目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

単巻変圧器

本稿では,単巻変圧器について説明する。

単巻変圧器の定義

図に示すように一次側と二次側とが絶縁されていなくて,巻線の一部が一次と二次に共通に利用されている変圧器を単巻変圧器*1という。

共通部分を分路巻線*2,残りの部分を直列巻線*3という。

図 単巻変圧器

図 単巻変圧器

直列巻線および分路巻線だけからなり,二つの回路に接続される単巻変圧器は,巻線全体を高圧巻線と考え,また分路巻線を低圧巻線と考える。また接続される回路に応じて,高圧巻線を一次(または二次),低圧巻線を二次(または一次)巻線と考える。このように考えて,定格諸量・変圧比・負荷損・効率・短絡インピーダンスならびに電圧変動率を二巻線変圧器に準じて決定あるいは測定する。

ただし,抵抗損の決定にあたっては,直列巻線および分路巻線それぞれの抵抗と電流から算出しなければならない。

(出典)JEC-2200-1995「変圧器」

単巻変圧器の理論

単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係

単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係を説明する。

下図のように一次電圧を $V_1$,二次電圧を $V_2$,一次電流を $I_1$,二次電流を $I_2$,直列巻線と分路巻線を合わせた巻線の巻数を $N_1$,分路巻線の巻数を $N_1$ とする。

巻数比,電圧比,電流比はそれぞれ次式のようになる。

\[n = \frac{N_1}{N_2} \]

\[\frac{V_1}{V_2} = \frac{N_1}{N_2} = n \]

\[\frac{I_1}{I_2} = \frac{N_2}{N_1} = \frac{1}{n} \]

図 単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係

図 単巻変圧器の電圧,電流,巻数の関係

直列巻線と分路巻線の電圧の関係

高圧側電圧を $V_\text{h}$,低圧側電圧を $V_1$,直列巻線及び分路巻線の電圧をそれぞれ,$V_\text{m}$,$V_\text{n}$ とし,巻線の漏れインピーダンス及び励磁電流を無視すれば,次の関係がある。

\[ V_\text{h}=V_\text{m}+V_\text{n} \] \[ V_1=V_\text{n} \] \[ S_\text{S}=V_\text{m}I_\text{h}=(V_\text{h}-V_1)I_\text{h} \]

単巻変圧器では $S_\text{S}$ を自己容量といい,負荷に供給できる電力 $S_\text{L} = V_\text{h}I_\text{h} = V_1 I_1$ を負荷容量または線路容量という。

$S_\text{S}$ は直列巻線と分路巻線を分離して二巻線変圧器として用いた場合の容量で,単巻変圧器の大きさは $S_\text{S}$ で決まる。

$\displaystyle \frac{S_\text{S}}{S_\text{L}}$ を $K$ とすると

\[ K=1-\frac{V_1}{V_\text{h}} \]

となり,原理上,$V_\text{h}$ に対する $V_1$ の比が 1 に近いほど同一自己容量に対して線路容量が大きくなる。

また,同じ負荷容量の二次巻線変圧器に比べてサイズが小さく,銅損が少なく,さらに電圧変動率が小さいという利点がある。

図 1 単巻変圧器

図 1 単巻変圧器

単巻変圧器の用途

単巻変圧器は,電圧を少しだけ変圧したい場合に適している。

例えば,標準電圧の近い国の電圧差を吸収するために用いられている(100 V → 110 V など)。

単巻変圧器と複巻変圧器との比較

単巻変圧器と複巻変圧器の違いについて述べる。

単巻変圧器の一次側と二次側は,絶縁されていないのに対して,複巻変圧器の一次側と二次側は絶縁されている。

また,定格電圧,定格容量が同じ場合,複巻変圧器に比べて単巻変圧器の大きさは小さく,重量は軽く,コストは低くなる。

例として,定格電圧 200/100 V,定格電流 10 kVA の単巻変圧器と複巻変圧器の幅 W [mm],奥行き D [mm],高さ H [mm],重量 [kg] を比較する。(出典)東京精電株式会社,「単巻変圧器(オートトランス)

表 単巻変圧器と複巻変圧器との比較(定格電圧 200/100 V,定格電流 10 kVA)
項目 単巻変圧器 複巻変圧器
W [mm] 260 260
D [mm] 200 230
H [mm] 225 225
重量 [kg] 40 80

例題 単巻変圧器の二次側の負荷抵抗の消費電力

図 単巻変圧器

図 単巻変圧器

図に示すように単巻変圧器の一次側に 20 Ω の直列抵抗,二次側に 5 Ω の負荷抵抗を接続し,電源電圧を 100 V とする。

一次巻線の巻数を N1 = 200 とした場合に,5 Ω の負荷抵抗で消費される電力が最大となる二次巻数は N2 = 100 となり,このときの負荷抵抗の消費電力は 125 W となる。なお変圧器は理想変圧器として考える。

参考文献

更新日時

  • 2022年1月12日 新規作成
  • 2022年7月3日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5」を追加
  • 2022年7月16日 参考文献に「平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2023年1月8日 参考文献に JEC-2200-1995「変圧器」を追加
  • 2023年3月19日 単巻変圧器の用途,複巻変圧器との比較を追加

*1:単巻変圧器とは,少なくとも二つの巻線が相互に共通な部分を有する変圧器をいう。

*2:分路巻線とは,単巻変圧器で共通な巻線部分をいう。

*3:直列巻線とは,単巻変圧器あるいは直列変圧器の巻線で,回路に直列に接続される巻線をいう。