目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

同期電動機の始動法と運転特性

三相交流による回転磁界と同期して回転する交流電動機である同期電動機(synchronous motor)の始動法,運転特性についてまとめる。

同期電動機の始動法

同期電動機は,同期速度に達して始めてトルクを同一方向に生じるのであって,そのままでは始動トルクはほとんど零に近い。

通常,自己始動法,始動電動機始動法,低周波始動法,サイリスタ始動法等により,回転子を同期速度まで加速した後,励磁巻線を励磁する必要がある。

全電圧始動(direct on line starting, across the line starting)

定格電圧,定格周波数の電源電圧を直接加えて始動する方法。直入ともいう。

この方式は,電動機容量に比べて電源容量が大きい場合,全電圧を加えて始動する方式で突入電流は大きくなるが,始動トルクは大きい。

始動の際の電流を制限し,トルクを大きくするため,始動巻線のスロットを深みぞ形または二重かご形にし,高抵抗導体(たとえば,黄銅)を用いた高始動トルク形同期電動機とすることが多い。

低減電圧始動(reduced voltage starting)

始動時に始動電流を制限するために,電動機の端子電圧を低減して始動する方法。

始動の装置にはリアクトル,単巻変圧器などがある。

補償器始動(auto transformer starting)

単巻変圧器を使用する低減電圧始動。

この方式は,自己始動の際,全電圧を電機子に加えると大きな突入電流が流れるので,これを制限するために,単巻変圧器で電圧を定格電圧の 50 ~ 80 % に低下して加える方法で,始動トルクは小さい。

始動補償器としてリアクトルを用いることもある。

開路式補償器始動(open transition autotransformer starting, open circuit transition autotransformer starting)

補償器始動において,低い電圧から定格電圧に切り換えるときに,電源から電動機が開路されている方法。

閉路式補償器始動(close transition autotransformer starting, close circuit transition autotransformer starting)

補償器始動において,低い電圧から定格電圧に切り換えるときに,電源と電動機の接続状態が続いている方法。

単巻変圧器の電源を直列リアクトルとして使用して,電源から切り離さないで切り換える方法をコンドルファ始動という。

リアクトル始動(reactor starting)

リアクトルを使用する低減電圧始動。

一次抵抗始動(starter resistance starting)

一次側に直列に抵抗を使用する低減電圧始動。

二次抵抗始動(rotor resistance starting)

巻線形誘導電動機や誘導同期電動機において始動電流または始動トルクを調節するために二次側回路に抵抗を挿入して始動する方法。

スターデルタ始動(star delta starting)

始動電流を制限するために,最初は一次巻線を星形接続にして始動し,ほぼ全速度に達したとき,これを三角接続にして始動する方法。

分割巻線始動(part winding starting)

始動電流を制限するために,電機子巻線を2回路以上に分割し,始動時には分割した一部の回路だけ電流を流し,速度が上昇した後に残りの回路を並列に入れていく方法。

自己始動法

自己始動法は,回転子に施されている制動巻線を,誘導電動機の二次巻線として始動トルクを発生させ,同期速度付近に達したとき,界磁巻線に直流励磁を与えて,引入れトルクによって同期化する方法である。

始動時に定格の三相交流電圧を加えると,大きな始動電流が流れる割には大きなトルクが得られないので,電流値を制御しながら適切な始動トルクを得るため,始動用変圧器,始動補償器,直列リアクトルあるいは変圧器等により低減した電圧を印加する。

また,自己始動法を採用する場合,始動時滑り周波数が大きい場合には,回転磁界によって界磁巻線内に高電圧が誘導され,絶縁破壊するおそれがあるので,界磁巻線を数個に分割して,これを開いておくか又は抵抗を通して閉じておく必要がある。

この始動法の場合,定格電圧,定格周波数の電源電圧を直接加えて始動する全電圧始動と,始動時に始動電流を抑制するために,電動機電機子電圧を低減して始動する低減電圧始動がある。

このようにして自己始動法により始動し,回転子が同期速度に近くなったときに,界磁巻線を励磁すると,引入トルクによって同期速度で回転を始める。その後,電機子電圧を定格の全電圧に切り換えて運転状態にする。

始動電動機法(starting-motor starting)

直結された始動電動機(誘導電動機,誘導同期電動機,直流電動機など)によって同期電動機を始動する方法。

始動電動機法は,主機と同軸に設備した小形の始動電動機によって主機を同期速度まで加速してから交流電源に接続して同期化させる方法である。

始動電動機として誘導機を用いる場合は,主機よりも 2 ~ 4 極程度極数が少ないものが使われる。

低周波始動(low frequency starting)

同期電動機を,可変周波数電源で低周波より始動する方法で,一般につぎの方法がある。

  1. 低周波自己始動法電源を低周波状態に保ち,同期電動機を接続して自己始動し,同期化した後,電源電圧および周波数を上昇させて加速する方法。
  2. 同期始動法 始動用電源発電機と同期電動機の電機子回路を接続し,両者の界磁を適当な比率で励磁しておいたのち電源発電機を徐々に始動して同期状態を保ちながら回転速度を上昇させる方法。
  3. サイリスタ始動法 同期電動機の始動電源にサイリスタ周波数変換器を使用した始動法。

低周波始動法は,始動用電源として可変周波数の電源を使用し,定格周波数の 25 ~ 30 % の周波数で同期化し,その後,定格周波数まで周波数を上昇させてから主電源に同期投入する方法である。

大形同期電動機の始動

大形同期電動機では自己始動法によって始動すると,始動電流が大きいため電力系統を動揺させる。

このため,次のような方式が採用される。

始動電動機始動法

無負荷で始動することが許される場合には,始動電動機始動法が採用できる。

この始動法は,小形の始動電動機によって主機である大形同期電動機を同期速度まで加速してから交流電源に接続して同期化させる方式である。

始動電動機として誘導機を用いるとき,その極数は主機よりも 1 極対少ないものが使われる。

低周波始動法

低周波始動法は,始動用電源として可変周波数の電源を使用し,周波数が定格周波数の 30 [%] くらいのときに同期化してしまい,同期状態を保ったまま周波数を定格周波数まで上げてから主電源に切り換える方式である。

低周波では回転部分の運動エネルギーが小さいので,容易に同期化できる。

同期始動法

同期始動法は,可変周波数の始動用電源と同期電動機を静止状態で電気的に接続しておき,同期電動機の界磁巻線に直流電流を流し,始動用電源の周波数を徐々に上げて最初から同期電動機としてのトルクによって始動する方式である。

運転特性

同期電動機は,定常運転時において,負荷の大小にかかわらず,極数と電源周波数とで定まる同期速度で回転する交流機であり,一般に定速度電動機として用いられる。

同期電動機が一定の負荷にて定速運転を行っているとき,界磁電流を増加させると電機子電流の位相は界磁電流増加前よりも進み方向に変化し,減少させると逆方向に変化する。

これにより,運転力率を任意に調整することができる。

同期発電機として動作

同期電動機を原動機で駆動すれば,同期発電機として動作させることができる。

電機子電流及び端子電圧の大きさ並びに同期速度及び回転方向は電動機運転時と変えず,同期発電機として遅れ力率で運転する場合の界磁電流は,遅れ力率で運転していた同期電動機の界磁電流より大きい。

同期電動機の可変速運転

同期電動機は,インバータ電源などを用いて電源周波数を制御することによって可変速運転を行うことができる。

一般に,誘導起電力は回転速度に比例して増減する。

したがって,回転速度を定格速度より低くする場合,電源電圧と電源周波数との比を一定に維持するように制御を行えば,磁束をほぼ一定に保つことができる。

永久磁石同期電動機での速度制御

永久磁石同期電動機で速度制御を行う場合,高速領域で誘導起電力が電源電圧より高くなり,そのままでは回転速度を上げることができなくなるときがある。

このような場合に,電機子電流の位相を進み方向に制御し,電機子反作用によって磁束を弱めるようにすれば,運転領域を高速側に拡大することができる。

同期発電機の出力波形

同期発電機の電機子巻線に誘導される起電力の波形は,ギャップの磁束密度の分布と相似であり,ギャップの磁束密度分布がなるべく正弦波形になるように構造上の工夫をしている。

実際には磁束密度の分布はほぼ台形になり,起電力の波形もひずみ波になる。そこで電機子巻線を分布巻の短節巻にすることによって,誘導起電力を正弦波形に近づけている。

毎極毎相のスロットの数が1の集中巻・全節巻では,毎極毎相の起電力は,スロット中の各コイル導体の起電力の代数和となる。

分布巻の場合は,いくつかのスロットにコイルが分布して巻かれているため,隣りあったスロットのコイルの起電力は位相を異にするので,毎極毎相の起電力は,それらのコイルの起電力のベクトル和となる。

分布巻・短節巻での合成起電力は,集中巻・全節巻で得られる誘導起電力の値よりも,巻線係数を乗じただけ減少したものとなるが,起電力の高調波が少なくなる利点がある。

参考文献

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