目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

一次電池

一次電池とは,直流電力の放電のみができる電池(化学電池)であり,二次電池に対するそれ以外の電池のことである。

二次電池が登場した際にレトロニムとして区分された呼称である。

図 蓄電池の種類

図 蓄電池の種類

一次電池には,マンガン乾電池アルカリマンガン乾電池などがあるが,近年主流となっているのは,アルカリマンガン乾電池である。

一次電池の構成要素
一次電池 正極 負極 電解質
マンガン乾電池 二酸化マンガン 亜鉛 塩化亜鉛
アルカリマンガン電池 二酸化マンガン 亜鉛 水酸化カリウム

マンガン乾電池

マンガン乾電池一次電池として最も広く利用されている。

その負極活物質は亜鉛であり,正極活物質は二酸化マンガンである。

この正極では還元反応が起こり,塩基性酸化マンガンが生成する。

ここではマンガン 1 原子当たり 1 電子反応が起こっている。

負極では亜鉛が酸化反応を起こす。

ここでは亜鉛 1 原子当たり 2 電子反応が起こっている。

以下の計算に用いる条件は,亜鉛マンガン,酸素,水素の原子量はそれぞれ 65,55,16,1 とし,ファラデー定数は 27 [A・h/mol] とする。

いま,この電池が放電して負極の亜鉛 4.1 [g] を消費したとき,得られる電気量は 3.4 [A・h] となる。

また,正極の二酸化マンガン 7.1 [g] を消費したとき,得られる電気量は 2.2 [A・h] となる。

このマンガン乾電池二酸化マンガンの代わりに空気中の酸素の反応を利用する空気電池がある。

この電池の放電に際し 6.5 [g] の亜鉛が消費したとき,理論的に消費する酸素の質量は 1.6 [g] となる。

アルカリマンガン乾電池

アルカリマンガン乾電池は負極に亜鉛粉,正極に二酸化マンガン,電解液に水酸化カリウム水溶液(強アルカリ性の物質)を用いた公称電圧 1.5 V の一次電池である。

アルカリマンガン乾電池は,マンガン乾電池に比べて電池容量が大きく,内部抵抗も小さいの重負荷放電特性が優れている。

また,マンガン電池に比べ,低温時の特性も良好である。

内部抵抗の主な原因は電極(または分極)反応抵抗と電解質抵抗である。

電極作用は電池の正極に発生した水素ガスが正極になったことと同様の反応を起こし,このため逆向きの起電力を内部に発生する現象である。

電極作用を防止するため,発生した水素ガスを吸収する物質を減極材という。

減極材と水素が反応して水が発生する。

アルカリマンガン乾電池の計算問題

あるアルカリマンガン乾電池を 1 000 mA の定電流でセル電圧が所定の終止電圧になるまで放電したとき,通電電気量が 6 000 mA·h,電気量が 6.60 W·h であった。

このとき,放電に要した時間は 6 h,1.1 V となる。

放電で水酸化亜鉛(Zn(OH)2)のみが生成されるとすると,その質量は 11.1 g である。

ただし,亜鉛,酸素及び水素の原子量をそれぞれ 65.38,16.00 及び 1.01,ファラデー定数を 26.80 A·h/mol とする。

計算方法

通電中の電流の大きさは 1 [A](6 000 mA·h ÷ 6 h),水酸化亜鉛 1 mol あたりの質量は 99.4 [g/mol](65.38 + (16.00 + 1.01) × 2)である。

また,反応電子数は 2 である。

よって,放電で生成される水酸化亜鉛の質量は,(電気化学反応において,流れる電気量は反応に関与する電子数と物質のモル数に比例する「ファラデーの電気分解」の法則に基づき)次式で求められる。

1 [A] × 6 [h] ÷ 26.80 [A·h/mol] × 99.4 [g/mol] ÷ 2 = 11.126 [g]

リチウム一次電池

近年では,一次電池にもエネルギー密度の高いリチウムを利用した電池が数多く利用されるようになってきた。

このリチウム一次電池では金属リチウムが負極として利用され,そこでは金属リチウムが酸化され,リチウムイオンとなる。

マンガン乾電池では負極に亜鉛が利用される。

負極の単位質量当たりで比べると,得られるリチウム一次電池マンガン電池での電力量比は,理論的にリチウム/亜鉛で 4.71 倍(リチウムの原子量は 6.94,亜鉛の原子量は 65.4)となる。

すなわち,リチウム電池が圧倒的に大きな電気量が得られることになる。リチウムは金属の中でも酸化還元電位が最も卑な金属である。

したがって,正極に二酸化マンガンを利用するリチウム電池は,マンガン乾電池公称電圧の 1.5 [V] に比べて高い電圧が得られる。

電解液としては水溶液を用いることができないので,炭酸プロピレンプロピレンカーボネート)のような有機溶媒に過塩素酸リチウムを加えたものが多く利用されている。

参考文献

electrical-engineer.hatenablog.jp

masassiah.web.fc2.com

更新履歴

  • 2022年1月24日 新規作成
  • 2022年1月25日 一次電池の構成要素の表,放電で生成される水酸化亜鉛の質量を追加
  • 2022年2月12日 参考文献に「平成12年 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2022年7月10日 参考文献に「平成23年 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2022年7月16日 参考文献に「平成21年 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2024年7月29日 蓄電池の種類を追加