本稿では,界磁磁極に永久磁石を使用した磁石発電機(permanent magnet generator)と磁石電動機(permanent magnet motor)について述べる。
磁石電動機には,磁石直流電動機と磁石同期電動機がある。
同期電動機の回転子(界磁)は電磁石が一般的であるが,界磁に永久磁石を用いたもの(永久磁石同期電動機。以下,PM モータという)と回転子が鉄心のみで構成されたもの(リラクタンスモータ)もある。
PM モータは,回転子に永久磁石を配置しているため,電磁石を用いる方式に比べて励磁装置が必要なく,かご形誘導電動機と同様にシンプルな構造となる。
PM モータは回転子への磁石の配置方法により,表面磁石形(SPM : surface permanent magnetic)と埋込磁石形(IPM : interior permanent magnet)の二種類に分けられる。
永久磁石
永久磁石は,モータの小型化や高効率化にとって重要な材料である。
特に世界最高性能を有するネオジム磁石が組み込まれた IPM (Interior Permanent Magnet) モータの商用化によって,永久磁石の重要性が高まった。
磁石電動機
磁石同期電動機
磁石同期電動機(PMSM : Permanent Magnet Synchronous Moter)は,固定子は誘導電動機(IM : Induction Motor)同様の巻線構造を取り,固定子を永久磁石で構成した交流電動機である。
回転子が導体である誘導電動機に対し,回転子側の二次銅損が発生せず,回転子に電流を流すための一次側の励磁電流も不要となるため,高効率を実現する。
高効率化に伴う発熱低減によって,電動機の全閉化も容易に達成され,低騒音化に貢献するだけでなく,内部への塵埃の侵入を防止することで,定期的な分解清掃は不要になるというメリットも生まれる。
PMSM はベクトル制御と呼ばれる手法によって高速かつ高精度に制御される。
ベクトル制御には,三角関数を含む複雑な演算処理を要し,加えて演算は制御周期ごとに逐次高速で行う必要がある。
この課題に対し,東芝では PP7 と呼ばれる電力変換装置用に特化したプロセッサを誘導電動機(IM)のベクトル制御時代より自社内で開発しており,専用回路で処理することで解決している。
従来の PMSM のデメリットとしては,滑りを許容する IM が一つのインバータで複数の制御できるのに対し,一つの電動機に一つのインバータの個別制御を要するという点が挙げられる。
これに対し東芝ではシステムの小型化を進め,四つのインバータ回路を一つの装置に実装し従来の IM 駆動用システムと同程度のサイズに収める 4in1 インバータ装置を開発し,すでに実用化,導入されている。
磁石の配置方法
表面磁石形(SPM)
ロータ外周に永久磁石が貼り付けられたタイプを表面磁石型(SPM : surface permanent magnetic)と呼ぶ。
SPM は磁石の自足を有効活用できるので高トルクでトルクリプルの少ないモータであり,可変速ドライブを行う場合に制御性,応答性の良いモータである。しかし,高速回転時に磁石の剥がれや飛散の可能性があり,回転子外周に非磁性体の保護管を必要とする。
一般に,表面磁石構造では,永久磁石の透磁率が真空の透磁率に対してほぼ等しいため,回転子の位置によって磁気抵抗は変化しない。
したがって,$d$ 軸インダクタンス $L_d$ と $q$ 軸インダクタンス $L_q$ とが等しい非突極性を示す。
インバータを組み合わせた SPM 構造の永久磁石式同期電動機駆動システム
インバータを組み合わせた SPM 構造の永久磁石式同期電動機駆動システムは,回転子の位置を検出して電流を流し,トルクを発生する。
ここで,インバータ及び固定子巻線は三相で,図のような 2 極機モデルにおいて,U-U' 巻線による起磁力の方向に対して回転子の位置を $\theta_\text{r}$ とすると,固定子トルクの反力である回転子発生トルク $T$ は次式となる。
\[ T=-K[i_\text{U}\Phi_\text{a}\sin\theta_\text{r} + i_\text{V}\Phi_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{2\pi}{3}) + i_\text{W}\Phi_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{4\pi}{3})] \]
ただし,$K$ は比例定数,$\Phi_\text{a}$ は電機子に鎖交する磁束である。各相に正弦波電流
\[ i_\text{U}=-I_\text{a}\sin\theta_\text{r} \] \[ i_\text{V}=-I_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{2\pi}{3}) \] \[ i_\text{W}=-I_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{4\pi}{3}) \]
を流すと回転子発生トルクは次式となる。
\[ T=\frac{3}{2}K I_\text{a} \Phi_\text{a} \]
同期電動機において,三相固定子電流による起磁力を合成した回転磁界と,回転する界磁極との間の角は,負荷状態によって変化する。この SPM 構造の永久磁石式同期電動機駆動システムでは,上記のように絶えず磁極に向かい合う固定子巻線に電流 $I_\text{a}$ を流すように制御しているので,この合成した回転磁界と回転する界磁極との間の角が常に直角に維持され,同じトルクを発生するのにほぼ最小電流で運転できる。
埋込磁石形(IPM)
ロータの内側に永久磁石が埋め込まれたタイプを埋込磁石型(IPM : interior permanent magnet)と呼ぶ。
IPM は磁石が回転子鉄心内部にあるので,回転子鉄心は高速回転時の磁石を保護しているだけでなく,その構造によってリラクタンストルクも得られ,運転速度領域を広くとれる利点がある。
しかしその反面,磁石の磁束の有効活用の面では SPM に比べ劣り,磁極位置によるトルクリプルも増加する。
埋込磁石構造では $d$ 軸方向の磁路には永久磁束が存在するが,$q$ 軸方向の磁路は鉄心のみとなるので,回転子の位置によって磁気抵抗が変化する。
すなわち,$d$ 軸,$q$ 軸インダクタンスの関係は $L_d \lt L_q$ となり,一般の巻線界磁形同期電動機とは逆の突極性(逆突極性)を示すことになる。
したがって,このタイプの電動機ではマグネットトルクに加えてリラクタンストルクも利用できる。
このため,電機子電流を一定とした場合,両者の和で表される総合トルクは $q$ 軸からの電流位相(進み)に依存し,トルクが最大となる電流位相が存在する。一方,端子電圧は電流位相(進み)の増加に伴う電機子反作用により減少する。
PM モータの用途
PM モータは近年発達の著しいネオジム合金等の希土類永久磁石を用いることで小形・軽量となる利点があることから,家庭用機器,OA 機器,電気自動車などに多く用いられてきたが,最近では小形軽量であることを活かし鉄道車両用の大出力機への開発も進められている。
PM モータの可変速運転は,可変電圧・可変周波数の電力変換装置と組み合わせて構成される。このうち高性能な精密可変速運転を目的とするベクトル制御では,回転子の角度を検出し 1 台のインバータで 1 台の PM モータを駆動するのが原則となる。
鉄道用途
鉄道用途の永久磁石同期電動機(PMSM)は,パワエレ技術の発展とネオジム磁石の高性能化に伴い,東芝では 2000 年代に開発され,2009 年に東京地下鉄向けの車両に採用された事例が鉄道用 PMSM の量産としては日本初となった。
参考文献
- 電気専門用語集(WEB 版)
- 「鉄道車両の駆動システム」,電気学会誌 142巻 2号,2022年
- 平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2
- 平成26年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「永久磁石式同期電動機の駆動法」
- 平成18年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5