目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

かご形誘導電動機の始動時異常現象

かご形多相誘導電動機を直入始動*1するとき,速度の低い領域で,それ以上加速しないで,電流が大きい状態でとどまることがある。

この現象をクローリング現象(次同期運転,crawling)という。

固定子起磁力の基本波は,同期速度で回転し,回転子起磁力との間に図 1 に示すトルク $T_0$ を発生する。

図1

図1

ところが,固定子起磁力の空間高調波のうち,第 7 調波の成分は基本波と同方向に回転し,回転子に電流を誘導して図 1 に示すトルク $T_\text{x}$ を発生する。

これが $T_0$ に重畳され,合成トルクは $T_1$ のようになる。

負荷トルクを図 2 に示す $T_\text{L}$ とすると,両曲線の交点が運転点となる。

図2

図2

始動の場合,まず,図 2 の三つの交点のうちで c が運転点となるので,それ以上速度は上がらないことになる。

固定子起磁力の第 5 調波は基本波と反対方向に回転するので,その発生トルクは,図 1 に示す $T_\text{y}$ になる。

この場合,発生トルクが正になるのは $s \gt 1$ の領域なので,クローリング現象の原因とはならない。

クローリング現象

誘導機のギャップの磁束密度分布は,基本波のほかに多くの高調波成分が含まれる。

これらの高調波成分の作用によって下記のような始動時の電磁異常現象を発生することがある。

かご形回転子の固定子高調波回転磁界に起因する電流が流れ,その作用で誘導機性のトルクを生じる。

このトルクを高調波非同期トルクという。

このようなトルクが存在すると,これらが基本波によって発生するトルクと合成され,滑りの大きい付近でトルクの谷を生じることがあり,そのトルクの谷が負荷の要求するトルクよりも小さくなると,始動時にはこの付近の速度までしか加速できなくなる。

このような現象をクローリングといい,この状態が持続すると,電動機には始動電流に近い大きな電流が流れ続けるので焼損に至る。

ある高調波の固定子回転磁界と同じ速度をもつ回転子高調波回転磁界が存在すると,その回転速度に相当する滑りにおいて同期機性のトルクが発生する。

これを高調波同期トルクという。

回転子高調波磁界の速度が固定子高調波磁界の速度から少しでも外れると,このトルクは失われる。

このトルクが大きい場合はその滑りにおいて前述と同じような現象を生じる。

クローリング現象対策

クローリング現象を避ける一つの方法は,スロットを斜めスロット(skewed slot)とすることである。

起磁力分布は台形となり,ある高調波を除くことができるが,完全に有効とはいえない。

参考文献

  • 電気学会大学講座 電気機器工学Ⅰ(改訂版)
  • 平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5
  • 平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「かご形誘導電動機の始動時異常現象」

electrical-engineer.hatenablog.jp

更新履歴

  • 2022年7月10日 新規作成

*1:全電圧始動(line starting)は,比較的小容量かご形電動機に使用される。直入始動できる電動機を直入電動機(line starting motor)ともいう。