目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

食塩電解

食塩電解は食塩水を電解して塩素,水酸化ナトリウム(苛性ソーダ),水素を得る工業電解プロセスであり,全反応式は以下で表される。

2 NaCl + 2 H2O → Cl2 + H2 + 2 NaOH

現在,国内で行われているイオン交換膜法では Na+ の選択透過性のある密隔膜(イオン交換膜)を隔膜として利用し,アノードには寸法安定性電極,カソードにはニッケル系の電極が用いられ,理論分解電圧は 2.3 V,実際のセル電圧は 3.0 ~ 5.0 V である。

電解槽のセル電圧を下げるためには,電極反応や電解槽の内部抵抗などが原因のセル電圧の上昇を小さくしなければならない。

食塩電解の電極反応はターフェルの式に従う。

したがって,運転時の電極電位と平衡電位の差である過電圧は電流が大きくなると,電流の対数に比例して大きくなる。内部抵抗は電解質の抵抗によるものが支配的である。

この電解質の抵抗は電解液である食塩水や水酸化ナトリウムやイオン交換膜などの電解質のイオン抵抗である。

内部抵抗を小さく,すなわちイオン伝導度を高くするためには電解質の濃度を高く維持する必要がある。

このとき,食塩水や水酸化ナトリウムなどの強電解質の濃度あたりの伝導率であるモル伝導率は,イオン間の相互作用により濃度が高くなると小さくなる。

食塩電解の工業的プロセス

食塩電解の工業的プロセスとして,現在,我が国で採用されているすべてがイオン交換膜法である。

これは我が国で開発された技術であり,全世界に広まりつつある。

この方法では,陽極には電極材料としてチタンを基体にした寸法安定性電極が用いられ,陰極には過電圧の小さな電極材料としてニッケルを主体にした電極が用いられている。

また,隔膜にはナトリウムイオン(Na+)だけを選択的に透過する密隔膜が用いられているので,得られる製品である水酸化ナトリウムの純度が高く,かつ,構成材料の高機能化により省エネルギー化も進んでいる。

かつては,陰極に過電圧の大きな水銀(Hg)を持ちいたプロセスも主流であったが,環境に対する配慮から我が国では廃止された。

また,隔膜に石綿を用いた隔膜法も一時使用されたが,現在は使用されていない。

食塩電解の計算問題

電解槽に加える電力は電流と電圧の積で表すことができ,電気化学反応も化学熱力学的な項,ファラデーの法則に基づく電流項,ネルンスト式で表される電圧項,それぞれ理論的な値が存在するので,電解槽のエネルギー変換効率は化学熱力学に基づく理論効率,電流効率と電圧効率の積で表される。

今,電極面積 2 m2 の食塩電解セルを 2 時間運転した。

このときのセル電圧が 3.3 V,電流密度が 6 kA/m2,電流効率が 96 % で一定であった。

この間の電解セルの電圧効率は 69.7 %,標準状態換算での塩素の生産量は 9.63 kL である。

なお,ファラデー定数は 26.80 A・h/mol,気体の標準状態の体積を 22.4 L/mol とする。

参考文献

masassiah.web.fc2.com

更新履歴

  • 2022年1月13日 新規作成
  • 2022年2月12日 参考文献に「平成14年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2022年7月3日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加