目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

同期発電機のリアクタンス

無負荷で電圧を誘起している同期発電機の端子を三相短絡させたとき,短絡初期に大きな短絡電流が流れ,時間の経過とともに次第に減少して持続する短絡電流になる。

初期の短絡電流の大きさは,回転子回路に制動作用を生じるものがない場合は直軸過渡リアクタンス $X_d^{'}$ に支配されるが,制動作用を生じるものがある場合は直軸初期過渡リアクタンス $X_d^{''}$ によって支配される。

同期リアクタンスを直軸同期リアクタンス $X_d$ と横軸同期リアクタンス $X_q$ と分けて取り扱う場合,円筒形同期発電機のときには飽和の影響を無視すると $X_d$ と $X_q$ との大きさの関係は,$X_d \simeq X_q$ となるが,突極形同期発電機のときには直軸方向と横軸方向の磁気抵抗の大きさが異なるので $X_d \gt X_q$ となる。

同期発電機に不平衡電流が流れる場合,不平衡電流を対称分に分けて取り扱うことができる。逆相電流に対する逆相リアクタンス $X_2$ は近似的に $\displaystyle \frac{X_d^{''}+X_q^{''}}{2}$ として計算される。

また,零相電流に対する零相リアクタンス $X_0$ の大きさを他のリアクタンスとの関係で表せば $X_0 \lt X_l$ とみなせる。

リアクタンス

同期機に電機子電流が流れると,その起磁力によって界磁と同期して回転する基本波磁界が空隙中に生じ,これが界磁電流による磁界に影響を及ぼして電機子巻線での誘導起電力を無負荷状態から変化させる。

これを電機子反作用といい,電機子反作用磁束に関するリアクタンスを電機子反作用リアクタンスという。

任意の力率の電機子反作用磁束は直軸磁束及び横軸磁束に分けることができ,それぞれ対応するリアクタンスを直軸電機子反作用リアクタンス($X_\text{ad}$)及び横軸電機子反作用リアクタンス($X_\text{aq}$)という。

電機子電流による大部分の磁束は,電機子反作用磁束として電機子巻線及び界磁巻線と鎖交するが,一部の磁束は,電機子巻線だけと鎖交する。

これが電機子漏れ磁束であり,電機子漏れリアクタンス($X_\text{a}$)に対応する。

界磁電流による大部分の磁束は,電機子巻線及び界磁巻線と鎖交するが,一部の磁束は界磁巻線だけと鎖交する。

これが界磁漏れ磁束であり,界磁漏れリアクタンス($X_\text{F}$)に対応する。

円筒機のスロット内に収められた制動導体及び導電性くさび並びに突極機の磁極頭部の制動棒に漏れ磁束が存在する。

これらの漏れ磁束に対応するのが直軸制動巻線漏れリアクタンス($X_\text{Dd}$)及び横軸制動巻線漏れリアクタンス($X_\text{Dq}$)である。

各巻線リアクタンスの回路に電機子巻線抵抗,界磁巻線抵抗,直軸及び横軸制動巻線抵抗を加えると,電機子端子側からの直軸及び横軸それぞれの等価回路ができる。この等価回路から,同期機の各リアクタンスを次のように求めることができる。

直軸同期リアクタンス(direct-axis synchronous reactance)

同期機において,電機子定格電圧および定格周波数の定常運転状態で,電機子巻線に直軸分だけの電流が流れるとき,これによる電機子反作用および漏れリアクタンスに基づく各相の逆起電力を,各相に流れる電流で除した値。

\[X_\text{d} = X_\text{a} + X_\text{ad}\]

直軸同期リアクタンスに対応する等価回路を下図に示す。

図 定常運転状態における直軸のリアクタンス

図 定常運転状態における直軸のリアクタンス

直軸過渡リアクタンス(direct-axis transient reactance)

同期機を発電機として,定格周波数および電機子定格電圧のもとに無負荷運転中,突然各相対称に負荷するとき,負荷投入瞬時から数サイクル間だけ存在する急激な減衰電流を除外した直軸過渡電流交流分から,負荷投入の瞬間における電流の交流分実効値を推定し,これを初期に流れる電流とみなして得たリアクタンス。

\[{X_\text{d}}'= X_\text{a}+\frac{X_\text{ad}\cdot X_\text{F}}{X_\text{ad}+X_\text{F}}\]

制動巻線がない同期機においては,突発短絡などの同期機の運転状態が急変した直後の直軸リアクタンスが直軸過渡リアクタンスであり,対応する等価回路を下図に示す。

図 制度巻線がない同期機の直軸過渡リアクタンス

図 制度巻線がない同期機の直軸過渡リアクタンス

直軸初期過渡リアクタンス(direct-axis sub-transient reactance)

同期機を発電機として定格周波数および電機子定格電圧のもとに無負荷運転中,突然各相対称に負荷するとき,負荷した瞬間において流れる過渡電流の,交流直軸分の生じる磁束による電機子各相の逆起電力交流分を,各相に流れた電流の交流直軸分で除した値。

\[{X_\text{d}}''= X_\text{a}+\frac{X_\text{ad}\cdot X_\text{F} \cdot X_\text{Dd}}{X_\text{ad}\cdot X_\text{F}+X_\text{ad}\cdot X_\text{Dd}+X_\text{F}\cdot X_\text{Dd}}\]

制動巻線を備える同期機においては,上記と同様に運転状態が急変した直後の直軸の過渡的なリアクタンスが直軸初期過渡リアクタンスであり,対応する等価回路を下図に示す。

図 制動巻線を備える同期機における直軸過渡リアクタンス

図 制動巻線を備える同期機における直軸過渡リアクタンス

横軸同期リアクタンス(quadrature-axis synchronous reactance)

同期機において,電機子定格電圧および定格周波数の定常運転状態で,電機子巻線に横軸分だけの電流が流れるとき,これによる電機子反作用および漏れリアクタンスに基づく各相の逆起電力を,各相に流れる電流で除した値。

\[X_\text{q}=X_\text{a}+X_\text{aq}\]

横軸過渡リアクタンス(quadrature-axis transient reactance)

同期機を発電機として,定格周波数および電機子定格電圧のもとに無負荷運転中,突然各相対称に負荷するとき,負荷投入瞬時から数サイクル間だけ存在する急激な減衰電流を除外した横軸過渡電流交流分から,負荷投入の瞬間における電流の交流分実効値を推定し,これを初期に流れる電流とみなして得たリアクタンス。

横軸初期過渡リアクタンス(quadrature-axis sub-transient reactance)

同期機を発電機として定格周波数および電機子定格電圧のもとに無負荷運転中,突然各相対称に負荷するとき,負荷した瞬間において流れる過渡電流の,交流横軸分の生じる磁束による電機子各相の逆起電力交流分を,各相に流れた電流の交流横軸分で除した値。

\[{X_\text{q}}''= X_\text{a}+\frac{X_\text{ad}\cdot X_\text{Dq}}{X_\text{ad}+X_\text{Dq}}\]

参考文献

更新履歴