小形の同期発電機では界磁に永久磁石を使用することもあるが*1,中型から大型の同期発電機(以下,主発電機と呼ぶ)では界磁巻線に直流電流を通電して励磁する方法が適用される。
この直流電流(界磁電流)を供給する装置を励磁装置と呼び,近年では交流励磁機方式,又は静止形励磁方式が一般的である。
また,この界磁電流の大きさを調整して主発電機の無効電力や端子電圧を調整することを励磁制御という。
発電機の励磁装置
励磁装置の応答時間を速くするとともに,励磁系頂上電圧を高くすることにより,励磁装置の超速応化が図れ,これによって過渡領域の安定度を向上させることができるが,かえって中間領域の安定度が悪化する場合がある。
このため,発電機出力偏差や回転速度偏差などを検出し,これを減衰させるための補助信号を励磁制御装置に与える系統安定化装置(Power System Stabilizer : PSS)を設置することが多い。
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同期発電機の界磁巻線に直流電流を供給し,同期発電機の端子電圧を一定に保持又は調整する装置を励磁装置という。
近年製作される励磁装置の多くがサイリスタ励磁方式又はブラシレス励磁方式となっている。
交流励磁機方式
交流励磁機方式は,励磁電源として同期発電機を使用しており,この発電機を交流励磁機と呼ぶ。
交流励磁機方式では,主発電機の界磁電流の増減は,交流励磁機の界磁電流の調整によって行われる。
交流励磁機の出力は半導体電力変換器で整流されて,主発電機の界磁巻線に供給される。交流励磁機にも励磁が必要であるが,その電源としてさらに小型の発電機をもう一台使用する場合は,この小型の発電機を副励磁機と呼ぶ。
ブラシレス励磁方式
交流励磁機方式の一つにブラシレス励磁方式がある。
ブラシレス励磁方式の交流励磁機の構造は回転電機子形であり,その出力は交流励磁機の回転子と同軸上に設置された半導体電力変換器で整流されて,主発電機の界磁巻線に供給される。
このため,この方式では主発電機及び交流励磁機に界磁電流を給電するためのスリップリングとブラシといった機械しゅう動部がないため,保守点検の簡素化が図れる特長をもっている。
静止形励磁方式
静止形励磁方式では,サイリスタ素子を使用した電力変換器を使用する方式が近年一般的であり,サイリスタ励磁方式とも呼ばれる。
サイリスタ励磁方式
サイリスタ励磁方式には,同期発電機の主回路端子に励磁用変圧器を接続し,この出力を励磁電源に用いた自励方式が多く,励磁用変圧器とサイリスタ変換器を使用して励磁装置が構成される方式であり,同期発電機の界磁電圧を直接制御するため一般に応答性が優れる特長をもっている。
静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式)は応答速度が速いことに加え,頂上電圧(界磁の印加最高電圧)を高くすることができるので,系統事故除去後の回復電圧を高くし,発電機の電気出力を大きくすることにより,過渡安定度の向上を図ることができる。
可変速発電電動機
揚水発電所における発電電動機に採用されつつある可変速発電電動機の固定子は,従来の発電電動機と同一の構造であるが,回転子は磁極の代わりに三相分布巻線を有し,スリップリングを介して三相交流電流によって励磁される。
回転速度が変化しても励磁周波数を制御することにより回転子で発生する磁束の周波数を常に系統周波数に一致させることができるため,同期機と同じ特性で運転することができる。
回転子に三相交流電流を供給するための励磁装置には,サイリスタを使用したサイクロンコンバータや GTO(Gate Turn Off)を使用したインバータが用いられている。
励磁装置の出力電圧特性
同期発電機が定格運転している状態で,同期発電機の端子電圧が突然大きく低下した場合の励磁装置の出力電圧応答特性の一例を図に示す。
- 励磁系頂上電圧 $V_\text{fc}$ [V] : 励磁装置の出力電圧(直流平均電圧)の最大値。
- 励磁系電圧応答時間 $t_\text{R}$ [s] : 出力電圧が同期発電機の定格負荷状態における界磁電圧 $V_\text{fn}$ [V] から $V_\text{fc}$ との差の 95 % に増加するのに要する時間。
- 励磁系電圧速応性 [s-1] : 0 ~ 0.5 s に得られる励磁装置の等価電圧変化の割合を $V_\text{fn}$ で割った値である。図で(斜線部 abc の面積) = (三角形 adc の面積)とするとき,
励磁系電圧速応性 = $\displaystyle \frac{\bar{dc}}{0.5 \times V_\text{fn}}$ [s-1]となる。
電力系統の過渡安定度を向上させるため,励磁系の応答が速いサイリスタ励磁方式のほかに,IEEE 421.1 記載の,$t_\text{R}$ が 0.1 s 以下であるハイイニシャルレスポンスの速応形ブラシレス励磁方式も使用されている。
速応性の応答特性の一例として,励磁装置出力電圧が $V_\text{fn}$ から直線的に増加し,時間 0.1 s にて $V_\text{fc} = 2 \times V_\text{fn}$ に到達後,0.5 s までその $V_\text{fc}$ が保持された場合,励磁系速応性は約 3.6 s-1 となり,応答性が十分高いことが分かる。
参考文献
- 令和3年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「一般的な直流励磁の定速同期発電機の励磁方式及び励磁装置」
- 平成26年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「同期発電機の励磁装置」
- 平成23年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「同期発電機の励磁方式」
- 平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「発電所の発電機及び発電電動機の励磁方式」
- 平成8年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1「発電機の励磁装置」
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更新履歴
- 2022年1月10日 新規作成
- 2022年2月11日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1」を追加
- 2022年6月11日 参考文献に「平成8年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1」を追加
- 2022年7月2日 参考文献に「平成26年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1」を追加
- 2022年9月20日 参考文献に「永久磁石同期電動機の特徴」を追加,参考文献のタイトルを追加
- 2022年10月18日 参考文献に「平成23年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加
*1:永久磁石を使用した同期発電機の特徴は,「永久磁石同期発電機の特徴」を参照