目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電気化学システムの基本構成と原理

電気エネルギーと化学エネルギーとの直接変換を行う電気化学システムは,基本構成として電子伝導体である二つの電極とイオン伝導体である電解質とから構成されている。

基本構成

二つの電極はアノード(Anode)とカソード(Cathode)と呼ばれ,各々役目が異なる。

アノードでは酸化反応が起こり,電気分解の際には,陽極となる。

一方,カソードでは還元反応が起こり,電気分解の際には,陰極となる。

電気化学システムの電極
電極 説明
陽極 アノード(Anode) 外部回路から電流が流入する,すなわち外部回路に電子が流出し,酸化反応が起こる。
電池では,通常,放電状態で考え,二本の電極のうち相対的な電極電位が低い電極。
陰極 カソード(Cathode) 外部回路に電流が流出する,すなわち外部回路から電子が流入し,還元反応が起こる。
電池では,通常,放電状態で考え,二本の電極のうち相対的な電極電位が高い電極。

電解質としては酸又はアルカリの水溶液がよく知られており,鉛蓄電池では硫酸水溶液が用いられている。

電気化学システムには室温付近で運転するものに限らず,高温のシステムもある。

1000 [°C] 付近で運転するアルミニウム電解においては,高温でのイオン性融体である溶融塩が利用されている。

以上の電極,電解質といった基本要素のほか,二つの電極系の分離や二つの電極の接触防止のために両極間に隔膜(セパレータ)が用いられることもある。

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図 電気化学システム

セパレータ

電気化学システムでは,二つの電極は短絡すると電気化学作用を示すことはできない。

また,二つの電極系が混じり合うと副反応等が起こり,得られる目的製品が理論通りに得られないことがある。

これらを防ぎ,二つの電極系を分離するためにセパレータが用いられることもある。

電気化学の膜プロセス

電気透析法

食塩水を入れた容器中の陽極と陰極の間に陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に並べて置いて仕切り,直流電流を流すと,それぞれの交換膜を陽イオンあるいは陰イオンが選択的に透過するので,食塩が凝縮される室と,脱塩される室とが交互にできる。

ここで陽イオンは陰極に向かって移動する。

この電気透析法では海水を濃縮して食用塩を製造することもできるし,また,逆に海水の淡水化もできる。

電気透析法による食塩水の脱塩・濃縮

下図のように食塩水を入れた容器中に陽極と陰極を置き,陽極と陰極との間に陽イオン交換膜 K と陰イオン交換膜 A を交互に並べて仕切り,直流電流を流すと,ナトリウムイオン(Na+)は陰極側へ,塩化物イオン(Cl-)は陽極側へ向かって移動する。

この場合,陽イオン交換膜 K は Na+ のみ,陰イオン交換膜 A は Cl- のみを透過させるので,食塩が脱塩される室と濃縮される室が交互にできることになる。

このように 2 枚の隔膜を入れて,隔膜間の溶液の電解質を隔膜の外側へ除去する方法を電気透析という。

図 電気透析法による食塩水の脱塩・濃縮

図 電気透析法による食塩水の脱塩・濃縮

ファラデーの電気分解の法則

電池反応においては酸化剤と還元剤との反応エネルギーが電気エネルギーとして外部に取り出される。

このとき,外部に取り出された電気量は,消費した酸化剤及び還元剤の物質量に比例する。

これをファラデーの電気分解の法則(Faraday's laws of electrolysis)という。

ファラデーの電気分解の第一法則

電気分解された物質の量 $w$ は,流れた電気量に比例する。

\[ w = KIt = KQ \]

ここで,$K$ は電気化学当量(比例定数),$I$ は電流 [A],$t$ は時間 [s],$Q$ は電気量 [C] である。

ファラデーの電気分解の第二法則

電気化学当量は化学当量に等しく,同じものである。

\[ n=\frac{m}{M}=\frac{It}{zF} \]

ここで,$n$ は物質量 [mol],$m$ は質量 [g],$M$ は分子量 [g/mol],$I$ は電流 [A],$t$ は時間 [s],$z$ はイオン価数,$F$ はファラデー定数 9.6485 × 104 [C/mol] である。

電解採取

亜鉛,コバルト,マンガン,クロムなどの金属は,必要に応じて予備処理を行った原鉱石から,硫酸水溶液などの適当な溶媒を用いて目的金属を抽出し,不純物を分離,精製したものを電解浴に入れ,電気分解を行い,カソード上に目的金属を析出させて電解採取する。目的金属よりイオン化傾向が小さい金属イオンはなるべく分離しておかないと製品の純度が低くなる。亜鉛の電解精錬の電流効率は約 90 % で金属亜鉛を生成する。このとき,亜鉛の酸化還元(Zn2+ + 2e- ↔ Zn)の標準水素電極基準の標準電極電位は -0.763 V で水素発生反応よりも熱力学的には不利である。また,電流効率 90.0 % で亜鉛を 1 t 精錬するために必要な電気量は 911 kA·h/t である。なお,亜鉛の原子量を 65.4,ファラデー定数を 26.8 A·h/mol とする。

電池の放電

電池の放電において,酸化剤は正極に用いられ,鉛蓄電池ではこの酸化剤として二酸化鉛が利用されている。

electrical-engineer.hatenablog.jp

電気化学における金属の特徴

亜鉛

亜鉛は電気化学的に活性であり,マンガン乾電池では負極活物質として利用されている。

鉄板の表面に亜鉛を被覆したものはトタンと呼ばれ,鉄の腐食を防ぐのに用いられている。

これらの用途に使われる亜鉛は,主に電気分解によって作られる。

この亜鉛電解では,電解質として硫酸水溶液が用いられ,陰極で還元反応が起こり,亜鉛が析出する。この際,陰極に析出する亜鉛の質量は電気量に比例する。

参考文献

masassiah.web.fc2.com

更新履歴

  • 2022年2月11日 新規作成
  • 2022年2月12日 参考文献に「平成9年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年7月16日 参考文献に「平成19年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2023年9月2日 参考文献に「令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加