電力系統では部分的事故が系統の異常現象(不安定現象を含む)によって拡大・波及し,大規模な停電となることを防止するために,事故波及防止リレーシステムが導入されている。
事故波及防止リレーシステムが適用対象とする系統の異常現象
事故波及防止リレーシステムが適用対象とする系統の異常現象(不安定現象を含む)を挙げる。
- 系統周波数の異常
- 安定度の喪失
- 過負荷の連鎖
- 電圧不安定現象
事故波及防止リレーシステムの動作
系統周波数の異常
周波数の異常低下に対しては,揚水発電所が揚水している場合は揚水遮断し,次には必要量の負荷遮断を適切に行う。
安定度の喪失
該当する電源系統の発電制限,発電遮断などにより電力動揺を抑制する。
過負荷の連鎖
該当する系統の発電制限,発電遮断,負荷遮断などを適切に選択あるいは組み合わせて実施し,過負荷を抑制する。
電圧不安定現象
該当する負荷系統において調相設備の投入,負荷遮断を適切に行い電圧低下を抑制する。
電圧不安定現象の発生メカニズム
電力需要が増大し,系統電圧特性の限界電圧を超えることにより,電圧低め解領域に移る場合,原因が需要増加であるので,電圧が徐々に低下する。
送電線事故などにより系統のリアクタンスが増大する場合,または需要地近傍の大容量発電機の停止により無効電力損失が増加し,限界電力が擾乱前の運転需要を下回る場合は,事故時に電圧が大幅に低下する。
電圧不安定現象の防止対策
電力系統設備の計画において,電源-需要地点との電気的短縮を図る。
具体的には,需要地点に近いところに発電設備を建設する。
具体的には送電線の太線化,直列コンデンサの設置,送電電圧の昇圧が挙げられる。また調相設備の充実として,電力用コンデンサ増設,VQ 制御装置の改善,静止形無効電力補償装置(SVC)の設置,同期調相機の設置が挙げられる。
設備の運用面において,需要地点に近い発電機の停止を極力少なくする。
急激な負荷変化が予想される時間帯では,コンデンサの使用など調相設備の運転を先行的に行う。
電圧を許容される範囲内で高めにして運用する。
事故による電源や送電線の遮断があっても,電圧低下が局限できるような系統構成で運用する。
万一,電圧不安定のため電圧が低下する事態を生じたときは,遅滞なく適切な負荷遮断を行う。
事故波及防止リレーシステムにおいて制御量を決定する方式
事故波及防止リレーシステムにおいて制御量を決定する方式には,動作原理からみていくつかの方式が存在する。
- 系統擾乱に発展し得る事故を想定して,事前情報からあらかじめ制御量を設定しておく事前演算方式
- 事故中及び事故後の情報をもとに演算を行い,制御量を決定する事後演算方式
- 特に演算を伴わない設備事故除去リレーと同様な構成のリレー形の方式
事前演算方式
事前演算形は,系統が不安定になる事故を想定し,想定した事故前の系統情報からあらかじめ制御量を求めておき,該当する事故が発生した場合,該当するリレー動作や遮断器トリップなどの情報で制御起動する方式である。
事後演算方式
事後演算形は,事故が発生した時点で,系統各地点の事故前・事故中・事故除去後の電圧や電力の情報をオンラインで受信し,あらかじめ用意した安定化のための演算アルゴリズムにより,電源遮断・負荷遮断・系統分離などの地点や電力など制御量をリアルタイムで演算し,制御する方式である。
リレー形
リレー形は,周波数低下と一定の時限であらかじめ定めた負荷を遮断する UFR(周波数低下リレー)や,系統の連系点などあらかじめ設定した分離点で,周波数異常・過負荷・系統動揺などを検出して系統を分離させ,停電範囲を局限する系統分離リレーがある。
事故波及防止システムの信頼性向上策
事故波及防止システムは,その性質上,設備事故除去リレーに準じた信頼性を考慮する必要がある。
例えば,システムや伝送回線の 2 系列化,常時監視・自動点検方法,主保護・後備保護の考え方などをシステム適用にあたって検討する必要がある。
参考文献
- 令和5年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「電力系統の周波数」
- 平成26年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「事故波及防止リレーシステム」
- 平成13年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「電圧不安定現象の発生メカニズムと防止対策」
- 平成10年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「事故波及防止システム」