目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

食塩電解

食塩電解は食塩水を電解して塩素,水酸化ナトリウム(苛性ソーダ),水素を得る工業電解プロセスであり,全反応式は以下で表される。

2 NaCl + 2 H2O → Cl2 + H2 + 2 NaOH

現在,国内で行われているイオン交換膜法では Na+ の選択透過性のある密隔膜(イオン交換膜)を隔膜として利用し,アノードには寸法安定性電極,カソードにはニッケル系の電極が用いられ,理論分解電圧は 2.3 V,実際のセル電圧は 3.0 ~ 5.0 V である。

電解槽のセル電圧を下げるためには,電極反応や電解槽の内部抵抗などが原因のセル電圧の上昇を小さくしなければならない。

食塩電解の電極反応はターフェルの式に従う。

したがって,運転時の電極電位と平衡電位の差である過電圧は電流が大きくなると,電流の対数に比例して大きくなる。内部抵抗は電解質の抵抗によるものが支配的である。

この電解質の抵抗は電解液である食塩水や水酸化ナトリウムやイオン交換膜などの電解質のイオン抵抗である。

内部抵抗を小さく,すなわちイオン伝導度を高くするためには電解質の濃度を高く維持する必要がある。

このとき,食塩水や水酸化ナトリウムなどの強電解質の濃度あたりの伝導率であるモル伝導率は,イオン間の相互作用により濃度が高くなると小さくなる。

食塩電解の工業的プロセス

食塩電解の工業的プロセスとして,現在,我が国で採用されているすべてがイオン交換膜法である。

これは我が国で開発された技術であり,全世界に広まりつつある。

この方法では,陽極には電極材料としてチタンを基体にした寸法安定性電極が用いられ,陰極には過電圧の小さな電極材料としてニッケルを主体にした電極が用いられている。

また,隔膜にはナトリウムイオン(Na+)だけを選択的に透過する密隔膜が用いられているので,得られる製品である水酸化ナトリウムの純度が高く,かつ,構成材料の高機能化により省エネルギー化も進んでいる。

かつては,陰極に過電圧の大きな水銀(Hg)を持ちいたプロセスも主流であったが,環境に対する配慮から我が国では廃止された。

また,隔膜に石綿を用いた隔膜法も一時使用されたが,現在は使用されていない。

食塩電解の計算問題

電解槽に加える電力は電流と電圧の積で表すことができ,電気化学反応も化学熱力学的な項,ファラデーの法則に基づく電流項,ネルンスト式で表される電圧項,それぞれ理論的な値が存在するので,電解槽のエネルギー変換効率は化学熱力学に基づく理論効率,電流効率と電圧効率の積で表される。

今,電極面積 2 m2 の食塩電解セルを 2 時間運転した。

このときのセル電圧が 3.3 V,電流密度が 6 kA/m2,電流効率が 96 % で一定であった。

この間の電解セルの電圧効率は 69.7 %,標準状態換算での塩素の生産量は 9.63 kL である。

なお,ファラデー定数は 26.80 A・h/mol,気体の標準状態の体積を 22.4 L/mol とする。

参考文献

masassiah.web.fc2.com

更新履歴

  • 2022年1月13日 新規作成
  • 2022年2月12日 参考文献に「平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2022年7月3日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加

単巻変圧器

本稿では,単巻変圧器について説明する。

単巻変圧器の定義

図に示すように一次側と二次側とが絶縁されていなくて,巻線の一部が一次と二次に共通に利用されている変圧器を単巻変圧器*1という。

共通部分を分路巻線*2,残りの部分を直列巻線*3という。

図 単巻変圧器

図 単巻変圧器

直列巻線および分路巻線だけからなり,二つの回路に接続される単巻変圧器は,巻線全体を高圧巻線と考え,また分路巻線を低圧巻線と考える。また接続される回路に応じて,高圧巻線を一次(または二次),低圧巻線を二次(または一次)巻線と考える。このように考えて,定格諸量・変圧比・負荷損・効率・短絡インピーダンスならびに電圧変動率を二巻線変圧器に準じて決定あるいは測定する。

ただし,抵抗損の決定にあたっては,直列巻線および分路巻線それぞれの抵抗と電流から算出しなければならない。

(出典)JEC-2200-1995「変圧器」

単巻変圧器の理論

単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係

単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係を説明する。

下図のように一次電圧を $V_1$,二次電圧を $V_2$,一次電流を $I_1$,二次電流を $I_2$,直列巻線と分路巻線を合わせた巻線の巻数を $N_1$,分路巻線の巻数を $N_1$ とする。

巻数比,電圧比,電流比はそれぞれ次式のようになる。

\[n = \frac{N_1}{N_2} \]

\[\frac{V_1}{V_2} = \frac{N_1}{N_2} = n \]

\[\frac{I_1}{I_2} = \frac{N_2}{N_1} = \frac{1}{n} \]

図 単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係

図 単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係

直列巻線と分路巻線の電圧の関係

高圧側電圧を $V_\text{h}$,低圧側電圧を $V_1$,直列巻線及び分路巻線の電圧をそれぞれ,$V_\text{m}$,$V_\text{n}$ とし,巻線の漏れインピーダンス及び励磁電流を無視すれば,次の関係がある。

\[ V_\text{h}=V_\text{m}+V_\text{n} \] \[ V_1=V_\text{n} \] \[ S_\text{S}=V_\text{m}I_\text{h}=(V_\text{h}-V_1)I_\text{h} \]

単巻変圧器では $S_\text{S}$ を自己容量といい,負荷に供給できる電力 $S_\text{L} = V_\text{h}I_\text{h} = V_1 I_1$ を負荷容量または線路容量という。

$S_\text{S}$ は直列巻線と分路巻線を分離して二巻線変圧器として用いた場合の容量で,単巻変圧器の大きさは $S_\text{S}$ で決まる。

$\displaystyle \frac{S_\text{S}}{S_\text{L}}$ を $K$ とすると

\[ K=1-\frac{V_1}{V_\text{h}} \]

となり,原理上,$V_\text{h}$ に対する $V_1$ の比が 1 に近いほど同一自己容量に対して線路容量が大きくなる。

また,同じ負荷容量の二次巻線変圧器に比べてサイズが小さく,銅損が少なく,さらに電圧変動率が小さいという利点がある。

図 1 単巻変圧器

図 1 単巻変圧器

単巻変圧器の用途

単巻変圧器は,電圧を少しだけ変圧したい場合に適している。

例えば,標準電圧の近い国の電圧差を吸収するために用いられている(100 V → 110 V など)。

単巻変圧器と複巻変圧器との比較

単巻変圧器と複巻変圧器の違いについて述べる。

単巻変圧器の一次側と二次側は,絶縁されていないのに対して,複巻変圧器の一次側と二次側は絶縁されている。

また,定格電圧,定格容量が同じ場合,複巻変圧器に比べて単巻変圧器の大きさは小さく,重量は軽く,コストは低くなる。

例として,定格電圧 200/100 V,定格電流 10 kVA の単巻変圧器と複巻変圧器の幅 W [mm],奥行き D [mm],高さ H [mm],重量 [kg] を比較する。(出典)東京精電株式会社,「単巻変圧器(オートトランス)

表 単巻変圧器と複巻変圧器との比較(定格電圧 200/100 V,定格電流 10 kVA)
項目 単巻変圧器 複巻変圧器
W [mm] 260 260
D [mm] 200 230
H [mm] 225 225
重量 [kg] 40 80

例題 単巻変圧器の二次側の負荷抵抗の消費電力

図 単巻変圧器

図 単巻変圧器

図に示すように単巻変圧器の一次側に 20 Ω の直列抵抗,二次側に 5 Ω の負荷抵抗を接続し,電源電圧を 100 V とする。

一次巻線の巻数を N1 = 200 とした場合に,5 Ω の負荷抵抗で消費される電力が最大となる二次巻数は N2 = 100 となり,このときの負荷抵抗の消費電力は 125 W となる。なお変圧器は理想変圧器として考える。

参考文献

更新日時

  • 2022年1月12日 新規作成
  • 2022年7月3日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5」を追加
  • 2022年7月16日 参考文献に「平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2023年1月8日 参考文献に JEC-2200-1995「変圧器」を追加
  • 2023年3月19日 単巻変圧器の用途,複巻変圧器との比較を追加

*1:単巻変圧器とは,少なくとも二つの巻線が相互に共通な部分を有する変圧器をいう。

*2:分路巻線とは,単巻変圧器で共通な巻線部分をいう。

*3:直列巻線とは,単巻変圧器あるいは直列変圧器の巻線で,回路に直列に接続される巻線をいう。

かご形誘導電動機

かご形誘導電動機(core induction moter)*1の始動特性の特徴として始動電流が大きい割に始動トルクが小さいことがあげられる。

始動特性を改良するために二次周波数の変化に対する二次抵抗の変化を利用したのが特殊かご形誘導機である。

かご形誘導電動機の始動特性を改良するために考案された特殊かご形誘導電動機は,二次実効抵抗が自動的に始動時には大きくなり,運転時には小さくなるような構造となっている。

二重かご形誘導電動機

二重かご形誘導電動機(double squirrel-cage induction motor)とは,回転子が半径方向の異なった位置に設けた二つのかご形巻線をもつ特殊かご形誘導電動機である。

下図に,二重かご形誘導電動機の回転子の二重かご形の回転子構造を示す。

図 二重かご形の回転子構造

図 二重かご形の回転子構造

回転子表面に近い外側導体は断面積が小さく,抵抗値が大きい。

軸に近い内側導体は断面積が大きく,抵抗値が小さい。始動時の二次周波数が高い間は,内側導体が構成する二次回路の漏れリアクタンスが大きいため,二次回路を流れる電流の大部分は外側導体を流れる。

そのため,二次抵抗の高い誘導機として始動され,大きな始動トルクを得ることができる。

二次周波数の低下に伴い,二次電流の大部分は抵抗の低い内側導体に流れる。

深溝かご形誘導機

深溝かご形誘導電動機(deep slot squirrel-cage induction motor)とは,二次巻線の断面が,幅のわりに深さの深い形状,たとえば長方形,くさび形,逆T字形などの形状をもつ特殊かご形誘導電動機である。

深溝かご形誘導電動機の回転子は,スロットの形が半径方向に細長い構造となっている。

始動時の二次周波数が高い間は,スロットの底に近い導体部分ほど多くの磁束と鎖交し,漏れリアクタンスが大きくなる。

したがって,導体中の電流は外周の近くに集中し,あたかも導体の断面が小さくなったのと同様の作用をして,実効抵抗が増加する。

速度が上昇するにしたがって二次周波数は低くなり,電流分布は次第に底部へ広がる。

やがて同期速度付近では電流は導体中に一様に分布するようになるので,普通のかご形誘導電動機として動作する。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月11日 新規作成
  • 2022年1月22日 参考文献に「平成25年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1」を追加
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5」を追加
  • 2023年1月7日 参考文献に電気専門用語集を追加

*1:かご形誘導電動機とは,二次巻線がスロット中に収められた棒状の導体と鉄心の両側でこれらを短絡する端絡環(短絡環)とからなる誘導電動機。

同期発電機の励磁

小形の同期発電機では界磁に永久磁石を使用することもあるが*1,中型から大型の同期発電機(以下,主発電機と呼ぶ)では界磁巻線に直流電流を通電して励磁する方法が適用される。

この直流電流(界磁電流)を供給する装置を励磁装置と呼び,近年では交流励磁機方式,又は静止形励磁方式が一般的である。

また,この界磁電流の大きさを調整して主発電機の無効電力や端子電圧を調整することを励磁制御という。

発電機の励磁装置

励磁装置の応答時間を速くするとともに,励磁系頂上電圧を高くすることにより,励磁装置の超速応化が図れ,これによって過渡領域の安定度を向上させることができるが,かえって中間領域の安定度が悪化する場合がある。

このため,発電機出力偏差や回転速度偏差などを検出し,これを減衰させるための補助信号を励磁制御装置に与える系統安定化装置(Power System Stabilizer : PSS)を設置することが多い。

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同期発電機の界磁巻線に直流電流を供給し,同期発電機の端子電圧を一定に保持又は調整する装置を励磁装置という。

近年製作される励磁装置の多くがサイリスタ励磁方式又はブラシレス励磁方式となっている。

交流励磁機方式

交流励磁機方式は,励磁電源として同期発電機を使用しており,この発電機を交流励磁機と呼ぶ。

交流励磁機方式では,主発電機の界磁電流の増減は,交流励磁機の界磁電流の調整によって行われる。

交流励磁機の出力は半導体電力変換器で整流されて,主発電機の界磁巻線に供給される。交流励磁機にも励磁が必要であるが,その電源としてさらに小型の発電機をもう一台使用する場合は,この小型の発電機を副励磁機と呼ぶ。

ブラシレス励磁方式

交流励磁機方式の一つにブラシレス励磁方式がある。

ブラシレス励磁方式の交流励磁機の構造は回転電機子形であり,その出力は交流励磁機の回転子と同軸上に設置された半導体電力変換器で整流されて,主発電機の界磁巻線に供給される。

このため,この方式では主発電機及び交流励磁機に界磁電流を給電するためのスリップリングとブラシといった機械しゅう動部がないため,保守点検の簡素化が図れる特長をもっている。

静止形励磁方式

静止形励磁方式では,サイリスタ素子を使用した電力変換器を使用する方式が近年一般的であり,サイリスタ励磁方式とも呼ばれる。

サイリスタ励磁方式

サイリスタ励磁方式には,同期発電機の主回路端子に励磁用変圧器を接続し,この出力を励磁電源に用いた自励方式が多く,励磁用変圧器とサイリスタ変換器を使用して励磁装置が構成される方式であり,同期発電機の界磁電圧を直接制御するため一般に応答性が優れる特長をもっている。

静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式)は応答速度が速いことに加え,頂上電圧(界磁の印加最高電圧)を高くすることができるので,系統事故除去後の回復電圧を高くし,発電機の電気出力を大きくすることにより,過渡安定度の向上を図ることができる。

可変速発電電動機

揚水発電所における発電電動機に採用されつつある可変速発電電動機の固定子は,従来の発電電動機と同一の構造であるが,回転子は磁極の代わりに三相分布巻線を有し,スリップリングを介して三相交流電流によって励磁される。

回転速度が変化しても励磁周波数を制御することにより回転子で発生する磁束の周波数を常に系統周波数に一致させることができるため,同期機と同じ特性で運転することができる。

回転子に三相交流電流を供給するための励磁装置には,サイリスタを使用したサイクロンコンバータや GTO(Gate Turn Off)を使用したインバータが用いられている。

励磁装置の出力電圧特性

同期発電機が定格運転している状態で,同期発電機の端子電圧が突然大きく低下した場合の励磁装置の出力電圧応答特性の一例を図に示す。

  • 励磁系頂上電圧 $V_\text{fc}$ [V] : 励磁装置の出力電圧(直流平均電圧)の最大値。
  • 励磁系電圧応答時間 $t_\text{R}$ [s] : 出力電圧が同期発電機の定格負荷状態における界磁電圧 $V_\text{fn}$ [V] から $V_\text{fc}$ との差の 95 % に増加するのに要する時間。
  • 励磁系電圧速応性 [s-1] : 0 ~ 0.5 s に得られる励磁装置の等価電圧変化の割合を $V_\text{fn}$ で割った値である。図で(斜線部 abc の面積) = (三角形 adc の面積)とするとき,
    励磁系電圧速応性 = $\displaystyle \frac{\bar{dc}}{0.5 \times V_\text{fn}}$ [s-1]
    となる。

電力系統の過渡安定度を向上させるため,励磁系の応答が速いサイリスタ励磁方式のほかに,IEEE 421.1 記載の,$t_\text{R}$ が 0.1 s 以下であるハイイニシャルレスポンスの速応形ブラシレス励磁方式も使用されている。

速応性の応答特性の一例として,励磁装置出力電圧が $V_\text{fn}$ から直線的に増加し,時間 0.1 s にて $V_\text{fc} = 2 \times V_\text{fn}$ に到達後,0.5 s までその $V_\text{fc}$ が保持された場合,励磁系速応性は約 3.6 s-1 となり,応答性が十分高いことが分かる。

図 励磁装置の出力電圧応答特性

図 励磁装置の出力電圧応答特性

参考文献

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更新履歴

*1:永久磁石を使用した同期発電機の特徴は,「永久磁石同期発電機の特徴」を参照

架空送電線路

架空送電線路は発電所で発生した電力を効率よく,安定に,しかも経済的に需要地域まで輸送する役割を担っている。

架空送電線路に使用される電線

架空送電線路に使用する電線の電気的性能としては導電率が高いものが望ましく,機械的性能としては引張強さが大きいものが望ましい。

一般に引張強さは不純物の含有量が増加するにしたがって増大する傾向にあるが,導電率は逆に減少する。

架空送電用の電線として,鋼より線の周囲にアルミ線をより合わせた鋼心アルミより線が広く使われている。

アルミ線の導電率は銅線の約 60 [%] のため,単位長さ当たりの抵抗値を同じにするには等価的に銅線の約 1.3 倍の直径が必要であるが,単位体積当たりの重量が約 3 分の 1 のため,それだけ太くなっても同等の銅線よりまだ軽く,しかも補強の鋼線による引張強さが大きいので,支持物径間を銅線の場合より長くとれる。

電線のたるみ

電線のたるみは,電線の材質が一様でたわみ性があるものとみなせば,理論的にカテナリ曲線となる。

電線支持点に高低差がない径間の場合,図において点 O を原点とするカテナリ曲線は次式であらわされる。

$\displaystyle y = a\cosh{\frac{x}{a}} = a(1 + \frac{x^2}{2!a^2} + \frac{x^4}{4!a^4} + \frac{x^6}{6!a^6} + \cdot\cdot\cdot) $

実際の送電線路では,たるみ $D$ [m] が径間 $S$ [m] に比べて十分に小さいため,放物線とみなして $\displaystyle y = a + \frac{x^2}{2a}$ を活用する。

ここに $a$ は定数で,曲線の最低点 N の $y$ 座標を示す。

$a$ は,単位長あたりの電線重量を $W_\text{c}$ [kg/m],電線の水平張力 $T$ [kg] を用いて $\displaystyle \frac{T}{W_\text{c}}$ と表せる。

原点を O から点 N に移せば,$\displaystyle y = \frac{x^2}{2a}$ となり,$\displaystyle x = \frac{S}{2}$,$\displaystyle a = \frac{T}{W_\text{c}}$ を代入すると,たるみ $\displaystyle D = \frac{W_\text{c}S^2}{8T}$ となる。

図において,電線の支持点 A,B における張力 $T_\text{A}$,$T_\text{B}$ は,最低点における水平張力 $T$ と $W_\text{c}$ と $D$ を用いて,$T_\text{A} = T_\text{B} = T + W_\text{c}D$ であり,電線の各点の張力を全て水平張力と同一と設計しても大差はない。

図 電線のたるみ

図 電線のたるみ
電線のたるみを計算する際に用いられる弾性係数

電線のたるみを計算する際に用いられる弾性係数 [Pa] は,硬アルミ線と鋼心線の特性を考慮し,$\displaystyle \frac{E_\text{a}A_\text{a}+E_\text{s}A_\text{s}}{A_\text{a}+A_\text{s}}$ と計算される。

ただし,硬アルミ線と鋼心線の弾性係数 [Pa] をそれぞれ $E_\text{a}$,$E_\text{s}$ とし,断面積 [mm2] をそれぞれ $A_\text{a}$,$A_\text{s}$ とする。

図 電線のたるみ

図 電線のたるみ

電線荷重

電線にかかる荷重は,夏季においては送電線の自重によるものと風圧荷重を考慮する。

冬季においてはこれらに加えて氷雪荷重,氷雪が付着したときの風圧荷重を考慮する。

電線の伸び

電線は温度によって伸びるため,たるみが大きくなる夏季において最低地上高を確保する必要がある。

夏季におけるたるみを小さく選びすぎると冬季の張力が大きくなって断線の恐れが生じる。

架空送電線路に使用される支持物,がいし,架空地線

架空送電線路は電線のほか,支持物,がいし,架空地線などで構成されている。

がいしは支持物と電線をつなぎ,同時に電線を大地から絶縁する役割をしている。

架空地線は架空送電線を直撃雷から守る目的で設置されている。

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特別高圧架空送電線路の保守業務

送電線路の保守の目的は,① 設備の維持・管理と事故の未然防止,② 迅速な事故復旧,③ 各種障害の排除などである。この目的を達成するために必要な業務は,大別すると,巡視,点検,保修作業,事故処理等に大別できる。

「巡視」は,送電線路付近の樹木・家屋など建造物等の接近,地形の変化及び他の工作物の交さ接近状況や設備の外観を見回り,事故の未然防止を図るとともに,設備の保修作業に必要な資料を収集する業務である。

「点検」は,送電線路が主に支持物,電線,がいし,その他の附属品等により形成されていることから,巡視では分からない異常の有無を巡視より一歩進んで,これらが健全な状態であるかどうかを,支持物の傾斜・腐食,ボルト・ナットのゆるみ,がいしの絶縁の劣化などを目視及び計測器等により詳細に調査する業務である。

参考文献

更新履歴

  • 2022年1月10日 新規作成
  • 2022年4月22日 参考文献に「平成22年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7」を追加
  • 2022年5月21日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年10月16日 参考文献に「平成28年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加
  • 2022年10月19日 参考文献に「平成20年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
  • 2023年9月2日 参考文献に「令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加

発変電所などに使用される直流電源

発変電所などに使用される直流電源は,系統に事故が発生したときも含めて,開閉器や保護制御装置を動作させる電源であり,蓄電池が多く採用されている。

蓄電池としては,充・放電を繰り返すことができる鉛電池やアルカリ電池が使用されている。

蓄電池の容量は,充電された状態から,ある一定の電流で放電されたとき,規定の放電終止電圧になるまで出し得る電気量をいう。蓄電池の容量を決めるときには,放電電流の大きさとそれに対応する放電時間を想定する必要がある。

蓄電池の容量などの決定に当たって考慮すべきこととして,以下のことが挙げられる。

  1. 停電のため蓄電池の充電が不可能になっても,想定した最長の停電時間の間,直流電源として負荷に供給できる十分な容量を持っていること。
  2. 放電終期に瞬間最大放電電流が流れた場合に制御ケーブルによる電圧降下を考えても,蓄電池端子電圧が十分であることを確認しておくこと。
  3. 容量が経年劣化で減少するが,この分として 20 [%] 程度余裕を見込むことが必要であること。

鉛蓄電池

鉛蓄電池は 1859 年,フランスのプランテの発明による二次電池で,150 年以上の歴史をもち,自動車の始動用を始め,多くのところで利用されている。

鉛蓄電池は正極活物質に二酸化鉛,負極活物質に鉛,電解質に硫酸水溶液を用い,電極反応は以下の式で表される。

PbO2 + 2H2SO4 + Pb → PbSO4 + 2H2O + PbSO4

(正極)

PbO2 + 3H+ HSO4- + 2e- ↔ PbSO4 + 2H2O

(負極)

Pb + HSO4-- ↔ PbSO4 + H+ + 2e-

電解質の濃度は満充電時に約 30 % で,放電するのに伴って濃度は低くなる。

鉛蓄電池の電圧は水溶液を用いる電池として最も高く,公称電圧は 2.0 V である。

この電圧は水の理論分解電圧よりも高く,自己放電が大きいことの一つの理由となっている。

鉛蓄電池の放電の状態を知るためには電池電圧を測る方法のほかに,電解液の比重を測る方法も利用されている。

この比重が小さいときには電池の放電が進んでいると判断できる。

参考文献

更新履歴

火力発電所のボイラ設備とその保安装置

火力発電所のボイラ設備とその保安装置について説明する。

火力発電所のボイラ設備

過熱器(superheater)

火力発電所における過熱器(superheater)はボイラドラムなどからの飽和蒸気を過熱するもので燃焼ガスの通路中に配置されるのが一般的である。

過熱器は設置場所によって,接触(対流)過熱器,放射過熱器及び放射接触過熱器に区別され,接触過熱器は火炉外に設けられている。

また,放射過熱器はボイラ火炉上部又は火炉壁の一部として設置され,放射接触過熱器はボイラ火炉出口付近に設置されている。

運用特性として,放射過熱器ではボイラ負荷の増加とともに熱吸収量の割合は減じ,反対に接触過熱器では増す特性をもつ。

再熱器(reheater)

熱サイクルの効率向上およびタービン翼の腐食防止などのために,高圧タービンで仕事をした低温低圧の蒸気を一度ボイラに戻して再加熱し,再び中・低圧タービンで仕事をさせるためのものである。

プラントの熱効率向上,湿り蒸気によるタービン翼のエロ―ジョン(侵食)防止などを目的として設置される。

主に75MW以上の発電用ボイラに用いられる。

節炭器(economizer)

節炭器は,ボイラの下流側に配置され,燃焼ガスの保有する熱を回収してボイラ水に与えるための装置で,排ガス損失を減少してボイラの効率を高めることなどを目的として設置されている。

煙道ガスの予熱を利用してボイラ給水を加熱し,プラント全体の熱効率を高めるとともに,ドラムに与える熱応力の軽減を図る。

空気予熱器(air heater)

節炭器出口側煙道に設けられるもので,煙道ガスの廃熱を燃焼用空気に回収し,プラント熱効率を高める熱交換器をいい,燃焼用空気の予熱により,燃焼効率を向上するものである。

火力発電所におけるボイラの保安装置

ボイラにおける機器損壊防止や安全確保の観点から,異常状態となったときには,ボイラを直ちに停止させる必要がある。

このため,保護インタロックや保安装置等が設置されている。

燃料遮断装置(MFT インタロック)は,ボイラ運転中に,燃料,缶水循環,空気の各系統の異常や燃焼不安定,あるいは火炉圧異常などの異常状態を検知すると,直ちに燃料を遮断してボイラを停止させることで破損を防止する。

パージインタロックは,ボイラ点火時の事故を未然に防止する機能で,火炉に残っている未燃ガスを除去すると同時に,ボイラ各系統が正常であることを確認できなければ点火不可としている。

安全弁は,ボイラの異常状態や負荷の緊急遮断等によって,発生蒸気が最高使用圧力を超える前に自動的に蒸気を大気に放出し,内部圧力を低下させて機器の破損を防止するものである。

参考文献

electrical-engineer.hatenablog.jp

更新履歴

  • 2022年1月8日 新規作成
  • 2022年5月14日 参考文献に「平成28年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」を追加
  • 2022年10月23日 参考文献に「平成12年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2023年8月26日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5」を追加