するため,各相導体の三角配列などによってアーク電圧の不平衡を解消する必要がある。

一方,直流アーク炉では,直流母線に流れる電流が作る磁場によってアーク偏向が発生することで,被溶解物の不均一溶解や炉内にホットスポットを生成する原因となり,母線の配置には工夫が必要となる。

両者を電源系統に与える影響で比較すると,アーク発生から消滅までの入力の有効-無効電力特性などから直流アーク炉の方が影響が少なく,同一定格容量の場合,弱小電源系統への接続が比較的容易である。

直接アーク加熱(direct arc heating)

直接アーク加熱は,アーク電流が被加熱物を流れるアーク加熱をいう。

間接アーク加熱(indirect arc heating)

間接アーク加熱は,アーク電流が被加熱物を流れないアーク加熱をいう。

誘導加熱(induction heating)

誘導加熱は,電磁誘導作用で発生する誘導電流による直接または間接電気加熱である。

誘導加熱は,導電性の被加熱物を交番磁界中に置くことで生じる渦電流損によって被加熱物自体が発熱し,加熱される方式である。

金属の溶解のほか,金属表面の焼入れなどに用いられている。

渦電流損として発生する熱量は,交番磁束の大きさの 2 乗に比例する。

このほか,交番磁束の周波数,被加熱物の透磁率及び導電率にも依存する。

また,印加する交番磁界の周波数を高くすると,発熱は被加熱物の表面近傍に集中するようになる。

この現象は表皮効果によるものであり,その指標として浸透深さがある。

浸透深さは,透磁率と導電率の積の平方根に反比例する。

また,抵抗率が低いほど浸透深さは浅い。

浸透深さが浅くなると,被加熱物の表面に近い部位がより強く加熱され,表面加熱に近い様相を呈する。

したがって,被加熱物を適正に加熱するためには,加熱されるべき部位と達成すべき昇温温度に応じた交番磁束の周波数と大きさの選択が重要である。

電流浸透深さ

誘導加熱の被加熱物に生じる渦電流の密度は,表面から内部に向かい指数関数的に減少し,表面の $\displaystyle \frac{1}{e}$($e$ : 自然対数の底)の値になる位置を電流振動深さと呼ぶ。

間接誘導加熱(indirect induction heating)

間接誘導加熱は,媒介物を誘導加熱し,その発熱を利用して被加熱物を加熱することをいう。

誘電加熱(dielectric heating)

誘電加熱は,被加熱物である誘電体を交番電界中に置くことによって誘電体自身が発熱する現象を利用した加熱法である。

この発熱は誘電体損と呼ばれている。

誘電体に電界が印加されると,誘電体内に誘電分極を生じる。交番電界の場合には,電解の交番に伴って,誘電分極の方向も変化する。

交番電界の周波数を上げていくと,交番電界の時間変化に誘電分極が追いつかなくなり,遅れが生じ始める。

この遅れによって誘電体損が生じ,その熱によって誘電体自身の温度が上昇する。

誘電体の電気的等価回路

誘電体の電気的等価回路は抵抗 $R$ と静電容量 $C$ の並列回路で表される。

$R$ 及び $C$ を流れる電流をそれぞれ $I_R$,$I_C$ とすると $\tan{\delta} = $ $\displaystyle \frac{I_R}{I_C}$ と表され,$\tan{\delta}$ は誘電正接と呼ばれる。

また,誘電体の比誘電率を $\varepsilon_\text{r}$ とすると,$\varepsilon_\text{r} \tan{\delta}$ は誘電体の損失係数と呼ばれ,誘電加熱の容易さを判断する目安となる。

誘電損失係数の大きさは印加する交番磁界の周波数に大きく依存する。

実際の誘電加熱では,放送などの無線業務の障害となるのを避けるため,使用可能な周波数帯が ISM 周波数帯として定められている。

この周波数帯においては,誘電体損を生じる誘電分極は誘電体を構成する荷電体のうち電気双極子によるものである。

また,一般に,被加熱物である誘電体は温度上昇によってインピーダンスが変化するので,誘電加熱装置から被加熱物に電力を効率よく供給するために,高周波発振回路と被加熱物との間に整合回路が挿入されている。

誘電加熱の被加熱物

一般に,被加熱物が絶縁体の場合,直流電界を印加しても電流が流れず,加熱されない。

しかし,被加熱物中の電子,イオン,電気双極子のような荷電体おいては,印加される直流電界によって誘電分極を生じる。

電界が交番電界の場合には,電界の往復的な変化に応じて,誘電分極も往復的に連続して発生する。

誘電加熱で発熱に要する単位体積当たりの電力は,印加する電界の強さ $E$ [V/m] の 2 乗及び印加する周波数 $f$ [Hz],被加熱物の比誘電率 $\epsilon_\text{r}$,誘電正接 $\tan\delta$ に比例する。

$\epsilon_\text{r}\cdot \tan\delta$ を誘電損失係数と呼び,誘電加熱の容易さを判断する目安となる。

この値が 0.01 程度以下の物質については誘電加熱が困難である。

なお,実際の適用では,通信設備への電波妨害や生体への影響等の考慮が必要で,周波数は電波法で ISM (Industrial Scientific Medical)周波数として,使用できる数値が決められている。

誘電損失係数の差を利用して,例えば木材の接着には接着部分のみの加熱や,包装材が誘電率の小さいものであれば,内部の食品のみの加熱など,加熱部分の選択を行うことができる。

外部からの加熱による昇温のように,被加熱物自体の熱伝導に依存せず被加熱物を内部から加熱するので,急速で均一な加熱を行うことが可能である。

電磁波による誘電加熱

電磁波による誘電加熱の原理は次のとおりである。

被加熱物である誘電体に電磁波の高周波電界が加えられると誘電体内の分子は分極を生じる。

この状態を生じる荷電体の移動が電界の時間的変化に追随できなくなると,変位電流が電界に対して遅れを生じて電力損失が発生する。

この現象が誘電損による熱の発生であり,電磁波の誘電体内の浸透深さは周波数に反比例する。

電磁波による誘電加熱は,周波数帯によって次の2種類に大別される。

その一つは 1 ~ 100 [MHz] 程度の周波数帯を使用する高周波加熱であり,他の一つは 300 [MHz] ~ 30 [GHz] 程度の周波数帯を使用するマイクロ波加熱である。

マイクロ波加熱(microwave heating)

マイクロ波加熱は,300 MHz ~ 300 GHz の範囲の電磁波の作用で,誘電体を主として分子運動とイオン伝導によって熱を発生させて加熱することをいう。

特に周波数の高いマイクロ波加熱では,電磁波と浸透深さで加熱範囲が制限され,その浸透深さは波長に比例し,比誘電率平方根と誘電正接との積に反比例する。

また,純粋の場合には,誘電加熱の領域である数十 MHz 以下では誘電損による加熱は極めて効率が低いが,塩分などのイオン源を含むと導電率が増加し有効に加熱される。

マイクロ波を利用する電子レンジ

マイクロ波を利用する電子レンジは誘電加熱の代表的な例の一つである。

電子レンジでは,被加熱物を構成する荷電体のうち,電気双極子による発熱によって加熱される。

プラズマ加熱

大気圧程度の気体を数千 °C ~ 数万 °C のプラズマにするには,気体を電離し,更に継続的にエネルギーを供給することが必要である。

工業的に使用するプラズマ加熱装置では,一般的には直流電源で点弧されるアークプラズマトーチが採用されている。

アークプラズマトーチは,通常,気体を噴出するようにしたノズルとその内部に設けられた電極から構成され,この電極を陰極とする。

アークプラズマトーチの構造には,加熱物を対極とする移行形とノズルそのものに対極を配置した非移行形とがある。

アークプラズマトーチで発生したアークプラズマの外周に冷ガスを吹き付けることによって,アークを強制的に拘束し,高温のプラズマ流を得る。

不活性高温雰囲気が必要な場合はアルゴンやヘリウムのような作動ガスが用いられる。

また,アークプラズマを発生させることなく無電極で高温のプラズマを得る方法として,石英管などの内部に作動ガスを流し,周囲に設けた誘導コイルに高周波電流を流す方法もある。

この方法では,基本的に電極が不要なので,電極からの不純物の混入の心配がなく,クリーンなプラズマを得ることができる。

ヒートポンプ(heat pump)

ヒートポンプは,熱媒体の相変化を利用し,電気機械的エネルギーによって低温側からくみ上げた熱を高温側で利用する目的で使用される装置である。

エアコン,冷凍機,給湯器などにヒートポンプが広く用いられている。

ヒートポンプは,低温側の熱交換器と高温側の熱交換器との間に冷媒を循環させることで,低温側の熱を高温側へくみ上げている。

まず,低温側の熱交換器において,冷媒が低温側から熱を吸収して蒸発する。

その後,冷媒は圧縮機によって高温,高圧となり,高温側の熱交換器に送られる。そこで冷媒は高温側に熱を放出して凝縮する。

続いて,冷媒は膨張弁を通ることによって低温,低圧となって再び低温側の熱交換器に送られる。

このような熱サイクルの基本サイクルは逆カルノーサイクル*2と呼ばれる。

COP (成績係数)

ヒートポンプの性能を示す指標の一つとして COP (成績係数)がある。

低温側の熱交換器で吸収した熱量を $Q_\text{L}$ [J],ヒートポンプを動かすために使ったエネルギーを $W$ [J] として,熱損失などを無視すると,低温側の熱を高温側へくみ上げるときの COP は $1 + Q_\text{L}/W$ で与えられる。

また,近年,冷媒には,オゾン層破壊の心配がない HFC(ハイドロフルオロカーボン)が使われるようになっている。

しかし,地球温暖化係数が高いことが課題である。

伝熱

伝熱とは熱の移動をさし,次の 3 とおりの,熱伝導,対流熱伝達,放射伝熱の形態がある。

熱伝導

熱伝導とは物質内で熱のみが移動することをいう。

対流熱伝達

対流熱伝達とは固体と流体の間の熱の移動や,流体の移動などの物理現象をともなった熱の移動を表す。

放射伝熱

放射伝熱では,熱源から電磁波としてエネルギーが放出され対象物に吸収されて熱が移動する。熱源の表面から放出されるエネルギーは,物質の温度の 4 乗にほぼ比例する。

まとめ

電気加熱について,加熱方式,加熱原理からみた電気の主たる役割,被加熱物の加熱の様相を整理すると,次表となる。

電気加熱
加熱方式 加熱原理からみた電気の主たる役割 被加熱物の加熱の様相
直接抵抗加熱 被加熱物への通電 通電電流によって発生するジュール熱による発熱
赤外加熱 熱放射の発生 放射の吸収による発熱
誘導加熱 交番磁界の発生 渦電流によって発生するジュール熱による発熱
誘電加熱 交番電界の発生 誘電損による発熱
ヒートポンプ加熱 電動機による圧縮機の駆動 凝縮器からの熱の吸収

参考文献

masassiah.web.fc2.com

  

更新履歴

  • 2022年1月14日 新規作成
  • 2022年1月15日 電気専門用語集(WEB 版)を追加
  • 2022年1月22日 参考文献に「平成25年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」「平成22年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問7」を追加
  • 2022年2月12日 参考文献に「平成8年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年2月13日 参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年6月19日 参考文献に「令和元年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年6月26日 参考文献に「平成29年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2022年7月16日 参考文献に「平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年8月27日 参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問8」を追加
  • 2023年4月30日 誘導加熱の被加熱物に生じる電流浸透深さの説明を追加
  • 2023年8月26日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加

*1:ここで加熱とは,被加熱物の温度を上げる処理だけでなく,溶解,乾燥,焼結,焼成,熱加熱などを目的とする熱的な処理一般をいう。

*2:物理的に二つの可逆等温変化と二つの可逆断熱変化とからなる。