三相かご形誘導電動機の全電圧始動では,大きな始動電流が流れ,始動時間が長い場合には巻線を焼損するおそれや,電源系統に電圧変動を招くなどの問題があり,これらを避けるために以下のような始動方法が採用されている。
全電圧始動
全電圧始動(line starting)は,比較的小容量かご形誘導電動機に使用される。
定格電圧をいきなり加えると,定格電流の 4 ~ 6 倍の始動電流が流れるが,容量が小さいため配電線に対する影響も小さいので,直接全電圧を加えて始動することができる。
このような電動機をじか入れ電動機(line starting motor)ともいう。
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Y-Δ(スターデルタ)始動
Y-Δ(スターデルタ)始動は,誘導電動機の固定子巻線の接続を Y(スター)形として始動し,同期速度近くまで加速した後に Δ(デルタ)形に切り替える始動方法である。
全電圧始動が許されない 5 ~ 15 kW 程度の電動機に適用される。
この方法での始動電流はデルタ結線のままで全電圧始動する場合の 1/3 に抑えられ,トルクもまた 1/3 に減少する。
巻線接続を切り替えるために,外部に切替器を備えている。
始動補償器始動
始動補償器始動は,始動補償器(starting compensator)と呼ばれる単巻変圧器の二次電圧で定格電圧以下の電圧を加えて電流を抑え始動する方法である。
始動補償器は,15 kW を超える電動機に用いられる。
電動機の回転が同期速度に近づいたところで補償器を回路から切り離し全電圧に切り替える。始動補償器の一次電圧と二次電圧の比を a:1 とすれば,電動機の電圧は全電圧始動の 1/a となり,このときの始動補償器の一次電流は全電圧始動の約 1/a2 倍となる。
その他の始動法
その他の始動法として誘導電動機の一次側に直列に抵抗器又はリアクトルを挿入して印加電圧を下げて始動電流を制限し,加速後に全電圧運転とする方法がある。
始動補償器を用いる場合に比べて始動トルクが減少する欠点があるが,装置が簡易で安価であるので,始動トルクを小さくして始動時の衝撃を避ける目的で用いられることがある。
(参考)巻線形電動機の始動法
巻線形電動機では,二次回路の外部に始動抵抗を接続して始動電流を制限することができるが,かご形誘導電動機では不可能である。
参考文献
- 電気学会大学講座 電気機器工学Ⅰ(改訂版)
- 令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4
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更新履歴
- 2022年6月30日 新規作成
- 2022年7月10日 全電圧始動の説明および「かご形誘導電動機の始動時異常現象」のリンクを追加。また,参考文献に「電気学会大学講座 電気機器工学Ⅰ(改訂版)」を追加