本稿では,電力用コンデンサについて述べる。
電力用コンデンサの目的
電力用コンデンサ(power capcitor)は,送配電系統の負荷と並列して力率改善,電圧調整等の目的に使用される。
電力用コンデンサは電力系統の調相機能や力率改善など電力の有効利用に大きく寄与してきた。
力率改善
一般の送配電系統に接続される負荷は,電灯・電熱等を除くと誘導負荷であり,特に電動機・誘導電気炉等は非常に力率が悪い。
このためピーク時には,有効電流のほかに相当の無効(遅相)電流が線路に流れ,線路の電圧降下を増すとともに送配電ロスを増大し電力設備の利用率も低下する。
この対策として,コンデンサを変電所等に設置し力率を改善する。
深夜は線路の充電電流で十分無効(進相)電流を供給できるので,コンデンサは一般の回路から遮断され,さらに不足分は分路リアクトルを設置し,進相電流を補償する。
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進相コンデンサによる力率制御の代表的な方式
進相コンデンサによる力率制御の代表的な方式としては,力率の変動パターンが周期的に繰り返される場合に用いられる時間制御方式や,計測した回路の無効電力とあらかじめ設定した値(整定値)とを比較して,進相コンデンサの開閉を行う制御方式などがある。
なお,後者の制御方式では,進相コンデンサが投入,遮断を繰り返すハンチング現象が生じないように,整定値の設定に注意する必要がある。
電力用コンデンサの構成
コンデンサは,対向した 2 枚の導体(極板)間に誘電体を挟み込んで構成したものである。
コンデンサの静電容量を大きくするには極板の面積と誘電体の誘電率を大きくするか,極板間の距離を小さくすればよい。
しかしながら,電力用コンデンサ(static shunt condenser)が必要とする静電容量と耐電圧を一つのコンデンサで得ることは難しい。
このため,電力用コンデンサは,一般に,単位コンデンサの集合で構成される。
単位コンデンサは,電極として金属はく又は蒸着金属を用い,誘電体としては,過去には絶縁油を含浸したクラフト絶縁紙が用いられてきたが,近年ではポリプロピレンフィルムが単独,又は絶縁紙との複合で用いられている。
定格電圧及び定格容量に応じて単位コンデンサを直並列に接続し,容器に収納して真空処理した後,あらかじめ精製・脱気・脱湿処理をした絶縁油を真空含浸させて密封する。
絶縁油としては,部分放電によって発生するガスの吸収能力が高く,フィルムとの共存性に優れた芳香族系絶縁油が使用される。
容器には薄くてたわみ性に富む鋼板を用いた缶形と厚鋼板を用いたタンク形とがある。
油温の変化による油量の変化は,缶形では容器自体の変形により,タンク形ではフィーディングタンク(FT : Feeding Tank)により補償している。
缶形では容器の強度を上げられないので,コンデンサ内部事故による急速な圧力上昇で,容器が破壊することを防止する適切な保護が必要とされている。
フィルムコンデンサの歴史
現在主力となっているフィルムコンデンサは,1980 年頃から紙-フィルム誘電体のタイプが運転開始し,1990 年頃からオールフィルム誘電体のタイプも運転されており,寿命評価を進められる運転実績ができあがっている。
電力用コンデンサの結線方式
電力用コンデンサの結線方式を下図に示す。
特別高圧コンデンサは,単相器をスター結線し,中性点側に直列リアクトルを挿入する。
また,単相器に並列に放電コイルを接続する。
コンデンサ本体(SC)
単位コンデンサには単相器と三相器があるが,一般に特別高圧の電力用コンデンサでは,単相器を星形に結線して使用し,高圧回路では三相器を使用する。
直列リアクトル(SR : Series Reactors)
開路の電圧波形改善のために電力用コンデンサと直列に設置される。
放電コイル(DC)
コンデンサ回路が設備から遮断された後,速やかにその残留電荷を放電させるためにコンデンサと並列に設置される。
放電コイルは鉄心入りリアクトルで常時は微小な励磁電流が流れるだけであるが,コンデンサ開放時は,波高値が数十倍の放電電流が短時間流れ,通常は数十 Hz 以内に放電を完了する。
また,放電コイルには二次巻線を設け,コンデンサの故障検出を行わせるよう構成することがある。
直列リアクトル接続
電力用コンデンサは,一般に,直列リアクトルを接続して使用している。
この目的は,電力系統に存在する高調波源に対し,コンデンサ設備の合成リアクタンスを常に誘導性として,電力系統のリアクタンスとの共振を防止し,併せてコンデンサ投入時の突入電流の抑制を図るためである。
電力用コンデンサの定格電圧及び定格容量は,このリアクトルによる電圧上昇を考慮して定めている。
需要家に設置される進相コンデンサは,JIS C 4902 で直列リアクトルとともに使用することが標準として規定されている。
進相コンデンサに直列リアクトルを接続する理由
進相コンデンサに直列リアクトルを接続する理由は,以下のとおり。
- 配電系に流出する高調波電流を抑制し,配電系の電圧ひずみ率の上昇を抑える。
- 含有率の多い低次の高調波電流(第 5 調波等)による,コンデンサの過負荷を抑制する。
- 進相コンデンサの投入時の突入電流を抑制する。
- 進相コンデンサの開放時に,再点弧を発生した場合,そのサージ電圧を抑制する。
直列リアクトルの大きさ
三相交流の場合,第 $3n$ 調波成分($n=1, 3, 5, 7$)は変圧器のデルタ巻線(Δ 巻線)などで循環させることができるので,一般に問題となる高調波は第 5 調波成分である*1。
したがって,第 5 調波以上の高調波に対して合成インピーダンスを誘導性にすればよい。
第 5 調波成分
この第 5 調波成分に対して,コンデンサを常に誘導性にするには,コンデンサのリアクタンスの 4 [%] 以上のリアクトルを接続すればよい。
日本工業規格(JIS C 4902-2 (2010) 「高圧及び特別高圧進相コンデンサ並びに附属機器-第2部:直列リアクトル」)では若干のマージンを見込んだ 6 [%] の直列リアクトルを採用するよう規定している。
三相回路に使用するリアクトルの定格電圧は,コンデンサ定格電圧の $1/\sqrt{3}$ 倍の 6 % となる。
(出典)JIS C 4902-2 (2010) 「高圧及び特別高圧進相コンデンサ並びに附属機器-第2部:直列リアクトル」7 定格 7.1 定格電圧
しかし,コンデンサ設備が設置されている系統が,例えばアーク炉や整流器負荷の場合,第 3 調波成分が大きいことがある。
この場合は,第 3 調波と系統のリアクトル成分との共振を防止するため,13 ~ 15 [%] の直列リアクトルが採用される。
第 5 調波より高次の高調波
第 5 調波より高次の高調波に対しては,例えば第 7 調波では 2.1 [%] 以上の直列リアクトルを挿入すればよいが,すでに第 5 調波用に直列リアクトルが挿入されているため,改めて考慮する必要はない。
適用上の留意点
コンデンサ設備には直列リアクトルが設置されているため,電流および実効進相容量は,コンデンサ定格値より直列リアクトル分だけ大きくなる。
特に大容量設備を設置するときは,変圧器リアクトルによる電圧上昇(コンデンサ過負荷)およびそれに伴う実効容量の増加(主変圧器巻線容量)に注意する。
変圧器タップ,容量あるいは調相設備の定格電圧の選定を慎重に検討する必要がある。
参考文献
- JIS C 4902-2 (2010) 「高圧及び特別高圧進相コンデンサ並びに附属機器-第2部:直列リアクトル」,”High voltage power capacitors and attached apparatus - Part 2 : Series reactors”
- 「電気事業事典」電気事業講座 2008 別巻((株)エネルギーフォーラム 発行)
- 電気学会 調査研究委員会レポート「電力用コンデンサの誘電体に関する最新技術動向調査専門委員会」
- 令和2年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「力率改善用コンデンサ」
- 平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「高調波やフリッカ現象の対策」
- 平成25年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「高圧配電系に接続される高調波発生装置」
- 平成23年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6「並列コンデンサにおける高調波対策」
- 平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「調相設備の設置の目的とその開閉装置の特徴」
- 平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「電力用コンデンサの構成」
- 平成12年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「電力用コンデンサに接続する直列リアクトル」
更新履歴
- 2022年3月11日 新規作成
- 2022年3月12日 参考文献に「平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」「平成12年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
- 2022年3月13日 参考文献に「電気事業辞典」を追加
- 2022年6月5日 「直列リアクトルの大きさ」を加除修正
- 2022年8月14日 参考文献に JIS C 4902-2 (2010) 「高圧及び特別高圧進相コンデンサ並びに附属機器-第2部:直列リアクトル」「平成23年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
- 2022年10月15日 参考文献に「令和2年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
- 2022年10月17日 参考文献に「平成25年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
- 2022年11月5日 参考文献に「平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
- 2023年5月13日 フィルムコンデンサの歴史を追加,参考文献に「電気学会 調査研究委員会レポート 電力用コンデンサの誘電体に関する最新技術動向調査専門委員会」を追加
- 2023年12月3日 進相コンデンサによる力率制御の代表的な方式を追加,目次を追加
*1:一般に,三相回路の高調波は,第 5 調波が主で,以下,第 7,第 11,第 13 ・・・などの高調波がある。この発生原因の主なものは,変圧器など鉄心を有する誘導機器の整流負荷によるものである。