無効電力補償装置には交流系統に並列又は直列に接続する方式がある。
並列接続方式の無効電力補償装置には,(a) サイリスタで位相制御したリアクトルと固定コンデンサとを並列接続した回路構成,(b) 連系リアクトルと電圧形自励変換器とを直列接続した回路構成,などがある。
SVC の目的
SVC(Static Var Copensator:静止形無効電力補償装置) の目的について,系統側,需要側の事例をそれぞれ挙げる。
SVC の目的~系統側の事例~
- 設置点の送電系統の事故時の電圧維持による同期安定性を向上させる
- 配電系統の末端など,電源系統の弱い地域において,負荷変動などに起因する電圧変動を抑制する
SVC の目的~需要側の事例~
- アーク炉,採石場のクラッシャー等の変動負荷による急激な電圧変動を抑制する
- 負荷で発生する無効電力をキャンセルして力率を改善する
TCR と TSC について
TCR
TCR(Thyristor Controlled Reactor:サイリスタ制御リアクトル方式)は,サイリスタを用いてリアクトル電流の位相制御を行う方式で,誘導性(遅れ)の無効電力を連続的に制御できる。
また,並列にコンデンサを接続することにより,進みから遅れの領域にわたる無効電力を連続的に変化させることができる。
TSC
TSC(Thyristor Switched Capacitors:サイリスタ開閉コンデンサ方式)は,サイリスタを用いてコンデンサの開閉を行う方式で,容量性(進み)の無効電力を制御できる。
突入電流が流れない位相でオンオフ制御を行うため,無効電力は段階的にしか制御できない。
自励式無効電力補償装置 STATCOM
STATCOM(STATic synchronous COMpensator)は,自己消弧素子を用いた自励式変換器を用いることにより,進みから遅れまでの幅広い無効電力補償を,連続かつ高速で行うことができる。
TCR 方式の SVC に比較して,系統電圧の低下時にも高い補償能力が得られるため,電圧安定性を高める効果に優れる。
自励式無効電力補償装置 STATCOM は,電圧形変換器の交流端子を連系リアクトルを介して交流系統に,直流端子を直流コンデンサに接続して構成する。
電圧形変換器の交流端子電圧の振幅,周波数及び位相を系統電圧と等しくすれば,交流側電流は零となる。
この状態から,系統電圧に比べて,交流端子電圧の振幅を大きくすると,STATCOM は進相コンデンサのように振る舞い,進み無効電力を吸収する。
また,系統電圧に比べて,交流端子電圧の位相を遅れにすると,電圧形変換器に有効電力が流入するので,STATCOM ではこれが零となるように制御する。
変換器の PWM 制御により変調率を調節して無効電力を制御することもできるが,変調率を一定としたままで,直流コンデンサ電圧を調節することでも無効電力を制御できる。
120 度通電の三相方形波変換器の直流コンデンサを $V_\text{d}$ とすると,変換器の交流端子の線間電圧の基本波成分実効値は $\displaystyle V_1=\frac{\sqrt{6}}{\pi}V_\text{d}$ である。
この変換器を $X$ = 0.3 p.u. の連系リアクトルを介して 6.6 kV の三相正弦波交流系統に接続して定格の進み無効電力を吸収する場合,連系リアクトルでの電圧降下を補償するため,変換器の交流端子の線間電圧基本波成分実効値は 1.3 p.u. とする必要があるので,直流コンデンサ電圧を 11.0 kV にすればよい。
このとき,5 次高調波に対する連系リアクトルのリアクタンスは,$X_5$ = $5X$ = 5 × 0.3 =1.5 p.u. であり,変換器の交流端子の線間電圧の 5 次高調波成分は基本波成分の 15 であるので,交流側電流の 5 次高調波成分は基本波成分の 17.3 % 程度であり,サイリスタを用いた他励式無効電力補償装置に比べて,高調波発生量は少ない。
STATCOM の歴史
1991 年,世界で初めて電力系統用の STATCOM が関西電力 犬山開閉所(愛知県 犬山市)で稼働した。
木曽川水系の水力発電所の電力を需要地へ送る系統の安定化を目的とし,電圧制御によって送電線を新設せずに送電量を増大させる役割を果たした。
その後,全国的に基幹系統の増強が進んだことなどから,いったんは下火になった。
近年では再生可能エネルギーの拡大に伴い,STATCOM が再び注目されるようになった。
出力が変動する上,同期化力も持たない太陽光,風力の拡大に対応した系統増強のニーズが高まる中,STATCOM ブームが再燃した。
電圧形自励変換器による無効電力補償装置の主回路構成
図には,連系リアクトルと電圧形自励式変換器とを直接接続した無効電力補償装置の主回路構成を示す。
この装置は,最近 STATCOM と呼ばれている。
交流電源と自励変換器との間に連系リアクトルを挿入し,交流電源電圧 $\dot{V}_\text{S}$ に対して自励変換器が発生する交流電圧 $\dot{V}_\text{C}$ を調整する。
このときの自励変換器の交流電流 $\dot{I}_\text{C}$ は,交流電源電圧の角周波数を $\omega_\text{S}$,連系リアクトルのインダクタンスを $L_\text{C}$ とすると次式となる。
\[ \dot{I}_\text{C}=\frac{\dot{V}_\text{S}-\dot{V}_\text{C}}{\text{j}\omega_\text{S}L_\text{C}} \]
したがって,$\dot{V}_\text{C}$ を調整することによって,交流電源から流れ込む遅れ進みの無効電流及び有効電流を制御することができる。
$\dot{V}_\text{S}$ に対して $\dot{V}_\text{C}$ を同相にして,電圧の大きさ $|\dot{V}_\text{C}|$ を制御すると,無効電流だけを制御することができる。
$|\dot{V}_\text{C}|$ を $|\dot{V}_\text{C}| \lt |\dot{V}_\text{S}|$ にしたときには,交流電源から遅れ電流が流れ込むことになる。
参考文献
- 令和元年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「自励式無効電力補償装置 STATCOM」
- 平成29年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「無効電力及び静止型無効電力補償装置」
- 平成27年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「静止形無効電力補償装置」
- 平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「無効電力補償装置」
- 2024年4月18日 電気新聞「GRID TECH STATCOM ブーム再燃 上」
- 2024年4月19日 電気新聞「GRID TECH STATCOM ブーム再燃 下」